ハイブリッド型ハライドペロブスカイト太陽電池の最近の進展
Kuppuswamy Kalyanasundaram, Shaik. M. Zakeeruddin, Michaël Grätzel
Laboratory for Photonics and Interfaces (LPI), Swiss Federal Institute of Technology at Lausanne (EPFL)
Material Matters, 2016, 11(1), 3 → PDF版
はじめに
この数十年間、環境的に持続可能かつ経済的にも存続可能なエネルギー源に対する需要にこたえるため、低コストで製造可能な高効率発電システムの実現を目指した研究が広範囲に行われています。太陽電池は、光吸収材料を利用して太陽光エネルギーを電気エネルギーに直接変換するデバイスであり、近年の太陽光変換技術分野では、太陽電池の本格的な実用化への道筋が見え始めていることを確信させるに十分な結果が得られています。太陽電池は、光吸収材料の形態およびデバイス構造に基づいて大きく3種類に分類できます1。第1世代および第2世代の太陽電池デバイスとして、シリコンウェハを使用したデバイスおよびテルル化カドミウム(CdTe)またはCIGS(copper-indium-gallium-selenide)で作製された薄膜太陽電池などがあります。これらデバイスに使用されている技術は成熟したと考えられており、すでに大面積モジュールおよびパネルが多数市販されています。そのシステムは、少なくとも15~18%の太陽エネルギー変換効率(PCE:power conversion efficiency)を示し、性能保証期間は20年以上です。第3世代の薄膜太陽電池では、周囲条件における溶液法を用いてより高効率の材料およびデバイスを低コストで作製するために、最新のナノサイエンスおよびナノテクノロジーが活用されています。
過去20年にわたって、有機もしくは無機色素化合物で増感される、ワイドバンドギャップ半導体を用いたデバイスの研究に大きな関心が集まっています2。しかし、光吸収色素の単分子層を使用した場合は光吸収が限定されるため、色素増感太陽電池(DSSC:dye-sensitized solar cell)のPCEは非常に低くなります(<1%)。ゾルゲル法では、目的の半導体のコロイド溶液を用いて、光学的および電子的性質を調整しながらメソポーラス酸化物半導体薄膜を作製することが可能です。1991年にO’ReganおよびGrätzel3は、DSSCのPCEを改善するため、メソポーラスチタニア(TiO2)半導体を色素堆積させるための高表面積足場として用いる方法を提案し、この新たな手法がDSSC開発の飛躍的な前進をもたらしました。現在2種類のデバイス構造を持つDSSCが研究されており、最適化が行われています。1つは、有機溶媒中の(I-/I3-)などのレドックス電解質が、対電極と光アノードの間で電子をシャトル輸送する液体電解質型DSSCです。もう一つは固体型DSSC(ss-DSSC)であり、有機正孔輸送材料(HTM:hole transport material)がメソポーラス半導体酸化物層に導入され、レドックス系の役割を果たします。今までに報告されている太陽光-電力変換効率の最高値は約14.3%であり4、DSSCを使用した商品が既に多数市販されています。
ペロブスカイト太陽電池に関する初期の報告
ペロブスカイトとは、一般式ABX3(図1)で表される構造を持つ一連の材料をさします。ここで、A、B、およびXはそれぞれ、有機カチオン、金属カチオン、およびハロゲン化物アニオンを表します。例として、A = Cs+、CH3NH3+(MA)、NH=CHNH2+(FA);B = Pb、Sn;X = Br、Iがあります。CaTiO3などの酸化物ペロブスカイト化合物は1893年から知られており5a、1957年、Christian MøllerはCsPbX3(X = Cl、Br、I)などのアルカリ金属複合ハロゲン化物の光伝導性を調べ、これらの半導体性に着目しました5b。その後、Weberにより、A = アルキルアンモニウムカチオン、B = Sn(II)またはPb(II)としたABX3の有機類似体もペロブスカイト構造を取り、興味深い光学的および電子的特性を示すことが報告されています5c。有機無機ペロブスカイト化合物については、David Mitzi による包括的なレビューをご参考ください5d。この有機カチオンのアルキル鎖長を変えることにより、光吸収のバンドギャップなどの性質を高度に調節することが可能な一連の有機-鉛ペロブスカイト化合物を得ることができます。
図1 ABX3型のハイブリッド型ハライドペロブスカイトの結晶構造。有機および無機カチオンがA(緑色)、金属カチオンがB(灰色)、ハロゲン化物がX(紫色)に位置しています。
2009年、KojimaおよびMiyasaka6がペロブスカイト型メチルアンモニウム-三ヨウ化鉛を電解液型DSSCの光増感剤として使用することを提案しました。ハロゲン化鉛ペロブスカイトは、ハロゲン化鉛とアルキルアンモニウム塩の前駆体を有機電解質中で混合することによりin situ で調製されますが、そのPCEは3.8%と高くはありません。Parkら7は、電解質の組成と堆積方法を変えることによりデバイスの安定性を向上させ、6.5%のPCEが得られることを報告し、ハライド‐ペロブスカイト光増感剤の可能性をさらに示しました。
