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超高効率ペロブスカイト ‐ ペロブスカイト タンデム太陽電池

Zhen Li and Kai Zhu

Chemistry and Nanoscience Center, National Renewable Energy Laboratory, Golden, Colorado 80401, USA

Material Matters, 2018, Vol.13 No.1

はじめに

次世代太陽電池は、Shockley-Queisser(S-Q)限界を超えるエネルギー変換効率の達成の可能性と、同時に製造コストを大きく低減できる可能性も秘めています。現在のところ、多接合型太陽電池でのみこのような高い効率が達成されています。しかし、現在の高効率多接合型セルは、複雑なIII-V族系のエピタキシャル薄膜や高価な単結晶の使用が必要とされており、III-V族系多接合型太陽電池の低コストでの製造の妨げとなっています。III-V族系薄膜とは対照的に、多結晶薄膜太陽電池技術は、より低い製造コストで済むものの、あまり高い効率は得られません。高効率多接合型多結晶薄膜太陽電池の製造には課題が残っています。

有機―無機ハライドペロブスカイトは、近年、太陽光変換用途の新規光吸収材料として注目されています。単接合型ペロブスカイト太陽電池の電力変換効率は、既に従来の薄膜太陽電池の技術レベルを超え、単結晶太陽電池と競合するまでになっています。注目すべきは、これら高効率ペロブスカイト太陽電池は、溶液プロセスもしくは気相成長により多結晶材料で作製可能な点にあります。より高性能な単接合型ペロブスカイトの技術開発に加え、多くの研究グループが、Shockley-Queisser限界を超えるためにペロブスカイトを用いたタンデムデバイスの開発に注力しています。ローバンドギャップ(1.1~1.3eV)およびワイドバンドギャップ(1.7~1.9 eV)ペロブスカイト光吸収体と透明導電接続層(interconnecting layer, ICL)における最近の材料革新により、超高効率2接合型薄膜タンデム太陽電池の開発において、タンデム構造のトップおよびボトムセルへの多結晶ハライドペロブスカイトの使用が期待されています。原理的には、このようなデバイス構造は溶液法で作製され、1 sunの光強度で35%超の効率が確実に得られます。

本稿では、ペロブスカイト―ペロブスカイト タンデム太陽電池の開発の最近の進展について論じます。一般的には、タンデム太陽電池は2通りの方法で作製されます。一つの方法として、4端子または4-Tタンデム構成が知られており、2つの独立した太陽電池を機械的に上下に積層するものです。二つ目の構成として、2端子または2-Tタンデムと呼ばれ、モノリシックデバイスにするために、トップセルとボトムセルを1枚の基板上に直列で接合する方法です。厳密なタンデム構造でなくても、ペロブスカイト光吸収体のバンドギャップエンジニアリングは、高効率ペロブスカイトタンデムデバイスの作製に不可欠です。タンデム構造では、ワイドバンドギャップセルは高エネルギーのフォトンを捕獲し、透過した低エネルギーのフォトンをローバンドギャップのボトムセルが捕獲します。2端子タンデムセルでは、トップとボトムのセルの厚さが無限であると仮定すると、最適なバンドギャップの組み合わせは、それぞれ約1.7 eVと1.1 eVとなり、理論上の最高効率は38.7%で、単接合デバイスのShockley-Queisser限界(33.7%)を超えます1。実際のデバイスでは、より多くのフォトンがボトムセルに届くように、トップセルの厚さを調整します。光学的に薄くすることで、タンデム太陽電池の材料選択性が広がります。4端子の構成では、電流マッチングによる制限をなくすことができ、2端子タンデムセルよりも、バンドギャップの組合せの最適化と高効率化を行う上で自由度が増えます。

ワイドバンドギャップペロブスカイト太陽電池

ワイドバンドギャップ(1.7~1.9 eV)ペロブスカイトは、タンデム太陽電池のトップセルへの使用に適しています。初期の開発では、ハロゲン化鉛メチルアンモニウムペロブスカイト(MAPbX3、MA:CH3NH3+)のBrとI の混合に注力されました。Nohらは、1ステップ法を用いて、MAIをMABrに置換し、混合ハライドペロブスカイト太陽電池を実証しました2。Br/I 混合比を変化させることで、MAPbI3–xBrxのバンドギャップを約1.6 eVから2.3 eVまで調整できました。デバイス性能も、Br/I 混合比により著しく変動します。開放電圧(VOC)と曲線因子(FF)が、Br が少量の時(x<0.2)はこの割合とともに増加し、VOCはBrの割合が0.2より大きくなると急激に減少しました。Br の使用により、ペロブスカイトの耐湿性が大きく向上することも明らかになっています。

