光学分析応用に向けた有機およびハイブリッド型エレクトロニクス
Ruth Shinar1, Joshua Wolanyk2, Rajiv Kaudal2, Joong-Mok Park3, Joseph Shinar2,3
1Microelectronics Research Center and Department of Electrical & Computer Engineering, Iowa State University, Ames, IA, 50011, USA, 2Department of Physics & Astronomy, Iowa State University, Ames, IA, 50011, USA, 3Ames Laboratory – USDOE, Iowa State University, Ames, IA, 50011, USA
Material Matters, 2019, Vol.14 No.1
目次
はじめに
有機EL(OLED:organic light emitting diode)、有機太陽電池(OSC:organic solar cell)および有機光検出器(OPD:organic photodetector)のような有機半導体材料およびデバイスへの関心が高まり続けています。その利用は、フォトルミネッセンス(PL:photoluminescence)を基盤とする(生物)化学センサー、励起光源としてOLED画素および信号監視用にOPDを使用するオンチップ分光器および高感度医療機器を含む新しい用途に拡大しています。
いずれのセンシングプラットフォームでも、すべての構成要素をコンパクトに集積化でき、現場に持ち込めるようなデバイスに容易にできる場合は、実用化の可能性が高まり、作製が単純で、拡張性もあり、さらに低コストである場合には、その可能性がさらに高まります。レーザーやLEDのような従来の光源は、形状、操作またはサイズの制約のため、他の構成要素と容易に集積化することができません。ただし、有望なアプローチの1つとして、有機EL励起光源(またはOLED画素のアレイ)、発光センシング薄膜およびPLモニタ用OPDを利用したセンシングプラットフォームがあります。有機部品はフレキシブルなプラスチック基板上で容易に作製できるため、ウェアラブルセンサーなどのデバイス開発が可能になります。さらに、有機ELデバイスの長期安定性の面で不安が残るものの、多くのセンサーは短期間または使い捨て可能な状態での装着が想定されています。従来の光検出器(PD:photodetector)には、電荷結合素子アレイ、光電子増倍管(PMT:photomultiplier tube)および無機フォトダイオードが搭載されており、これらも集積化の妨げとなります。オール有機センサーは小型化できる可能性があるため、携帯性や可搬性に関係する問題は解消され、製造の簡素化とコスト削減を実現できます。高感度でありながら簡素化された一体型センサーを作製することができれば、熟練作業者を必要とせずに、様々な用途に応用できる可能性があります。オール有機センサーを小型アレイの形状に作製した場合、単独のOLED画素を個別に割り当てるか、画素のグループを同時に割り当てることで、複数の被験物質のモニタリングに使用することができます。近年ではハイブリッド型ペロブスカイトPD(PPD:perovskite-based PD)の高速および高感度の応答性が注目され、センシング用途での使用に関心が集まっています。
本稿では、生化学センサーやオンチップ分光器プラットフォーム3,4などの光学分析用途における有機およびハイブリッド型エレクトロニクス分野の発展について概説します。ここでは、酸素モニタリングに基づくセンシングを例として議論します。PLベースの酸素センサーは幅広く研究されており1,2、このセンサーを利用した気相および溶存酸素(DO:dissolved oxygen)モニターが市販されています。医療、生物学および水処理の用途に向けて、信頼性と感度が高く、コンパクトで現場に持ち込めるセンサーおよびデバイスの開発が続けられています。PLベースのセンサーには、高感度で、保守要件が軽減され、必要なメンテナンスの頻度も低いという利点があります。典型的には、酸素感応色素(例えば、PtまたはPdオクタエチルポルフィリン(PtOEPまたはPdOEPなど)が、励起光源および光検出器と構造集積化された薄型ポリマー系(ポリスチレン(PS)など)フィルムまたはゾルゲル系フィルムに埋め込まれます。酸素分子が光励起された色素分子と衝突するとPLが消光され、PL強度Iが減衰時間τで濃度に依存して減少し、検量線および酸素濃度をStern-Volmer(SV)の式を用いて(理想的には動的消光過程について)求めることができます。
(1) I0/I = τ0/τ = 1 + KSV[O2]
