シリカ被覆金ナノ粒子の指向性抗体コンジュゲーション
Justin Harris, Brantley Henson, Jason Cook, Kimberly Homan
NanoHybrids Inc., 3913 Todd Ln #310, Austin, TX 78744, USA
Nanomaterial Bioconjugation Techniques(ナノ粒子表面修飾ガイドブック), 2017, p.33

はじめに
シリカ被覆金ナノ粒子(AuNP@SiO2)は、in vitroおよびin vivoの多様な光学的イメージングモダリティ(画像撮影装置・手法)において画像コントラストを強調できるプラズモン粒子であり、特に光音響イメージングに最適です。シリカ被覆金ナノ粒子の主な利点として、光音響信号の増幅、長時間のイメージングにおける熱安定性の向上などが挙げられます1,2。多くの生物学的用途で分子標的化が必要とされるので、ここではAuNP@SiO2と抗体の指向性バイオコンジュゲーションについて紹介します。また、本プロトコルはシステインを豊富に含むタンパク質や、遊離チオール基を有する他の構造のコンジュゲーションにも適用できます。
AuNP@SiO2の作製はStöber法を改良した方法で行います3,4。これは、テトラエチルオルトケイ酸の加水分解を利用して金表面にシリカ層を形成する方法で、得られるシリカ被覆は末端にヒドロキシ基を持つシロキサンです。この改良Stöber法を拡張することで、修飾をさらに行うことができます。例として、トリエトキシシラン基とマレイミドなどの機能性化学種の双方を含む分子の縮合により、既存のシリカ層に官能基を付加することができます(図1)。メトキシポリエチレングリコール-シラン(mPEG-Sil)と最適なヘテロ二官能性PEGを使用して、生体適合性や安定性をさらに向上することができます。

図1マレイミド(Mal)修飾シリカ被覆金ナノ粒子
マレイミド修飾シリカ被覆粒子は、指向性(directinal)抗体コンジュゲーションに使用されます。抗体は基本的にY字型構造で、結晶性フラグメント(Fc)領域と抗原結合フラグメント(Fab)領域で構成されます。その名称の通り、Fab(Yの腕の部分)が目標の抗原を認識して結合します。通常の抗体コンジュゲーション法には指向性がなく、抗体がナノ粒子表面上でランダムな方向を取るため、全体的な抗体の機能性が低下します。さらに、指向性抗体コンジュゲーションでは、Fc鎖を共有結合でナノ粒子表面に直接結合させ、確実にFab鎖が抗原認識に利用できるようにすることで、効果的な標的化に必要となる抗体量を減らすことができます5。
マレイミド修飾AuNP@SiO2は、チオール-ヒドラジド架橋剤(HS-PEG-ヒドラジド)により指向性抗体コンジュゲーションを媒介するように設計されています(図2A)。コンジュゲーションの準備として、抗体の非標的化(Fc)部分にのみ存在するグリコシル基を過ヨウ素酸ナトリウムで酸化してアルデヒドを生成します。新しく生成したアルデヒドはHS-PEG-ヒドラジド架橋剤のヒドラジドと容易に反応し、チオール基で修飾されたFc領域を持つ抗体が得られます。末端のチオール基は自発的にマレイミド修飾AuNP@SiO2と反応することができます(図2B)。
A) 抗体の機能化

