GABAC受容体は、1986年、小脳膜上に存在するビククリン‐およびバクロフェン‐非感受性[3H]-GABA結合部位を説明する用語として、Johnstonらによって最初に提唱されました。その後の研究により、上丘、小脳、海馬、そして最も多い網膜など、GABAC受容体は脳の多くの部分に存在するリガンド開口型塩素イオンチャネルであることが示されました。現在のGABAC受容体に関する知見は、主に視覚系、特に網膜神経で実施された研究から得られています。GABAC受容体はGABAに対する感受性が高く、EC50値は約1 µMを示しています。GABAC受容体の活性化は、キネティクスの緩やかな開始および消失とともに反応の持続を発生させます。GABAC受容体弛緩の時定数はおよそ数十秒であり、現時点で同定されている最も遅いリガンド開口型チャネルです。GABAC受容体により開口する塩素イオンチャネルは低い単一チャネルコンダクタンス(数ピコシーメンス)を示しています。
GABAC受容体は、GABA ρ(ロー)サブユニットで構成されていると考えられています。少なくとも3つのタイプのGABA ρサブユニットが網膜cDNAライブラリからクローニングされています。ヒトρ1と短い選択的スプライシング型(D51およびD450)、ヒトρ2、ラットρ1~3がそのサブユニットになります。GABA ρサブユニットの大半は、アフリカツメガエル卵母細胞または哺乳類細胞株で発現させると機能的ホモオリゴマー受容体を容易に形成可能ですが、神経細胞GABAC受容体はおそらくヘテロオリゴマーGABA ρサブユニットにより形成されていると考えられています。さらに最近の研究では、一部のGABA ρサブユニットはGABAA受容体γ2サブユニットと共重合し別の特性を持つヘテロオリゴマー受容体を形成することが示唆されています。このため、ネイティブなGABAC受容体の分子組成は当初想定されていた以上に複雑です。
薬理学の観点からみると、GABAC受容体はビククリンおよびSR-95531などの従来のGABAA受容体アンタゴニストによるブロックを受けません。さらに、ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系および一部のニューロステロイドなどのさまざまなGABAA受容体リガンドによる調節も受けません。また、GABAC受容体は選択性の高いGABAB受容体アゴニストであるバクロフェンにも非感受性です。同様に、2種のGABAB受容体アンタゴニストであるファクロフェンおよびサクロフェンはいずれもGABAC反応をブロックしません。これに対し、塩素チャネルブロッカーであるピクロトキシンはGABAC受容体をアンタゴナイズすることが示されています。しかし、ラット網膜ニューロンでは、GABAC受容体はGABA ρ2サブユニットの変異によりピクロトキシンに対し非感受性です。
第一選択とみなせるGABAC受容体アゴニストは、シス-4-アミノクロトン酸(CACA)ですが、複数の研究ではその他のGABA受容体およびGABAトランスポーターにも作用している可能性があると示唆されています。これに対し、一部のGABAAおよびGABAB受容体アゴニストは、GABAC受容体のアンタゴニストとして作用しています。このうち、GABAA受容体のパーシャルアゴニストであるイミダゾール-4-酢酸(I4AA)は、網膜ニューロン上のGABAC受容体を阻害することが示されています。さらに最近の研究では、I4AAは一部のGABAC受容体サブタイプに対しても部分的に活性化することが示されています。このため、I4AAはさまざまな型のGABAC受容体の識別に有用となる可能性があります。一方、GABAB受容体アゴニストである3-アミノプロピル(メチル)ホスホン酸(APMPA)は、GABAC受容体に対する強力なアンタゴニストとして作用します。最後に、1,2,5,6-テトラヒドロピリジン-4-イル-メチルホスフィン酸(TPMPA)は、選択的GABAC受容体アンタゴニストであるとみなされています。GABAC受容体に対し低親和性、競合的アンタゴニストであるため、GABA反応を完全にブロックするには高濃度のTPMPAを使用する必要があります。
下の表に一般的なモジュレーターなど、詳細を紹介します。その他の製品一覧については、後述の「類似製品」の項をご参照ください。
現在の一般的名称 | GABAC |
構造情報 | GABA ρ1サブユニット473 aa(ヒト) GABA ρ2サブユニット465 aa(ヒト) GABA ρ3サブユニット464 aa(ラット) |
アゴニスト | GABA(A2129) |
パーシャルアゴニスト | イソグバシン(G002) ムシモール(M1523) ムシモール臭化水素酸塩(G019) CACA |
アンタゴニスト | TPMPA(T200) 3-APMPA I4AAa(219991) ピクロトキシン(P1675) |
パーシャルアンタゴニスト | THIP(ガボキサドール)(T101) P4S(P9159) |
モジュレーター | Zn2+ La3+ |
シグナル伝達機構 | Cl–流入 |
最適な放射性リガンド | [3H]-ムシモール |
組織発現 | 網膜、上丘、海馬、小脳、外側膝状核、扁桃体 |
生理学的機能 | 神経性抑制 |
疾患との関連 | 不明 |
脚注
a) I4AAは一部のGABAC受容体ではパーシャルアゴニストです。
略語
3-APMPA:3-アミノプロピル-(メチル)ホスフィン酸
CACA:cis-4-アミノクロトン酸
I4AA:イミダゾール-4-酢酸
P4S:ピペリジン-4-スルホン酸
THIP:4,5,6,7-テトラヒドロイソオキサゾロ[5,4-c]ピリジン-3-オール
TPMPA:(1,2,5,6-テトラヒドロピリジン-4-イル)-メチルホスフィン酸
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参考文献
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