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Merck
ホーム体外診断薬(IVD)製造超高輝度金ナノシェルレポーターを用いたラテラルフロー診断アッセイの感度向上

超高輝度金ナノシェルレポーターを用いたラテラルフロー診断アッセイの感度向上

Steven J. Oldenburg

nanoComposix

妊娠検査用ラテラルフロー迅速試験のイメージ

図1.妊娠を確認するために一般的に使用されているラテラルフロー迅速試験のイメージ

はじめに

ラテラルフローアッセイ(別称:免疫クロマトグラフィーアッセイ)は、さまざまな病状の診断のために、血液、尿、唾液などの流体を含む複雑な試料中の生体分子の検出および定量化を行う方法です1。通常は、使いやすく高速で安価な自分でできる携帯デバイス装置が使用されます。ラテラルフロー試験のデバイスは、室温で保管可能であり、有効期限が長く、複雑な試料処理または追加の装置なしに診断結果が得られるため、臨床現場即時(ポイントオブケア)検査と現場ベースの診断用途の両方で最適な方法と言えます。

広く普及している妊娠検査などの多様な用途で、毎年数億回のラテラルフロー試験が行われています(図1)。これらアッセイの感度は、使用する部品、部品および試料の処理方法、および診断信号を発生させるナノスケールのレポーター粒子の性質に依存します。レポーター粒子は、試料中の被験物質を認識し、ラテラルフローストリップ中の特定の物理的位置に結合する分子(多くの場合、抗体または核酸)で標識されています。アッセイの感度を最大化するため、結合イベントあたり可能な限り最大の信号強度を発生させる最も「明るい」レポーターが選択されます。また、レポーター粒子は、分子標的に効果的に結合できるように非常に小さく、典型的にはナノスケールでなければなりません。

 

ラテラルフローアッセイは、取り扱いを容易にするためのカード状の基板の上に取り付けられた一連の安価な紙状の部品で構成されます(図2)。典型的なラテラルフローストリップの構成要素には、以下が含まれます。 

  • サンプルパッド:試料を吸収し、コンジュゲートパッド上の試料の分布およびフローを制御します。
  • コンジュゲートパッド:ナノ粒子-抗体コンジュゲートを供給および乾燥し、水和にともなうニトロセルロース膜上へのコンジュゲート放出を確実に制御します。
  • ニトロセルロース膜:試験ラインおよび対照ラインの試薬を固定化します。
  • ウィッキングパッド:膜を通過していく毛細管流動を均一にし、添加された試料を吸収し、逆流を防止します。

各構成部品はその前の構成部品と少なくとも1 mm重なり合っており、試料は試料パッドからウィッキングパッドまで妨げられずに流れることができます。

ラテラルフロー試験ストリップの概略図

図2.ラテラルフロー試験ストリップの概略図

ラテラルフロー迅速試験では、血液、血清、血漿、尿、唾液、または可溶化した固体などの液体試料を試料パッドに載せると、毛管作用により試料がラテラルフローデバイスを流れていきます。サンプルパッドは、場合によっては試料のpHを調整するために試薬で処理されていたり、赤血球などの不要な微粒子を除去するためにフィルターが含まれていたりすることがあります。試料はサンプルパッドからコンジュゲートパッドへ流れます。コンジュゲートパッドは強い着色または蛍光性のある乾燥したナノ粒子を含んでおり、ナノ粒子の表面には抗体が結合されています。試料がコンジュゲートパッドに到達すると、ナノ粒子が再水和して試料と混ざります。混合物はニトロセルロース膜を流れていき、1つ以上の試験ラインと対照ラインを横断します。試験ラインと対照ラインは、試料と相互作用して信号を発生させる固定化タンパク質を含んでいます。信号強度は、存在する分析対象物またはコンジュゲートの量に対応します。残りの流体は、試料を捕捉して逆流を防止するように設計されているウィッキングパッドに吸収されます。試料がすべて流れ終わったら、試験ラインの信号のコントラストを目視またはリーダーを用いて読み取り、分析対象物の存在、およびそれに基づく結果を判断します。