Brによるバンドギャップ調整能に関する研究は他にもありますが、タンデム型太陽電池に応用した際の最適化に注目したものはありませんでした。Zhaoらは、タンデム型の混合ハライドペロブスカイト太陽電池の最適化の研究を行いました3。PbI2、MABrとMAClの混合物を含む前駆体からMAPbI2Br(Eg = 1.8 eV)薄膜を形成するために、一般的な添加剤支援による1ステップ溶液成長を行いました。MACl の添加により、デンドライト(樹状)構造の生成をなくし、小さく均一なMAPbI2Br ナノシートを形成できます。MAPbI2Br ナノシートを用いた平面型ペロブスカイト太陽電池は、10%の電力変換効率を達成しました。Bi らは、より大きな結晶粒のMAPbI2.4Br0.6ペロブスカイト薄膜を成長させるために溶媒支援加熱(solvent annealing)を用いました4。加熱中に少量のDMF蒸気を使用すると、平均結晶粒径が約300 nmから1000 nmまで増加し、この結果、13.0%の電力変換効率をもつMAPbI2.4Br0.6ベースのワイドバンドギャップデバイスを得ることができました。

ワイドバンドギャップMAPb(I1–xBrx)3ペロブスカイト太陽電池の報告からほどなく、Hokeらは、I-Br 混合ペロブスカイトで光誘起相分離現象を見出しています。Br の割合が閾値(~20%)を超えてしまうと、IとBrイオンが光励起により分離し始め、I 高濃度相とBr 高濃度相が生成します。この相分離は、暗所にしばらく放置することで解消されます。光誘起で生成したローバンドギャップ相は、電荷を捕獲する欠陥として働き、電圧損失をもたらします。低いVOCは、通常、ワイドバンドギャップペロブスカイト太陽電池の高効率化を妨げる要因となります。興味深いことに、A-サイトの合金化は、Br-I 混合ワイドバンドギャップペロブスカイトの相安定性に影響する場合があります(図1)。例えば、McMeekinとSnaithらは、FA0.83Cs0.17Pb(I0.6Br0.4)3(FA: ホルムアミジニウム、NH=CHNH2+)の相安定性の向上を報告しています5。適量のCs+とFA+をドープすると、合金材料のGoldschmidt許容係数が減少し、ペロブスカイトは立方構造がより安定になります。FA-Cs合金には、光照射してもハロゲン化物が分離しにくい傾向もあり、約1.74 eVのバンドギャップをもつFA0.83Cs0.17Pb(I0.6Br0.4)3のペロブスカイト太陽電池は1.2 Vの高いVOCと17%を超える電力変換効率を達成しました。Rehmanらは、混合カチオン・混合ハロゲン化物であるCsyFA1-yPb(I0.6Br0.4)3ペロブスカイト材料の相安定性についてさらに解析を行い6、材料の相安定性と結晶性に強い相関関係があることを見出しました。X線回折では、Cs+が20%(y=0.2)の時にペロブスカイトのピークの半値全幅(FWHM:full width at half maximum)が最小になりました。フォトルミネセンス(PL:photoluminescence)ピーク位置は、Cs+が20%の時には、30分間連続光照射しても不変でした。Cs+が5%または60%の時は、顕著なレッドシフトが見られ、これはI 高濃度相が生成していることを示唆します。確認した範囲(0<y<0.8)では、Cs+が20%の試料で、相安定性の向上に加え、移動度とフォトルミネセンス寿命が最大となりました。同様のペロブスカイト組成を用い、Yuらは、1.75 eVのバンドギャップと17.7%の電力変換効率をもつペロブスカイト太陽電池を作製しました。Pb(SCN)2添加剤と溶媒加熱を用い、ペロブスカイト光吸収体の結晶粒径と結晶性を改善し、高効率化を可能にしました7。LinとHuangらは、3種のカチオンを用いた(FA0.83MA0.17)0.95Cs0.05Pb(I0.6Br0.4)3の組成を用いて、p-i-n 構造のワイドバンドギャップペロブスカイト太陽電池を作製し、18.5%の電力変換効率を達成しました8。混合カチオン・アニオン型ワイドバンドギャップ太陽電池の特性を表1にまとめました。

