細胞増殖:概要
細胞培養から正確なデータを収集するには、細胞を適切に増殖させることが重要です。細胞は、懸濁液で培養することも、組織培養フラスコ、培養シャーレまたはマルチウェルプレートなどの培養容器に付着する単層として培養することもできます。培養方法は、細胞の固有の表現型と由来組織によって決まります。したがって、血液由来の細胞は一般的に懸濁液中で増殖し、固形組織由来の細胞は通常は単層で増殖します。接着細胞と浮遊細胞を共培養することも可能です。
図1.細胞増殖のフェーズ
単層として増殖する細胞の場合、コンフルエンスは、顕微鏡で観察したときに細胞層によって覆われている培養容器の表面積の割合として定義されています。例えば、50%コンフルエンシーは、シャーレやフラスコなどの表面の半分が細胞で覆われていることを意味します。浮遊細胞の場合、増殖の進行は一般に、細胞株または細胞の種類に対して推奨される細胞密度によって測定されますが、「コンフルエンシー」は濁度の増加および培地の色によって評価される場合があります。
培養中の細胞増殖は一般に4つのフェーズに分けられます。各フェーズは、細胞数の対数として経時的にグラフ化すると、シグモイド(S字型)曲線を描きますが、各フェーズに費やされる時間は個々の細胞株や培養系によって異なります。
誘導期-細胞は培養環境に順応中であり、この期間には分裂しません。細胞の付着は、一般に培養開始から24時間以内に生じます。このフェーズの長さは、培養開始に用いた細胞の増殖相と播種密度によって決定されます。
対数増殖期-細胞が活発に分裂しており、細胞集団の増殖の評価や全般的なデータ収集を行うのに最適な段階です。対数増殖期の後期は、細胞の継代(継代培養)に最も適した時期です。その後は過密状態が細胞ストレスにつながる可能性があります。
プラトー(静止)期-このフェーズにおける細胞の増殖は、細胞が100%コンフルエンシーに近づくにつれて減速し、活発な細胞周期にある細胞は10分の1未満になります。細胞はこの段階で最もダメージを受けやすくなります。したがって、この段階に入る前、または入口の段階で細胞を継代させるために、注意深く観察することが必要です。
衰退期-細胞周期の一般的なこととして、このフェーズでは細胞死が優勢であるため、生細胞の集団は減少します。
培養中の細胞増殖を評価する際には、正確な細胞の計数が最も重要です。数え方を誤ると、細胞の健康状態に関して誤った結論につながる可能性があるためです。細胞数は、血球計算盤を用いて測定することができます。ただし、細胞が電気センサー内の開口部を通って1つずつ流れていくコールター原理を利用した自動セルカウンターが、最も正確な細胞数を得られます。
図2.Scepter™ 3.0ハンディ型自動セルカウンター
注意して観察する
細胞増殖の問題を解決するためには、まず問題があることを認識しなければなりません。増殖の問題の多くは微妙なものであるため、実験中は、一部だけでなくすべての培養容器を定期的かつ詳細に観察する必要があります。検鏡による簡易的な評価だけでは不十分な場合があります。多くの特異的な増殖パターンは、細胞を固定染色しないと明らかになりません。培地やその他の試薬を定期的に検査して、汚染されていないか調べてください。
正確に記録する
細胞の増殖不良を診断しトラブルシューティングを行う際には、培養に関するあらゆる面について十分に記録を取ることで、時間、費用、またノックアウト株のような独自の改変細胞を節約することができます。例えば、細胞密度を標準化し、ストック細胞の継代数を記録することは、ストックが問題の原因である可能性が高いかどうかを知るために不可欠です。同様に、特定の培地ロットが原因であると結論付ける前に、どの培養シャーレでその培地を使用したかをまず確認しなければなりません。
記録すべき重要な情報には、すべてのストックバイアルに関して、入手元、同一性および汚染がないことの証明、継代数、細胞密度、ならびに凍結および保存の手順が含まれます。使用したすべての試薬について、成分(および濃度)、ロット番号および最初に開封/使用した日も記録する必要があります。すべての培養容器のロット番号も記録する必要があります。細胞培養のあらゆる側面に関する詳細なプロトコルを標準化し、それに従わなくてはなりません。ストックしているすべてのバイアルや培養容器に正確かつ詳細なラベルを貼ることが不可欠です。インキュベーターの洗浄や保守点検を行う時期、CO2ボンベを交換する時期、また培養室で最後にマイコプラズマのスクリーニングを行った時期など、細かい点に注意し、普段と違うことがあればすべて記録してください。
損失を減らすタイミングを見極める
問題の正確な原因を突き止めることは、問題を解決することほど重要ではない場合があります。したがって、正確な問題を特定しようとするよりも、増殖不良の原因となりうる複数の要因をまとめて是正するほうが、コスト効率および時間効率が高くなる可能性があります。例えば、ストックから細胞を新たに出し、培地、血清、緩衝液などもすべて新しくして新たに開始するほうが、原因が解明されるまでそれぞれの新しいロットを別々に試すよりも合理的かもしれません。
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