ラテラルフローアッセイの形式

ラテラルフローアッセイの最も一般的な形式は「サンドイッチ型」と「競合型」の2つです(図3)。サンドイッチ型アッセイは、典型的には、少なくとも2つのエピトープ(結合サイト)を持つ比較的大きな分析対象物の検出に用いられます。ほとんどの場合、1つのエピトープに対する抗体をナノ粒子に結合させ(レポーター粒子の検出抗体)、もう1つのエピトープに対する抗体はアッセイの試験ラインに用いられます(捕捉抗体)。試料中に分析対象の物質が存在すると、検出抗体と捕捉抗体の両方と結合し、ナノ粒子コンジュゲートと試験ラインの上でサンドイッチ状に挟まれて、陽性シグナルが得られます。対象の物質が存在しない場合、ナノ粒子コンジュゲートは試験ライン上の捕捉抗体と結合しないため、信号は観測されません。サンドイッチ型アッセイでは、試験ライン上での信号強度は試料中に存在する分析対象物の量に正比例します。

競合型アッセイは、抗体ペアが利用できない場合、または、ステロイドもしくは小型の有機分子薬物のような小さすぎて抗体が複数結合できない分析対象物質を検出する場合に用いられます。競合型アッセイでは、分析対象物質(通常はタンパク質と分析対象物質の複合体)が試験ライン上に存在します。分析対象物質が試料中に存在すると、試料中でレポーター粒子と結合し、試験ラインに埋め込まれている分析対象物質とレポーター粒子の結合を阻害します。分析対象物質が存在しない場合、レポーター粒子は試験ラインに埋め込まれている分析対象物質と結合して試験ライン上に信号を生じます。競合型フォーマットでは、信号強度は試料中に存在する分析対象物質の量に反比例します。

いずれの形式のアッセイにおいても、対照ラインには試験ラインの結果にかかわらず複合化した抗体に結合する抗種抗体が用いられます。対照ラインが存在することで、適切にフローしていること、およびアッセイが機能していることを確認できます。

「サンドイッチ型」および「競合型」アッセイの図

図3.「サンドイッチ型」および「競合型」アッセイの図。サンドイッチ型アッセイでは、正の信号が分析対象物質の存在を示し、試験ラインの強度は試料中に存在する分析対象物質の量に比例する。競合型アッセイでは、試験ラインの信号が強いことは、分析対象の物質が少ないまたは存在しないことを意味する。この信号強度は、分析対象の物質の濃度に反比例する。

ラテラルフローにおけるレポーターとしてのナノ粒子

ラテラルフロー試験では、白いニトロセルロースストリップ上の試験ラインに結合する強い着色または蛍光性のある粒子から光信号が発生します。この信号は、目視(定性的もしくは半定量的)または光学式のリーダー(定量的)によって読み取ることができます。試験の感度を最大化するためには、分析対象の物質とレポーター粒子の間の結合イベントあたりに発生するシグナルをできる限り強くする必要があります。一般的には、粒子が大きいほど、結合イベントごとにより強い信号を発生させますが、大きすぎる粒子はニトロセルロース膜の通過が困難となり、試験ラインと結合する機会が限られてしまいます。したがって、ラテラルフローアッセイでは通常直径20 nm~500 nmの粒子が選択されます。また、蛍光性粒子を使用することも可能であり、結合イベントあたりの蛍光が強いほど信号が強くなるという同じ一般則が適用されます。

診断アッセイにおいて最も一般的に使用されるレポーター粒子は金ナノ粒子で、金コロイドとも呼ばれます2。金ナノ粒子は特異な光学的性質を持つ、非常に強い光吸収体です。例えば、直径40 nmの金ナノスフェアは520 nm付近の光を強く吸収し、試験ラインがルビー色に着色します。金表面には、抗体およびその他のタンパク質に対する親和性が元々あるため、金ナノ粒子と親和性リガンドを単に混合するだけでナノ粒子-抗体コンジュゲートを作製できます。また、他の大きさおよび形状の金ナノ粒子もラテラルフローのプローブとして使用されています。直径150 nmの金ナノシェルは、結合イベントあたりのコントラストがより強く、一般的に40 nmの金ナノスフェアと比較して感度を5~20倍向上させます。金ナノシェルは、小さな金ナノ粒子が点在しているシリカ粒子の表面に金属金を無電解析出させることで調製されます3。小さな金のシードは次第に成長し、最終的に合体して完全なシェルを形成します(図4)。