電解液型ペロブスカイト系DSSCにおいて、性能および安定性に関する初期の進展がみられてから1年も経たずに、固体型ペロブスカイト太陽電池が報告されました。この新たな構造ではCsSnIF8や2,2,7,7-tetrakis(N,N-di-p-methoxyphenylamine)-9,9-spirobifluorene(spiro-OMeTAD)9がHTMとして使用され、PCEが9.7%に増加するとともに、デバイスの安定性が大幅に改善されました。これら結果を皮切りに、世界中の多くの研究グループがこの構造を有する太陽電池に強い関心を示し、FTO/c-TiO2/meso-TiO2/ペロブスカイト/HTM/CEの典型的な構造のペロブスカイト太陽電池(PSC:Perovskite Solar Cell)のPCEは、6年間でおよそ4%から21%まで急激に向上しました10。本レビューでは、PSC性能の著しい向上に重要な役割を果たす要素について概説します。なお、ここでの議論は、ローザンヌの当研究グループで行われた研究に焦点を絞ります。より詳細な議論については、PSC開発に関する最近のレビューをご参照ください11。
材料および調製法
3種類のペロブスカイト、MAPI(CH3NH3PbI3)、ホルムアミジニウムヨウ化鉛(FAPI:Formamidinium lead iodide)、および複合ハライド(FA,MA)PbI3(FAMAPI)、およびその類似体が、高効率光吸収材料として知られています。これらの中で、MAPIは1.55~1.59 eV、FAPIは1.45 eVのバンドギャップを示します。太陽電池の光吸収体として使用される有機‐無機ハライドペロブスカイト(以降、ペロブスカイト)の特長には、強い光吸収、長い電荷キャリア寿命(300 ns超)、1 μmを超える電子および正孔の拡散長、70%ものフォトルミネッセンス量子収率、両極性の電荷輸送能などがあります。特に記述がない限り、本稿で議論されているペロブスカイトはMAPIです。
ペロブスカイトの非常に魅力的な特長は、基板上で直接かつ容易にin situ合成が可能であることです。温和な条件下においてジメチルホルムアミド(DMF)などの適切な有機溶媒中でハロゲン化鉛とハロゲン化アルキルアンモニウムの前駆体を混合すると、ハイブリッドペロブスカイトが直ちに形成されます。他のゾルゲル法によるナノ粒子合成と同様に、溶媒の性質、鉛塩の濃度および前駆体の混合比、他の添加物の存在、堆積温度、ポストアニール処理などの合成条件を変えることにより、得られるペロブスカイトの電子的性質や形状を広い範囲で調節することが可能です。
ペロブスカイト層を基板上(平面層として、または足場として使用するメソポーラス酸化物上)に調製する手順として、次の3つの方法が用いられています。(a)γ-ブチロラクトン、DMF、またはDMSOなどの溶媒と反応物であるMAIおよびPbI2の予混合溶液(premixed solution)を使用して1段階で堆積を行う方法9、(b)最初にスピンコートでPbX2を製膜した後に適切な有機溶媒中でMAI溶液に浸漬する、逐次または2段階で堆積する方法12、(c)反応物の気相成長法13です。また、均一でマイクロサイズの結晶粒を持つ熱力学的に安定かつ緻密な膜を作製するために、溶液処理法と真空蒸着法を組み合わせたハイブリッド法も使用されています。各方法にそれぞれの利点があり、15%を超える高いPCEが得られます。MAPIは数秒間で生成し、メソポーラス酸化物足場に完全に浸透します。厚さ約400~600 nmのペロブスカイト層で、ほぼ定量的な可視光吸収を得ることができます。最終的にいずれの方法を選択したとしても、費用効率の高い拡張性と製造に関するその大きな可能性は、PSC技術の非常に魅力的な特徴の1つです。
デバイス構造
これまでのところ、最も高性能のペロブスカイト太陽電池では、ペロブスカイト光吸収体の堆積を増やすための足場として、表面積の大きいメソポーラスTiO2層が使用されています。ハイブリッドペロブスカイトの吸光係数が可視領域で非常に大きいため、電解液型DSSCと比較して酸化物層を実質的に薄くすることが可能です(PSCの150~400 nmに対して電解液型DSSCでは約10 μm、固体型DSSCでは約2 μm)。メソポーラスTiO2は、ペロブスカイトを均一に浸透させる大面積の足場になるとともに、光生成された電子を収集してFTO(fluorine-doped tin oxide)電極に受け渡す電子輸送層(ETL:electron-transport layer)の役割も果たします。FTO/c-TiO2/meso-TiO2-MAPI/MAPI/spiro-OMeTAD/Au構造のPSCは、固体型DSSCと同様の動作機構を有するn-i-p型光起電力デバイスとみなすことができます。ペロブスカイトが光を吸収すると、電子がメソポーラス層に注入され、メソポーラス層に浸透した電子は最終的に集電極に到達します。正孔(h+)は正孔導電性材料層内をホッピング移動し、AuまたはAgのカソードに到達します。
