はじめに
二酸化チタン(TiO2)は、光スイッチング可能な表面濡れ性や高い光触媒活性、双安定性を示す電気抵抗特性、および高い電子ドリフト移動度などの興味深い特性を示す重要なn型半導体材料です。チタニアは光触媒活性、強い酸化特性、光応答挙動を示すことから、医療用や食品調理用器具および建築材料の曇り止め、セルフクリーニング、殺菌コーティングなどの応用に用いられています。また、二酸化チタンは屈折率が非常に高いために光の散乱が大きく、白色顔料として最も広く利用され、食品や化粧品をはじめ、あらゆる種類の塗料、印刷インク、プラスチック、紙、合成繊維、セラミックス、電子部品などに使用されています。TiO2を基盤とした構造的にも幾何学的にも明確な特徴を持つ材料は多くありますが、その中でもメソポーラスTiO2構造体は、材料科学分野の基礎および応用研究において近年改めて関心を集めている重要な新規材料です1-4。ハードおよびソフトテンプレート合成は、この一連の多孔性材料を生成するために最も広く用いられている方法です。
ハードテンプレートを用いた方法では、ポリマービーズなどのコロイド粒子やアノード酸化アルミナ膜を用います。ゾル-ゲルキャスティングまたは粒子吸着法などの方法によって、ナノ構造をテンプレート表面の内側または外側に形成します。その後、これらのテンプレートを除去することにより、特徴的な多孔性材料が作製されます。
ソフトテンプレートを用いた方法では、イオン性有機界面活性剤または非イオン性高分子界面活性剤を使用します。これらの界面活性剤は、ビルディングブロック化合物との間で働く水素結合、ファンデルワールス力、静電相互作用などの弱い非共有結合的相互作用により溶液中で自己組織化し、球状ミセル、ヘキサゴナル型ロッド、ラメラ液晶や他の集合体を含むさまざまな超分子構造体となります。これら構造体は、多孔性材料の細孔構造や細孔径を調整するためのソフトテンプレートとして使用されます。
本稿では、ハードおよびソフトテンプレート法を用いたさまざまなTiO2多孔性構造体の合成における近年の進展について議論します。特に、ゾル-ゲル法と蒸発誘起自己集合(EISA:evaporationinduced self-assembly)法の組み合わせによる、TiO2メソポーラス薄膜の開発を取り上げます。
TiO2多孔性構造体のハードテンプレート合成
ハードテンプレート法は、過去20年間にわたって最も一般的に用いられているTiO2多孔性材料の合成方法です5,6。多孔性無機材料は自然界に広く存在し、周期的細孔を持つこのような構造体は、形態制御および結晶構造制御が可能なために注目されている材料です。これらの構造体は、核生成およびテンプレート法を制御することで、結晶性構造を持ち、比表面積が大きく、望み通りの細孔構造を有する3次元(3D)TiO2多孔性構造体の作製に用いることができます。
Sandhageらは、キチン質の「モルフォ」蝶の翅(はね)をテンプレートとしてその形態とナノスケール構造を維持しながら、複雑な3Dナノ結晶性ルチル型TiO2構造体を調製できることを示しました7。また、メソポーラスおよびマクロスケール形態との相乗的な利点を有する、階層構造をもったTiO2多孔性構造体を得るために、Moonらは、デュアルテンプレート法を利用してメソおよびマクロスケールの細孔からなる階層構造TiO2材料を作製しています8。彼らは、4光束干渉によって作製したテンプレートに単分散ポリスチレン(PS)コロイド粒子を注入し、TiCl4(Aldrich製品番号:254312、208566)溶液でコーティングした後、これら2つのテンプレート(ホログラフィックリソグラフィーで作製したテンプレートおよびコロイド粒子テンプレート)を空気中で焼成しました。その結果、ホログラフィックパターンが除去されたことでマクロ細孔(直径250 nm)を有するアナターゼ型TiO2構造体が得られ、さらに、PS粒子が除去されたことによってメソスケールの細孔(直径50nm)も得られました。
Buschbaumらは、らは、直径が約30~40 nmで、部分的に相互連結した球状の細孔を有する階層構造をもつメソポーラススポンジ状構造のTiO2薄膜を作製しました。合成する際に、構造指向剤として両親媒性ジブロック共重合体(PDMS-b-MA(PEO))を用い、ポリ(メタクリル酸メチル)(Aldrich製品番号:445746445746、182265、182230)PMMAミクロスフェア二次テンプレート法とゾル-ゲル化学を利用しています(図1A)9。この場合、両親媒性ブロック共重合体中の相分離が誘発され、Ti前駆体化合物がブロックの1つに化学的に結合します。ゾル-ゲル溶液中の構造体は、ミクロスフェアの埋め込まれたTiO2粒子固体薄膜に転写されます。
