速やかなシナプス伝達には、シナプス間隙から伝達分子を速やかに取り除く機構が必要であり、ほとんどの場合、この仕事は伝達物質の除去または分解によって遂行されます。高親和性の輸送タンパク質が、CNSにおける主要な抑制性神経伝達物質であるGABAを含む、さまざまな神経伝達物質に対してこの役割を果たします。GABAトランスポーターは、ナトリウムと塩素イオンの電気化学勾配を利用して、シナプス前神経終末と周囲のグリアにGABAが隔離されるようにします。高濃度の細胞質ナトリウムに起因するGABA輸送の逆転は、GABAのカルシウム非依存性放出が認められている網膜細胞、脳ニューロン、バーグマングリアにおいて、生理学的に重要であると考えられます。機能、構造および配列の保存から、これらのトランスポーターは、ナトリウムおよび塩素イオン依存性輸送タンパク質の大きなファミリーの中に位置づけられます。
GABAトランスポーターの活性が最初に発見されたときには、薬剤に対する感受性と特定の細胞種への見かけ上の局在化に従って、分類が行われました。このきわめて重要な作業により、有用な最初の試みとして、『ニューロン型』と『グリア型』のGABAトランスポーターという大まかな分類が生み出されました。その後、いくつかのトランスポーターcDNAがクローニングされ、それぞれの薬理学的感受性と局所分布が明らかにされたことにより、以前の命名法を厳密に遵守したときに生じるいくつかの矛盾が解決されました。さまざまな親和性でGABAを輸送する4つのトランスポーターが同定されており、GAT-1、GAT-2、GAT-3 (またはGAT-B)、BGT-1と称されます。ニペコ酸は、BGT-1を除くGABAトランスポーターの全般的阻害剤および基質として働きます。最も豊富なトランスポーターであるGAT-1は、主にニューロンに存在し、特殊化したグリアにも認められますが、GABAを高い親和性で輸送し、cis-1,3-アミノシクロヘキサンカルボン酸(ACHC)およびL-ジアミノ酪酸(L-DABA)によって阻害されます。主に軟膜・くも膜複合体 に局在するGAT-2は、GABAを比較的高い親和性で輸送し、β-アラニンによって阻害されます。ニューロンとグリアの両細胞で同定されたGAT-3は、GABAとβ-アラニンの両方を比較的高い親和性で輸送します。脳全体のニューロンに発現するBGT-1は、GABAを中程度の親和性で輸送し、浸透圧調節物質であるベタインを低親和性で輸送します。異種大量発現系におけるさらなる薬理学的研究によって、現在、GABA輸送タンパク質それぞれの生理学的役割を探るための、新たな枠組みがもたらされています。
これら4つのGABAトランスポーターに共通する構造モチーフは、12回膜貫通ドメイン(TM)、細胞内のN末端とC末端、複数の潜在的糖鎖付加部位を有するTMs 3とTM 4の間の大きな細胞外ループ、細胞内コンセンサスリン酸化部位に対する調節の可能性などです。ポア-ループ構造がTM 3とTM 4の間、さらにはTM 7とTM 8の間に、生じる場合もあります。
10個のTMドメインを有し、GABA作動性ニューロンとグリシン作動性ニューロンの両方に発現するシナプス小胞型GABAトランスポーターも、クローニングされています。このトランスポーターは、ビガバトリン(γ-ビニル-GABA)によって最も強力に阻害され、ニコチペン酸およびグリシンによって弱く阻害されます。プロトン電気化学勾配(DmH+)のDyおよびDpHの両成分を利用して、小胞のGABA取り込みを果たします。さらに、グリシンがこの担体の基質になる可能性があると考えられます。
GABAトランスポーター調節の臨床的関連は、これらの輸送部位に特定の抗痙攣薬が作用の大部分を及ぼすことを示唆する広範なデータから生じています。特定の側頭葉領域に発現するトランスポーターの数と、その結果として脱分極誘発性の輸送の逆転が生じる可能性も、てんかんの臨床領域に特に関連があると考えられます。GABA作動性伝達の障害は、てんかんだけでなく、情動障害や統合失調症にも関与していることから、このファミリーのメンバーそれぞれが、薬理学的介入の標的候補になっています。さらに、tiagabine(チアガビン)は徐波睡眠の促進に顕著な効果を有することから、GABAトランスポーターが不眠治療の標的候補となっています。GAT-1を除いて、各サブタイプに対する高選択性の強力な阻害剤はまだ同定されていませんが、治療として有効である可能性は高いと考えられます。mGAT-1とmGAT-2の両方に親和性を示すexo-THPOのアナログである、EF1502を用いた最近の研究では、mGAT-2選択的阻害剤がてんかんの治療に有用である可能性が示唆されています。GABAトランスポーターサブタイプそれぞれに対する選択的阻害剤または増強剤によって、特定のCNS局所におけるGABAのトーヌス を微調整するための手段がもたらされる可能性があります。
下の表に一般的なモジュレーターなど、詳細を紹介します。
現在の一般的名称 | GAT-1 (GABAトランスポーター1型) | GAT-2 (GABAトランスポーター2型) | GAT-3 (GABAトランスポーター3型) |
マウスでの別名 | mGAT-1 | mGAT-3 | mGAT-4 |
構造情報 | 599 aa(ヒト) | 602 aa(ラット) | 632 aa(ヒト) |