ここで、I0およびτ0は消光前の値、KSVはフィルムと温度に依存するSV定数です。感度Sは以下のように定義されます。
(2) S Ξ I0/I (100% O2) = τ0/τ (100% O2)
有機ELをパルス動作させることで、固有属性τを介したO2のモニタリングが可能になります。有機ELのエレクトロルミネッセンス(EL:electroluminescence)の減衰時間と光検出器の応答時間の両方よりτが十分長い場合、この方法は有効です。τを計測することで、長波長側の裾がセンシング素子のPLバンドまで伸びていることの多い典型的な広いELスペクトルに起因する迷光やバックグラウンドの光の問題が排除されます。さらに、τモードで動作させる際、励起光源の中程度の強度変化や色素浸出のようなセンシング要素の変化は、センサーの応答に極僅かな影響しか与えません。その結果、頻繁な較正や光学フィルター(I検出モードではELの長波長側の裾にあたる波長の光を遮断)の必要がなく、よりコンパクトで信頼性の高いデバイスが得られます。
グルコース、乳酸、コレステロールおよびエタノールなどの他の(生物)化学的被験物質の高感度モニタリングは、多くの場合、それぞれに特異的なオキシダーゼにより触媒される被験物質の酸化の際の酸素消費量に基づいて行われます。例えば、グルコースはグルコースオキシダーゼ(GOx)と酸素の存在下で酸化されてグルコン酸を生成し、酸素は還元されてH2O2になります。同様に、乳酸オキシダーゼ(LOx)とアルコールオキシダーゼ(AOx)は、それぞれ乳酸とエタノールを触媒反応により酸化します。密封された容器内で初期濃度以外の溶存酸素(DO)がない場合、初期DO濃度が初期被験物質濃度より高ければ、[DO]の変化量は初期被験物質濃度([analyte]initial)に等しくなります。被験物質が完全に生成物へ変換される際、最終DO濃度は以下で与えられ、
(3) [DO]final = [Do]initial − [analyte]initial
SV式は以下のようになります。
(4) I0/I = τ0/τ = 1 + KSV × {[DO]initial − [analyte]initial
ここで、Iは強度、τは寿命です。したがって、理想的には、検量線を作成するための1/τ対[analyte]initialプロットは、初期DO濃度が初期被験物質濃度と等しくなる点まで直線になります。
また、有機ELベースのセンシングプラットフォームは、相対湿度、pH、ヒドラジンおよび炭疽菌致死因子のモニタリングにも利用されています1,2,9。
オール有機酸素センサーに向けて
有機ELとセンシングフィルムの集積化
図1Aは、後方検出の配置で1個の無機光検出器を用いた有機EL酸素センサーの初期の設計を示しています。有機ELと光検出器(PD)はセンシングフィルムの同じ側にあり、有機ELとセンシングフィルムは共通の透明基板をはさんで反対側にあります1,2。この設計の欠点は、不透明な有機ELカソードによってPLが部分的に遮蔽されてしまうことです。図1Bは、標準的なボトム発光有機ELの代わりにマイクロキャビティ有機EL(µC OLED)を使用した場合を示しています。標準的なボトム発光有機ELでは、有機ELスタックが酸化インジウムスズ(ITO)などの透明なアノードと金属カソードの間に堆積しています9。µC OLEDでは、透明なアノードの代わりに非常に薄い半透明な金属で光共振器を形成し、適切な設計と層厚の調節により、極めて狭い半値全幅(FWHM:full width at half maximum)で特定の波長を発光するように調節することが可能です。µC OLEDはELバンドが狭いため、スペクトルの重なりが抑制され、センシングプローブのPLへの干渉が最小限に抑えられます。
図1オール有機光学(生物)化学センサーに向けた事例。A)後方検出配置で有機ELとセンシングフィルムの2要素を集積化した初期の設計。文献1より許可を得て転載(copyright 2008 IOP Publishing Ltd.)。B)標準およびµC緑色OLEDのELスペクトル。C)標準的な有機ELをµC OLED、無機PDをOPDに置き換え、増強PEGドープPSセンシングフィルムを使用。文献9より許可を得て転載(copyright 2013 Elsevier B.V.)。D)マイクロポーラスPL増強センシングフィルムのSEM画像。文献10より許可を得て転載(copyright 2011 OSA.)。E)パルス有機ELを使用してN2雰囲気で得られたPL強度(PMTで測定)の時間変化で示されたPtOEP:PEG:PSセンシングプローブによるPLシグナルの増加。黒線はτを抽出するための指数関数フィット。文献9より許可を得て転載(copyright 2013 Elsevier B.V.)。
