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本質的に伸縮可能な有機トランジスタ用高分子半導体

Ging-Ji Nathan Wang, Zhenan Bao

Department of Chemical Engineering, Stanford University, Stanford, CA 94305-5025, USA

Material Matters 2017, Vol.12 No.3

はじめに

伸縮性エレクトロニクス(Stretchable Electronics)は、ウェアラブルもしくは埋め込み可能なデバイスに利用できることから、急速に成長している有機エレクトロニクスの新規分野です1,2。これまで、伸縮可能な接続用部品や「バックリング(buckling、しわ状の凹凸構造)」を用いることで、リジッドな部品を用いた伸縮性発光ダイオード(LED:lightemitting diode)3、太陽電池4、トランジスタ5が作製されていますが、本質的に(intrinsically)伸縮可能な半導体の開発は、今後の低コストかつ高密度デバイスの実現に不可欠です。半導体ポリマーは、いくつかの理由から、本質的に伸縮可能な電子機器の作製に使用できる有望な材料とみられています。まず、半導体ポリマーの引張弾性率(~1 GPa以下)はシリコンおよび無機半導体(~100 GPa)と比較して低いため、バイオエレクトロニクスに適したより柔軟な界面が得られます。次に、有機化学の進歩により材料の高度な調節が可能となり、必要に応じた生体適合性や生分解性の付与が可能になりました6。高分子プラスチックであるため、ポリマー鎖の絡み合い、架橋、非共有結合性相互作用を介して、優れた強靭性や伸縮性、自己修復性が得られる可能性を秘めています(言うまでもなく、自然界のほとんどの生体組織が高分子です)。最後に、これら材料は溶液プロセスで処理できるため、大表面積への印刷やパターン作製が可能です。

しかしながら、半導体ポリマー開発における主な課題は、伸縮性と優れた半導体特性を同時に維持する点にあります。良好な電子的特性を得るためにはポリマー骨格の拡張π共役系が非常に重要であることから、半導体ポリマーには剛性を持ち、半結晶性であるものが少なくありません。この傾向は電界効果トランジスタにおいて特に顕著で、一般的に高い電荷キャリア移動度を得るために高い結晶性が必要です。これら両方の特性を改善する方法として、側鎖の修飾7、骨格のフラグメント化8、SEBS(styrene-ethylene/butylene-styrene)への半導体ナノファイバーの埋め込み9、移動度が高いポリマーと可塑性半導体のブレンド10など、複数の方法が報告されています。これら手法では、共役ポリマーの伸縮性・可塑性は改善されますが、高い移動度の維持は依然として課題です。

本稿では、有機電界効果トランジスタ(OFET:organic field effect transistor)用の本質的に伸縮可能な活性層に関する我々のグループが行った研究の例をいくつか挙げ、伸縮性電子デバイス開発に向けた過去数年間の成果を紹介します。我々のアプローチは、ポリマー構造の修飾と重合後の修飾の2種類に分けることができます。前者は、ポリマー骨格および側鎖の選択や、非共有結合性相互作用の導入など、共役ポリマーの設計を中心とする方法です。後者は、絶縁性であるものの伸縮可能なポリマー材料との架橋およびブレンドなど、高分子半導体に対して一般的に適用可能な方法に重点を置いています。

ポリマー構造の修飾

DeLongchampらによって、P3HTとpBTTTの比較から、半導体ポリマーの機械的性質の差異が初めて明らかになり11、電界効果移動度(μFET)と弾性率の間に直接的関係が見出されています。例えば、中程度の結晶性を有するP3HTはμFETが低く、結晶性の高いpBTTTは側鎖がお互いにかみ合った構造をとるため高いμFETおよび弾性率を示しました。しかし、近年、共役ポリマーにおける電荷移動の理解が深まり、低い結晶性でμFETの高いポリマーが開発されています12。例えば、Salleoらは、従来の考え方とは逆に、高分子量で分子間凝集が強く、秩序性が低いポリマーを使用して長距離電荷移動を実現できることを示しました13

高度に凝集したドナー・アクセプター型ポリマー

上述の理解に基づき、我々は、凝集し、優れた電荷キャリア移動度を持つことが知られているドナー・アクセプター(D-A)型ポリマーの研究を重点的に行っています。我々の開発したsoft contact lamination法を用いて、PiI-2TがP3HTと同等の機械的特性を有しながら、100%ひずみでμFETが1.52 × 10–2 cm2V–1s–1と高いことを示しました(図1B14。PDPP-FT4については、電荷移動に関しては優れているものの、伸縮性は不十分でした。

PDPP-FT4およびPiI-2TのμFET

図1A)PiI-2T、PDPP-FT4、分岐型PDPP-FT4および分岐型PDPP-TFT4Tの化学構造。B)様々な強度のひずみを加え、soft contact lamination法で測定したPDPP-FT4およびPiI-2TのμFET。許可を得て転載。Copyright 2014 American Chemical Society14