ハイブリッドペロブスカイトの重要な特性の1つは、正と負の両方の電荷キャリアを輸送できる両極性です。そのため、電子と正孔の両方が非常に高い移動度を示し、HTMを使用しなくても高効率PSCを作製することが可能になります。このコンセプトを裏付ける2つの実験結果があります。Etgarら14は、meso-TiO2/MAPIヘテロ接合のみを使用した太陽電池(HTM層の堆積なし)でも5.5%という中程度のPCEを示すことを見出しています。Snaithら15は、バンドギャップの広いメソポーラス酸化物Al2O3を使用したPSCでも十分なPCEが得られることを示しました。これら2つの結果を合理的に解釈するためには、spiro-OMeTADやTiO2などの正孔輸送層や電子輸送層がない場合でも、光生成した正孔と電子が集電極(Au、TiO2)まで効率良く移動するモデルを考える必要があります。
LiuおよびKelly16による研究では、平面ペロブスカイト層の下にZnO薄膜を置くことで、FTO/ZnOETL/平面MAPI/spiro-OMeTAD/Au構造の高性能太陽電池が作製できることを報告しています。このように、ペロブスカイト吸収体の均一な分布を促進するメゾスコピック酸化物の足場がない場合でも、標準的なAM1.5照射条件でこのPSCのPCEは15.7%でした。複数の研究17により、ペロブスカイトの拡散長が非常に長いことが確認されており、MAPIでは100 nm超、「MAPI3-xClx」吸収層では約1,000 nm、MAPI単結晶では175 μmに達しています。電荷キャリアの拡散長が長いため、ペロブスカイトは平面吸収層として高い効率を示します。ただし、ZnO層はペロブスカイトの熱分解にも関与しています。例えば、ZnO上に堆積したペロブスカイト膜は吸収スペクトルにわずかな変化が見られるものの、短時間であれば120℃までの温度で安定していると思われます。しかし、100℃での長時間加熱や短時間であっても150℃までの加熱によって、膜が分解して黄色の副生成物が生成します。分解した膜の吸収スペクトルはPbI2のスペクトルに一致します。
Snaithら18は、FTO/PEDOT:PSS/MAPI3-xClx/PCBM/TiOx/Al構造の太陽電池において、いくつかのHTM化合物(PEDOT:PSS、V2O5、NiO)を使用した「逆構造型PSCデザイン」(p-i-n構造)について最初に報告しました。この構造を使用した場合、正孔はHTM層を経由して前面の透明ガラス電極で収集され、電子はETLを経由して上部の対電極で収集されます。このp-i-n型デバイスでは、光電流は逆方向(光誘起された正孔が電子の代わりに前面の導電性ガラス基板を通って収集される)に流れるため、「逆構造」と呼ばれます。当初の研究では、PEDOT:PSSを使用したPSCのPCEはガラス基板で10%、フレキシブルポリマー基板で6%でした。それ以降の研究で、PCEは18%まで向上しています17d。
主要4種の太陽電池の設計レイアウト
過去3年間で、ペロブスカイトを使用した太陽電池について数百件の報告があります。その構成材料と構造に基づいて、PSCは大きく4種類に分類することができます。(a)メソポーラスTiO2などの足場を使用するタイプ(mesoporous-active)、(b)メソポーラスAl2O3などの酸化物を足場に使用したタイプ(mesoporous-passiveもしくはmesoporous-superstructure)、(c)透明FTO/ITO基板に電子輸送層を堆積させた平面吸収層を使用するタイプ(n-i-p型、planar-regular)、(d)FTO/ITOアノードに正孔輸送層を堆積させた逆構造タイプ(planarinverted)です。これら4種類のデバイスの典型的な構造を図2に示します。
図2 ペロブスカイト太陽電池の主要4種類の構造を示す概略図。(A)mesoporous-active:FTO/c-TiO2/mesoTiO2/ペロブスカイト/HTL/CE(AuまたはAg)(B)mesoporous-passive:FTO/c-TiO2/meso Al2O3/ペロブスカイト/HTL/CE(AuまたはAg)(C)planar-regular:ITO/c-TiO2(ETL)/平面ペロブスカイト/HTL/CE(AuまたはAg)(D)planar-inverted:ITO/HTL(PEDOT:PSS)/平面ペロブスカイト/ETL(PCBM-C60)/Ag
メソポーラス酸化物足場やTiO2緻密層を使用したPSCデバイスの加工には通常400℃超の高温が要求されるため、(性能のわりには)やや高価なFTOを透明電極に使用することが必要になります。そのため、より低温(150℃以下)での加工を可能にするZnOなどの安価な酸化物や、低温で加工可能な有機電子輸送材料および正孔輸送材料を使用したデバイス設計の探索が続けられています。平面ペロブスカイト層を持つ太陽電池(planar-regularおよびplanar-inverted)では、ITO(indium doped tin oxide)電極が使用されます。表1および表2に、過去2年間に15%を超えるPCEが報告された、active(光活性能を有する)およびpassive(電荷輸送に関与しない不活性な)メゾスコピック足場を使用したペロブスカイト太陽電池の光起電力特性および曲線因子を示しました19–22。最高のPCE(20.8%)が得られたのは、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)を含む混合溶媒中でFAI、PbI2、MABr、およびPbBr2の溶液から1段階で調製された複合カチオン複合ハライドペロブスカイト膜を使用した、メソポーラスTiO2系PSCです。これまでのところ、(Au/spiro-OMeTAD/ペロブスカイト/meso-TiO2/c-TiO2/FTO)の構造を持つPSCで、最大の光電流および光電圧が得られるとともに、ヒステリシスも最小限に抑えられています。