図1Cでは、センシングフィルムとしてPtOEP:PEG:PSを使用しています(PEG:ポリエチレングリコール)。このフィルムは、特定の混合比でPtOEP:PEG:PSのトルエン溶液をドロップキャストすることで調製されます。ガラスと同等の屈折率n(約1.55~1.59)を示す高分子量PSは、低分子量PEGよりトルエンへの溶解度が低くなります。そのため、乾燥過程でPSが先に析出し、フィルム表面およびバルクのフィルム内にPEGを多く含む小さな液滴が形成されます。PEG:PSの比が1:4のフィルムのSEM画像(図1D)で示されているように、その後のPEGの蒸発に伴い液滴が収縮し、表面およびバルクにPEGで被覆されたPSマイクロ孔が残ります10。この方法で得られたフィルムにより、図1Eに示すように、PEGを含まないPSマトリックス中のPtOEPと比較して、PLシグナルが2.7倍に増加しました。PtOEP:PEG:PSの使用により、センシング感度Sが約11から約21まで向上しました。よりかさ高い無機PDをOPDに置き換えた結果については後で記述します。
図2は、2つの異なる設計の一体型センサーを用いた、有機EL励起パルス後の溶液中に存在する複数の被験物質の検出の様子を示しています11。図2Aに示しているのは動作中のセンサーで、単独の無機光検出器を使用して連続的に分析が実施されます。
図2Aには、酸素、グルコース、エタノールおよび乳酸について、PLの減衰曲線および減衰時間も示しました。画素ペア1および6は、むき出しの有機ELの緑色ELを示しています。画素ペア2~5は、被験物質に対する画素の応答を示しています。バックグラウンドの緑色ELとPtOEP:PSセンシングフィルムの赤色PLが混じりあい、オレンジ色に見えます。他の設計(図2Bおよび2C)では、密封された容器内の溶液を用いて被験物質の検出が同時に行われます。この設計はよりコンパクトであり(図2B)、ガラス上のセンシングフィルムが容器の底になっています。各容器に、1つの被験物質または1つの被験物質とその酸化を触媒する特異的酵素の混合溶液が入っています。有機EL画素は個別に割り当て可能で、同時に動作させることもできます。画素は、相互に垂直なITOとAlの電極ストライプの重なる部分に相当します。典型的な画素サイズは2 × 2 mm2ですが、0.3 × 0.3 mm2の画素も試験されており、励起光源として同様に十分使用できることが判明しています。有機EL画素間にクロストークはなく、4つの被験物質それぞれに対して2個の画素が使用されました。図2Cは、1/τ対グルコースまたは乳酸濃度の検量線と、被験物質混合物溶液についての分析結果を示しています。予想通り、線は式(4)に完全に従っています。後者の結果は、検出下限(LOD:lower limit of detection)の被験物質濃度が約0.02 mMであることを示しています。
図2構造的に一体化された有機ELベースプラットフォームを使用した、酸素、グルコース、エタノールおよび乳酸のPLベースの複数被験物質検出。A)単独の光検出器を用いた複数画素励起プラットフォーム。B)4個のSiフォトダイオードを用いた複数被験物質センサーアレイの概略図および画像。4個の試料ホルダーの内容は、(i)酵素なし、(ii)グルコースオキシダーゼ、(iii)エタノールオキシダーゼおよび(iv)乳酸オキシダーゼ。C)個別(白の記号)および混合物中(灰色の記号)の1/τ対初期グルコースまたは乳酸濃度。センシングフィルムは密封された容器の底にあります。文献11より許可を得て転載(copyright 2008 Elsevier B.V.)。
同様のアプローチで、有機ELを用いたセンシングプラットフォームがラボオンCD(compact disk)で実現可能であることが示されています12。このプラットフォームは、CDの回転を利用して流体の流れを簡単に制御でき、広範囲の流量で多様な試料に対する適合性があり、コンパクトで、機能の汎用性があるため、実用化が期待されています13-16。さらに、ラボオンCDはプラスチック基板上で作製されるため、低コストで、使い捨てや再生利用、大量生産の実現が可能であり、生体適合性も備えています。また、薄型有機ELは容易にCDと集積化が可能であり、マイクロ流体構造とも適合します。
マイクロ流体構造は、発泡ポリプロピレン(PP)製CDの超音波マイクロエンボス加工によって作製されました。エンボス加工された構造は、容器、チャンネル、バルブおよび反応チャンバーとして機能します(図3A)。光検出器(PD)として、厚さ2 mmの表面に固定されたSiフォトダイオードの互換性アレイが設計されました。OLED/PDアレイとマイクロ流体構造の組み合わせにより、PC互換の標準的なCDプレーヤーを使用して、CDの4つの個別のセグメントで、グルコース、乳酸、エタノールおよびDOの同時モニタリングが可能になりました。試薬が混合し、流れる方向にCDが回転され、被験物質の濃度が決定されます。1つのモニタリングのアプローチでは、バイオCDの反応チャンバー(RC:reaction chamber)に既知の濃度の被験物質が約200 µL充填され、酵素チャンバーに約30 µLの適切な酵素溶液が充填されました。CDの回転後、適切なバルブ(すなわち、マイクロ流体チャンネルの拡張部)が「破裂」し、密封されたRC(全容積230 µL)に酵素溶液が送られます。各被験物質について検量線が作成され、バイオCDの各セグメントについて混合物の濃度が決定されました。図3には、CD-OLED-PDセンシングプラットフォームも示されています。