骨格および側鎖の修飾

PDPP-FT4の持つ低い機械的性質の原因を探り、伸縮可能なD-A型ポリマーを設計する際の一般則を確立するため、我々は2種類のDPP型ポリマーをさらに検討しました。その1つは分岐した側鎖を持つ分岐型PDPP-FT4で、もう1つは分岐した側鎖および縮合テトラチエノアセンの間にスペーサーとしてチオフェンを持つ分岐型PDPP-TFT4Tです(図1A15。我々は、引張弾性率の測定と伸長したポリマーフィルムを用いたOFETの作製を行い、分岐した側鎖の導入によって、弾性率が減少し、柔軟性が増加することを見出しました。さらに、チオフェンスペーサーを加えた場合、ポリマーフィルムは40%のひずみまで亀裂伝搬を示さず、100%ひずみでも最大0.1 cm2V–1s–1の正孔移動度を維持しました。微小角入射X線散乱法(GIXD:grazing-incidence X-raydiffraction)および原子間力顕微鏡法(AFM:atomic force microscopy)による観察から、これらは、ポリマーフィルムの結晶性の低下と、絡み合った非繊維性構造に起因することが明らかになっています。骨格および側鎖を慎重に設計することで、良好な電荷輸送性を維持しながら、ポリマーの分子充填および骨格の剛性を操作することが可能です。

水素結合を介した応力散逸および修復機構

伸縮性の付与に効果的な方法の1つに、エネルギー散逸機構の導入があります16。我々は、これまでに行った高度に伸縮可能で自己修復性を持つエラストマーの研究17に基づき、中程度の水素結合(H-bonding)強度を持つ2,6-pyridine dicarboxamide(PDCA)ユニットをDPPポリマーに導入し、PDPP-TVT-10PDCAを得ました(図2A18。対照ポリマーのPDPP-TVTと比較して、PDCAポリマーは引張弾性率が減少し、120%のひずみにおける破壊ひずみが増加しました。伸長したポリマーフィルムから作製したトランジスタは、最大100%のひずみで1.0 cm2V–1s–1の安定したμFETを示しました。図2Bに示すように、このポリマー活性層の耐久性は高く、100%ひずみで100サイクルの引き伸ばしを行ったあとでも、μFETの減少は26%にとどまりました。この耐久性向上の要因は、PDCAユニットの弱い水素結合が伸長の際に犠牲結合として働くことで開裂し、ポリマー鎖が受ける応力を逃がすためと説明することができます。

さらに、水素結合は動的な性質を持つため、PDPP-TVT-10PDCAフィルムは溶媒および熱アニールで修復が可能です。図2Eに、伸長後の損傷したフィルムと溶媒および熱アニール後の修復したフィルムのAFM画像を示します。当初は明らかなナノクラックが観察されますが、修復処理後に亀裂は見られなくなり、μFETは1.0 cm2V–1s–1以上まで回復しました。これは、修復能力を持つ半導体ポリマーの最初の例です。

PDPP-TVTおよびPDPP-TVT-10PDCAの伸縮特性

図2A)PDPP-TVTおよびPDPP-TVT-10PDCAの化学構造。B)PDPP-TVT-10PDCAのμFETと伸長サイクル回数の関係。伸長方向はボトムゲート-トップコンタクト型素子構造に対して垂直。C)共役ポリマーフィルムの修復に用いた処理の概略図。D)損傷および修復されたPDPP-TVT-10PDCA OFETの伝達曲線。E)損傷および修復されたPDPP-TVT-10PDCAフィルムのAFM位相像。許可を得て転載。Copyright 2016, Nature Publishing Group18

重合後の修飾

モノマー構造を修飾する方法とは別に、可塑剤の添加、物理的な混合、架橋、水素化など、材料の本質的な機械的性質を変化させることができる重合後の修飾方法が多数あります。これら手法は数十年間にわたって用いられていますが、共役ポリマーでは非常に少数の方法しか試されていません。重合後に修飾を行う利点は、多様な高分子半導体に適用できる点にあります。そのため、良好なμFETを示す弾性に乏しい(もろい)材料を伸縮可能な材料に変換できる可能性があります。

オリゴシロキサンとの架橋

ポリマー骨格の剛性を下げてアモルファス領域が増加すると、柔軟性の向上した柔らかい半導体が得られます。しかし、材料の弾性と耐疲労性を向上するためには、伸長時の不可逆的な変形を防ぐため、何らかの形の架橋が必要となります。そこで、我々は架橋可能な側鎖を20%含有するDPPランダム共重合体(20DPPTTEC)をPDMSオリゴマーと架橋し、20DPPTTECxを得ました19。架橋フィルムでは、バックリング開始時のひずみを測定することで決定された降伏点が、8%から14%ひずみにまで向上しました。より重要なのは、100%ひずみの引っ張り試験を500サイクル行った後でも亀裂が観察されなかった点にあります。図3Dに、伸長したポリマーフィルムの高さプロファイルを示しました。架橋前のフィルムでは深さ40 nmの亀裂と高さ60 nmのひだが形成されているのに対して、架橋フィルムでは高さ20 nmのひだのみが見られることから、弾性が向上したことが明らかです。ポリマーフィルムの耐疲労性を評価するため、20%ひずみの負荷を繰り返し与えました。架橋前のポリマーは10サイクル後にμFETが減少し始めたのに対して、架橋フィルムでは500サイクルまでμFETは0.4 cm2V–1s–1の値を維持しました。興味深いことに、シロキサン架橋剤にも可塑化効果があり、引張弾性率やGIXDで観測される結晶性の低下をもたらします。

