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Tutorial:フォトニック光学材料

はじめに

フォトニクスとは、電子の代わりに光子(フォトン)を用いて情報を伝達する技術であり、エレクトロニクスに類似した技術です1,2。フォトニクスは、エレクトロニクスと比較して、帯域幅が広く、応答速度が高く、外来電磁波によるノイズが少ないという利点があり、現在、そして未来の情報・画像処理技術の多くの分野において応用の可能性を秘めています3-7。非線形光学(NLO:nonlinear optical)過程の役割は、フォトニクス技術に必要な鍵となる機能を提供することです。光がNLO活性媒質を通過する際に、光の周波数、位相、振幅、透過性などの特性を変化させる能力は、フォトニクスにおいて有用となりえる現象の一例です。このように、非線形光学分野の進歩は、フォトニクス技術の進歩に直接、影響を与えています。

クリスタルグレード材料

ヨウ化セシウムや臭化ランタンなどの無機ハロゲン化物は、医療用画像処理などに用いられるシンチレーション検出器の結晶材料として広く用いられています。また、シンチレーション検出器は、ガンマ線の検出などにも使用されています。シンチレーション検出器は、ガンマ線を結晶材料に吸収させて発光させる装置です。発光量は、結晶に当たった放射線の量に比例します。この装置に使用される結晶は、高純度でなくてはなりません。医療用機器では、結晶の性能を上げるためにタリウムを添加することがよくあります。

有機NLO材料

有機非線形光学の分野は、1970年の開発のきっかけ以来、長い道のりを歩んできました。この年、Davydovらは、ベンゼン環で架橋された電子供与基と電子受容基を持つ有機分子で強い第二次高調波発生(SHG:second harmonic generation)が起こることを報告しました8。一般に、二次非線形性は、図1に示すような、偏心構造を持つ有機分子に起因します。このようなプッシュプル型発色団は、大きな光非線形性を得るために特別に調整され、新しい電子技術やフォトニクス技術に応用されています。無機単結晶は高価で、高品位に成長させることが難しく、電子デバイスへの組み込みも容易ではないため、既存技術から有機NLO材料を利用する技術に置き換わりつつあります9

図1.非線形光学(NLO)、プッシュプル型発色団の概念図

図1非線形光学(NLO)、プッシュプル型発色団の概念図

有機NLO分子は、芳香環系にドナー・アクセプター基が結合しており、非局在化しているπ電子を介して電荷移動がより多く起こります10。このような色素分子は、分子内の電荷移動により基底状態および励起状態での大きな双極子モーメントを生じ、二次の分子超分極率を示すという特徴があります。

有機物は無機物に比べ、応答速度と三次効果の大きさの両面で優れています4,5,11。最も大きな三次磁化率は、長い骨格に沿ってπ共役を持つ高分子で観測されています。骨格に沿って分布しているπ電子は、他の分子や電場、光などの電気的環境が変化すると、素早く反応します。この素早い反応と、π電子雲が広範囲に広がっていることが、これらの擬一次元系における大きな高速三次応答の要因です。

有機高分子は、加工や製造が容易であること、金属、セラミックス、半導体およびガラスとの相性が良いこと、機械的強度が高いこと、非線形光学特性を柔軟に調整できることなどから、この10年間、光学部品として使用することが増える傾向が見られました12。非線形光学(NLO)活性を示す材料の第一条件は、中心対称性をもたないことです。ポリマーベースのNLO材料では、発色団を様々な方法でポリマーマトリックスに組み込むことができます。初期の取り組みでは、ゲスト―ホスト系に焦点が当てられていました。あるいは、発色団を側鎖としてポリマー骨格に共有結合させたり、ポリマー骨格の一部としたりすることで、長期安定性が著しく向上し、実用デバイスにも使用できます12,13

最近では、非中心対称性構造をもち、大きな二次NLO応答をもたらす静電自己組織化単分子膜(ESAM:electrostatic self-assembled monolayer)の形成技術の研究が盛んに行われています14-16。この手法の利点は、ガラス状高分子の電場配向(ポーリング)とは対照的に二次の非線形感受率χ(2)が長期間安定であること、ラングミュア・ブロジェット法よりも厚い(数十ミクロン)膜が得られること、さらに共有結合自己組織化法よりも容易に作製できることなどです。ESAM法では、ポリアニオンとポリカチオンの水溶液に基板を交互に浸漬して多層膜を形成します。ポリカチオン、ポリアニオンのいずれか一方、あるいは両方に分極性発色団、すなわち活性高分子電解質を含有させることができます。他にも特性に影響する要因はありますが、高分子電解質の選択は、これらの連続層における発色団の配向を強めたり消滅させたりし、ひいては二次NLO応答に著しい影響を与えることがあります。

プラスチック光ファイバー

一般的な高分子材料、そして特にフッ素樹脂は、プラスチック光ファイバー(POF:plastic optical fiber)、導波路、光フィルター、光ファイバーの中心部に回折格子を形成したファイバーグレーティングおよびその他の光デバイスに使用するために広く研究されています17-19。フッ素樹脂を用いた光デバイスは、対応する無機光デバイスと比較して、加工が比較的容易、軽量、振動による歪みに無関係、低コストで、特定のデバイスパラメータに適した特性を得る設計と合成の広い適用範囲などの利点を有しています。図2に代表的な光ファイバーの写真を示します。POFの場合、ファイバーの開口数(NA:コア(中心部)内で全反射を起こす最大の入射角を表す値)を最大にするために、最も屈折率の低いフッ素樹脂がクラッド(被覆)材として使用されます。開口数とは、光ファイバーが光をより効率的に閉じ込める能力を示す指標で、NA = [(ncore2ncladding2)]1/2で表されます。POFの製造において考慮すべき他の課題には、伝送波長における透明性、クラッドとコア材料の熱膨張率のマッチング、使用温度範囲における熱安定性などがあります20

図2.典型的な光ファイバーの写真

図2典型的な光ファイバーの写真

参考文献

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