図3A)ラボオンCD上のマイクロ流体構造の一般的な構造とB)CD-OLED/PDセンシングプラットフォームの画像。左:4個のSiフォトダイオードを備えたプリアンプ基板。中央:動作中のPDアレイおよび緑色有機EL画素。右:ポリプロピレン製CD上のセンサーフィルム(ピンク色)を備えた完全なデバイス。点灯中の有機EL画素も視認可能。センシングフィルムは反応チャンバーの底を形成し、その下に有機ELが配置されています。文献12より許可を得て転載(copyright 2010 The Royal Society of Chemistry.)。
有機EL/センシングフィルム/薄膜光検出器の集積化
有機ELとセンシングフィルムの集積化に続いて、薄膜光検出器(PD)が追加されました。水素化されたアモルファスSiと、より優れたナノ結晶性Siを使用した無機PDを、強度のモニタリングに限定して使用することができます17。これらPDの応答時間は、欠陥における電荷再結合や捕捉によりPLの減衰時間よりも長くなりますが、OPDやPPDはより優れています。
ポリ(3-ヘキシルチオフェン)とフェニル-C61-酪酸メチルエステル(P3HT:PC61BM)を用いたバルクヘテロ接合(BHJ:bulk-heterojunction)OPDが、センシングフィルムの赤色発光への感度を最適化するために利用されています。反応時間が高速であるため、Iおよびτの両検出モードで被験物質のモニタリングが可能になりました18。図4は、緑色LEDまたは有機ELを使用したPLの減衰曲線とSV較正曲線を示しています。PtOEPは、TiO2ナノ粒子がドープされたPSマトリックスに埋め込まれました。TiO2ナノ粒子は、PSマトリックス内で光子を散乱して光路を延長することにより、ELおよびPtOEPの吸収を改善します19。τを介して被験物質をモニタリングする場合、励起光源は、50 Hz、パルス幅100 µsのパルスモードで動作させました。
図4P3HT:PCBM OPDの光電流経時応答に対するA)酸素ガスおよびC)グルコース濃度の効果。励起光源はLED。B)およびD)は、それぞれA)およびC)に対応するIベースおよびτベースのSV較正曲線。有機EL励起酸素センサーについて、E)OPDの経時応答およびF)対応するSV較正曲線に対する酸素濃度の効果。文献18より許可を得て転載(copyright 2010 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim.)。
図に示されているように、これら第1世代のオール有機センサーのダイナミックレンジと感度では限界があり、シグナルのノイズが多くなる場合がありました。それでもなお、これらの結果は、オール有機センシングという概念の最初の実行可能性を示すものでした。その後の開発により、感度と濃度範囲は大幅に向上しています(以下で説明)9。特に、現在開発中のPPDを用いることで、この時間領域における高感度検出が期待されます。
上記の例(図4)では、P3HT:PC61BMを用いたOPDが使用されていますが、図5Aには、このようなポリマー系OPDの外部量子効率(EQE:external quantum efficiency)スペクトルと、有機低分子CuPc/C70(CuPc:銅(II)フタロシアニン)を用いたOPDのEQEスペクトルを共に示しました9。また、緑色有機ELのELスペクトルとPtOEPの赤色PLも示されています。この図からわかるように、ポリマー系OPDは緑色ELに対して非常に高い感度を示しますが、赤色PLに対する感度はあまり高くありません。CuPc/C70を用いたOPDのEQEは全般的に低いものの、PtOEPのPLに対する感度は向上し、有機ELのELに対する感度は低下します。
図5A)CuPc/C70およびP3HT:PCBMを用いたOPDのEQE。デバイス構造は、ITO/1 nm LiF/15 nm CuPc/30 nm C70/3.5 nm BPhen/120 nm Al、およびITO/PEDOT:PSS/P3HT:PCBM/Ca/Al。緑色µC OLEDのEL(緑色の破線)およびPtOEP:PEG:PSセンシングフィルムの赤色PL(赤線)も掲載。B)緑色および青色µC OLEDのEL。C)青色µC OLEDを用いて異なるO2濃度およびpHレベルでP3HT:PCBM OPDにより検出されたシグナル強度。文献9より許可を得て転載(copyright 2013 Elsevier B.V.)。