20DPPTTECの伸縮特性

図3A)20DPPTTECの化学構造。B)500サイクルの伸長試験(100%ひずみ)から緩和させた20DPPTTECおよび20DPPTTECxのAFM高さ像。C)20DPPTTECおよび20DPPTTECxの規格化したμFETに対する伸長サイクル回数(20%ひずみ)。移動度測定方向に対して垂直に伸長。D)100%ひずみを500サイクル負荷した後の20DPPTTECおよび20DPPTTECxのAFM高さプロファイル。サイクル負荷により、架橋ポリマーは高さ20 nmのひだを形成しますが、架橋していないポリマーは微小なクラックと高さ60 nmのひだを形成しています。許可を得て転載。Copyright 2016 Wiley-VCH19

SEBSポリマーとのブレンドによるナノコンファインメント

「ナノ領域への閉じ込め(nanoconfinement)」はポリマーの柔軟性、高分子鎖のダイナミクス、弾性率を変化させる手法として知られていますが、共役ポリマーに適用した研究はこれまでありませんでした。我々は、共役ポリマーDPPT-TTを70重量%のSEBSと混合することで、優れた電気的特性を維持したまま機械的性質が大幅に改善されたポリマーフィルムを作製しました20。半導体とエラストマーの表面エネルギーが同程度であるため、混合すると図4Bに示すようなナノスケールの相分離が起こります。SEBSマトリックスによる閉じ込め効果のため、フィルム中の結晶化が抑制され、ポリマーのガラス転移温度が下がります。その結果、弾性率が低下して破壊および降伏ひずみが増加します。ブレンドしたフィルムは、クラックや明らかなμFET値の減少を示すことなく100%のひずみまで伸長することが可能です。現時点で、ほぼすべての伸縮可能なポリマー活性層が、元のポリマーと比較してμFETの低下を示します。しかし、我々のSEBSポリマーブレンドは、DPPT-TT半導体自体と比較して電気的性質の低下を示しません。この理由は、ポリマーブレンド中では結晶性が低下するものの強い凝集が維持されるためです。さらに、SEBSはポリマーフィルムの弾性も向上させ、最大1000サイクル負荷(25%ひずみ)まで安定したμFETを示します。図4Cに、完全に伸縮可能なトランジスタを引き伸ばしたり、ひねりを加えたり、鋭利な棒を突き刺したりした場合のドレイン電流を示します。いずれの場合でもドレイン電流は安定しており、このポリマーブレンドから作製したデバイスが高い堅牢性を持っていることを示しています。最後に、この方法の一般適用性について多様な共役ポリマーを用いて検証しました。新たに用いた4種類の高分子半導体のうち、3つのポリマーが100%のひずみで1.0 cm2V–1s–1を超えるμFETを示し、光学顕微鏡による観察で亀裂が見つかったポリマーはありませんでした。図4Dに、100%ひずみを加えた状態での、ナノコンファインメントによる各ポリマーの移動度向上を示します。前述した伸縮性の低いPDPP-FT4の場合でも、伸長によって均一なフィルムとなり、μFETが4桁上昇しました。

高度に伸縮可能でウェアラブルOFETの例

図4A)高度に伸縮可能でウェアラブルOFETの作製に使用可能な、埋め込まれた高分子半導体のナノスケールネットワークからなる理想的な形態を示した3D概略図。B)SEBS(70 wt.%)とDPPT-TT(30 wt.%)を使用したナノ閉じ込めフィルムの界面(上部および下部)のAFM位相像。C)完全に伸縮可能なトランジスタを引き伸ばし、ひねりを加え、鋭利な棒で突き刺した場合のドレイン電流(ID:drain current)とゲート電流(IG:gate current)。D)各種共役ポリマーフィルム(neat、灰色)および対応するブレンドフィルムの100%ひずみ下での規格化されたμFET。許可を得て転載。Copyright 2017 AAAS19

結論

本稿では、OFET用の本質的に伸縮可能な高分子半導体を開発するための5つの異なる手法、つまり、D-A型ポリマーの高いμFETおよび凝集性の利用、側鎖および骨格の設計、水素結合に関与する構造の導入、共有結合性架橋構造の付与、SEBSブレンドによるナノコンファインメントの導入、について概説しました。これら方法によりポリマーの剛性および結晶性を低下させ、より柔らかく、柔軟性に優れたフィルムを得ることに成功しています。また、フィルムの耐久性および弾力性も大幅に改善され、破壊ひずみおよび耐疲労性が強化されます。さらに、水素結合ユニットを導入することで、溶媒および熱アニールにより膜のナノクラックを修復できるようになります。柔軟性、修復性、堅牢性に優れる本質的に伸縮可能なトランジスタの開発は、次世代のバイオエレクトロニクスのみならず、埋め込み可能なデバイスの開発に不可欠です。

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