ワイドバンドギャップペロブスカイト材料

図1ワイドバンドギャップペロブスカイト材料。A)Br比率の異なる混合ハライドペロブスカイトFA0.83Cs0.17Pb(I(1-x)Brx)3の光学像と紫外・可視スペクトル。B)光吸収により生成したI 高濃度相の生成を示唆するMAPb(I0.6Br0.4)3由来のフォトルミネッセンスの低エネルギーシフト。C)安定化されたFA0.83Cs0.17Pb(I0.6Br0.4)3由来の安定なフォトルミネッセンス5DPb(SCN)2添加と溶媒加熱に伴うFA0.83Cs0.17Pb(I0.6Br0.4)3相の表面凹凸の出現7。許可を得て転載(A – C copyright 2016 American Association for the Advancement of Science (AAAS); D copyright 2017 American Chemical Society)。

表1ワイドバンドギャップ混合ハライドペロブスカイト太陽電池の特性と開放電圧損失(a: Stabilized power output (SPO) if available. b: SPO)

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ローバンドギャップペロブスカイト太陽電池

赤外光領域のフォトンを利用できるローバンドギャップペロブスカイト光吸収体は、高効率ペロブスカイトーペロブスカイト タンデム太陽電池の作製に不可欠です。ペロブスカイトのバンドギャップを小さくする最も効果的な方法は、Pb2+をSn2+に完全または部分的に置換することです。Snベースのペロブスカイトを開発する際の主要課題は、Sn2+のSn4+への速い酸化が関係する高キャリア密度と短いキャリア寿命です。初期の研究において、Pbを含まない純粋なSnベースのペロブスカイトでは、電力変換効率と安定性の不足が問題でした。Haoらは、溶液法でPbを含まないMASnI3ペロブスカイトを太陽電池の光吸収体に用い、5.23%の電力変換効率を得ました12。Br を混合し、MASnIBr2光吸収体とすると、電力変換効率は5.73%に改善されました。Noelらは、MASnI3のキャリア再結合速度が極めて高く(フォトルミネセンス寿命が約200 ps)、THz導電率測定でホールドープ濃度が高い(約1018 cm-3)ことを示しました13。これまでに、Sn2+の酸化の抑制によるキャリア密度低減に多くの労力が割かれています。Kumarらは、SnF2のドープにより、溶液法で成長させたCsSnI3薄膜のSn4+の欠陥生成を著しく抑制できることを報告しています14。CsSnI3中に20% SnF2を添加すると、キャリア密度と膜導電率が2桁減少します。FASnI3ベースの太陽電池でも同じ手法を適用し、同様な効果が得られました15。その後、Leeらは、SnF2をピラジンと添加し、プレート状のSnF2析出物を除去することで膜の品質を高め、デバイス性能を向上させています16

近年、ローバンドギャップペロブスカイトの最も顕著な進展の中に、Sn-Pb合金ベースの光吸収体を用いた逆型デバイス構造(p-i-n 平面ヘテロ接合構造)の開発があります。Yangらは、バンドギャップが1.33 eVのMA0.5FA0.5Pb0.75Sn0.25I3ベースの平面ヘテロ接合太陽電池が、14.19%の電力変換効率をもつことを実証しました17。興味深いことに、これらの太陽電池は安定性が大きく改善しており、大気中に12日間放置した後でも初期電力変換効率の80%までしか劣化しません。Eperonらは、タンデム型太陽電池に、より適した1.2 eVのバンドギャップをもつFA0.75Cs0.25Sn0.5Pb0.5I3ペロブスカイト太陽電池を作製し、14.1%の最大電力変換効率が得られました18。Liaoらも、(FASnI3)0.6(MAPbI3)0.4の組成比で1.2 eVのバンドギャップをもつ太陽電池を作製しています(図219。この太陽電池は、電流電圧測定により得られた平均電力変換効率が14.39%、最大変換効率になる電流と電圧の条件で光照射し続けた時の安定化電力変換効率が14.8%を示しました。ペロブスカイト薄膜の結晶粒径が、膜厚とともに増加し、効率は17.6%まで向上しました(認証効率は17.01%)20。大きな結晶粒径とより高い結晶性を有するペロブスカイト光吸収体は、より長いキャリア寿命をもち、より良好なセル性能を示しました。混合カチオン・アニオン型ローバンドギャップ太陽電池の特性を表2にまとめました。次に述べる複数の要因が迅速で劇的なローバンドギャップペロブスカイト太陽電池の進歩に同時に寄与したと言えます。(1)Sn-Pb合金は、ローバンドギャップをもち、Pbを含まないSnベースのペロブスカイトと比較してより広い光吸収エネルギー領域をもちます。これは、バンドギャップと組成の相関関係で見られる大きなbowing effect(曲がり効果)によります21–22。(2)Sn2+の酸化されやすい傾向が、Pb2+の合金化で抑制されます。(3)逆型平面ヘテロ接合構造は、ホール輸送材料の酸化過程を必要とせず、酸化力のあるホール輸送材料ドーパントとSn2+カチオンの間の不要な反応が緩和されます。