これら2つのOPDを使用して、溶存酸素(DO)とpHを同時にモニタリングするオール有機センシングプラットフォームが構築され9、センサーの性能とデータ解析を向上するために複数の方法が用いられました。緑色と青色の2つのµC OLED(図5B)は、それぞれ酸素感応性PtOEPとpH応答性フルオレセインに合わせて設計された順方向ピークEL波長でコンビナトリアル法により作製されました。この方法により、これら2つの被験物質をモニタリングするための2次元データを抽出することができました。さらに、有機ELパルスに続く過渡減衰シグナルから、τおよびI検出モードの両方を利用することにより、それぞれDOおよびpHに関係するPLバンドを分解することができました。つまり、DOはτモードで緑色µC OLEDとCuPc/C70 OPDを使用し、pHはIモードで青色µC OLEDとP3HT:PCBM OPDを使用することで、2つの被験物質を同時にモニタリングすることができました。実施可能な別のOPDとして、PTB7:PCBMを用いたものがあります4。このOPDは、CBP(4,4′-bis(N-carbazolyl)-1,1′-biphenyl)を用いた近紫外µC OLEDと併用したときに優れた性能を発揮します4。CBP µC OLEDのELのピークは約385 nmで、PtOEPの強い吸収が見られる領域です。ただし、適切に動作するのはIモードでのみです。
モノリシックに集積化されたOLED/OPDセンサーの例も実証されており22、オール有機光学センサーに利用可能な他のOPDが現在研究されています。一例として、PIDT-TPDの溶液法による合成があります23。このOPDは、610 nmで最高52%のEQE、1 nA/cm2の暗電流および-5 Vバイアスの下で1.44 × 1013 Jonesという高い検出能など、OPDとして優れた特質を有しています。
また、P3HT:PC61BMを利用した狭いバンド幅(FWHM <30 nm)の光増幅型OPDが報告されています24。さらに、Alカソードの隣に配置されたPC61BM層を用いた平面ヘテロ接合での改善により、-5 Vのバイアス下で高い検出能を示す薄膜(150 nm)OPDを可能にしたことが報告されています25。
ハイブリッド型ペロブスカイト光検出器
OPDはフレキシブルなデバイスとして期待されていますが、電荷移動度が低く、応答時間が長いことが性能をさらに向上させる上で妨げになっています26。これとは対照的に、ペロブスカイト光検出器(PPD)では電荷移動度、EQEおよび感度が高く、高速な応答時間を実現しています。実際に、ハイブリッド型PPDの可能性がさまざまな用途で実証されています。例えば、サブナノ秒の応答時間をもつPPDは、デジタルカメラの撮像素子としての可能性があり、有機およびハイブリッド型材料のPLの寿命測定に使用されています。PLの減衰時間が欠陥およびドーパントに影響されるため、この測定によって材料の品質を明確に理解することができます。
PPDの開発は精力的に行われており、例えば、高利得のペロブスカイト光増幅器が、PbI2を多く含むペロブスカイトを使用したトラップと界面の設計により作製されています。調節可能な幅の狭いバンド(例えば、EQE FWHM 約28 nm)のPPDが、2層のペロブスカイトを使用して作製されました。第1層が濾光し、第2層が活性層となります。PPDの感度と波長は、両層のCH3NH3PbBr3-xIxの臭素対ヨウ素の比率を変えることで調節できます。このようなPPDはバンドパスフィルターを必要とせず、最短で約100 nsの時間定数が報告されていますが、さらなる改善の余地があります。この種類のPPDを用いることは、異なる特定波長のセンシングプローブの発光を用いて複数の被験物質をモニタリングするアレイを設計するために有効な方法です。
PPDの高い応答性および短い応答時間により、O2センシングに関して初期の結果は期待が持てるものとなりました。図6Aは、ITO/PTAA/ペロブスカイト/C60/BCP/Cu構造27を用いたPPDのEQEスペクトルを示しています。PTAAはポリ(トリアリールアミン)、BCPはバソクプロインです。このように、約375~750 nmの広い波長範囲にわたって高いEQEが維持されています。約8 mm2のPPDの応答時間は約300 ns(PPDのactive areaと共に増加)であり、100%の気相酸素に曝露された場合に、(生物)化学センサーのPL減衰時間と比べて約10分の1になりました。したがって、有利なτ測定による酸素モニタリングに適しています。PPDと光学センサーの両方の設定について最適化を行っていますが、この初期段階においても、特にτ測定時にはSが16を超えており(図6B)、一部のOPDおよびa-Si:Hやnc-Siを用いた無機薄膜PDの性能をすでに上回っています。
