プリンテッド有機光検出器のためのナノ粒子系酸化亜鉛電子輸送層
Gerardo Hernandez-Sosa1, 2, Ralph Eckstein1, 2, Tobias Rödlmeier1, 2, Uli Lemmer1, 2, 3
1Lichttechnisches Institut, Karlsruher Institut für Technologie, Engesserstrasse 13, 76131 Karlsruhe, Germany, 2InnovationLab, Speyerer Str. 4, Heidelberg, Germany, 3Institut für Mikrostrukturtechnik, Karlsruher Institut für Technologie, Hermann-von-Helmholtz-Platz 1, 76344 Eggenstein-Leopoldshafen, Germany
Material Matters, 2016, 11.2
はじめに
溶液処理した機能性材料の領域の最近の進展は、多様な薄膜光電子デバイスの開発につながっており、工業用および消費者向けの電子機器の分野で非常に期待されています.1,2。これらのデバイスは、センシング3、エネルギーハーベスティング(環境発電)4 、エネルギー変換の新しい用途を開発する中核技術になっており、他にはないような機械的柔軟性と軽量性の組み合わせが見られます5。有機フォトダイオードの領域では光センサーの研究が成長しており、特に多様な基材の上にプリントした高性能多層型デバイス構造の開発に焦点が絞られています6,7。我々は、ナノ粒子(NP:nanoparticle)系インクから堆積させた酸化亜鉛(ZnO)の正孔ブロック層を利用してバルクヘテロ接合(BHJ:bulk-heterojunction)活性材料を用いた有機フォトダイオード(OPD:organic photodiode)の作製について報告します。ゾルゲル法または前駆体を用いる層堆積法と比較して、ナノ粒子を用いることで加工性について大きな利点が得られ、特に薄膜の堆積で要求される条件の影響なしに、ナノ粒子の電子的および光学的な特性を精密に調節することが可能です。
光検出器の性能指数の図
通常、有機BHJ光検出器と太陽電池には同じデバイス構造と材料の組み合わせを使用します。ただし、用途の焦点が異なるため、最適化が要求される性能指数も異なります。一般に、太陽電池の特性が短絡電流密度(JSC)、開放電圧(VOC)、曲線因子(FF)、デバイスの効率(η)で評価されるのに対して、フォトダイオードの特性は逆バイアス時の電流のOn/Off比、比検出能力(D*)、帯域(BW)、スペクトル応答(SRで評価されます。式1のように、SR はワット当たりのアンペア(A/W)で、太陽電池の外部量子効率(EQE)に類似した値です:
ここでIphは波長λ当たりの生成した光電流、q は電子の電荷、c は光速、 h はプランク定数です。
太陽電池とは異なり、光励起されたキャリアを多数収集できるようにするため、フォトダイオードは通常、逆バイアスで作動します。フォトダイオードのOn/Off比は、光照射および暗条件下で特定のバイアス電圧をかけたときに測定される電流の比として定義されます。式2のように、暗電流密度(Jdark)を用いて電気ノイズ(Snoise)を推算することが可能で、このノイズはOPDのショットノイズに強く影響されます。。式3で明らかなように、Snoise が SR と比較して小さいと、 D*が高くなりますD*は光検出器の性能指数の1つで、デバイスが検出できる最小の信号を特徴付けます。
フォトダイオードの動的応答の特性はBWで与えられ、過渡光電流測定や、励起光源の周波数を変えることで得られます。BWは通常、約50%の電力降下に相当する–3 dBでのカットオフ周波数で定義されます。
完全に印刷法で作製した光検出器の結果
実際には、光検出器のOn/Off比を増加させ、その結果としてD*を増加させる主な目的は、暗電流を抑制することです。暗電流の抑制は、デバイス構造内部で選択的に電子をブロックする中間層を導入することで、活性層/電極界面における電荷の再結合を回避すると同時に、電極のエネルギー準位を活性材料に合わせて調節することで達成できます。ZnOナノ粒子は、光電子デバイス内で非常に優れた電子輸送特性を示します8,9。本研究で示すフォトダイオードは、酸化インジウムスズ(ITO)で被覆したガラスまたはPET基材の上に逆構造で作製されたデバイスです。ZnOナノ粒子を使用した電子輸送層(ETL:electron transport layer)は、スピンキャスト法、インクジェットプリンティング、エアロゾルプリンティングで作製されています。ETLを完全に乾燥させるため、120℃で5分間の熱処理を行います。1:0.9の比率のP3HT(poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl))とPCBM([6,6]-phenyl C61 butyric acid methyl ester)で構成される活性材料は、ジクロロベンゼン(40 g/L)で希釈してスピンキャスト法を行い、約200 nmの厚さの層を作製します。厚さ20 nmのpoly(3,4-ethylenedioxythiophene)polystyrene sulfonate(PEDOT:PSS)層をスピンキャスト法で作製し、正孔輸送層(HTL:hole transport layer)として使用します。次に、窒素置換したグローブボックスに試料を移し、PEDOT:PSS層から水分を除去してBHJの形状を改善するため、145℃で15分間、ホットプレート上で熱処理します。
