最新マイクロおよびナノ製造プロセス用導電性ポリマー
Rafal Dylewicz<sup>1</sup>, Norbert Klauke<sup>2</sup>, Jon Cooper<sup>2</sup>, Faiz Rahman<sup>1*</sup>
Material Matters, 2011, Vol. 6 No.1
はじめに
現在、ポリアニリンやポリチオフェン、ポリフルオレンなどの導電性ポリマーの、有機エレクトロニクスや光エレクトロニクス分野への応用が非常に注目されています。これら材料は、例えば、有機薄膜トランジスタや有機発光ダイオードの製造に使用されます。本論文では、導電性ポリマー薄膜の新しい応用、つまり、最先端パターニング技術である電子線リソグラフィ(EBL:electron beam lithography)や集束イオンビーム(FIB:focused ion beam)エッチングなどを用いる際に、作業上厳しい制約を伴う基板上の電荷拡散層として導電性ポリマーを使用した事例について報告します。まず、酸化亜鉛1や窒化ガリウム2などのワイドバンドギャップ半導体への電子線リソグラフィについて、続いてガラスへの集束イオンビームパターニングの際のポリチオフェン薄層による蓄積した電荷の拡散特性について紹介します。前者のEBLは、HSQ(hydrogen silsesquioxane)ネガ型電子線レジストへの高密度の周期性ナノパターン作製に用いられ、その後のドライエッチング工程によって、半導体にパッシブフォトニックデバイスを作ることができます。後者のFIBエッチングは、哺乳類細胞の電気生理学研究3において通常使用されるキャピラリーガラスの作製など、生物医学分野への応用に用いられます。
いずれの場合も、市販のpoly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(styrenesulfonate)(PEDOT:PSS)の2.5 wt.%水分散液を使用しました。このポリマー膜は高い導電性と優れた耐酸化性を持つため、電磁気遮蔽やノイズ抑制用途に適しています。平坦なガラス基板に堆積させたポリチオフェン膜の光透過スペクトルは、特徴的な吸収のない透過曲線を示すため2、可視光スペクトル全域と近赤外および近紫外領域で高い透明性を有していることが分かっています。さらに、ポリチオフェン薄膜の吸光係数k の値は、回転検光子型エリプソメーターで実際に測定した結果から、可視光スペクトルを含む幅広い波長域で無視できることが分かっています。このように、ポリチオフェン電荷拡散層は光学的に透明なため、サンプル表面が見やすく、デバイス上の微細形状に対するパターニングの調整に必要な位置合わせ操作が容易になります。
PEDOT:PSS導電性ポリマーを使用したサンプル処理
電子線リソグラフィ(EBL)用導電性ポリマー
バルクZnOやサファイヤ基板上のGaN/AlNの上に堆積させたHSQネガ型レジストに、高密度高分解能パターンを素早くEBL露光するための安価な処理方法が開発されています。酸化亜鉛(ZnO)は、青色発光素子や薄膜トランジスタ(TFT:thin-film transistor)をはじめ、レーザーダイオードも製造できる可能性を持つことから、近年大きな注目を集めているワイドバンドギャップ半導体です。このII-VI族酸化物半導体は、短波長発光ダイオードやレーザーダイオードの製造に用いられている標準的物質である窒化ガリウム(GaN)とほぼ同じバンドギャップ(約3.4 eV)を持っています。さらに、ZnOは単なる代替材料としてだけではなく、励起子束縛エネルギーが高いことやバルク材料が入手しやすいことなど、同様の素子を製造する上でGaNよりも多くの利点を持っています。一方で、III-V族窒化物(GaN、InN、およびAlN)は、今後光エレクトロニクスでの応用が期待されている有望な材料です。これらの新しい物質は、可視/紫外境界および紫外スペクトル域に不可欠な材料ではありますが、青色光と緑色光の発光と検出にも極めて有用です。すべてのIII-V族窒化物は直接バンドギャップを持っていますが、これは発光器や光検出器のいずれを作る場合にも間接バンドギャップ半導体よりも有利な特性です。また、InNとAlNは固溶体を形成することができるため、光特性や電気特性の調整が可能です。さらに、GaNは高い力学的安定性と熱安定性も示すため、パワートランジスタ、高出力LEDやレーザーなどの高温エレクトロニクスおよび光エレクトロニクス分野への応用に極めて有用です。