比較のため、図6Cおよび6Dにはオール有機酸素センサーを使用した結果も示しました4。図6Cでは、実行可能なPTB7: PCBMベースのOPDのEQEスペクトルを示しています。このOPDは、CBPベースの近紫外µC OLEDと併用した際に優れた性能を発揮します。CBP µC OLEDのELのピークは約385 nmで、この領域にはPtOEPの強い吸収が見られ、Sは約27です(図6D)。ただし、現時点ではI測定モードでしか適切に動作しません。
図6A)EQEスペクトル30。B)ITO/PTAA/ペロブスカイト/C60/BCP/Cu PPDのIモードとτモードの両方で測定したSV比と酸素濃度の関係。C)P3HT:PCBMおよびPTB7:PCBMベースのOPDのEQEスペクトル、ならびに1:9 PEG:PSに埋め込まれた近紫外µC OLED(紫色の線)の規格化されたELスペクトルおよびPtOEPのPLスペクトル。D)緑色µC OLED/P3HT:PCBM OPDおよび近紫外µC OLED/PTB7:PCBM OPDのSVプロット。文献4より許可を得て転載(copyright 2015 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim.)。
有機EL/有機光検出器を用いたオンチップ分光器
有機ELはディスプレイや固体照明の用途で広く研究されていますが、多色(MC)OLEDはディスプレイまたは照明のサブピクセルを簡単に作製するためだけでなく、小型分析装置としての利用についても関心を集めています。単純な基板上で複数の波長を発光する有機ELは、コンパクトな分光器としての機能を持たせたり、さまざまな被験物質の生物(化学)センシング向けに個別に対応可能な励起光源画素を形成させたりすることが可能です1,2。ただし、従来の有機ELは一般的に広い発光スペクトルを示します。コンパクトで使い捨て可能な分析装置に対する産業界の需要が高まる中で、より単純で経済的なナローバンドMC µC OLEDの作製方法が強く求められています。
本セクションでは、併用することで370~693 nmのスペクトル領域をカバーするMC µC OLEDアレイを2例紹介します。MC µC OLEDのコンビナトリアル法での作製に基づいたアプローチでは、ピーク波長λem,maxの値が光共振器波長lμCで精密に制御され、µCミラーの役割も果たす有機ELの金属電極間に作製される「スペーサー」層の厚さで、lμCは制御されます。もう1つの例(スペクトル範囲を370 nmまで拡大)では、有機光検出器(OPD)とMC µC OLEDアレイのさらなる集積化を実証し、最適な感度と性能を実現するためのOPD設計の指針を示しています。
第1の例(図7Aおよび7B)では、493~693 nmの領域を対象として、1層のMoOxがスペーサーとして使用されました3。準化学量論的MoOx(x < 3)は、加工のしやすさ、高い導電率および有利なエネルギー配置のため、正孔注入層(HIL:hole injection layer)として広く使用されています。Liuらによって示されているように3、有利な電流-電圧(J-V)挙動を維持しながらµC OLEDの光学的長さを調節するための注入およびスペーサー材料としても優れています。さらに、この耐熱性HILを備えたMC µC OLEDは高電圧でより安定であり、最大順方向ELが増強されます。これは、強い励起が必要となる可能性がある高感度センサーにおいて利点となります。
有機ELを用いたオンチップ分光器の可能性を実証するため、Liuら3はガラス/ITO基板上に青色~赤色の直径約1.5 mmのµC OLED画素の2Dコンビナトリアルアレイを熱蒸着で作製しました(図7A)。2D MC µC OLEDは、コンビナトリアル作製の際にAlq3層の厚さを変更するだけで得られました。12画素の構造は以下のとおりです。
40 nm Ag/x nm MoO3 /49 nm α-NPB/1 nm 8 wt% Ir(MDQ)2(acac):α-NPB/y nm Alq3 /1 nm LiF/~100 nm Al
(ここで、α-NPBはN,N′-di(1-naphthyl)-N,N′-diphenyl-(1,1′-biphenyl)- 4,4′-diamine、Ir(MDQ)2(acac)は bis(2-methyldibenzo[f,h]quinoxaline)(acetylacetonate)iridium(III)、Alq3はtris(8-hydroxyquinoline)Al(III)、x = 2、5、10、15、20または35 nm、y= 56(デバイスA)または64 nm(デバイスB))