表1 メソポーラス足場層を使用した高性能ペロブスカイト太陽電池のデータ
表2 平面ペロブスカイト層を使用した高性能ペロブスカイト太陽電池のデータ
機構に関する研究
広範な性能評価に加えて、ペロブスカイト増感剤の光学的、電子的、およびフォトルミネッセンス特性が広く研究されており、このタイプの光吸収体が持つ複数の優れた特長が明らかになっています。光吸収によって生成した励起子の束縛エネルギーは約30 meVと弱いため、室温でその大半が速やかに解離して自由キャリアになることが示唆されます。このような増感剤を使用した太陽電池の場合、バンドギャップエネルギーに近い光電圧が得られる可能性があります。結果として生成した電子および正孔の有効質量は小さく、高いキャリア移動度(電子の7.5 cm2 V–1 s–1から正孔の12.5 cm2 V–1 s–1)を示します。Snaithら17dは、MAPI3-xClxで11.6 cm2 V–1 s–1、MAPIで約8 cm2 V–1 s–1という、溶液処理された材料としては並外れて高い有効移動度を測定しました。この電荷移動度は、DSSCに使用されるメソポーラスTiO2で報告されている値の少なくとも20倍で、代表的なπ共役系半導体よりも数桁大きい値です。電荷キャリアの再結合は数百ナノ秒と比較的ゆっくり起こり、その結果として長いキャリア拡散長が得られます(100 nm~1,000 nm)17。拡散距離が長いことで、材料内で光の吸収深度よりも遥かに長距離にわたって電荷輸送が可能となり、したがって収集効率が向上することを意味します。
概念的には、PSCの動作原理は色素増感太陽電池および無機太陽電池の両方に類似しています。ペロブスカイト膜内での光励起に続いて、TiO2足場への電子移動および/またはHTMへの正孔移動が起こります。これらの過程は、光生成種の再結合速度と比較して速度論的に速くなければならず、TiO2/HTM/ペロブスカイト材料間の界面における逆電子移動の速度と比較しても速いことが必要です。メゾスコピック系(ナノ構造型)では、界面の性質がデバイス性能を大きく左右します。ペロブスカイトの励起子束縛エネルギーは小さく(50 meV以下)、平面ヘテロ接合型(以降、平面型)デバイスでは光生成した束縛励起子はすぐに解離して(数ピコ秒)、自由電荷キャリアになります。自由電子および正孔の移動度はともに高いため(約10~30 cm2 V–1 s–1)、拡散していきます。集電極における電子と正孔の分離と収集が最適に行われるには、定量的な光吸収に必要な膜厚よりも拡散長が数倍長いことが必要です。平面型デバイスで高い効率が得られていることから、これらの過程には吸収層の厚さとして通常400 nmが必要であることが示唆されます。
電荷キャリアのダイナミクス
異なる3種類のデバイス構造(メソポーラスTiO2足場、メソポーラスAl2O3、平面型)における電荷輸送過程について、可視ポンプ‐可視・近赤外プローブ過渡吸収分光法を用いた比較研究が行われました23。メソポーラスAl2O3で構成されたPSCでは、エネルギー伝導帯の準位が高いため、励起されたペロブスカイトから酸化物への電子注入が阻害されます。この場合、界面での電荷分離は正孔がHTMへ移動することによって達成され、注入された電子はペロブスカイト吸収体を通って輸送されます。平面層の場合、光生成した電荷キャリアはペロブスカイト層を通って移動し、電子および正孔選択性界面に到達してこのヘテロ接合で分離されるため、電子注入は起こりません。3つの場合すべてにおいて、HTMへの正孔移動が起こります。サンプルを大気にさらした場合、被覆されたメソポーラスAl2O3および平面型のデバイスでは、長寿命電荷分離状態の生成が急激かつ大幅に低下します。この過程は光と酸素の両方が存在するときに起こりますが、メソポーラスTiO2足場の場合は影響を受けません。
I-V曲線のヒステリシス
PSCに残されている問題として、電流-電圧曲線のスキャン速度に依存したヒステリシス現象があります24。具体的には、光電流の変化が電圧を順方向と逆方向に掃引したときで一致しないという現象です。ヒステリシスの大きさは掃引開始電圧と掃引方向に依存します(逆方向スキャンの場合は正から負の値。順方向スキャンではその逆)。3種類すべてのデバイス構造において、ペロブスカイト層の形状にかかわらず、ヒステリシスが観測されます。これは、TiO2緻密層の存在や使用している正孔輸送材料が原因ではなく、ペロブスカイトおよび関連する界面に固有の問題であると考えられます。このヒステリシスのため、標準的なPCE測定の結果は不確かになります(スキャン速度が速いと全体のPCEが増加)。この現象に対しては複数の説明が提案されており、(1)非常に遅い電荷トラップおよび脱トラップ、(2)ナノ秒の時間スケールにおけるペロブスカイトの強誘電体としての挙動、(3)遅いイオン移動または変位、(4)化学構造の変化、が挙げられます。したがって、PCEの正確な測定を行うためには、非常に遅いスキャン速度を用いるか、最大電力点において安定した電力出力を測定すること、および電力出力が一定値に達するまで追跡することが必要になります。一方で、ヒステリシスを示さない逆構造型PSCデバイス(FTO/PEDOT:PSS/MAPI/PCBM/BCP/Ag)も少数ですが報告されており、18.1%のPCEが得られています24f。