取り込み基質 | GABA(A2129) | GABA(A2129) β-アラニン(146064、A9920) | GABA(A2129) β-アラニン(146064、A9920) |
取り込み阻害剤 | ニペコチン酸b(211672) L-DABA(D8376) グヴァシンb(G007) EGYT-3886 ACHCb THPO CI-966 SKF 89976A(S9066) NO-711c(N142) チアガビンc(SML0035) LU-32-176Bh EF1502i | ニペコチン酸b(211672) L-DABA(D8376) グヴァシンb(G007) EGYT-3886 | ニペコチン酸b(211672) L-DABA(D8376) EGYT-3886 SNAP-5114d(S1069) NNC 05-2045e |
組織発現 | 網膜 辺縁系 前脳基底部 皮質第IV~V層 小脳皮質 視床 視床下部 脚間核 下丘 黒質 線条体 橋 髄質(ニューロン、特殊化したグリア) | 肝臓 腎臓くも膜複合体 軟膜 | 視床 視床下部 梨状皮質の扁桃体領域 下丘 橋 脳幹 深部小脳核 小脳皮質 前脳基底部 線条体 海馬 小脳皮質(ニューロン、グリア) |
生理学的機能 | GABAの輸送 | GABAの輸送 | GABAとβ-アラニンの輸送 |
疾患との関連 | てんかん 睡眠障害 | 不明 | てんかん |
現在の一般的名称 | BGT-1 (ベタイントランスポーター) | VGAT (小胞型GABAトランスポーター) |
マウスでの別名 | mGAT-2 | VIAAT |
構造情報 | 614 aa(ヒト) | 525 aa(ラット) |
取り込み基質 | GABAa(A2129) ベタイン(B3501) | GABA(A2129) |
取り込み阻害剤 | EGYT-3886 NNC 05-2045e NNC 05-2090f EF1502i | ニペコチン酸b(211672) ビガバトリンg(V8261) |
組織発現 | 肝臓 腎臓 小脳 大脳皮質 扁桃体 尾状核 脳梁 海馬 視床下部 黒質 視床下核 視床 | GABAおよびグリシンを含有する 脳内のシナプス前終末(シナプスボタン) |
生理学的機能 | GABAとベタインの輸送 | GABAの輸送 |
疾患との関連 | てんかん | 不明 |
脚注
a) BGT-1のGABAに対する相対的親和性は、ベタインと比較して数倍高くなります(それぞれ93 µM、398 µM)
b) これらの化合物は基質でもあります
c) GAT-1の強力な選択的阻害剤であり、IC50値は40~70 nmです
d) GAT-3の選択的阻害剤であり、IC50値は5 µMです
e) GAT-3およびBGT-1の選択的阻害剤であり、Ki値は1.6~6.1 µMです
f) BGT-1の選択的阻害剤であり、Ki値は1.4 µMです
g) 小胞型GABAトランスポーターはビガバトリンによって阻害され、IC50はGABAの値と同程度です(それぞれ7.5 µM、4.75 µM)
h) mGAT-1の選択的阻害剤であり、IC50値は4 µMです
i) mGAT-1およびmGAT-2の選択的阻害剤であり、IC50値はそれぞれ4および22 µMです
略語
ACHC: シス-1,3-アミノシクロヘキサンカルボン酸
CI-966:[1-[2-ビス[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-メトキシ]エチル]-1,2,5,6-テトラヒドロ-3-ピリジンカルボン酸
L-DABA:L-ジアミノ酪酸
EF1502:[N-[4,4-ビス(3-メチル-2-チエニル)-3-ブテニル]-3-ヒドロキシ-4-(メチルアミノ)-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[d]イソオキサゾール-3-オール]
EGYT-3886:[(-)-2-フェニル-2-[(ジメチルアミノ)エトキシ]-(1R)-1,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン]
LU-32-176B:[N-[4,4-ビス(4-フルオロフェニル)-ブチル]-3-ヒドロキシ-4-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[d]イソオキサゾール-3-オール]
NNC 05-2045:1-(3-(9H-カルバゾール-9-イル)-1-プロピル)-4-(4-メトキシフェニル)-4-ピペリジノール
NNC 05-2090:1-(3-(9H-カルバゾール-9-イル)-1-プロピル)-4-(2-メトキシフェニル)-4-ピペリジノール
NO-711:1-(2-(((ジフェニルメチレン)アミノ)オキシエチル)-1,2,4,6-テトラヒドロ-3-ピリジン-カルボン酸
SKF 89976A:N-(4,4-ジフェニル-3-ブテニル)-3-ピペリジンカルボン酸
SNAP-5114:(S)-1-[2-[トリス(4-メトキシフェニル)メトキシ]エチル]-3-ピペリジンカルボン酸
THPO:4,5,6,7-テトラヒドロ-イソオキサゾロ[4,5-c]-ピリジン-3-オール
参考文献
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