太陽電池におけるペロブスカイト化合物の利用
Avery Luedtke, Dr.
Sigma-Aldrich Materials Science
はじめに
過去数年間、環境に優しい持続可能なエネルギー源への移行が進むにつれて、住宅用および業務用太陽光パネルの需要が増大しています。米国エネルギー情報局(EIA:Energy Information Administration)では、2010年にはわずか5.0 GWh/d 1だった太陽光発電による平均発電量が、2016年には90 GWh/dになると予測しています2。多くの太陽電池用途では空間的な制限があるため、エネルギー変換効率(PCE:power conversion efficiency)が重要になります。電池のPCEが高ければ、より狭い面積でより多くの電力を発生できます。現在、市販の太陽電池の圧倒的多数を占めるのは、高い安定性とPCEが実証されているシリコン型太陽電池です3。このシリコン太陽電池の競合となりうる技術に、ここ数年間でPCEが急激に上昇し、大きな注目を集めているペロブスカイト太陽電池があり、その光吸収材料にはペロブスカイト半導体が使用されています。
ペロブスカイトとは、鉱物の一種であるペロブスカイト(チタン酸カルシウム、CaTiO3)に類似した結晶構造を持つ無機錯体です。太陽電池用途で特に関心を集めているペロブスカイト錯体の1つが、ヨウ化鉛メチルアンモニウム [(CH3NH3)PbI3、MAPI] です。最初にMAPIの特性が評価されたのは1978年ですが4、太陽電池に使用され始めたのは最近のことです5。MAPIとアンモニウム塩およびハロゲン化物の多様な組み合わせを含むMAPI誘導体の光学的および電子的な特性が、太陽電池への応用に極めて適していることが明らかになっています6。2009年以降、このタイプのペロブスカイトを使用した太陽電池はPCEが劇的に上昇しており、現在の最高値は20.1%です7,8 。典型的なペロブスカイト太陽電池の構造を図1に示します。太陽電池におけるペロブスカイトの利用については、レビュー9,10,11をご参照ください。
電解質溶液を使用した初期のペロブスカイト太陽電池
2009年、Kojimaらが太陽電池に初めてMAPIを使用した研究を報告しました5。この研究では、TiO2で被覆したFTO(fluorine-doped tin oxide)にMAPIを前駆体溶液から堆積させて感光性電極を作製しています。Ptで被覆したFTOが対電極となり、色素増感太陽電池(DSSC:dye-sensitized solar cell)では一般的にレドックス対として使用されるI- / I3- 電解質溶液がホール伝導体となります。標準的な疑似太陽光(Air Mass 1.5 global、AM1.5G)12および100 mW/cm2の下で、MAPIを使用した太陽電池は3.81%のPCEを示しました。また、臭化鉛メチルアンモニウム ((CH3NH3)PbBr3、MAPBr)の研究も行われ、この材料を光増感剤に使用した太陽電池では若干低い3.13%のPCEが得られました。ただし、MAPBrを使用した電池の開放電圧(Voc)はMAPIを使用した電池よりも高くなります(それぞれ0.96 V、0.61 V)。2011年、Imらは同様に作製した太陽電池でTiO2膜の膜厚を3.6 μmまで薄くすると、AM1.5Gの光の照射下でPCEが6.54%に増加することを見出しました13。しかし、ペロブスカイト錯体が電解質によって部分的に溶出するため、これらデバイスの寿命は非常に短くなります。
図1典型的なペロブスカイト型太陽電池構造の概略図
spiro-MeOTADを使用した太陽電池
2012年、Kimらは、spiro-MeOTAD(N2,N2,N2′,N2′,N7,N7,N7′,N7′-octakis(4- methoxyphenyl)-9,9′-spirobi[9H-fluorene]-2,2′,7,7′-tetramine 、792071)のような固体正孔輸送層(HTL:hole transport layer)を使用することで、電解質溶液中のペロブスカイト錯体の安定性の問題を解決できることを報告しました14。この研究で太陽電池のVoc はTiO2膜の膜厚(0.6~1.4 μm)に依存し、最も薄い0.6 μmのTiO2膜で9.7%のPCEが得られました。意外なことに、ペロブスカイト太陽電池の動作にHTLを追加する必要はありませんでした。Etgarらは、MAPI上に金の対電極を直接堆積させた、ホール伝導体を持たないペロブスカイト太陽電池を作製し、1000 W/m2のAM1.5G光の下で5.5%、100 W/m2の場合は7.28%のPCEが得られることを示しました15。