ローバンドギャップ太陽電池

図2(FASnI3)0.6(MAPbI3)0.4ローバンドギャップ太陽電池。A)太陽電池の断面SEM像。B)1 sunでの光照射におけるJ-V曲線。C)外部量子効率と積算して求めたJSCD)35個のペロブスカイト太陽電池の電力変換効率のヒストグラム。許可を得て転載(copyright 2017 Macmillan Publishers Limited.)。

表2ローバンドギャップペロブスカイト太陽電池の特性

ペロブスカイト―ペロブスカイト タンデム太陽電池

太陽光スペクトルの広い領域でペロブスカイト材料のバンドギャップ最適化に成功すれば、ペロブスカイトーペロブスカイト タンデム太陽電池を開発することが可能です。タンデム型のコンセプトは、他のすべてのタンデム型太陽電池と同様に単に超高効率を得ることが魅力的なだけでなく、どちらのセルも溶液法で作製できるため、コストを著しく低減できる点にあります。現在、全てのペロブスカイトベースのタンデム型太陽電池は、2端子型か4端子型の構造で、溶液法か気相堆積法を用いて作製されています(図3A)。Liらは、理想的ではないペロブスカイト光吸収体の組合せを用いて、2.3 eVのバンドギャップをもつMAPbBr3/carbon nanotubeトップセルと1.55 eVのバンドギャップをもつMAPbI3ボトムセルから成る4端子型ペロブスカイトーペロブスカイト タンデム太陽電池の実証を行いました24。このタンデム型デバイスの効率はわずか9.5%で、MAPbI3ボトムセル単独の時よりも低い効率です。その後、同年に、Heoらが直列2端子型のMAPbBr3-MAPbI3タンデム太陽電池をラミネート法で作製しました25。トップとボトムのペロブスカイト太陽電池を同時にラミネートするため、厚い(およそ2 μm)ホール輸送材料(例えば、PTAAまたはP3HT)が使用されました。このデバイスは、2.25 Vの高いVOCを示しましたが、低い曲線因子(約0.56)とあってはならない光吸収が原因となり、電力変換効率が10.4%までしか向上しませんでした。低い曲線因子は、ラミネート法ではトップセルとボトムセルの間に均一で連続的なコンタクトを形成できなかったことを示唆します。近年、安定したSn-Pbベースのローバンドギャップペロブスカイトの作製の成功に伴い、Yangらは、全ペロブスカイト4端子タンデム太陽電池を作製し、19.08%の効率が得られることを実証しました。この研究では、不運にもトップセルの1.55 eVのバンドギャップをもつMAPbI3光吸収体と、1.33 eVのバンドギャップをもつボトムセルとで、光吸収エネルギー帯が大きく重なっています17

