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細胞培養のコンタミネーションに関するトラブルシューティング

細胞培養のコンタミネーション:概要

「細胞培養のコンタミネーション」と言えば、通常は細胞に混入した細菌や濁った培地を思い浮かべますが、培養フラスコ中の招かざる侵入物にはさまざまなものがあります。ウイルスや化学物質による汚染も培養の健全性に重大な影響を及ぼすおそれがあり、細胞株が交差汚染していないことも結果の再現性にとって極めて重要です。

細胞汚染はどの程度広がっているのでしょうか?FDAやATCCなどによる研究によれば、マイコプラズマによる汚染だけでも、現在の細胞培養の5~30%に及ぶと推定されています。ある研究によれば、一般的な細胞株のウイルス汚染の発生率は25%を超えています5。また非細胞障害性のウイルスは、培養の健全性でその存在を確認することが難しいことから、マイコプラズマよりも検出をすり抜ける可能性が高いと考えられます。

細胞のコンタミネーション

図1.細胞のコンタミネーション

特定の汚染物質を制御するためには、検出のしやすさが鍵となることがあります。細菌、真菌および酵母による汚染は肉眼で見えることが多く、培養中の細胞をすぐに殺す可能性がありますが、マイコプラズマのように形態的に認識しづらい微生物は特定がより困難です。ウイルスの場合、一般的な光学顕微鏡では全く検出できないため、細胞の原因不明の剥離や健康状態の悪化、あるいは細胞死そのものがしばしば発見のきっかけとなります。

近年、生物学のコミュニティにおける最も大きな関心事の1つに、研究用細胞株のコンタミネーションや同定の明らかな誤りがあります。この重要なトピックの詳細については、こちらをクリックして、細胞株の交差汚染の原因とその予防策、細胞株の同一性の評価方法をご覧ください。

コンタミネーションの種類

細菌、真菌、酵母:
微生物汚染

細菌 真菌 酵母

細菌、真菌(カビを含む)および酵母による汚染は、培養培地の濁りや変色が急激に生じることから、通常は肉眼で確認できます(フェノールレッド添加培地の場合)。標準的な光学顕微鏡でも細菌細胞や真菌構造を確認できるため、培養系を毎日顕微鏡で観察することで、微生物汚染を早期に発見し、最初の兆候が現れたらすぐに適切な処置を行うことができます。特に汚染された培養系をすぐに除去することが、周辺の培養系の保護と、培養インキュベーター、水槽、バイオセーフティキャビネットなどの無菌的な培養環境を保護するために必要です。さらに、日常的および定期的な品質管理スクリーニング手順の一環として、細菌および真菌汚染の検査を実施してください。

微生物汚染の一般的な原因と予防策

マイコプラズマ

マイコプラズマは、細胞壁を持たない細菌属であるため、細胞壁の形成を阻害して細菌増殖を制限するタイプの抗生物質には影響を受けません。それらは、その柔軟な形態と0.15~0.3 µmという細胞サイズにより、孔径0.22 µmのフィルターを使用することが多い標準的な培地ろ過法ではすり抜けるおそれがあります。他のほとんどの細菌汚染とは異なり、マイコプラズマは通常の外見検査では明らかにならず、その形態と極めて小さいサイズから、光学顕微鏡では検出することが困難です。培地中のマイコプラズマの力価は、培地に濁りを生じることなく108 organisms/mLに達することができます。マイコプラズマは通常、感染した哺乳類細胞を殺しませんが、細胞代謝の変化、染色体異常の誘発、細胞成長の鈍化および細胞接着の阻害により、培養に大きな影響を与えます。つまり、感染した細胞株を用いて行ったほとんどの実験の結果は、マイコプラズマから著しい影響を受ける可能性が高いのです。

DAPIやHoechstなどの一般的なDNA検出試薬により、汚染された細胞培養液中のマイコプラズマ(右)を蛍光顕微鏡で検出できる

図2.DAPIやHoechstなどの一般的なDNA検出試薬により、汚染された細胞培養液中のマイコプラズマ(右)を蛍光顕微鏡で検出できる

ラボにおけるマイコプラズマの汚染源は多様であるため、困難が伴うことがあります。特定のマイコプラズマ種はヒトの皮膚でも発見されているため、ウシ胎児血清などの培地添加物の汚染に由来するだけでなく、不適切な無菌操作によって持ち込まれる可能性もあります。  マイコプラズマは、周囲の細胞培養系の間で強い伝染性を持っています。0.22 µmや0.45 µmの孔径を有する標準的な培地ろ過デバイスではマイコプラズマを除去できないため、孔径0.1 µm以下のメンブレンで培地やバッファーをろ過する必要があります。