ZnOとGaNは蓄積された電荷を効率的に拡散できないため、電子顕微鏡による観察や電子線リソグラフィによるパターニングが容易ではありません。そのため、ワイドバンドギャップ半導体の電子線リソグラフィには、電子線レジストの上に堆積させた薄い導電性金属(通常はアルミニウム)を使用するのが一般的です。さらに、ZnOは金属膜の除去に使用する酸と塩基の両方に容易に反応する両性酸化物であるために、その処理が困難です。本稿では、金属層蒸着よりもはるかにシンプルな方法であり、特別なレジストの調製を必要とせずに幅広く使用できる方法について述べます。図1に、市販のPEDOT:PSS導電性ポリマーを使用して電子線リソグラフィで電荷を拡散させる、エピタキシャルGaN/AlN/サファイヤの例を示します。この処理では、HSQコートした試料の上に導電性ポリマー(PEDOT:PSS)をスピンコートし、レジストに対して電子線で高密度パターンを描画した後、PEDOT:PSS層を除去し、露光したHSQ電子線レジストを最後に現像します。ここでは、電荷拡散層を使用しない場合と、HSQレジスト上に100 nm厚の導電性ポリマー層を堆積させた場合の2つのケースについて実験結果(図2)を比較します。図2は、442 μC/cm2の線量で露光して得たフォトニック結晶(PhC:photonic crystal)パターンを走査型電子顕微鏡(SEM:scanning-electron microscope)で観察した結果を、2kと70kの2つの倍率で示したものです。作製したナノパターンは、三角格子状の孔(550 nm間隔、孔の直径440 nm)を持つ50 μm × 10 μmの面積のフォトニック結晶導波路構造、パターンW1(一列の孔を取り除いたもの)とW3(三列の孔を取り除いたもの)です。HSQのみを用いた場合(図2a)、周期パターンに著しい露出オーバーが見られます。配列の端には輪郭が適切に示された孔がありますが、フォトニック結晶格子の中央部には、SEM観察でコントラストが減少することによって示される強い近接効果の兆候が見られます。一方、導電性ポリマーを使用した場合は、高コントラストSEM写真にも示されているように、明確な輪郭を持つ孔が均一性の高いフォトニック結晶格子の中で得られます(図2b)。
図1導電性ポリマー電荷拡散層を使用した電子線リソグラフィによるHSQ/PEDOT:PSS/GaN/AlN/Al2O3サンプルのパターニングの概略図。a)スピンコートによるPEDOT:PSS薄膜の堆積、b)電子線を用いたHSQレジストへのパターン描画、c)脱イオン水の温浴によるPEDOT:PSSの除去、d)HSQレジストの現像。高密度ナノパターンがレジスト層に作製されます。
図2バルクZnO試料にあるHSQレジスト内のフォトニック結晶格子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(上から見た図)。電子線露光量は442 μC/cm2。a)導電性ポリマーを使用しない場合、b)導電性ポリマー薄膜を使用した場合。
スピンコート可能な導電性ポリマーは水溶性を持つため、処理後に容易に取り除くことができます。そのため、酸化亜鉛などの両性酸化物試料の処理に最適な方法といえます。また、ポリマー拡散層を使用すると、露光レンジが広くなることと、HSQでの高密度パターンの露光オーバーを避けることができるため、窒化ガリウムの処理にも適しています。この新しい方法では、ZnOおよびGaN試料の処理を以前よりはるかにシンプル、迅速、かつ安価に行うことができるようになりますが、後に示すように、その他多くの半導体/誘電材料へのEBL露光にも適用できる可能性を持っています。
集束イオンビーム(FIB)エッチング用導電性ポリマー