Ir(MDQ)2(acac)ドープ層が赤色光(約610 nmにピーク)、Alq3が緑色光(約525 nmにピーク)を発光します。yを56 nmに固定してxを2 nmから35 nmまで変化させると、μC(パーセル)効果により発光のピークが493 nmの空色(デバイスA-D1)から639 nmの赤色(デバイスA-D6)まで移動しました。yを64 nmに増やすと、最長波長が650 nmに増加し(デバイスB-D6)、493~650 nmの波長領域で発光しました。なお、最も狭いFWHMはデバイスA-D1の約22 nmで、MoOx層が厚いほど広がっていることがわかります。重要な点として、一定電圧ですべての有機ELの輝度および効率は同等でした。
スピンコートによるP3HTフィルムを用いて、分光器の実証が行われました(図7B)。各画素において、有機ELを直接光電子増倍管に照射することでバックグラウンドのシグナルを得るとともに、実際のシグナルはP3HTフィルムを通過した後に受光されました。バックグラウンドに対する2つのシグナルの相違の比率が、P3HTフィルムの吸収に関係付けられます。図7Bの個々のデータ点が示しているように、得られた吸収スペクトルは参照スペクトルに一致しています。
第2の例(図7Cおよび7D)では、高効率の近紫外/濃青色有機ELのコンビナトリアルアレイが作製され、370 nmまでのオンチップ分光器の実現可能性を実証しました4。この範囲の異なる波長で発光する画素のアレイは、分析用途で強く求められています。さらに、このような有機ELアレイとP3HT:PCBMまたはより高感度のPTB7:PCBMを併用して、オール有機オンチップ分光器が実証されています。
図7OLED/OPDオンチップ分光器の事例。A)有機ELのコンビナトリアルアレイ(構造:40 nm Ag/x nm MoO3 /49 nm α-NPB/1 nm 8 wt% Ir(MDQ)2(acac):α-NPB/y nm Alq3 /1 nm LiF/約100 nm Al)のELスペクトル。B)(A)に示されたアレイおよび参照用の分光器で測定されたP3HTの吸収スペクトル。許可を得て文献3より転載(copyright 2011 American Institute of Physics.)。C)近紫外-濃青色コンビナトリアル有機ELアレイ(構造:15 nm Al/5 nm MoOx /20 nm TAPC/x nm CBP/y nm BPhen/1 nm LiF/約100 nm Al)のELスペクトルとITO電極を用いた参照用デバイスのELスペクトルの比較。D)一体型OLED/OPDアレイ(赤)およびOcean Optics spectrometer(黒、参照用)を使用したAlexa Fluor 405フィルムの吸収スペクトル。文献4より許可を得て転載(copyright 2015 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim)。
アレイを構成する有機EL画素の構造は以下のとおりです。
15 nm Al/5 nm MoOx/20 nm TAPC/x nm CBP/y nm BPhen/1 nm LiF/~100 nm Al
(ここで、15 ≤ x ≤ 30 nmおよび25 ≤ y ≤ 40 nm。)
図7Cは、近紫外/濃青色アレイのさまざまな有機EL画素のELスペクトルを示しています。xとyの増加に伴い、λem,maxが370 nmから430 nmに増加していることがわかります。一つ目の例の空色から赤色のアレイの場合と同様に、λem,maxとともにFWHMが増加します。図7Dは、この有機ELアレイを使用したAlexa Fluor 405フィルムの吸収スペクトルを示しています4。OLED/OPDアレイで得られたデータ点が参照スペクトルとほぼ一致していることがわかります。
医療への応用
有機オプトエレクトロニクスセンサーは、医療用途にも利用されています5,6。図8Aは、手首で血中酸素濃度を測定するための反射モードパルスオキシメーターの光源として使用された緑色および赤色のプリンテッドポリマーLED(PLED:printed polymer LED)とSiフォトダイオードを示しています6。このデバイスでは動脈血酸素飽和度と心拍数を測定します。
また、有機光検出器(OPD)とPLEDを使用して、フレキシブル(曲げ半径約100 µm)で超薄(3 µm)の反射型パルスオキシメーターおよびフォトプレチスモグラフ(PPG:photoplethysmograph、光電式脈波計)デバイスが作製され、皮膚上のデジタルディスプレイを利用した例も報告されています。さらに最近の例では、皮膚に両行に密着可能な超薄(厚さ3 µm)で極めてフレキシブル(曲げ半径3 µm)な近赤外OPDが実証されています37。このデバイスでは、103回以上繰り返し曲げても動作安定性は維持されました。さらに、指紋に対して沿う高速応答のPPGセンシングも実証されています36。これらの特質により、循環器系センサーとしての使用が可能になります。