マイコプラズマ汚染の予防・検出・除去

いったん培養液がマイコプラズマで汚染されてしまうと、ラボの他のエリアにまで急速に広がる可能性があります。マイコプラズマ汚染の管理を成功させるには、優良試験所基準に厳密に従うことが重要です。また、マイコプラズマの定期検査を強く推奨します。最もよく使用される検出法には、マイコプラズマ培養DNA染色法およびPCR検出の3つがあります。私たちはマイコプラズマの検出と除去のためのさまざまなソリューションを提供しています。ラボにマイコプラズマ汚染の疑いがない場合でも、培養液のマイコプラズマスクリーニングのためのルーチンを定めておくことが重要です。

微生物汚染の予防:  その答えは抗生物質?

組織培養では、抗生物質を単独で、あるいは抗真菌剤と混合して日常的に使用しています。医師が処方する治療用抗生物質と同様に、抗生物質の連続使用や不適切な使用は、根絶が困難な耐性菌の発生を引き起こすおそれがあります。将来的に、細胞培養に毒性を示す可能性のある次世代の抗生物質を使用せざるを得なくなるかもしれません。最近の研究では、抗生物質の存在下で培養した細胞の遺伝子発現が変化する可能性について、さらなる懸念が提起されています。

ウイルス汚染

ウイルスは、培養液での検出が最も困難な汚染物質の1つで、ほとんどの研究室にとって現実的ではない顕微鏡検査法を必要とします。これらは患者や宿主動物の細胞に由来することがあり、バイオテクノロジー上、重要ないくつかの細胞株が内在性レトロウイルスを含んでいることもわかっています。  細胞は培養に使用する動物由来材料に混入しているウイルスに感染することも多くあります。ウイルスはサイズが小さいため、培地、血清およびその他の生物由来溶液から除去することは非常に困難です。しかし、ほとんどのウイルスは宿主および組織特異的でもあるため、異種間または異組織間の感染能力には限りがあります。ウイルスは、多くの研究者が認識しているよりも細胞培養に多く見られますが、これらが細胞障害やその他の有害作用を生じない場合、細胞培養に対して重大な交絡因子となるかどうかは不明です。

ウイルス感染した細胞培養を使用する際の主な懸念点は、培養している細胞が影響を受ける可能性よりも、ラボのスタッフが健康被害を受ける可能性があるということです。ヒトやその他の霊長類由来の組織または細胞を用いて作業する場合は、特別な安全対策を必ず講じて、細胞培養からラボのスタッフへのウイルス感染(特にHIV、B型肝炎、エプスタイン・バー、サルB型肝炎ウイルス)の伝播を防ぐ必要があります。危険を及ぼすおそれのある組織、培養、またはウイルスを扱う作業手順に関しては、組織の環境安全委員に相談する必要があります。細胞培養を行うラボのスタッフのためのリスクアセスメントの詳細については、こちらをクリックしてくだい。

細胞培養のウイルス汚染発生率を低減するためのベストプラクティス:
*細胞を採取する生物ソース(サプライヤー、動物)の数を制限してください。
*ウイルスに感染しにくい動物/細胞を選択してください。
*ウイルス試験を実施し、ウイルスフリー細胞株の認証を提供している保管施設から細胞を調達してください。

化学的汚染

細胞培養の非生物的汚染物質は、多くの場合、「化学的」汚染物質に分類されます。  これらの汚染物質は、培地またはバッファーに使用される試薬や水に由来する場合と機器や消耗品に由来する場合があります。  例えば、フリーラジカル、金属イオン、消毒剤/界面活性剤残留物、さらには細菌が存在しなくなった後に残留しているエンドトキシンが挙げられます。