ペロブスカイト―ペロブスカイトベースのタンデム型太陽電池の潜在能力を全て発揮させるには、トップおよびボトムセルのバンドギャップを適切に組み合わせる必要があります。この最終目標に向けて、Eperonらは、理想的なバンドギャップの組合せで、ペロブスカイト―ペロブスカイト タンデム太陽電池におけるブレークスルーを達成しました18。この研究では、約1.8 eVのバンドギャップをもつトップセルをFA0.83Cs0.17Pb(I0.5Br0.5)3で作製しました。FAとCsの混合により、前述の通り、Brの組成比が高いにもかかわらず、ペロブスカイトの安定性が劇的に改善されました。ボトムセルには、1.2 eVのバンドギャップをもつ、新しい組成のSn-Pb合金ペロブスカイトを用いました。ペロブスカイト―オン―ペロブスカイト タンデム太陽電池を作製する際の課題の一つに、ボトムペロブスカイトセルを載せる時にトップペロブスカイトセルへダメージを与えないことがあります。理想的な状態では、ボトムセルを積層するために使われる溶媒が、トップセルを劣化させないような溶媒(orthogonal solvent、直交溶媒)である必要があります。しかし、標準的なペロブスカイト化合物は、わずか数種の共通した溶媒にしか十分に溶解しないため、現在のところこの手法を用いることはできません。この問題に取り組むために、彼らは、1.8 eVのバンドギャップのトップペロブスカイトセルの上に200 nmの厚さのITO層をコートすることにより、下層のトップセルを溶媒から効果的に保護できることを実証しました(図3B)。この緻密なITO層は、電子的にトップセルとボトムセルを接触させる効果的な再結合層としても働きます。このITO再結合層を用いた2端子型タンデム太陽電池では、17.0%の高い安定化電力変換効率、1.66 Vの開放電圧と14.5 mA/cm2の短絡電流を達成しました(図3C)。さらに、トップセルのバンドギャップを最適化し、1.6 eVのバンドギャップのFA0.83Cs0.17Pb(I0.83Br0.17)3トップセルと1.2 eVのバンドギャップのボトムセルを用い、全電力変換効率が20.3%の4端子型太陽電池を構築しています。

タンデム型太陽電池の作製において、ボトムペロブスカイトセルを成長させる際のトップペロブスカイトセルのダメージを防ぐもう一つの方法として、気相堆積法があります。最近の研究では、Forgácsらが、異なる相補的なバンドギャップをもつ2種類のペロブスカイト光吸収体(表面側セルに~2 eVのバンドギャップのCs0.15FA0.85Pb(I0.3Br0.7)3、裏面側セルに標準的な~1.6 eVのバンドギャップのMAPbI3)を用いた高効率モノリシックタンデム型太陽電池を発表しています(図3DE26。この積層構造を作製するために、ワイドバンドギャップのペロブスカイト層を溶液法により最初に堆積し、次にタンデム型太陽電池に必要な残りの材料を加熱蒸着法により堆積します。透明導電膜(TCO: transparent conducting oxide)ベースの透明な材料を用いたセル間の接合機構の代わりに、ドープされた有機半導体ベースのp-n接合(p-doped TaTm:F6-TCNNQ (40 nm)/n-doped C60:PhIm (40 nm))が、2つのペロブスカイトセルを接続する効果的な再結合層として使われています。タンデム型太陽電池で理想的ではないバンドギャップを用いているにもかかわらず、モノリシックの2端子型タンデム太陽電池での最高記録となる18%もの効率を達成しました。ペロブスカイトのみを用いたタンデム型太陽電池の光電変換性能を、表3にまとめました。

ペロブスカイト―ペロブスカイトタンデム型太陽電池

図3ペロブスカイト―ペロブスカイト タンデム型太陽電池。A)2端子型と4端子型タンデム太陽電池のモデル図。B)2端子型ペロブスカイト―ペロブスカイトタンデム太陽電池の断面SEM像。C)2端子型太陽電池のJ-V曲線18D)気相堆積法により作製した2端子型ペロブスカイト―ペロブスカイト タンデム型太陽電池のモデル図。E)トップセル、ボトムセル、タンデムセルの外部量子効率(EQE)26。許可を得て転載(A– C copyright 2016 AAAS; D – E copyright 2017 Wiely-VCH.)。