PMMAミクロスフェア添加量が増えるにつれて、薄膜中に形成される表面のくぼみの数は増加し、凝集傾向も認められました。加えて、メソ細孔径は小さくなります(図1B、C)。これは、二次テンプレート用ポリマーの添加によって、ゾル-ゲルプロセスにおけるすべての構成要素が複雑な相互作用を起こしたことによるものと考えられます。また、ゾル-ゲル溶液の一次構造体における相分離にも影響を及ぼしています。構造指向剤として適切なブロック共重合体を選択することにより、メソ細孔径をさらに小さくすることができます。Xuらは、両親媒性トリブロック共重合体Pluronic® P123(EO20PO70EO20)をハードテンプレート法と共に用いることにより、約35 nmのメソ細孔径をもつメソポーラスチタニア球の秩序性の高い配列を合成しました10。シリカオパールを用いて作製したPMMA網目構造の球状マクロ細孔中に、EO20PO70EO20を含むチタニア前駆体溶液を浸透させ、PMMA網目状テンプレートとトリブロック共重合体界面活性剤を除去することにより、最終的に配向性メソポーラスTiO2球アレイが得られました。しかし、固体のハードテンプレートの除去に量産のコストとリスクが増大するため、多くの課題が残されています。

図1 A)階層構造をもつTiO2の作製方法の概略図。B、C)ゾル-ゲル溶液に30%の量のPMMAミクロスフェアを添加したTiO2膜のSEM画像9。許可を得て転載。(Kaune, G; et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 2009, 1(12), 2862-2869. Copyright 2009 American Chemical Society.)
TiO2多孔性構造体のソフトテンプレート合成
EISAは、メソポーラス金属酸化物膜の再現性の高い合成法として利用されており、溶媒の揮発によって促されるブロック共重合体の自己組織化によって、無機化学種のメソ構造体の作製が可能となります。出発材料、特にTi源およびブロック共重合体の適切な選択が、TiO2薄膜の高度に配向したメソポーラス構造を生成する上で不可欠です。適切なTi源は極めて限られており、入手可能なチタンアルコキシドには、加水分解に対する反応性の低い順に挙げると、チタンエトキシド(Ti(OEt)4、Aldrich製品番号:244759)、チタンイソプロポキシド(Ti(O-iPr)4、Aldrich製品番号:687502)、およびチタンブトキシド(Ti(OBu)4、Aldrich製品番号:244112)があります。これらは、TiF4(Aldrich製品番号:/JP/ja333239)などの他のTi源と比べて、原料溶液の均質性およびナノスケールでのTiO2結晶子の最終的な大きさを制御できる点で特に優れています11。
EISAに用いられる理想的なブロック共重合体は、親水性の極性基と疎水性炭化水素鎖を持つ分子です。水中では、炭化水素鎖は水分子との接触を最小化するように自己集合する傾向があり、その結果、さまざまな集合体が形成されます。ミセル、逆ミセル、ベシクル、液滴などを用いた再現性の高いソフトテンプレート法が、多孔性構造を得るための有効な方法として幅広く利用されています12,13。
適切なブロック共重合体として、中央に疎水性PPO鎖と末端に2つの親水性PEO鎖をもつ、市販の両親媒性poly(ethylene oxide)-block-poly(propylene oxide)-block-poly(ethylene oxide)(PEO-PPO-PEO)トリブロック共重合体が、高度に組織化されたTiO2メソポーラス構造体作製用の構造指向剤として広く使われています。代表的な例として、Pluronic® P123(PEO20PPO70PEO20、EO=エチレンオキシド、PO=プロピレンオキシド、MW = 5800、Aldrich製品番号:435465)およびF127(PEO106PPO70PEO106、MW = 12,600、Sigma製品番号:P2443)が挙げられます。ここでPおよびFは物理的形状(それぞれペーストおよびフレーク状)を示しています14。
Rankinらは、P123界面活性剤テンプレート法とポリプロピレングリコール(PPG、Aldrich製品番号:202304、202355、81380)相分離を組み合わせて、階層構造をもつ多孔性チタニア薄膜を作製しました15。図2Aに示すように、反応初期の低温期間ではPPGは親水性化合物として挙動し、チタン酸塩含有量の多い極性相に取り込まれます。種とPPGとの相互作用に関連したエンタルピー推進力のいずれかが変化することによって、PPGが高温乾燥の間に疎水性に変化し、相分離反応が促されます。P123に対するPPGの質量比(M = 0.3)が大きい場合、広範囲にわたって高い配向性および六方対称性を持つ、均質なメソ細孔構造が得られました(図2B~D)。

