細胞培養従事者にとって、インキュベーターからディッシュを取り出したら死細胞でいっぱいだった、ということほど悔しいことはないでしょう。問題の真相を突き止めることは非常に困難で、時間もかかりますが、地道な取り組みと適切な記録管理によって、培養細胞の死滅を診断し回避することが可能になります。
細胞死は、主に受動的なものとプログラムされたものの2つの形態で生じます。受動的な細胞死であるネクローシスは、突発的かつ重篤な環境ストレスに起因するATP非依存性のプロセスで、細胞膨張を招いて、最終的には細胞溶解に至ります。これに対して、プログラム細胞死はATP依存性です。そのひとつであるアポトーシスは、外因的または内因的に誘発され、細胞収縮、細胞質のCa2+濃度上昇および膜のブレッビングを引き起こします。別形態のプログラム細胞死としてオートファジーがあります。オートファジーは、細胞のリソソーム系を介して細胞成分を分解および再生利用することにより細胞生存を正常に促進するプロセスです。しかし、極端なストレス条件下において、オートファジーは細胞死を引き起こすおそれがあります。ミトコンドリア、小胞体およびリボソームを包含する小胞が存在し、それらをリソソーム系に運びます。最近の研究において、アポトーシスとネクローシスは、10以上も存在する異なる形態の細胞死の両極であること、またこれらの2つのプロセスの間にはかなりの量のクロストークがあることが示唆されています。
図1.生/死細胞の二重染色
細胞死の数々:細胞死の用語集
アノイキス:マトリックス相互作用の喪失が原因で生じる接着細胞のアポトーシス。 腫瘍抑制の主要なメカニズムと考えられる。
アポトーシス、外因性:FASなどの膜貫通受容体の連結反応から始まる、細胞外シグナルによって誘発されるプログラム細胞死
アポトーシス、内因性:カスパーゼに依存する場合もしない場合もあるプログラム細胞死。ミトコンドリア膜電位が改変されるという特徴がある
オートファジー性細胞死:細胞質内容物の無差別消化を伴う細胞質空胞化
フェロトーシス:鉄依存性、非アポトーシス性の酸化的細胞死であり、システインの取り込みによって誘発される
ネクロトーシス:プログラムされたネクローシスの形態。RIP1を経由するTNFR1シグナル伝達を特徴とし、カスパーゼ8が阻害された場合に生じる
ネクローシス:寿命と関係のない細胞死。多くの場合、感染または傷害に起因する
パータナトス:過剰なポリメラーゼ活性によるATPおよびNAD+の枯渇
部分的破壊/角化:細胞構造と細胞機能の恒久的な変化。通常はカスパーゼ依存性。 例としては、赤血球の除核、水晶体線維の形成および皮膚細胞の角質化などがある
パイロトーシス:炎症条件下で観察されるカスパーゼ1媒介性アポトーシス。HIV/AIDSにおけるT細胞の消耗に関与
二次性ネクローシス:アポトーシスの結果として生じるネクローシス。細胞培養の際によく見られる
細胞死の評価とトラブルシューティング
培養容器を注意深く顕微鏡で観察すると、細胞のクリネーション、ブレッビング、細胞の「ゴースト」または膜状の残骸からなるデブリを特徴とする明白な細胞死が認められることがあります。明白でない場合には、培養における細胞死を評価するさまざまなアッセイがあります。その中で最も利用しやすいのは、膜が無傷で健康な細胞が色素を排除するという原理に基づくトリパンブルー色素排除アッセイで、分離細胞や浮遊細胞において血球計により迅速に実施されます。生死判別アッセイは、生細胞を識別および定量するために使用できます。酵素活性、ATP産⽣、細胞膜機能および細胞接着などの細胞機能を測定することにより、細胞の生死を評価します。
図2.血球計とトリパンブルーを使用した細胞数計測
参考文献
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