カーボンナノファイバー(CNF)の物性と応用
David Burton, Patrick Lake, Andrew Palmer
Applied Sciences, Inc., Cedarville, OH
気相成長炭素繊維(VGCF:vapor grown carbon fiber)製造技術を用いて合成されたカーボンナノファイバー(CNF:carbon nanofiber)についてご紹介します。
はじめに
Pyrograf®-III気相成長カーボンナノファイバー(CNF:carbon nanofiber)は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT:multi-walled carbon nanotube)の一種であり、気相流動法(the floating catalyst method)で製造されます。カーボンナノファイバーは不連続であり、高度にグラファイト化され、大半のポリマー処理法とよく適合し、等方的にも異方的にも分散可能です。CNFは機械的特性に優れ、電気伝導性および熱伝導性が高い特性を有するため、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、エラストマー、セラミックス、金属などの幅広いマトリックス材料にこれら特性を付与することができます。また、カーボンナノファイバーは特有の表面状態を持ち、表面官能基化をはじめとする表面改質が容易であり、用途やホストであるポリマー材料に応じたナノファイバーを作製することができます。カーボンナノファイバーは、高い流動性の粉末(free-flowing powder、通常99 mass%は繊維状)として得られます。
カーボンナノファイバーの概要
Pyrograf®-III気相成長カーボンナノファイバーは、他では入手することのできない独特の形態を持っています(図1)。個々のナノファイバーはそれぞれ1つの触媒粒子から成長したもので、ファイバーの長さ方向に対して約25度の角度で積層した、結晶性の高いグラファイトのbasal面からなる円柱状のファイバーが、中空のコアを取り囲んだ構造をしています。この形状は「stacked cup(積み重ねたコップ)」または「herringbone(ヘリングボーン)」と呼ばれ、ナノファイバーの内側および外側に沿ってエッジ面が露出した構造となっています。これらのエッジ部分はグラファイトのbasal面より反応性が高いため、ファイバー表面の化学修飾が容易となり、ポリマー複合材料への添加量を最大化して機械的補強を行うことができます。この開口構造により、異なる種類の原子を素早く層間に挿入および脱離できるようになることから、伝導性の調整が可能です。
図1カーボンナノファイバー(PR-25)のHRTEM写真。ナノファイバーの内側と外側の表面にエッジ部分が露出しているのが分かります1,2。
アルドリッチより販売されているカーボンナノファイバーは、グレードに応じて125~150 nmの平均直径を有しており、長さは50~100 μmです。ナノファイバーの直径は、連続あるいは粉砕された従来型のカーボンファイバー(5~10 μm)よりはるかに小さく、カーボンナノチューブ(1~10 nm)よりかなり大きい値を持ち、さらに、これら材料と同様の利点を持っています。これらカーボンナノファイバーでは、表面状態に様々な特性を与えるために製造後に処理を加えています。まず、製品番号719811は、熱分解によって表面の炭化水素を除去し、化学結合に利用できるような初期状態の表面を持っています。この製品は、他の2つのグレードの製品の前駆体としても使用されています。製品番号719803は、1500℃で熱処理した、機械特性と電気特性とのバランスが優れた材料です。製品番号719781は、2900℃で熱処理した、触媒を全く含まないナノファイバーであり、複合材料に高い熱伝導特性を与えます。各製品の代表的な物性を表1に示します。
カーボンナノファイバーの特性および用途
電気伝導性