PSCの各構成要素の最適化
ここでは、ペロブスカイトの主要な構成要素を1つ以上、代替要素と入れ替えて試験を行った最適化研究の一部を概説します。今回紹介するのは酸化物層、金属イオン、ペロブスカイトのハロゲン化物および有機カチオン、電子輸送層および正孔輸送層、対電極の例です。
ハロゲン化アルキルアンモニウム
大半のペロブスカイト太陽電池研究では、ハイブリッドペロブスカイトMAPIが使用されています。また、ハロゲン化メチルアンモニウムの反応物としてPbCl2を使用した際に生成する複合ハロゲン化物(CH3NH3I3-xClx)も複数の研究で使用されています。この複合ハロゲン化物はMAPIと同程度のバンドギャップを持ちますが、キャリア拡散長は1桁長く、同程度の良い性能を示します。
三臭化物類似体のCH3NH3PbBr3(MAPBr)は、MAPIよりも大きなバンドギャップ(2.3eV)を持ちます。そのため、MAPBrを使用したデバイスではPCEが低下することが予想され、実際に、メソポーラスAl2O3足場を使用したpassive型PSCで、このことが確認されています。MAIとMABrの混合比を段階的に変えて調製した一連の複合ペロブスカイトでは、1.55から2.3 eVの間のバンドギャップが得られました。複合ペロブスカイトMAPI2Brでは、MAPIよりも0.2 eV大きいバンドギャップが得られました(1.78 eV)。紫外光電子分光法(UPS:ultraviolet photoelectron spectroscopy)を用いた研究で、MAPI3とMAPI2Brの価電子帯端は同程度(-5.40 eV)ですが、伝導帯端は異なる(MAPI3:-3.86 eV、MAPI2Br:-3.62 eV)値が得られています。TiO2ナノロッドを使用した太陽電池では、予想された通り、PCEはMAPI3の4.29%からMAPI2Brでは4.89%に向上します25。
同様に、複合有機カチオンペロブスカイトMA0.6FA0.4PbI3は、MA、FAのどちらの単一カチオン系PSCよりも高い性能(14.9% PCE)を示します19m。メチルアンモニウムカチオンは、より大きなホルムアミジニウムカチオン[NH2CH=NH2+(FA)]と置き換えることが可能であり、その結果得られたホルムアミジニウムヨウ化鉛(FAPI)のバンドギャップはより小さな値を示します(FAPI:1.48 eV、MAPI:1.55 eV)26。FAPIを使用して作製した太陽電池デバイスは強いフォトルミネッセンス、長寿命、高いPCEを示し、ヒステリシスも最小限に抑えられます。最近の研究では、FAI、MABr、PbI2、PbBr2の混合物から1段階プロセスで複合ペロブスカイト膜が作製されています19a。メソポーラスTiO2および正孔輸送層としてspiro-OMeTADを使用した太陽電池では、前駆体溶液中のPbI2/FAIのモル比を1.05とした場合に最高記録となる20.8%のPCEが得られており、その際に得られた光電圧(1.18 V)も現時点で報告されているPSCの最高値です。
その他金属イオンのハライドペロブスカイト
有毒な鉛塩の使用を避けるため、同じグループの元素であるSnやGeで鉛を置き換える研究が行われました。Sn(II)誘導体を調製する際の問題の1つは、酸素および水分が存在すると作製したデバイスが不安定になることです。不活性雰囲気下で封入することで、安定なハロゲン化スズ(II)ペロブスカイトCH3NH3SnI3が調製され、評価が行われました27。このSn(II)ペロブスカイトのバンドギャップは1.3 eVで、電荷キャリア移動度は約1.6 cm2 V–1 s–1です。対応するPb(II)ペロブスカイトでは1 μmを超える拡散長が観測されているのに対して、Sn(II)ペロブスカイトの拡散長は約30 nmと短くなっています。最も高性能のSn系デバイス(FTO/c-TiO2/meso-TiO2/MASnI3/spiro-OMeTAD/Ag)では、1Sunの照射下で電力効率が6.4%に達しました。さらに、バンドギャップが1.23 eVの吸収体としては極めて異例なことに、0.88 Vもの開放電圧が得られています。
Kanatzidisら27は、化学的置換を行いCH3NH3SnI3-xBrx固溶体とすることで、Sn(II)ペロブスカイトのバンドギャップを調節しました。MASnI3、MASnI2Br、MASnIBr2、MASnBr3(x = 0, 1, 2, 3)のうち、二臭化物MASnIBr2(バンドギャップ1.75 eV)を使用した太陽電池が最高のPCEとなる5.73%を示しました。
酸化物アノード/ETLの最適化
