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ペロブスカイト太陽電池の最近の動向

Carlo Perini, Juan-Pablo Correa-Baena

School of Materials Science and Engineering, Georgia Institute of Technology

Material Matters 2020, 15.2

はじめに

世界的なエネルギーの需要は堅調に増加しています。推定値に幅はありますが、米国エネルギー情報局(Energy Information Administration)によるとエネルギー需要は2040年までに30%増加し、800エクサジュールに達すると予想されています1。この需要の大部分は、地球で最も豊富に存在する再生エネルギー源である太陽エネルギーで供給することが可能です。気温が高く乾燥した数千万km2の広さにおよぶ砂漠を含めて、高レベルの入射太陽光を受ける広大な面積が地球上にあることを考えれば、将来私たちが必要とするエネルギーのほぼすべてを満たす能力が太陽光発電にあると容易に想像されます2。ただし、この莫大な潜在的エネルギー源を取り入れるためには、太陽電池の効率を最大化することが不可欠になるでしょう。そのために、単接合型太陽電池における理論的な性能限界である33%に到達することを可能にする新技術を適用し、多接合型光電変換デバイス向けの効率的で低コストの材料を開発することがともに必要です。 

ハロゲン化鉛ペロブスカイト太陽電池(PSC:perovskite solar cell)は、増加するエネルギー需要を満たすための有望な候補です。単接合型PSCは、比較的単純で安価な堆積法と低純度の材料を用いて25%超の変換効率が得られ、以前の太陽電池技術では先例のない成果が達成されています。これは、電子特性が構造欠陥の存在にほとんど影響されないためです。ペロブスカイトの化学組成および構造は、材料のバンドギャップを調整するために容易に変更することが可能です。ペロブスカイトは、大きなバンドギャップをもつ他のどの代替材料よりも大幅に安価であり、したがって、タンデム型構造においてシリコンを補完できる見込みがあります。ただし、単接合型で26%超3の電力変換効率(PCE:power conversion efficiency)を得るためには、非放射性再結合を抑制する改善が必要です。同様に、デバイスの長期耐久性も改善しなければなりません。そのためには、太陽電池およびパネルの実地試験からのデータで補完した、標準化された経年劣化試験手順を開発することが求められます4。本稿では、単接合型および多接合型の両方の太陽電池に関して、ペロブスカイト材料の性能および安定性の向上に向けた最新の取組みについて議論します。

最先端デバイス構造

今までに最も研究されているペロブスカイト組成であるハロゲン化鉛ペロブスカイトは、ABX3の3D構造をとります。カチオンAは、メチルアンモニウム(MA:methylammonium)、ホルムアミジニウム(FA:formamidinium)、CsまたはRbです。鉛はBサイトに位置します。ハロゲンのヨウ素、臭素または塩素はXサイトを占めます。PSCは、ペロブスカイト活性層、電子およびホール輸送材料、透明電極および金属電極またはそのいずれかから作製されます。デバイス構造の命名は、電子を捕集する位置に基づいて変わります。順型(direct)または「n-i-p」という用語は、透明な界面(裏面)で電子が捕集されるPSCに適用されます。逆型(inverted)または「p-i-n」という用語は、デバイススタックにおいて電子とホールの選択接触が反転している太陽電池を指します(図1)。メソポーラス構造では、下部の接触が多孔性であり、ペロブスカイト材料が浸透して被覆しています(図1A)。最後に、平面配置では多くの場合、すべての層にコンパクトな薄膜が使用されます(図1Bおよび1C)。