化学的汚染の予防のヒント:
*バッファーや溶液の調製および凍結乾燥試薬の再懸濁には、必ず実験室グレードの水を使用してください。
*再利用可能な実験器具は、徹底的にすすいでから風乾する必要があります。オートクレーブ処理は界面活性剤残留物に効果はありません。
*エンドトキシン試験証明書を提供しているサプライヤーのみから培地、添加剤、血清(FBS、FCS)を入手してください。

汚染を予防・除去するための一般的なヒントと手法

バイオセーフティキャビネット内での作業

バイオセーフティキャビネット内で作業する場合は、空気の流れが無菌環境の維持に重要であることを覚えておくとよいでしょう。後方と前方の両方の通気口を常にきれいな状態にして、効率的な空気の流れを確保してください。オペレーターの袖や手についた汚染物質が移る可能性を最小限に抑えるため、作業を始める前に、必要なすべての材料をキャビネットに保管する必要があります。

空気の流れを確保してから少なくとも20分経過した後に、キャビネットに使用するアイテムを配置してください。ほこりや微粒子がキャビネットに入らないようにするには、まずキャビネットに入れるすべてのアイテムに70%(v/v)消毒アルコールをスプレーしてから、糸くずの出ないワイプで拭く必要があります。作業エリアに入り込んだ微粒子を除去するために、蓋や容器を開ける前に空気の流れが十分に確保されていることを確認してください。

セーフティキャビネット内での作業

図3.セーフティキャビネット内での作業

ピペット操作とエアロゾルの予防

血清用ピペットとも呼ばれる使い捨てのプラスチック製ピペットは、細胞培養に必要不可欠なツールで、1~100 mL容量のものがあります。これらは、無菌を保つために個別に包装されていなければなりません。以下のガイダンスに従うことで、ピペット操作に伴う汚染と安全性リスクを最小限に抑えることができます。

  • 自動ピペットエイドを使用し、各ピペットエイドをひとつのキャビネットでの使用に制限してください。  汚染を避けるために、ピペットエイドを定期的に分解して部品を消毒してください。ピペットエイドフィルターを十分に保管し、定期的に交換してください。
  • 特に培地を移す場合は、できる限り(上部に綿栓の付いた)プラグピペットを使用してください。  ピペットプラグの中まで液体を吸引しないでください。誤ってプラグを濡らした場合は、速やかにピペットエイドフィルターを交換してください。
  • 包装の一部を剥がし、後端をピペットエイドに固定してからペーパースリーブを外すことにより、血清用ピペットに触れないようにしてください。
  • 汚染エアロゾルの発生を避けるために、培地またはピペット内で気泡が生じないようにしてください。

消毒

培養廃棄物、作業台の表面および装置の消毒/汚染除去の方法は、汚染リスクを最小限に抑えるだけでなく、ラボのスタッフにも安全でなければいけません。濃縮型消毒剤を使用する際は、手袋や保護メガネなど常に適切な個人用保護具(PPE)を着用してください。手袋は、取り扱う物質から保護できるものを選んでください。メーカーの製品一覧表から、作業に最適な手袋を特定することができます。主な消毒剤のグループとそれぞれの長所は以下のとおりです。

次亜塩素酸ナトリウムまたは漂白剤

  • 一般用途の優れた消毒剤
  • ウイルスに対して有効
  • 金属に対する腐食性-遠心分離機などの金属面には使用不可
  • 有機物により速やかに不活化されるため、頻繁に新しく調製する必要がある
  • 市販の漂白剤を使用して10%(v/v)溶液を作成し、廃液または表面消毒用に使用

アルコール(エタノール、イソプロパノールなど)

  • 有効濃度:エタノール70%、イソプロパノール60~70%
  • 細菌に対して有効。エタノールは大半のウイルスに有効だが、ノンエンベロープウイルスには無効
  • イソプロパノールはウイルスに対して無効
  • アルデヒドは刺激性があり、使用制限が必要

フェノール系消毒剤は、欧州殺生物性製品指令の審査プログラムの一部としてサポートされていないため、使用を避ける必要があります。

健康な細胞を日常的にモニタリングする方法

細胞培養のモニタリングは、日々の細胞培養において重要な役割を担っています。このチュートリアルでは、細胞のモニタリングの基本(健康な細胞の外観、細胞コンフルエント、細胞増殖の種々のフェーズなど)について説明します。また、細菌汚染とマイコプラズマ汚染の一般的な指標についても説明します。

関連製品

参考文献

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