図2 A)階層的多孔性構造を有する薄膜の形成メカニズム。B-D) P123に対するPPGの質量比(M)が0.3(B)、0.5(C)、1(D)で作製された焼成TiO2 薄膜の高倍率TEM画像15。スケールバー = 50 nm。許可を得て転載。(Wu, Q, et al. Langmuir 2011, 27(15), 9557-9566. Copyright 2011 American Chemical Society)
我々のグループでは16,17、トリブロック共重合体Pluronic® F127を構造指向剤とし、チタン酸テトラブチルを無機前駆体として用いることで、熱安定性に優れた(600℃まで)高品質メソポーラスチタニア薄膜を作りました。この優れた熱安定性は、メソ構造体の壁が厚いことと関連しています。F127は、メソ構造体の壁を厚くし、細孔径を大きくすることを想定してテンプレート剤として利用しました。
F127は分子量が大きく、親水性PEOと疎水性PPOの各セグメントが長いために、ユニークな界面活性剤です。そのため、壁がより厚く、細孔径の大きなメソ構造体を作製できる可能性をもっています。
ブロック共重合体ミセルは、PPOからなるコアとPEOセグメントからなるコロナによって構成され、ミセルのコアは水分を含まず、コロナは水和されると考えました。細孔径は主にミセルの疎水性コア(PPO)の有効体積に依存し、壁の厚さは主に親水性コロナ(PEO)に依存しました。
加えて、非水溶媒と、無機前駆体としてTi(OBun)4を使用することが非常に重要です。ゾルの合成中に、強力なキレート剤であるアセチルアセトン(Aldrich製品番号:10916)および酸性溶媒によって、溶液中での前駆体化合物の急速な加水分解と縮合反応を防ぎ、反応の制御が可能になります。さらに、無水溶媒が前駆体の反応を抑制します。「乾燥状態」では、無機前駆体の加水分解と凝固の速度が遅いために、オリゴマーTi-オキソ種もしくはチタニアクラスターの形成が優先され、構造体の骨格に厚く固いTiO2無機壁を形成することが可能となります。これら小さなオリゴマーは、自己集合プロセスでポリエチレンオキシド(PEO、Aldrich製品番号:372773、372781、372838)部分と優先的に結合します。
図3に、TiO2薄膜の透過型電子顕微鏡写真を示します。図3(A)から、膜は600℃での焼成後でも均質で配向性の高いメソ構造を維持しており、膜のメソ細孔は結晶粒の成長により楕円形になっていることがわかります。一方、HRTEM画像(図3B)からは、膜が高結晶性ナノ粒子で構成されていることがわかります。メソ構造体の細孔径と壁厚は、それぞれ、6~9 nmおよび9~12 nmの範囲にあります。極めて厚く強固な壁によって、形成された膜の熱安定性は高くなります。試料の制限視野電子線回折(SAED:selected-area electron diffraction)パターン(図3B挿入図)から、これらの結晶構造はアナターゼであることが確認できました。

図3 F127を用い、600℃で焼成して作製した合成メソポーラスTiO2薄膜のA)TEM画像およびB)HRTEM画像。3Bの挿入図は、焼成試料のSAEDパターン。
我々は、使用するブロック共重合体およびイオンの種類が、TiO2膜の熱安定性に大きな影響を与えることも見出しています。図4に、さまざまなブロック共重合体を用いて作製した膜と、ブロック共重合体としてF127を用いてチオ尿素エタノール溶液によって作製した膜の走査型電子顕微鏡写真を示します。図4AおよびBからわかるように、P123およびBrij®58(EO20CH16H、Sigma製品番号:P5884)500℃での焼成の後に、低品位のメソポーラス構造(一部変形もしくは崩壊が見られます)となりますが、これに対して、F127を用いて作製されたメソポーラス構造は均質な細孔径分布を示しています(図4C)。このことは、長い親水性PEOセグメントを持つブロック共重合体のほうが、厚い壁の構造の形成に適していることを示しています。しかし、2.5%(mol)のチオ尿素(Sigma-Aldrich製品番号:T8656、T7875)を溶液に添加すると、膜へのNおよびSのドープが確認され、均質なメソポーラス構造を部分的に失い、膜表面に粒子が見られるようになります(図4D)。
酸性溶液中でのTiアルコキシド前駆体の加水分解により、ナノサイズのTi-オキソクラスターが形成されると考えられます18。これらは、ハイブリッドアモルファスメソ構造体を形成するF127ミセルの親水性PEOブロックと選択的に結合します。チオ尿素を酸性溶液に添加した場合、おそらくチオ尿素が空気中から吸収した水分と反応してH2SおよびNH3が生成され、これらが空気中の酸素や溶液中の塩酸と反応して、塩化硫黄および塩化アンモニウムを生成します。