厚さ100 nmの銀上部電極は、10–7 mbarの真空系内で、シャドウマスクを通して蒸着します。エアロゾルプリントしたOPDでは、poly({4,8-bis[(2-ethylhexyl)oxy]benzo[1,2-b:4,5-b’]dithiophene-2,6-diyl}{3-fluoro-2-[(2-ethylhexyl)carbonyl] thieno[3,4-b]thiophenediyl})(PTB7)の活性層を[6,6]-Phenyl-C71-butyric acid methyl ester(PC70BM)と1:1.5の比で混合し(1,2-dichlorobenzene中で10 g L–1 )、3体積%のジヨードオクタンとともにPEDOT:PSS/AZOカソードの上にプリントします。次に、このフィルムを真空中(15 mbar)で15分間乾燥します。導電性の透明トップアノードは、希釈PEDOT:PSS分散液を使用してエアロゾルプリントし、副室で真空(15 mbar)乾燥してからグローブボックスに移します。すべてのデバイスは、酸素や水分の侵入を防ぐため、粘着性のバリアフォイルで被覆します。
図1Aに、OPDの構造と各材料の相対的なエネルギー準位の配置を示します。ITO上にインクジェットおよびエアロゾルジェットプリントしたZnOナノ粒子層の原子間力顕微鏡(AFM:atomic force microscope)測定結果を図1Bに示します。インクジェットプリントするZnOにはN11 Jet(808202)、エアロゾルジェットプリントするZnOにはN11 Slot(808199)を使用した場合に、最も良い結果が得られました。両方の方法で非常に均一なZnOの緻密な層が得られ、二乗平均平方根(RMS)粗さは2.7~3 nm程度でした。
図1(A)逆構造有機フォトダイオードの積層。(B)対応するバンド図。ITO被覆ガラスに(C)インクジェットプリントしたN11 Jetおよび(D)エアロゾルジェットプリントしたN11 SlotのAFM像(10 × 10 μm2)。
図2に、スピンキャスト(SC:spin cast)、インクジェット(IJ:inkjet)、エアロゾル(AJ:aerosol)法でプリントした、(A)アルミニウムドープZnO(AZO)および(B)ZnOナノ粒子を用いた層を持つデバイスのJ-V特性(光電流と暗電流)を示します。これらのデバイス特性は表1にまとめました。スピンキャスト法によるAZOおよびZnO層では、–1 Vで10–4 mA/cm2オーダーの暗電流密度が観測され、これらETLがフォトダイオードの用途に適していることを実証しました。IJプリントしたAZO層はスピンキャスト法によるAZO層と同様の良い結果を示していますが、AJプリントしたAZOや、IJプリントまたはAJプリントしたZnOで構成されるデバイスではJdark が増加しています。
図2(A)スピンキャスト(SC)(N21x、808237)、インクジェット(IJ)(N21x Jet、808180)、エアロゾルジェット(AJ)(N21x slot、808164)によるAZO層および(B)ZnO(N11(808253)、N11 Jet(808202)、N11 Slot(808199))層でそれぞれ構成される逆スタックのJ-V曲線
これは、プリントしたフィルムの乾燥の際に低抵抗の導電パスが形成されていることを示唆します。両方のデジタルプリンティング法で、連続的なプリンティング経路を使用しています。ITO基材上の表面エネルギーが局所的に不均一であるため、濡れが不完全であったり、ZnO層にピンホールができたりする可能性もあります。スピンキャスト法によるZnOおよびAZO層の厚さは約30 nmですが、IJおよびAJP ZnO/AJP層に必要な厚さは50 nm未満です。インクジェットプリンティングの場合は、インクを滴下する間隔またはインク中のナノ粒子濃度で層の厚さを調節します。AJプリントしたZnO層の膜厚は、噴霧密度、プリンティング速度、噴霧器、シースガスの流れなどの多様なパラメーターで調節されます。エアロゾルの作動原理に関する詳細は、別の文献を参照してください10。すべてのデバイスが>3%の太陽電池効率と53%を超える曲線因子を示しました(表1)。
完全にAJプリントした半透明フォトダイオードを図3に示します。図3Aに示している逆構造のデバイススタックには、PET箔にプリントした透明導電PEDOT:PSS/AZOボトム電極があります。PTB7:PC70BMを活性材料として使用しています。導電性のPEDOT:PSSは、上部電極と同様の方法でAJプリントしました。図3Bに、2 mmの曲げ半径を達成したデバイスを示します。さらに小さい曲げ半径では、バリアフォイルが剥離してデバイスが不可逆に変形しました。曲げた状態と通常の状態でのこのデバイスのEQEとSRを図3Cに示します。応力がない条件で完全にプリントしたOPDは、–3 Vの逆バイアスで400~700 nmの範囲で平均約0.25 A/WのSRを示しました。曲げたデバイスでは<5%のわずかな減少しかみられませんでした。両方の状態でD*は約1011 Jonesで、BW は200 kHzのオーダーでした7。
図3完全にAJプリントした有機フォトダイオード。(A)PEDOT:PSS/AZOアノードおよびPEDOT:PSSカソードで構成された逆構造スタックの概略図。(B)曲げ半径2 mmの柔軟なPET基質上のOPD。(C)曲げる前と曲げている間の逆バイアス–3 Vでのスペクトル応答(SR)およびEQE。(D)曲げる前と半径2 mmで曲げている間の比検出能力(D*)。許可を得て文献7より転載、©2015 John Wiley & Sons Inc.
結論
我々は、ZnOナノ粒子系ETLを利用したプリンテッド有機フォトダイオードの特性を示しました。ZnOナノ粒子により、AJプリンティングかIJプリンティングかにかかわらず、スピンキャスト法で作製したデバイスに匹敵する小さい暗電流と比検出能力が得られます。また、これらのデバイスを柔軟性のある基板の上に加工できることや、機械的な応力の下で作動できることも示されました。これらの結果は、ナノ粒子系インクがフレキシブルプリンテッド薄膜エレクトロニクスに適用可能であり、デジタルプリンティング技術で製造した有機フォトダイオードを光センサーとして使用できる可能性を明確に示しています。
謝辞
The authors acknowledge financial support of the German Federal Ministry of Education and Research via project FKZ: 13N13691.
参考文献
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