リチウムイオン電池用電解液・添加剤・溶媒
はじめに
最近のリチウムイオン二次電池(LIB:lithium ion battery)は、スマートフォンやタブレット等の携帯電子機器の電源のみならず、車載用電源、更には電力貯蔵用電源まで用途が拡大している。このLIBの最大の特徴は4Vと高い作動電圧と、高い重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度であり、今後、更に5V級の高電圧化や高容量化へ技術進化すれば、社会生活までも大きく変わる可能性を秘めている。
リチウムイオン電池は、正極、負極、セパレータ及び電解液の4つの主要材料から構成される。その中でも電解液は、宇部興産株式会社(現MUアイオニックソリューションズ株式会社、以下MUIS)により、「機能性電解液:Functional Electrolytes™」のコンセプト、「ピュアライト®」の商品名で1997年実用化された1-4。それまで盛んに行われていた正極や負極の研究にとって変わって、あまり注目されていなかった電解液(特に添加剤)への研究熱が急激に高まるきっかけとなった。その結果、現在では「添加剤開発はLIBの中核技術の1つ」と言っても過言ではないほど、LIBの技術革新に貢献し続けていることは、周知の通りである。
近年では、リチウムイオンキャパシタ(LIC:lithium ion capacitor)用電解液としても使用されており、シグマアルドリッチでは、業界で長年の実績があるMUIS社からの技術支援に基づき、2014年より電解液を発売している。以下にバッテリーグレード電解液、添加剤、溶媒の特徴について概説する。
電解液試薬の技術ベース
当初、リチウムイオン電池用電解液の多くは純度の低いものが使用され、保管中に紅茶色になるものまで存在していた。「機能性電解液™」では、添加剤の効果をクリアーに発現させるためにベースとなる電解液は高純度なものを用いることが提唱されており、現在では無色透明で長期間に渡り化学的に安定な高純度電解液を用いることが一般的である(図1)5。シグマアルドリッチでは、MUIS社の高純度電解液と同等品質の試薬を販売しており、その原料として用いられる溶媒は、同じくMUIS社で商業化されているバッテリーグレードのDMC、EMC、DEC、PCを使用している。

図1高純度電解液と一般電解液の比較(HF濃度・着色)
電解液試薬の特徴
下記に示した電解液製品(表1)の特徴は、MUIS社の技術支援に基づいた電解液であり、電解液の専門家でなくとも簡便に、所望する組成の電解液を自由自在に調製できるようラインアップされている点にある。さらに融点が高いEC(表2)は、従来、融点以上に加温して液体にした上で調合する必要があったが、本試薬では予めLiPF6や各種鎖状カーボネートと調合することにより、室温で液体とすることが可能になり、取り扱いが非常に容易になっている。
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表1 1.0M LiPF6電解液のラインナップ
名称 | EC | PC | DMC | EMC | DEC |
---|---|---|---|---|---|
沸点(℃) | 238 | 242 | 90 | 107 | 127 |
融点(℃) | 38 | -50 | 3 | -54 | -43 |
比誘電率 | 90 | 65 | 3.1 | 2.9 | 2.8 |
粘性(cP) | 1.9(40℃) | 2.5 | 0.59 | 0.65 | 0.75 |
引火点(℃) | 143 | 132 | 17 | 22 | 25 |
電解液試薬の調合手順と調合例
従来、電解液を調合する際には、LiPF6の溶解熱による品質劣化を抑制するために冷却しながら調合する必要性があった。本LiPF6電解液ラインナップを用いれば、無水雰囲気で表1の高純度電解液を所定量秤取して調合するだけなので、発熱もなく、安全かつ簡便に所望の組成に調整することが可能になった。一般的な調合手順と、LiPF6濃度1.0Mの電解液を100 mL調製する場合の調合例(表3)を以下に示す。
- 所望の溶媒組成を決定する。
- グローブボックス等の無水雰囲気で、対応する試薬を開封する。
- 金属製・樹脂製等(ガラス製以外)の容器を用い、必要な試薬を必要量秤取して調製する。
LiPF6電解液試薬の使用上の注意
以下に、本試薬使用時の注意点を2点挙げる。
- 第1に、グローブボックス内での保管及び使用を推奨する。電解液は空気中の水分に触れるとLiPF6が分解してHFを生成し、品質劣化するためである。
- 第2に、開封後は、なるべく早めに使い切ることを推奨する。
なお、電解液の使用期限の見極め方としては、HF測定が理想的だが、電解液の色を目視で簡便に確認する方法もある。品質劣化(HFの上昇)が進行すると、次第に着色が起こる(図1の例を参照)。
バッテリーグレード溶媒、バッテリーグレード添加剤、及び高LiPF6濃度電解液
1.0M濃度の各種電解液製品を組み合わせることで、目標の溶媒組成を自由自在に調整できるが、更に使い易くするために、バッテリーグレード溶媒やバッテリーグレード添加剤、高LiPF6濃度電解液も販売している。これにより、所望の溶媒組成のみならず、LiPF6濃度も調整が可能となる。
バッテリーグレード溶媒
従来、溶媒は試薬の特級グレードを蒸留や脱水して用いなければならない煩雑さがあった。MUIS社より提供しているバッテリーグレード溶媒(表4)は、既に蒸留や脱水処理を行っているため、簡便にそのまま電解液として使用でき、かつ溶媒組成を細かく調整することができる特徴がある。具体的用途としては、
- 1.0Mより低いLiPF6濃度に調整する
- FECを含む溶媒組成の電解液を調製する
- 各種電池分析の洗浄液として使用する
等が挙げられる。また、参考までにLiPF6濃度変更およびFEC含有組成の調整例を示す(表5)。
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表4 バッテリーグレード溶媒のラインナップ
バッテリーグレード添加剤
溶媒と同様に、添加剤も試薬の特級グレードを蒸留や脱水する必要があったが、MUIS社より提供しているバッテリーグレード添加剤は、既に蒸留や脱水処理を行っているため、簡便に電解液組成を調整することができる特徴がある。
現在、MUIS社が保有する200以上の特許の中から、代表的な添加剤6種類が販売されており、表6にその添加剤のラインナップと機能を示す。各添加剤の詳細については、参考文献4及び6~13を参照いただきたい。
2.0M濃度LiPF6電解液
表8に、LiPF6高濃度電解液のラインナップを示した。これら電解液を用いることで、LiPF6濃度を1.0Mより高い濃度に調整することが可能になる。
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表8 2.0M濃度LiPF6電解液ラインナップ
終わりに
電解液の役割は、正極や負極の特徴を最大限に引き出し、サイクル特性、保存特性、出力特性などの電池性能を発揮させることである。その中で、本LiPF6電解液試薬は、化学が専門ではない研究者にも安心して使用して頂けると共に、電解液組成を容易かつ自由自在に調整出来ることを念頭に商品化したものである。バッテリーグレード溶媒、バッテリーグレード添加剤、高LiPF6濃度電解液とともに、多くの研究者の皆様の大切な研究に必要不可欠な試薬となることを切に願っている。
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