従来のDSSCと同様にPSCでも、1次元(1D)、3次元(3D)および階層構造などの異なる形態の利用や半導体酸化物層のドーピングなどによって、多くの最適化研究が行われています。TiO2緻密層はETLとして機能し、また、透明導電性酸化物アノードと直接接触してペロブスカイト光吸収体および正孔輸送材をブロックします。したがって、c-TiO2層の存在は、3種類すべてのPSCデバイス(active、passive、平面型)において不可欠です。
メソポーラスチタニア層の3次元性が電子移動度を抑制していると広く考えられていることから、ナノシート、ナノワイヤ/ファイバー、ナノロッド、ナノチューブなどの1Dナノ構造を含む数多くの異なる形状のTiO2が検討されています28。これら研究の1つでは、透明性の高いアナターゼ型TiO2ナノチューブアレイで作製されたPSCで14.8%のPCEが報告されています。また、ルチル型TiO2ナノロッドで作製されたPSCでは9.4%のPCEが得られています。1次元ナノ構造の場合、メソポーラス構造と比較して表面積が大幅に減少します。1Dナノ構造上に階層構造を成長させることで大きな表面積が得られ、一定の光電圧において光電流が25%増加することが示されています。TiO2緻密層へのMgまたはYのドーピングによりPCEが改善されますが、その理由としては、TiO2のバンドギャップの位置がわずかに変化し、電子輸送性と正孔ブロック効率が高まり、その結果ペロブスカイトの集光性が向上するためだと推測されます。
SnO2には、TiO2と比較していくつかの魅力的な性質があります。SnO2のバンドギャップはTiO2より大きいため(3.8 eV)、光触媒活性が抑えられ、デバイス安定性が向上します。また、SnO2ではトラップ準位の密度が低いため電荷キャリア移動度が240 cm2 V–1 s–1に達し(TiO2よりも2桁大きい)、伝導帯が深いため光生成電子の移動効率が向上します。これまでに行われたSnO2アノードを使用したPSC研究はまだ少数です29。18.4%の太陽光変換効率は、SnO2をETLとして、複合ペロブスカイトのMAPBr3(15%)-FAPI3(85%)を使用したPSCで得られています22b。
ZnOのバンドギャップはTiO2と同程度で(3.3 eV)、電子親和力もTiO2に匹敵します。ただし、ZnOの導電性はTiO2よりも数桁大きいため、ETLとして魅力的な材料となります。TiO2ナノロッドの場合と同様に、ZnOナノロッドを使用したPSCの性能はやや劣ります(PCE11%)。LiuおよびKelly21hは、ZnO緻密層をETLとして、その上に位置する光吸収体にMAPI3-xClx平面層を使用したPSCで15.7%のPCEを達成しました。ZnOの緻密なスパッタ膜およびMAPIを使用したPSC(ITO/ZnO/MAPI/spiro-OMeTAD/Ag)で、同程度のPCE(15.9%)が得られています30。passive型メゾスコピック酸化物として、ZrO2はアルミナと同様に高効率であることが明らかになっており31、この構造を使用して作製されたPSCもアルミナの場合と同程度のPCEを示します(ZrO2:10.8%、メソポーラスAl2O3:10.9%)。
バックコンタクト
一般に、太陽電池では正孔輸送層の上にバックコンタクトとして貴金属(AuまたはAg)薄膜が堆積されています。そこで、コストを抑える方法の1つとして、対電極に多様な炭素同素体を用いることが試みられています。Mhaisalkarら32は、メソポーラスTiO2をactive型足場とし、spiro-OMeTADをHTMとするPSCを作製する目的で、HTM上にカーボンナノチューブを転写することに成功しました。このMAPI/CNT太陽電池の効率は最大6.87%で、カーボンナノチューブの集電体としての利用、および金属電極と正孔輸送材の両者を使用しないペロブスカイト太陽電池の可能性が示されました。CNTネットワークにspiro-OMeTAD正孔輸送材を追加することで、効率は9.90%に向上しました。
また、メソポーラス炭素対電極の作製にグラファイト–カーボンブラックペーストが用いられ、HTMを使用しないPSCの作製に利用されています33。ZrO2と炭素のメソポーラス層を使用したPSC(FTO/c-TiO2/meso-TiO2/MAPI/ZrO2/C)は、11.63%もの高いPCEを示します。対電極にAuまたはPtを使用した場合と比較すると、印刷可能な炭素対電極は加工の際、特に大規模生産において遥かに低価格かつ容易となります。
正孔輸送材料
光生成した電荷キャリアの迅速かつ定量的な捕獲は、PCEの最大化に不可欠です。そのため、より新規で高効率の電子輸送材料(ETM:electron transport material)およびHTMの探索に力が注がれています。最高性能を得るために、正孔輸送物質は複数の条件を満たさなければなりません。高い正孔移動度および有機溶媒に対する高い溶解性に加えて、HTMのHOMOエネルギー準位とペロブスカイトの価電子帯準位の配置が適切でなければなりません。高い正孔移動度によって、電荷抽出の高速化と光電流の増加が可能となります。正孔移動が遅い場合、内部抵抗が増加してデバイスの曲線因子が減少します。HTMは化学組成に基づいて、無機、低分子(有機)、および高分子の3種類に分類できます。