PSCの効率は、開発の最初の6年間で急速に上昇しており、速やかに20%に到達した後、25%の水準を最近突破しています5。現在では、ペロブスカイト膜の堆積の制御が改善されており、組成の調整により単接合型における材料のバンドギャップおよび堅牢性が設計されています6–8。均一でコンパクト(厚さ500 nm超)なペロブスカイト膜やFA系のペロブスカイトは、効率が23%を超え、電流が理論的限界に近づいています9,10。PSCは、バンドギャップに対して開放電圧(VOC:open-circuit voltage)が非常に高いため、再結合による損失が少ないことが示唆されます。堆積、組成およびデバイス設計により、約1.6 eVのバンドギャップでVOCは1.24 Vまで到達しています。このバンドギャップでのVOCの理論値は1.33 Vです3。ペロブスカイトとホール選択接触の界面における再結合の動力学が、VOCの理論値と実測値の相違の主な原因であることが示されています11。これらの発見を受けて、かさ高いカチオンをAサイトにもつ2Dペロブスカイト層によるペロブスカイト表面のパッシベーション(不活性化)の研究が行われています9,12

バンドギャップが大きな材料の薄膜を用いたペロブスカイト界面の欠陥のパッシベーションの初期の試みでは、FA系PSCのVOCの向上が可能になり、23.2%のPCE(電流-電圧曲線からの認定、安定化した電流-電圧曲線からの認定では22.6%)9の実現に貢献しています。この結果に続いて、安定化した電流-電圧曲線から23.3%のPCEが認定されており、この重要な光電変換パラメータを改善するために、再結合を特定して抑制する新しい方法の探索が求められています13

ペロブスカイト太陽電池の構造とその効率の推移

図1導電性ガラス/電子選択接触/ペロブスカイト配置(n-i-p)を用いたA)メソポーラスおよびB)平面型のペロブスカイト太陽電池の概略図。C)逆型(p-i-n)は、導電性ガラス/ホール選択接触/ペロブスカイトを積み重ねた平面接合。D)ペロブスカイト-ペロブスカイトのタンデム型デバイス。E)20%超の効率が認定されたペロブスカイト太陽電池のShockley-Queisser(棒グラフ)および一部の出版物の測定基準(白丸)から計算された光電変換パラメータ。2015年から2019年までの年代順3,9,12,14,15

組成工学、ハロゲン化物の析出および黒色相の安定化

安定な3Dペロブスカイト構造は、適切な立体障害で原子を結合させることによってのみ実現することが可能です。この要件はGoldschmidt許容因子(t)によって定量化され、MAPbI3tが約0.9)のように、この値が0.8と1.0の間にある場合に安定な3D構造が得られます。FAPbI3tが約1)やCsPbI3tが約0.8)のように許容因子の必要条件の境界にあるペロブスカイトは、歪んだ3D格子を形成します。その結果、これらのペロブスカイトは室温で低次元の光不活性相を形成する傾向があります16。Xサイトのアニオンが変わるとバンドギャップの値に大きな影響を及ぼし、IペロブスカイトでBrの含有量を増加させると、バンドギャップが1.7 eV近くに増加し、ペロブスカイト/シリコンタンデム型に非常に望ましい値になります(図1D)。ただし、Br濃度を20%超に増加させると、ハロゲン化物が析出して再結合活性の不純物が形成されることで、デバイスの長期安定性および最大VOCを低下させる可能性があります。混合Sn/Pbペロブスカイトは、単接合型で最適なバンドギャップ(1.1~1.4 eV、図2A)が確実に得られるものの、再結合による重大な損失を受けます。複雑な複数カチオン・アニオン型のPb配合を用いることで、光不活性相の形成を回避し、格子内のハロゲン化物の析出を抑制することが可能になります17。CsMAFAの3カチオンペロブスカイトでは、結晶化の間も黄色相の不純物が抑制され、アニールの有無にかかわらず膜性能が向上します18。より小さなルビジウムを導入したRbCsMAFAでは、安定化したPCEが21.6%で、1.63 eVのバンドギャップに対してVOCは1.24 Vが得られ、電圧損失は390 mVとなります。これは報告されているすべての太陽電池材料の中でも最も低い値の1つです(図2B6

ペロブスカイト太陽電池の光物理学的特性

図2最先端PSCデバイスの光物理学的特性。A)Shockley Queisser効率およびB)計算された最大VOC(放射限界)のさまざまな吸収材料で得られた値との比較5,21–26

