メルクの組織分散酵素に関する一般情報
動物組織を結合する天然コラーゲンを分解する酵素であるコラゲナーゼは、さまざまな微生物や多様な動物細胞によって作られます1。最も強力なコラゲナーゼは、嫌気性細菌Clostridium histolyticumが分泌する「未精製」コラゲナーゼです。メルクは当初、MacLennan、Mandl、Howes2が報告した1953年の発酵・精製プロセスを採用しましたが、最終的には、より活性の高い製品を得るために改良を加えました。「未精製」コラゲナーゼとは、組織を分解するために共に作用する数種類の酵素とコラゲナーゼの混合物であるという事実を指しています。現在、コラゲナーゼ酵素には2種類の型が存在することが知られています3,4。いくつかの例外を除いて、さまざまな市販のコラゲナーゼはすべてC. histolyticumから作製されたものであるか、あるいはC. histolyticumからクローニングされた遺伝子を大腸菌が発現する組換え型です。
メルクのコラゲナーゼ酵素の概要
以下の表に示すさまざまなコラゲナーゼ製品は、それぞれある種の組織(筋肉、膵臓、心臓、脂肪)を他の組織よりもよく消化することから開発されたものです。メルクのコラゲナーゼ製品のすべてのロットは、酵素活性規格を満たすだけでなく、さまざまなラット組織を用いた消化試験に合格しなければなりません。「細胞培養試験済み」とも記載されている製品については、細胞毒性を示さないことを確認するため、哺乳類細胞株を用いた追加試験が実施されています。
より一般的なコラゲナーゼ製品の一部から調製されたろ過滅菌(0.2 mm)製品も以下にあげています。
メルクの精製コラゲナーゼ製品のカゼイナーゼ(タンパク質分解)活性またはクロストリパイン活性の量はごくわずかです。また、精製VII型コラゲナーゼは細胞培養試験済みタイプとろ過滅菌済みタイプで提供しています。
未精製コラゲナーゼ、使用試験済み
クロマトグラフィー精製コラゲナーゼ
タンパク質溶解活性阻害剤入り未精製コラゲナーゼ
Collagenase Blends™
これらの製品は、コラゲナーゼ消化におけるロット間の再現性を高めるために開発されました。精製クロストリジウム中性プロテアーゼに対する精製コラゲナーゼ(ブレンドF)の割合は、ブレンドHおよびLでは異なり、お客様にさまざまな消化の選択肢を提供しています。
リベラーゼ研究用グレードのアプリケーションガイド
ディスパーゼ酵素
メルクは、Roche社から販売されている酵素とともに、高度に精製され、お客様の特定のアプリケーションニーズに確実に対応できる組織分散試薬の提供に努めています。細胞膜に損傷を与えない穏やかな酵素であるディスパーゼは、in vitroで培養する多様な組織や細胞の分離に適しており、懸濁培養では細胞凝集を防ぐことができます。
コラゲナーゼアッセイ
精製コラゲナーゼ酵素のI型とII型は、天然コラーゲンと合成基質に対する特異性と相対的活性が異なります。これら2つのコラゲナーゼは、私たちのアッセイで用いる2つの異なる基質のうちの1つに対する選好性により、ほぼ区別できます。コラゲナーゼ消化単位(CDU)アッセイ10,11は、長い非変性コラーゲンタンパク質の3本のヘリックス鎖のうちの2本を切断するI型コラゲナーゼ活性を主に測定します。II型コラゲナーゼ活性は、2つ目のコラゲナーゼ消化アッセイ12,13において、この酵素が、短い合成ペプチドであるN-[3-(2-フリル)アクリロイル]-Leu-Gly-Pro-Ala(FALGPA、製品番号:F5135参照)を切断する能力で測定されます。さまざまなタイプのコラーゲンまたは哺乳動物組織の消化に関して、コラゲナーゼI型とII型の精製調製物のいずれか単独では、これらの両酵素型の混合物と比較して効果が低いことが示されています。このコラゲナーゼI型とII型のみを含む精製コラゲナーゼは、組織の消化に関して、全未精製コラゲナーゼや精製コラゲナーゼとさまざまなプロテアーゼの併用よりも効果が劣ります。真正のコラゲナーゼと性質が進化した別の天然プロテアーゼであるクロストリパインとアミノペプチダーゼとを併用すると、明らかにさまざまな動物組織のコラーゲンの消化において互いに補い合っています。組織消化には、常に未精製コラゲナーゼ製品が最も有効でした。一部の研究者は、組織の消化にクロマトグラフィー精製コラゲナーゼとトリプシンやスブチリシンなどのプロテアーゼとの混合物を試みています。
メルクでは、コラゲナーゼ活性を測定するCDUおよびFALGPAアッセイに加えて、各製品ロットのカゼイナーゼ14,15、クロストリパインおよびトリプシン活性を試験し、コラゲナーゼ製品中のタンパク質分解酵素活性を調べています。動物組織の消化を助けるタンパク質分解活性を測定するために、この3つのアッセイのうちで最も重要なのがカゼイナーゼアッセイです。未精製コラゲナーゼ中に存在するクロストリパインは、活性を得るためには還元されなければならないため(例:ジチオスレイトールによる処理)、この酵素はおそらくラボにおける組織分散過程にはほとんど寄与しないと考えられます。一部の研究者から、クロストリパインが有害または毒性を有する可能性が報告されているため、モニタリングを行っています。
酵素規格に適合するコラゲナーゼ製品の多くは、ラットから得られたさまざまな組織を用いて使用試験も行われています。II型(C6885、C1764)およびVIII型(C2139)コラゲナーゼのロットについて、ラット精巣上体脂肪パッド5から脂肪細胞を遊離させる能力を試験します。次いで、脂肪細胞の代謝活性をインスリン添加の有無にかかわらずグルコース酸化速度を測定することによりスクリーニングします。IV型(C5138、C1889)およびVIII型(C2139)のロットは、ラット肝臓から生細胞を遊離させる能力について試験されています7。V型(C9263、C2014)、XI型(C7657、C4785、C9407、C9697)、S型(C6079)コラゲナーゼのロットでは、製品試験に合格するためにはラット膵臓から無傷のランゲルハンス島を遊離させなければなりません8。
コラゲナーゼによる組織の分解/分散のトラブルシューティング・参考文献
私たち自身の研究開発結果に基づいて、またお客様との話し合いから、特定の組織の切断および調製の方法が、コラゲナーゼによる組織の消化-分散の速度や効率に重要な影響を及ぼすことは明らかです。組織ドナーの年齢の差も、経時的な変動の主な原因となり得ます。消化バッファー中にカルシウムイオンが5 mMで存在することを確認してください。キレート剤のEGTAおよびEDTAは、酵素の安定や活性に必要なカルシウムイオンを除去することにより、コラゲナーゼ活性を著しく阻害する可能性があります。その他の阻害物質として、β-メルカプトエタノール16、システイン16、8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸16などがあります。より高い比活性を有する新しいロットのコラゲナーゼは、確立された濃度で過剰な細胞死を引き起こす可能性があります。その場合は、コラゲナーゼの使用量を減らしたり、BSAまたは血清(それぞれ最大0.5%および5~10%)を加えて細胞を安定化させ、さらなる消化を行ってください。
参考文献
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