PEDOT:PSS導電性ポリマーで作製した水溶性膜を、ガラス材料のイオンミリングでの帯電を防ぐために使用しました。イオンミリングは、細く絞ったイオンビームを使用して試料をナノメートルの精度で削るための方法です。これは、ビームの位置決めとミリングの進捗の両方を、走査型電子顕微鏡を使用してin-situで観察することによって可能になります。我々の実験では、マイクロスケールでパターニングするターゲット材料としてガラスキャピラリー管を使用しました。ガラスキャピラリー管は、哺乳類細胞の電気生理学的研究に広く使用されており(例えば、パッチクランプ用マイクロ電極)、局所的に加熱したキャピラリー管を引っ張ることで、直径1 μm~100 μmの開口部を持つ先の細くなった先端部を作ります。こうして作製したキャピラリー管の先端部は、溶液中の物質の濃度を空間的および一時的に規定した方法によって局所的に変化させる目的で、非常によく使用されています3。ガラスキャピラリー管を引き伸ばすことで、薄壁(厚さ約5~10 μm)を持つ中空フィラメント(内径約30 μm)を作ることができます。このフィラメントの決められた場所に孔を開けると2つの空間(毛細管の内側と外側)ができ、その間の連絡は毛細管壁の孔によってのみ行われます。液体を満たした毛細管の一方の端から圧力をかけ、もう一方の端を閉じることで、液体をあらかじめ定めた場所に拡散させることができます。これは、キャピラリー管の壁の開口部を通って液体が毛細管内部から外部の溶液に広がるためです。形状のはっきりした開口部をキャピラリー管の壁に開けるために、FIBパターニングを使用しました。FIB処理には、導電性コーティング、例えば不活性アルゴンガス雰囲気でのスパッタリングによるAuPd金属層のコーティングなどが必要です。これは、ガラス材料の帯電を防ぎ、イオンビームのドリフトを避けるためです。理想的には、後に行う光学試験(光学顕微鏡)におけるガラスの透明性を再度得るために、ミリング処理の後で導電性膜を取り除くことが望まれます。従来は、キャピラリー管に薄いAuPd層をスパッタコーティングし、ミリング処理後にHCN+KOH蒸気を満たした容器内に浸漬して金属層を除去していました4。この方法では極めて有毒なKCN粉末を取扱う必要があり、HCNガスが発生します。このように、従来の方法では非常に注意深く作業を行う必要があるため、スパッタコーティングに代わる方法が望まれています。ここでも、導電性有機ポリマー膜が最適な解決策になります。本論文のケースでは、キャピラリー管をPEDOT:PSS水分散液が入った容器に入れてゆっくり引き上げることによって、ガラスの表面にポリマー薄膜を固定化するという単純なディップコーティング法でPEDOT:PSS膜をガラス表面に堆積させました。FIBミリング処理の後、キャピラリー管を水につけるとポリマー膜は容易に除去されます。最小直径は、それぞれ図3aと3bに示すように5 μmでした。
図3ガラスキャピラリー管の集束イオンビームパターニング。a)PEDOT:PSS層を利用して処理したキャピラリー管の壁に作製した開口部の走査型電子顕微鏡写真、b)作製したガラスキャピラリー管の透過(上)、蛍光(下)共焦点光学顕微鏡写真。ガラスキャピラリー管の下側の壁に3つの孔があることに注意してください。蛍光ビーズ(直径が約1 μmの微小粒子)が孔の内部から下流に向かって高い密度で詰まっていることから、作製した孔を通して蛍光ビーズがキャピラリー管の外部から内部に流れ込んでいることが分かります。
結論
PEDOT:PSSポリマーが、電子線リソグラフィと集束イオンビームミリングのいずれにおいても優れた電荷拡散能を持つことが実験的に示されました。PEDOT:PSS拡散層を使用すると、サファイヤ(Al2O3)基板上の窒化ガリウム(GaN)や酸化亜鉛(ZnO)、溶融シリカ、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、シリコンカーバイド(SiC)、ダイヤモンド(C)などのさまざまな基板に対する処理を、よりシンプルに、迅速、かつ安価に行うことができるようになります。
謝辞
英国Glasgow大学のJames Watt Nanofabrication Centre (JWNC)とKelvin Nanocharacterisation Centre( KNC)の技術スタッフに感謝いたします。また、エリプソメーター測定に関してはSzymon Lis氏(Wroclaw University of Technology、ポーランド)に、ガラスキャピラリー管の作製に関してはMayuree Chanasakulniyom氏(Glasgow大学、英国)に感謝いたします。
References
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