正に帯電しているこれらの原子がどのように組み込まれているのか明確な説明はありませんが、これらの例を受けてKなどの他の小さなカチオンの溶液への導入が行われています。ただし、K+の存在が材料の光電子特性に良い影響を明らかに与えています19。より最近では、これらのカチオンがペロブスカイト格子に組み込まれる機構が研究され、ストロンチウムによるドーピングの証拠が見つかりました20。FAより大きなカチオンが界面で低次元ペロブスカイト相の形成を誘発するために使用されており、電荷輸送層が大きなカチオンによって分離されます。大きなバンドギャップにより表面欠陥のパッシベーションが可能になり、非放射性再結合が減少するため、このようなカチオンを使用したデバイスで現時点の最高記録の性能が実現しています9,12。また、2Dの中間層がバルクにも拡散している純粋な2D/3Dペロブスカイトも報告されています。これまでの所、最も安定で効率的なペロブスカイト組成は、複数カチオンのペロブスカイトと3Dペロブスカイトの2D界面パッシベーションの組合わせに基づいています(図1E)。

再結合と2Dペロブスカイトによるパッシベーション

実際のデバイスでは、バルク欠陥と表面および界面により、急速な非放射性再結合を引き起こす再結合中心が導入されます。非放射性再結合は放射性再結合と異なり、電圧損失(VOC - バンドギャップ / 素電荷、図2B)を引き起こします。放射性再結合の速度が材料の特性であるのに対して、非放射性再結合は欠陥に影響されます。現在、混合ハロゲン化物を用いた広いバンドギャップのペロブスカイトと多接合型太陽電池スタックで使用される狭いバンドギャップのスズ系ペロブスカイトにおいて、界面における再結合が障害となっています。最近の取組みにより、単接合型で界面における再結合を大幅に抑制することが可能になっています27。バルクにおける非放射性再結合は、すべてのペロブスカイト組成でさらに抑制する必要があります。表面における再結合の主な原因は、界面におけるキャリア選択性の不足、電荷抽出に対する障壁および表面欠陥です。他にも、ペロブスカイト膜の粒界および特定の結晶面における非放射性再結合や、膜の多孔性の存在による非放射性再結合が報告されていますが、これは依然として議論されています28。PSCのバルクにおける再結合は、電子-フォノンカップリング、バンドの電子的無秩序性(より高いUrbachエネルギー)および深い位置の欠陥(内在性の欠陥および不純物に誘発された欠陥の両方)が原因であると考えられています。VOC,radに到達し、FFを90%近くまで最大化するためには、非放射寿命を10 μsに近づけることを目標として、これらの欠陥の影響を最小限に抑える必要があります27

PSCの安定性:必要条件および成果

新しい太陽光技術の重要なコストドライバーには、投資に加えて、デバイス効率と長期安定性の積であるエネルギー収率が含まれます。PCEの経時的な劣化は投資利益率を左右し、したがって新しい太陽電池技術に伴うリスクに影響を及ぼします。太陽光技術の市場基準は結晶性シリコンであり、劣化速度は年間0.5%未満で、動作条件下で25年間にわたって性能を発揮します。PSCが太陽電池市場で競争力をもつためには、同程度の安定性に到達しなければなりません。

最近数年間、この目標に向けて多数の研究が行われており、内在性と外来性の両方の劣化要因が安定性に与える影響を低減するために多大な努力が払われています。当初は懐疑的にみられていましたが、ペロブスカイト太陽電池は現在、シリコン業界で加速劣化試験に用いられるダンプヒート(高温高湿)および温度サイクルのプロトコール(IEN6125)に耐えることができます29。この進歩におけるマイルストーンでは、各デバイス層および界面の効果的な設計と、効果的な封入法の開発が達成されています29。温度、水分や酸素などの化学活性種、およびペロブスカイトの分解副生成物の放出などの外来性の劣化要因の影響が最小限に抑えられ、さらなる材料劣化が食い止められています29,30。より最近では、無機デバイス構造が関心を集めています。CsPbI3において室温で安定な光起電性のβ相が発見されており、効率は10%を超えています。このような複合材料は、無機中間層と組み合わせることで、ペロブスカイト太陽電池の低い安定性という問題を克服できる可能性があります30