PSCで使用されている、これまでで最も優れたHTMはspiro-OMeTAD(図3)で、低分子HTMに分類されます。この物質を使用することで、18%を超えるPCEが得られています。しかし、非常に優れた性能を有するにもかかわらず、この化合物にはいくつかの欠点があります。spiro-OMeTADが酸化されると、可視光領域で520 nmにピークを持つ吸収を示し、実質的にフィルターとして作用します。また、spiro-OMeTAD単体の導電率および正孔移動度は非常に低い値を示します(8.7×10–5 S cm-1および4×10–5 cm2 V–1 s–1)。なお、適切なp型ドーパントの添加でこれらの値は1桁増加しますが、ドーパントを添加せずに良好に機能するHTMが理想的です。
図3 spiro-OMeTADおよびその代表的なp型ドーパントの化学構造
いくつかの添加剤(その多くが金属錯体または金属塩)がドーパントとして検討されており、たとえば、(p-BrC6H4)3NSbCl6、tris(2-(1H-pyrazol-1-yl)pyridine)cobalt(III)(FK102)などのCo(III)錯体、LiTFSI(lithiumbis(trifluoromethanesulfonyl)imide)、SnCl4、SbCl5、FeCl3、WO3、molybdenum tris[1,2-bis(trifluoromethyl)ethane-1,2-dithiolene]、F4-TCNQ、などがあります。これら化合物の大半は、電気伝導率や電子注入の改善および再結合の抑制のために、通常、真空蒸着法により導入されます。LiイオンはTiO2表面に侵入しやすい傾向があり、その電子的性質を変化させます。FK209コバルト(III)錯体は、spiro-MeTADを含む前駆体溶液中でより優れた溶解性を示します。
7%以上のPCEを示すHTMの具体例には、代表的な無機HTMであるCuSCN、CuI、NiO、V2O5、および酸化グラフェン(GO:graphene oxide)などがあります。低分子HTMの代表例としては、spiro-OMeTADおよびその多数の誘導体;カルバゾール系V886、X19、X51、SGT 405;spiro-アクリジン-フルオレン系CW4;シロロチオフェン系トリフェニルアミン;キノリジノアクリジン;tetra-アズレン誘導体;チオフェン系H101、H111;テトラフェニルベンジジン(TPB)系TPBC;トリプチセン誘導体T103、などがあります。もう一つの低分子HTMグループは、多様な機能性ユニットを導入することによりドナー-アクセプター特性が調節された、非局在化π電子系を持つ芳香族有機化合物です。この例として、ピレン、チオフェンおよびビチオフェン、ペリレン、カルバゾール、トリアリールアミン、テトラチアフルバレン、スピロフルオレン結合トリフェニルアミン(spiro-OMeTADなど)、TPBの各官能基化誘導体などが挙げられます。第3の種類は高分子HTMで、これらはバルクヘテロ接合型有機高分子太陽電池において高効率を示します。高分子HTMの代表例として、チオフェン系P3HT、トリアリールアミン系PTAA、フェニルベンジジン系polyTPD、チオフェン系PCPDTBT、PCDTBT、PCBTDPP、ならびにポリフルオレン系TFO、PFB、TEBなどがあります(図4)。
図4 正孔輸送材料の例
表3には、active型メゾスコピックTiO2足場を持つPSCで得られた、最も高い性能を示したHTMに関するデータです34。これら研究すべてにおいて、MAPIまたはその塩化物類似体であるMAPI3-xClxのいずれかが使用されています。この2つの材料は、非常に近いバンドギャップエネルギーを持っています(1.55~1.58 eV)。また、これらデバイスでは同一の電子輸送層(TiO2)を使用しているため、異なるHTMで得られたPCEの有意な比較が可能となります。HTMの設計を慎重に行うことで、18%を超えるPCEが実現しています。PSCの他に類を見ない際立った特長として、1.5~1.6 eVのバンドギャップを持つ光吸収体を使用して高い光電圧(1 V以上)が得られる点があります。励起子束縛エネルギーが小さく(50 meV以下)、電子/正孔の拡散距離が長く(100 nm以上)、正孔と電子の移動度が高い(1~10cm2 V–1 s–1)ため、直接遷移型ペロブスカイト光吸収体に起因する固有損失は小さくなります。Voc /Ebg の比は約0.69となり、有機高分子太陽電池の場合(約0.55)よりも高くなります。ただし、薄膜アモルファスSi太陽電池やGaAs薄膜太陽電池(0.80)と比較するとまだ低い値です。ETLおよびHTMのエネルギー準位をペロブスカイトの価電子帯および伝導帯のエネルギー準位に対して適切に配置することが、集光効率の向上に不可欠です。表3のデータを見ると、PCE値の減少に伴って、太陽電池デバイスのVoc および曲線因子が系統的に減少していることがわかります。曲線因子の大きな値は、シート抵抗および大きな並列抵抗のデバイスで得られています。
表3 異なる正孔輸送材料を使用し、active型メゾスコピックTiO2足場を使ったペロブスカイト太陽電池(FTO/c-TiO2/meso-TiO2/MAPI/HTM/CE)の太陽電池変換効率
ペロブスカイト太陽電池を使用したタンデム型デバイス