B) 抗体コンジュゲーション

C) 透析

図2 シリカ被覆金ナノ粒子の指向性コンジュゲーションの概略
この2段階修飾法は堅牢であるものの、未反応のマレイミド基がAuNP@SiO2表面に残ります。そのため、これら未反応のマレイミド基にmPEG-SHを付加して不動態化し、コンジュゲーションを完了させます(図2C)。この指向性コンジュゲーション法はグリコシル化した抗体にのみ適用されますが、市販のIgG抗体の大多数が対象に含まれます。以下のプロトコルの例では、マレイミド修飾AuNP@SiO2に対する指向性抗体コンジュゲーションを説明します。
指向性抗体コンジュゲーション
以下のプロトコルは、マレイミド基で修飾されたシリカ被覆金ナノ粒子表面へのグリコシル化抗体の指向性コンジュゲーションに用いられます。本プロトコルは、直径10 nmの金ナノロッド(表面プラズモン共鳴750~900 nm)および直径20 nmの金ナノスフェアに適用できます(それぞれ厚さ20 nmのシリカが被覆されたもの)。なお、この手法はナノ粒子の表面積に応じて初期濃度を調節することで他のサイズのナノ粒子にも適用可能であり、スケーラブルです。ナノ粒子の濃度は光学密度(OD:optical density)として与えられます。ODは、光路1 cmのキュベットを使用した分光光度計で測定される光の透過率から定義される量です。架橋した抗体は事前に調製することが可能で、元の抗体の一般的な有効期間にわたって保管できます。
材料
- リン酸ナトリウム(塩素フリー)バッファー、pH 7.5
- NaIO4(製品番号:769517)
- PBS(製品番号:P5493)
- 4-アミノ-3-ヒドラジノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール(AHMT)溶液
- SH-PEG-ヒドラジド
- HEPES(製品番号:H4034)
- 10 kDa Millipore® 遠心式フィルター
- マレイミド修飾シリカ被覆金ナノ粒子(OD = 2)
- 架橋済み抗体の溶液
- 10 mg/mL mPEG-SH(5 kDa)
- 孔径0.45 µmのPVDFフィルター
パート1:架橋された抗体の調製
- 100 mM リン酸ナトリウム(塩素フリー)バッファー(pH 7.5)で1 mg/mLの抗体溶液20 µLを新たに調製します。
- NaIO4の100 mM水溶液を調製後、すぐにこの溶液2 µLを手順1の抗体溶液に加えます。暗所・室温で30分間インキュベーションします。これにより抗体のグリコシル化領域が酸化され、結合用のアルデヒドが生成します。
- 100 µLの1×PBSで反応を停止します。
- 酸化反応の進行を検証するため、5 µLの抗体溶液を、新たに調製したAHMT溶液(1 M NaOHに溶解した10 mg/mL AHMT)15 µLと混合します。抗体−AHMT溶液が数分間で紫色に変化すれば、アルデヒドの存在を示しています。溶液が無色のままかわずかに黄色の場合は、抗体にグリコシル化領域が存在しないため、この指向性抗体コンジュゲーション法を使用することができません。このような場合、他の文献6で紹介されているような非指向性コンジュゲーション法が推奨されます。
- 50 mM SH-PEG-ヒドラジドエタノール溶液2 µLを加え、室温で1時間インキュベーションします。SH-PEG-ヒドラジド架橋剤溶液は事前に調製しておくことが可能で、−20℃または−80℃で保管できます。
- 1 mLの40 mM HEPESを加え、10 kDa Millipore 遠心式フィルター(4 mL)を使用して4℃および2,000 rcfでろ過精製します。最終濃度を100 µg/mLにする場合は、200 µLの40 mM HEPESに再分散します。この時点で、架橋された抗体は4℃で保管(元の抗体の推奨保管期間の間)が可能です。
パート2:AuNP@SiO2との指向性抗体コンジュゲーション
- 40 mM HEPES(pH 8.5)を用いて、マレイミド修飾シリカ被覆金ナノ粒子溶液(OD = 2)を調製します。
- 200 µLの架橋された抗体溶液(20 µg)を1 mLのナノ粒子溶液に加えます。振とう器で20分間室温でインキュベーションします。コンジュゲーションの程度を高めたい場合は、抗体の質量を最大50 µg(500 µL)まで増やすことができます。
- 新たに調製した10 mg/mL mPEG-SH(5 kDa)水溶液100 µLを加えて、未反応のマレイミドを不動態化します。振とう器で20分間室温でインキュベーションします。
- 4℃および10,000 rcfで遠心処理し、抗体とコンジュゲーションしたナノ粒子をペレット化します。上澄みを除去します。
- 1 mLの1×PBSまたは培地に再分散します。
- 無菌状態で、孔径0.45 µmのPVDFフィルターを使用してろ過します。
- 最終的な収量は、用いたAuNP@SiO2の60~80%程度を想定してください。ナノ粒子のコンジュゲーションおよび安定化が成功していれば、吸収スペクトルのシフトはほとんど観測されません。
- この時点で、抗体をコンジュゲーションしたAuNP@SiO2は4℃で保管(元の抗体の推奨保管期間の間)できます。in vitro細胞標識化実験では0.2~1のODで使用することが推奨されます。
掲載誌
「ナノ粒子表面修飾ガイドブック Nanomaterial Bioconjugation Techniques」
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参考文献
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関連情報
- Webカタログ:金ナノ粒子
- Webカタログ:シリカ被覆金ナノ粒子
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