過剰のNH4Clによってメソポーラスミクロ構造体が崩壊します。これは、NH4ClのNH4+がミセル界面に吸着し、ミセルの曲率が変化するためです。親水性ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ブロックが徐々に脱水することで親水性コロナが損なわれ、疎水性コアの有効径が増大したため、ミセルの形状が球状から円柱状に変化します。その結果、ミセルが無機オキソ化学種と集合することが困難になり、メソポーラス構造の損失につながったと考えられます。

図4 500℃で焼成することにより得られたTiO2薄膜のSEM画像。構造指向剤:P123(A)、Brij58(B)、F127(C)、F127(D、チオ尿素を添加)
メソポーラスTiO2の応用
比表面積が大きく、アクセスが容易な空孔を持つ多孔性固体は、不均一系触媒、収着(sorption)、分離、ガスセンサ、オプトエレクトロニクス、ホスト-ゲスト化学、分子エレクトロニクスデバイスにおいて広く応用されています。ここでは主に、光触媒の分野へのメソポーラスTiO2の応用について紹介します。半導体光触媒は、すでに確立された重要な研究分野ですが、いまだ発展し続けており、セルフクリーニングガラスやタイル、塗料をはじめとする数多くの商品が生み出されています。
現在、商業的に光触媒が利用される場合、アナターゼ型チタニア(Aldrich製品番号:637254、232033、248576)半導体光触媒の薄膜が多く使用されています19。半導体光触媒のメカニズムは、励起によって伝導帯の電子と価電子帯のホールが生成され、ホールは酸化反応を、電子は還元反応を担います。この結果、TiO2膜に接触した有機化合物は、トラップされたホールによる直接酸化、もしくはヒドロキシルラジカルなどとの反応のいずれかによって分解されます。
TiO2膜の活性を特性評価する方法としては、水に溶かしたメチレンブルー(MB)やメチルオレンジ(MO)などの色素の脱色、(ii)ワックス状物質(ステアリン酸やパルミチン酸など)の固体薄膜の光分解(photomineralization)、および(iii)気相汚染物質の光酸化、などが用いられます。
今回、我々はメソポーラスTiO2の光触媒作用をメチルオレンジ溶液の光分解によって評価しました。図5に、純粋なメソポーラスTiO2と、チオ尿素を用いて合成したN、SをドープしたメソポーラスTiO2による、UV照射下でのMO水溶液の分解を示します。基準試料であるP25と比較して、純粋メソポーラスTiO2およびN、SをドープしたTiO2の両方、特にN、Sドープサンプルにおいて高い光触媒作用が見られました。MO溶液は、3時間で完全に分解されます。
メソポーラスTiO2サンプルの高い空孔率と大きな細孔径および細孔容積は、メソ構造体への有機分子の吸着に適しているため、有機物分解能の改善につながります。さらに、紫外-可視反射の結果からは、N、Sのドーピングによって光吸収能が改善されていることが確認されています。その結果、これら3つのサンプルの中で、N、SをドープしたメソポーラスTiO2が最も高い光触媒作用を示すと考えられます。

図5 純粋なメソポーラスTiO2、NとSを共ドープしたメソポーラスTiO2、およびP25についての光触媒作用
まとめ
本レビューで取り上げたTiO2メソポーラス材料は興味深い特性を持ち、潜在的にさまざまな応用分野が考えられるため、ナノ構造体材料の中でも重要な位置を占めています。今後の開発には、簡単な製造プロセスと斬新な合成方法が求められるでしょう。特に、形態、純度、組成および収率の精密な制御と共に、細孔径の選択についての柔軟性を改善するために、ゾル-ゲル化学と他の合成技術との組み合わせによる新たな合成法の研究に取り組む必要があります。
謝辞
本研究は、Beijing Innovation Talent Project(PHR201006101)、Beijing Municipal Commission of Education Key Foundation(KZ2010100050001)、National Natural Science Foundation of China(51002004)、Beijing New Century Hundred、Thousand and Ten Thousand Talent Project、State key Laboratory of Electronic Thin Films and Integrated Devices(UESTC: KFJJ201001)からの資金援助を受けて実施されました。
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References
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