PSCの安定性:エージングのプロトコールおよび実地試験

ペロブスカイトは、短時間(数秒~数分間)と長時間(数分~数時間)の性能低下、すなわちヒステリシスと可逆的損失の両方に関わるイオン移動の影響を受けます(図3A3D)。後者について、デバイスのPCEはエージング中に低下し、暗所で数時間保管した後に当初の値まで回復します。したがって、デバイス寿命の厳密な推定は複雑になり、過大評価や過小評価を招きやすくなります。T80のような単純な性能指数であっても、報告の方法によっては誤解を生む可能性があります。それでも、軽度の可逆な損失が長期的安定性を保証するわけではないため、有機材料による接触と無機材料による接触が長期的なイオンの蓄積に与える影響を確立することが重要です。ストレス要因とデバイス劣化を関連付けて、デバイス安定性のさらなる改善を可能にするために、適切な特性評価手順を開発する必要があります。有機太陽電池の例に従って、有機太陽電池の安定性に関する国際サミット(ISOS:International Summit on Organic Photovoltaic Stability)の試験手順を、デバイス安定性に対するイオン運動の影響を評価することを目標とした追加の測定で補完することで、ペロブスカイトデバイスに関する特性評価のガイドライン作成が試みられています。また、公表されているデバイスのラウンドロビン試験の実施を真に可能にするための報告の基準が定義されています。このようなデータのフォーマット化された報告、データベースへの統合および機械学習アルゴリズムによる関連付けは、現在のデバイス安定性の制限要因の理解の向上に貢献するでしょう31。分野の拡大に伴い、太陽電池およびパネルに由来するより多くの実地試験データが発表されることが予想されます。観察された故障メカニズムおよびそれらと加速劣化試験において観察された故障メカニズムとの相関を研究することで、経年劣化の規格をさらに改善し、これらの結果を予想されるデバイス寿命と関連付けることが可能になるでしょう31

ペロブスカイト太陽電池の長期安定性

図3ペロブスカイト太陽電池の長期安定性。A)光照射下、最大電力点、75℃において金の移動が引き起こすPCE低下。Spiro-OMeTADと金電極の間のCr中間層によって相殺することが可能です32B)メソポーラスデバイスにおいて複数カチオンおよびPTAAホール選択接触を用いた場合、85℃で500時間のMPP追従制御(Maximum power point tracking、MPPT)において約5%の損失を示します33C)実際の作動条件における最大電力出力は、永続的な劣化を起こす前に可逆な損失を示します34D)最も安定な平面型デバイスの1つは、室温で500時間のMPP追従制御において約10%の損失を示します35

展望と課題

科学界の広範な取組みと、有機太陽電池や色素増感太陽電池などのより確立された分野で培われた技術・知見により、PSCはわずか数年間で著しい進歩を遂げています。PSCで最近報告されているラボスケールでの25%を超える効率と著しく低い電圧損失は、これらの溶液法による太陽電池が、SiまたはGaAsのような他の最先端技術に比肩しうる段階に達していることを示しています。単接合型の効率の目標に到達したことで、ペロブスカイト業界の現在の焦点はタンデム型太陽電池と長期安定性に向けられています。ペロブスカイト業界では、これら材料の独特な動力学を説明できる試験手順の開発が試みられています。屋外実地試験の模擬試験の最初の報告が最近発表されましたが、統計的堅牢性を提供し、提案されている経年劣化試験手順の妥当性を確認するためには、より多くのデータが必要です36。エネルギー市場のプレイヤーとなるには、PSCは劣化を最小限に抑えながら少なくとも20年間にわたって使用できることが必要です。この課題は、ペロブスカイトデバイスの積層内のイオン移動による内在性および外来性の劣化を低減して初めて達成することができます。

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