遠藤らが最初に報告したデータによれば3、高度にグラファイト化した気相成長カーボンファイバーの室温での固有伝導度は5 × 10-5 Ω・cmで、これはグラファイトの抵抗率に近い値です。カーボンナノファイバー/ポリマー複合材料の電気伝導は、事実上カーボンナノファイバーのネットワークを経由するものであるため、少ない添加量で高い導電性の複合材料を得ることができます。ファイバーを十分に分散させると同時にその長さを維持することで、電気伝導度とアスペクト比が共に高いCNFを用いた場合、従来の導電性充填剤より少ない添加量で、同等の導電性を持つ複合体が得られます。その上、添加量の調節によって、様々な電気抵抗値を有する複合材料を作製することができます。このような特性は、異なる抵抗率が要求される、静電散逸(ESD、106~108 Ω・cm)や静電塗装(104~106 Ω・cm)、EMI遮蔽(101~103 Ω・cm)、落雷保護(<10 Ω・cm)のような用途で特に重要です。
図2は、様々なCNF添加量とせん断条件下で得られるパーコレーション曲線を示しています。複合材料の処理において加えるせん断レベルを高くすると、パーコレーションしきい値が高くなることがわかります。
図2CNF複合材料の体積抵抗率とCNFの重量添加量との関係4
機械的特性の向上
個々のナノファイバーの直接測定は最近になってようやく可能になりましたが、限定的な量でしか再現性の良い測定結果が得られていません。Ozkanらは、個々のカーボンナノファイバーの引張強度を直接測定することに成功し5、環状の横断面を基準として、強度はグラファイトのマイクロファイバーに近い8.7 Ggaに達することがわかっています。カーボンナノファイバーの弾性率は、より大きいクラスのカーボンナノファイバーや肉眼で見える大きさの気相成長カーボンファイバーを直接測定した結果から、600 Gpaと推測されています6。カーボンナノファイバーを高分子複合材料に加えることにより、ベースポリマーの引張強度、圧縮強度、ヤング率、層間せん断強度、破壊靱性、振動減衰性を向上させることができます。その度合いは、高分子の種類や、分散度、処理工程によって異なります7-12。
図3CNFベース複合材料の機械的特性
熱特性
カーボンナノファイバーの熱伝導度も、前述と同様に、より大きいクラスのカーボンナノファイバーや肉眼で見える大きさの気相成長カーボンファイバーを直接計測した結果に基づいて、2000 W/m・Kと推測されています。既に挙げた3種類のカーボンナノファイバーの中では、熱処理済ナノファイバー(+2900℃、719781)のみが、高分子複合材料の熱伝導度を著しく向上させる効果があります。LafdiとMatzekは、エポキシ樹脂を気相成長CNF含有(20 wt.%)複合材料にすることで、その熱伝導度を0.2 W/m・Kから2.8 W/m・Kまで向上させています13。このように、強度や剛性の場合とは異なり、高い熱伝導度を得るためにはマトリックス材料との親和性が必ずしも高い必要はないことを示しています。
熱可塑性材料におけるカーボンナノファイバーの難燃化特性に注目している研究者もいます14-15。カーボンナノファイバーを添加した複合体は、炎に暴露したときの熱放出速度のピークが遅くかつ低くなり、煙放出が減少し、溶融したポリマーがドリップ(滴下)したり溜まったりすることもなくなります(図4)。
ポリマー複合材料用難燃化剤としてのCNFの性能については、NIST(米国国立標準技術研究所)のウェブサイトでご覧いただけます。
・CNFs in Flexible Polyurethane Foams(https://www.nist.gov/publications/flexible-polyurethane-foams-nanocomposites)
・CNFs Cut Flammability of Upholstered Furniture(https://www.nist.gov/news-events/news/2008/12/carbon-nanofibers-cut-flammability-upholstered-furniture)
・NIST(米国国立標準技術研究所)のウェブサイト
図4タルクおよび粘土と比較したCNFの難燃化効果。NISTの許可を得て掲載(Polymer for Advanced Technologies, June 2008)。
さらに、グラファイトは熱膨張が小さいため、カーボンナノファイバーを添加したポリマー複合材料はマトリックス材料単独の場合よりも非常に小さい熱膨張係数を持つことが実際に報告されています16(図5)。
図515 vol%のCNFを含む複合材料とマトリックス材料の熱膨張係数(CTE:coefficient of thermal expansion)の比較
参考文献
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