MAPIを使用したペロブスカイト太陽電池は、太陽光スペクトルの青~緑の可視光を効率良く吸収します。これらPSCは長波長側(>800 nm)に明らかに透過率の高い領域があるため、タンデム型太陽電池への利用が期待されます。バンドギャップが小さいSi太陽電池もしくはCIGS太陽電池をボトムセルとして用いれば、赤色および近赤外領域の光をすべて集光することが可能になります。アモルファスSi太陽電池(Ag/AZO/a-Si:H/c-Si/a-Si:H/ITO)とPSCトップセルを、Si太陽電池の上部に堆積させた透明SnO2薄層で接続することで、タンデム型デバイスの作製に成功しています35a。この(Ag/a-Si:H/c-Si/aSi:H/ITO/SnO2/ペロブスカイト/spiro-OMeTAD/MoO3/ITO)の構造を持つタンデム型デバイスは、この種の電池構造の中では最高となる18%の効率を示しました。MoO3薄層は、ホール伝導体とトップのITO透明電極間の保護層の役割を果たします。Si電池の裏側は、ともにスパッタ法で堆積させたAZO(aluminum-doped zinc oxide)と銀で完全に被覆されています。MAPIを使用したPSCとSi太陽電池からなるタンデム型デバイスのシミュレーション研究35bでは、層の厚さを最適化することで、効率が30%を超える可能性が示されています。また、ボトムセルにCIGS太陽電池、トップセルにペロブスカイト太陽電池を用いたタンデム型デバイスも作製されています35c。
PSC大面積モジュール
過去一年間に、大面積PSCモジュールの作製に成功した例がいくつか報告されています。Razzaら36aは、ペロブスカイトの逐次堆積方法を最適化して10 mm2の太陽電池を作製し、最大効率13.3%および平均効率12.1%を達成しました。さらにその拡張性を確認するため、ブレードコーティングしたPbI2膜を含む直列接続モジュールが作製されました。このモジュールの効率は有効面積10.1 cm2で10.4%が得られ、モジュール面積100 cm2で4.3%の効率が測定されました。
これに関連した研究で、Yangら36bはペロブスカイトの2段階合成の際に過剰量の有機ハロゲン化物アニオンを使用し、大きな結晶粒を成長させるために非(貧)溶媒を用いました。これにより、有効面積1.2 cm2の平面型PSCで16.3%のPCEが達成され(約15.6%の安定化PCE出力)、デバイス面積を0.12 cm2まで減少させると、最高で18.3%が得られました(安定化出力:約17.5%)。2015年には、IMEC(ベルギー)の研究グループが、有効面積16 cm2のペロブスカイト太陽電池の作製に成功し、11.9%のPCEを達成したと報告しています。
最近、平面型PSCにおいて高濃度ドープした無機電荷抽出層を作製する手法が開発され36c、非常に高速なキャリア抽出、ピンホールや局所的な構造欠陥の低減を、10~20ナノメートルの比較的厚い膜厚でも大面積で実現することができます。無機材料の堅牢性を利用して、1 cm2を超える開口面積で>15%のPCEを示すPSCの作製が可能になります。電流-電圧特性のヒステリシスは確認されず、1,000時間にわたる光照射後でも初期値に対して90%を超えるPCEを維持する安定なPSCが得られました。
おわりに
高効率太陽電池開発の進展には目覚ましいものがあり、過去3年間で太陽光変換効率は21%まで急激に上昇しました。しかし、ハイブリッドペロブスカイト太陽電池の実用化への可能性を引き出すためには、達成すべき重要な条件がいくつかあります。
- 第一に、異なる研究グループ間において結果の再現を容易に行うために、実験条件に関する理解および管理を改善する必要があります。例として、調製条件が非常に大きく異なる点が挙げられ、これら条件がペロブスカイト層の結晶(電子)特性および形態に強い影響を与えているため、全体のPCEも調製条件に大きく影響されます。また、I-V曲線で観測されるヒステリシスについては、非常に遅い掃引速度の下で光電流および電圧を測定しなければなりません。
- 第二に、期待できる太陽光変換効率が得られた場合、大面積モジュールおよびパネルで再現する必要があります。基礎研究で使用する太陽電池は通常小型(1 cm2以下)であり、特定の方法の再現性について信頼性を高めるためには大面積サンプルでの測定が必要です。最近、このような大面積モジュール(10 cm2以上)で10%を超える効率を示すデバイスに関する報告がいくつか発表されており、期待が高まっています。
- 第三に、これら新規太陽光デバイスの長期安定性は、高温、高湿度、連続照射などの現実的な動作条件下で検証されなければなりません。全太陽光スペクトル照射もしくは85℃への加熱という条件下で、少なくとも1,000時間にわたって安定した性能を示す太陽電池を作製するために、いくつかのデバイス構造および材料調製方法が見いだされています。PSCの水分に対する耐性を向上させるためには、広範な探索および開発が必要であり、また、本技術が環境に悪影響を与えるのを防ぐためには、鉛系ペロブスカイト材料に替わる非毒性物質の使用、および/または非常に堅牢なカプセル化が必要になります。
- 最後に、PSCの計り知れない可能性を引き出すためには、大規模かつ低コストでの製造方法の開発に成功しなければなりません。
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レビュー
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