2012年にはさらなる進展がみられ、Leeらが、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒とするPbCl2とヨウ化メチルアンモニウム(MAI)の前駆体溶液から形成したペロブスカイトとspiro-MeOTADのHTLで構成された全固体型太陽電池を報告しました。この太陽電池のPCEは約8%でした16。また、この研究では、電気絶縁性のAl2O3の代わりにn型TiO2半導体を使用することで、PCEが10.9%まで上昇することも明らかにされています。この場合、活性ペロブスカイトは(CH3NH3)PbI2Clとされていましたが、その後の研究で、塩素ドープヨウ化鉛メチルアンモニウム[(CH3NH3)Pb(I3-xClx), CMAIP]であった可能性が高いことが報告されています17。初期の研究では全固体型ペロブスカイト太陽電池のHTL材料としてspiro-MeOTADが使用されていましたが、その後は他のHTL材料も使用されています18,19,20,21,22。
ペロブスカイト堆積法
文献から、ペロブスカイト系太陽電池の性能がペロブスカイト層の堆積方法に依存することが示唆されています。例えば、BurschkaらはMAIと無機鉛化合物の双方を含む前駆体溶液からではなく、段階的に活性ペロブスカイト層を形成することで12.6%~15.0%のPCEを達成しました23。この研究では、最初にDMFを溶媒とするPbI2 1M溶液から膜厚350 nmのTiO2薄膜にPbI2を堆積し、続いて2-プロパノールを溶媒とするMAI溶液との反応で活性ペロブスカイト材料を作製しました。Liuらは、PbCl2とMAIを10−5 mbarで同時に気相成長させることで活性ペロブスカイト層を作製できることを報告しました24。気相成長法で作製したペロブスカイト層を使用した電池では15.4%のPCEが得られ、DMFを溶媒とする溶液中でPbCl2とMAIを処理した場合のPCEは8.4%でした25。また、溶液法で堆積させたPbI2の上にアンモニウム塩MAIを気相成長させる方法も報告されています26。Jeonらはその後、ジメチルスルホキシド(DMSO)を追加したγ-ブチロラクトン(γ-BL)を溶媒とする溶液中で臭素ドープヨウ化鉛メチルアンモニウム [(CH3NH3)Pb(I3-xBrx) x = 0.1~0.15]27を堆積させて太陽電池を作製すると、16.2%のPCEが得られることを示しました。この場合、中間のDMSO錯体を通じて均一かつ高密度のペロブスカイト層が形成されることが、高いPCEを得るために重要であると報告されています28。これらの研究は、活性ペロブスカイト層の作製には多様な方法を用いることが可能で、堆積方法の選択が太陽電池デバイスの性能を大きく左右することを示しています。
PCE向上のための新材料
近年、PCEを向上させる目的で、太陽電池に使用される構成材料の多様な組合せが試みられています。2014年、ZhouらはYTO(yttrium-doped TiO2)を電子輸送層(ETL:electron transport layer)、PEIE(polyethyleneimine 80% ethoxylated)修飾ITO(indium tin oxide)をアノードに使用し、湿度を高度に制御しながら溶液法でCMAPIを堆積させることで、最高19.3%のPCEが得られるデバイスを作製しました29。しかし、この研究で作製された平均的デバイスのPCEは16.6%であり、逆バイアススキャンで高いPCEが測定されたことに注意が必要です。電流-電圧(J-V)特性のヒステリシスのため、逆バイアススキャンはPCEを過大評価します30。逆バイアススキャンだけを用いたことによる過大評価の値を除外すると、標準的なAM1.5Gの下でのPCEはJeonらが報告した17.9%が最高です8。この報告で、Jeonらはポリトリアリルアミン(PTAA)をspiro-MeOTADの代わりにHTLとして使用し、MAPBrとヨウ化鉛ホルムアミジニウム(FAPI)の混合ペロブスカイト(FAPI/MAPBrのモル比17:3)を光活性材料として使用しました。太陽電池デバイス用可視光吸収材料としてペロブスカイトが使用されてからわずか6年ですが、これらデバイスのPCEは、低コストのシリコン型太陽電池とほぼ同じ値を示します。
参考文献
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