熱電材料
熱電材料は熱および電気エネルギーを相互に変換する特性を持つ固体材料であり、幅広い種類の物質が存在します1,2。この性質から主に次の二つの応用に用いられています。一つは加熱、冷却デバイスにおける温度勾配の生成であり、もう一つは廃熱からの電気エネルギーの生成です。
熱電材料の性能は無次元の性能指数である「ZT」で評価され、次の式で表されます。
ZT = S2σT/κ
S = ゼーベック係数
σ = 電気伝導率
κ = 熱伝導率
T = 絶対温度
ゼーベック係数もしくは熱電能(thermopower)は、生成した電位差を温度差で割った値であり、一般的にμV/Kで表されます。そのため、高いZTを得るには、高い電気伝導率と大きなゼーベック係数をもち、同時に熱伝導率を抑える必要があります。
図1に見られるように、典型的な熱電モジュールは直列に接続したn型とp型の熱電材料から構成されます。 n型の材料は電子をチャリアに持ち、負のゼーベック係数を示します。一方でp型は正のゼーベック係数をもち、ホールを電荷キャリアとします。モジュールを横断するような温度勾配によって低温側にキャリアが拡散し、熱電位差が生成します。
図1典型的な熱電モジュールの模式図。n型(赤)とp型(青)材料は直列に接続され、これらをセラミック基板で上下からはさみます。電気エネルギーの生成の場合、モジュールの一方を加熱するとキャリアがモジュールを拡散し、電流が発生します。
ZTはモジュールの駆動温度に関係し、いずれの温度範囲においても、過去数十年の間、典型的な熱電材料のZTはおよそ1で頭打ちとなっています。たとえば、室温(300K)であればアンチモン・テルルやビスマス・テルルであり、650Kであれば鉛・テルルやスクッテルド型(skutterudite)アンチモン化合物、高温(1000K)の場合はシリコン-ゲルマニウム合金です。
一般的に密接に連動し合うSやσ、κを、それぞれ個別に制御できるようにすることが、高性能熱電材料の開発における大きな課題の一つです。この解決策の1つに、ナノ構造化によって結晶格子の熱伝導度への影響を抑える方法があります。ナノスケールで結晶粒界を導入することによってフォノンは散乱され、熱伝導が低減されます。この方法によってBi-Sb-Te合金でZTの著しい上昇が見られています3。 この例では、ナノ粒界を持つ粉末はインゴットバルク材料を機械的粉砕(ボールミル)し、得られた粉末を真空・高圧で圧縮することでZTが約1.5のバルク試料を作製しています。また、PbTe-AgSbTe擬二元系材料において、連続した境界面を持ったAg-Sbの含有量が高いナノスケールの相が含まれている場合、低い熱伝導度と高いZT値(>1)を示します。これは、バルクマトリックス中にナノスケールの析出相が生じることで起こります4。近年では、PbTeにTlをドープして電子構造を調整することで、ZTが約1.5の熱電材料が得られています5。
熱電材料のバルク合成は、粉末冶金や高温溶融などの標準的な冶金技術を用いて行われます。不純物は導電率や電荷キャリア濃度に悪い影響を与えるため、材料物性の制御には高純度前駆体の利用が不可欠です。出発物質に高純度材料を用いることで最終生成物の組成を一定に精密に制御することが可能であり、正確なドーピングや置換によってバンド構造の調整を行うことができます。
熱電材料の合成法には、ソルボサーマル法やポリオール還元法などの溶液合成法もあります。これらの方法では溶媒や界面活性剤、還元条件によって大きく異なる結果が得られますが、いずれも有機金属化合物や硝酸ビスマスや酢酸鉛などの金属ハロゲン化物のカチオン性溶液から粉末を沈殿する方法です6-7。化学合成法はナノ材料を直接得ることが出来ますが、さらに、熱伝導と電気伝導との独立した制御や、フォノン散乱による熱伝導率の低減が可能です。
信頼性の高いエネルギー源の必要性から、持続可能性をもつ新たなエネルギー源の探索と共に、エネルギー生成効率技術の向上に注目が集まっています。熱電物質の利用は代替エネルギー技術の一つの方法であり、廃熱を電気エネルギーに変換することでサイクル機関の効率を大幅に向上することが可能となるでしょう。また、このエネルギー回収の方法は自動車や電子機器からの排出エネルギーを再利用する際にも用いることが可能かもしれません。
参考文献
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