最近の報告で、フレキシブルな赤色有機ELと赤色ELに対する感度が非常に高いOPDで構成されるフレキシブルなPPGセンサーが紹介されています35。このPPGは多様な生物学的シグナルの検出に適しており、実際には眠気の検出に使用され、従来のPPGセンサーと同程度の性能を示します。
その他の結果では、医療およびスポーツの分野において、低コストで使い捨て可能な非侵襲的光学センサーとして、フレキシブルな基板上で有機ELとOPDを組み合わせた有機オプトエレクトロニクスデバイスのさらなる可能性が示されています。図8Bおよび8Cは、ウェアラブルな筋収縮センサーの例を示しています6。520~700 nmの広い発光スペクトルをもつSuper Yellow発光材料を用いたPLEDとPTB7:PC70BM OPDとを組み合わせたこのセンサーは、実際の腕の運動を模倣したロボットアームの制御に使用可能なことが示され、その応用が実証されました。第2の例では、ウェアラブルでフレキシブルな有機オプトエレクトロニクス包帯が組織中の酸素濃度の測定に使用され、長期間のモニタリングを可能にしています。
図8A)光源として緑色および赤色PLEDとSi PDを併用した反射モード手首パルスオキシメーターの概略図。文献7より許可を得て転載(copyright 2017 John Wiley & Sons)。B)筋線維を含む腕と腕上に置いた1個の光源と4個のフォトダイオードからなるプローブ包帯を示した筋収縮センサーの原理の概略。C)薄型でフレキシブルな有機オプトエレクトロニクスセンサーの写真。文献6より許可を得て転載(copyright 2014 John Wiley & Sons.)。
まとめ
オール有機およびハイブリッド型の光学、生物学および化学センサーなどの薄膜型デバイスの利点は、サイズが小さく(さらなる小型化の可能性も)、携帯性に優れており、現場に持ち込むことが可能な点にあります。さらに、フレキシブルなオール有機デバイスは、診断および治療用のウェアラブルまたはバッジサイズのモニターに転用することが可能です。
また、有機およびハイブリッド型ペロブスカイト電子デバイスは作製が容易で、さまざまな薄膜部品を簡単に集積化できる特徴を持ち、コスト削減の可能性があるため、光学、分析および医療用としての利用が期待されています。有機ELは、複数の被験物質を検出するための発光センサー(マイクロ)アレイの高効率の光源として有望視されており、薄膜センシングプローブや薄膜PD(例えばOPDおよび潜在的にはPPDなど)とも容易に集積化が可能です。さらに、マイクロ流体構造とも親和性が高く、分析用途で頻繁に使用されています。
有機ELはパルスモードで動作させることが可能なため、PL強度Iモードだけでなく、PL減衰時間τモードでも使用することができます。この動作モードでは、頻繁なセンサー較正や光学フィルターが不要になります。有機ELセンシングプラットフォームの改善において、標準的なボトム発光有機ELは、高輝度で高効率のナローバンドµC OLED画素に置き換えられました。ELスペクトルの幅が狭いため、センシング素子の吸収スペクトルに合わせることが可能で、センサーの性能を大幅に改善します。重要なのは、MC µC OLEDアレイと適切なOPDを併用することで、オンチップ分光器として機能する点にあります。ここで示されているように、PPDは、有機ELとの併用についてはまだ十分な検証がされていませんが、高感度と短い応答時間を示すため、非常に高い可能性を秘めています。
コンパクトで軽量、低コストで薄膜型の有機およびハイブリッド型光学プラットフォームは、デバイスの改善とともに分析用途での利用が飛躍的に増加し、これらの技術が他の用途にも転用されることが予想されます。このプラットフォーム技術は、現行のセキュリティや安全性の問題、爆発物検出、食物由来の病原体のモニタリングなどへの取り組みに役立つことが期待されます。
Acknowledgements
This work was supported in part by NSF grant ECCS 1608496.Ames Laboratory is operated by Iowa State University for the US Department of Energy (USDOE) under Contract No. DE-AC 02-07CH11358.The research was partially supported by Basic Energy Sciences, Division of Materials Science and Engineering, USDOE.
参考文献
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