表3様々なトップセルとボトムセルの組合せを用いた全ペロブスカイト タンデム型太陽電池の光電変換特性

現在、ペロブスカイト―ペロブスカイト4端子タンデム太陽電池の最高効率は、Zhaoら20が実証した21.2%で、安定化電力変換効率は21.0%でした。しかし、ワイドバンドギャップペロブスカイト太陽電池は、バンドギャップが約1.6 eVのFA0.3MA0.7PbI3ペロブスカイト光吸収体しか使用していません。この結果、ワイドバンドギャップセルは、タンデム型太陽電池の約3%分の効率にしか寄与していません。このタンデム構成では、トップセルは一般的なFTO/SnO2/C60-SAM/FA0.3MA0.7PbI3/Spiro-MeTAD/MoOx(10 nm)/Au(8.5 nm)/MoOx(10 nm)のn-i-p 構造です。最初の10 nmのMoOx層は、ホールバッファ層としてや、金を堆積する際に濡れるようにするための層(濡れ層)として働きます。このMoOx層は、金薄膜の成長メカニズムを改善し、孤立したアイランド構造を形成せずに8.5 nmの厚さの極薄金層を堆積できるようにします。2番目のMoOx層は、トップセルの透明度向上を目指し、半透明電極の光散乱特性を調整するための誘電体―金属―誘電体の積層構造を形成するために採用されました。最高記録をもつ4端子型タンデム太陽電池であっても、ボトムセルと最適なマッチングがとれるほどトップセルのバンドギャップが大きくないため、性能は限界まで達していません。さらなる電力変換効率の向上に向け、より大きいバンドギャップ(約1.7~1.9 eV)をもつ効果的なトップセルとより透明な導電性電極の開発が期待されています。

おわりに

有機―無機ハライド化合物ペロブスカイトは、超高効率タンデム薄膜太陽電池用の材料として大きな可能性を秘めています。近年、いくつかのブレークスルーがワイドバンドギャップのみならずローバンドギャップのペロブスカイト光吸収体を用いた単接合太陽電池で報告されています。これらの進歩と、透明なトップコンタクトと接続層の実現が成功したことにより、2端子型で18%、4端子型で21%の電力変換効率をもつペロブスカイト―ペロブスカイト タンデム型太陽電池が実証されました。これらの効率は、ペロブスカイトのトップセルとボトムセルのバンドギャップの組合せが理想的でないにもかかわらず、得られたものです。また、これら研究成果は、ペロブスカイト タンデム型が実効性のあるアプローチであることを示唆する有望な結果であり、タンデム構造を有するペロブスカイト太陽電池の性能をより向上させるための研究領域を明らかにするものでもありました。今後も、ローバンドギャップ(1.1~1.3 eV)とワイドバンドギャップ(1.7~1.9 eV)の開発と同様に、電子的かつ光学的にトップセルとボトムセルを結び付けるような接続層についても、以下に示すような継続的な研究および進歩が求められます。

  1. ローバンドギャップペロブスカイトに対しては、Sn-Pbベースのペロブスカイトのキャリア寿命の増加と欠陥密度の低減の研究に焦点を当てるべきです。現状では、近赤外波長領域(約700~900 nmとそれより長波長)の外部量子効率(EQE: external quantum efficiency)は、理想的な値ではありません。顕著な再結合損失のない電荷輸送距離の増加は、長波長領域での外部量子効率を増加させるものと期待されます。電荷の再結合(界面、バルク、粒界などで)の減少は、トップセルとボトムセルをモノリシックに積層した際の光電流損失をある程度、補うことができます。さらに、ペロブスカイトのプロセス温度を下げることにより、下側のセルの劣化回避の手助けになります。
  2. ワイドバンドギャップペロブスカイトでは、1.7 eV程度のバンドギャップをもつ材料の開発が、近年、非常に成功しています。したがって、トップセルとボトムセルの組合せの自由度を上げるために、約1.8~1.9 eVのバンドギャップ領域を目指す必要があります。バンドギャップと比較した電圧低下の値は、ワイドバンドギャップペロブスカイト太陽電池では、いまだに非常に大きく、タンデム型太陽電池の電力出力を改善するために、開放起電圧損失の低減に特に注力する必要があります。
  3. 効率的な接続層は、良好な透明度(90%を超える透過率)と電気伝導性(10~100 Ω/sq)を併せ持つ透明電極です。エネルギー準位マッチング、優れた接着性そして良好な化学的安定性が、透明電極の鍵となる判断基準となります。さらに、この多機能層には、ボトムセルを堆積する際に下層のペロブスカイトセルの劣化を防止する堅牢さも必要です。これら領域での進歩があれば、ペロブスカイトを用いたタンデム太陽電池は、近い将来、効率がShockley-Queisser限界に近付くかこれを超えて、実用化されるでしょう。

Acknowledgements

We acknowledge the support by the hybrid perovskite solar cell program of the National Center for Photovoltaics funded by the U.S. Department of Energy, Office of Energy Efficiency and Renewable Energy, Solar Energy Technologies Office. The work at the National Renewable Energy Laboratory is supported by the U.S. Department of Energy under Contract No. DE-AC36-08-GO28308.

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