ナノシェル成長の透過型電子顕微鏡画像

図4.異なる段階におけるナノシェル成長の透過型電子顕微鏡画像。最初に、正に帯電しているシリカナノスフェアに数千個の約2 nmの金ナノ粒子シードが結合(左)。結合している金をシードにして、溶液中の金イオンを元にして金が無電解析出し、シードが成長して(中央)、最終的に合体して完全なシェルを形成(右)。

金ナノシェルを合成する際にシリカコアのサイズおよび金シェルの厚さを制御することで、ナノシェルのピーク波長を調整して粒子の色を変えることができます。ラテラルフローアッセイの感度を最大化するため、直径120 nmのシリカコアと約15 nmの金シェルを持つ青灰色の150 nm金ナノシェルが開発されています。シリカコアは質量が金より遥かに小さいため、中が詰まった金粒子よりもニトロセルロース膜中で沈降しにくくなり、フロー特性が改善されます。図5は、40 nmの金ナノスフェアと150 nmのナノシェルの粒子あたりの光減衰(散乱 + 吸収)の比較を示しています。粒子あたりの減衰が大きいため、各ナノシェルの結合イベントはニトロセルロース基板に対して遥かに強いコントラストを示し、アッセイの感度が向上します。

粒子あたりの光減衰

図5.40 nm金ナノスフェアおよび150 nm金ナノシェルの波長の関数としての粒子あたりの光減衰(粒子あたりの光学密度)

図6は、金ナノシェルレポーターを使用した試験ラインおよび対照ラインと、対応する走査型電子顕微鏡画像を示しています。抗体と結合してニトロセルロース膜上で固定化された個々のナノシェルが、暗いニトロセルロース繊維上の明るい色のスフェアとして確認できます。膜の被覆密度が比較的低い場合でも、対照ラインは非常に暗く見えており、各ナノシェルの結合イベントが白いニトロセルロースの背景に対して高コントラストの信号を発生させていることが示されています。

ニトロセルロース膜に結合した金ナノシェル

図6.ニトロセルロース膜に結合した金ナノシェル

最終的に、アッセイの感度は試験ラインを可視化するために結合しなければならないレポーターの数で決定されます。視認できる信号を得るために必要な粒子数を測定するため、ストレプトアビジンで被覆した40 nmの金ナノスフェアおよびストレプトアビジンで被覆した150 nmの金ナノシェルをビオチン化した試験ラインに捕捉し、その信号を光学式リーダーで分析しました(図7)。40 nmの金ナノスフェアでは、500万個の粒子をアッセイに加えたときに試験ラインが視認できました。金ナノシェルでは、視認できるラインを得るために必要な粒子は1桁減少してわずか50万個であり、アッセイ感度が向上しています。

ラテラルフローアッセイの結果

図7.ストレプトアビジンで修飾した150 nm金ナノシェルおよび40 nm金ナノ粒子をニトロセルロースストリップに載せ、ビオチン化したウシ血清アルブミンの試験ラインで捕捉した場合のラテラルフローアッセイの結果。目視による検出限界は、結合イベントが金ナノスフェアでは500万回、ナノシェルでは50万回だった。

粒子あたりの吸光度がアッセイ感度に与える影響を確認するため、直径40 nmの金ナノ粒子と直径150 nmの金ナノシェルを使用して、心筋マーカーのトロポニンIをサンドイッチ型ラテラルフローアッセイで検出しました(図8)。40 nmの金ナノ粒子を使用した場合の検出限界が0.5 ng/mLだったのに対して、150 nmの金ナノシェルによるトロポニンIの検出は0.05 ng/mlと1桁改善されました。

ラテラルフローアッセイのトロポニンIに対する感度

図8.150 nm金ナノシェルおよび40 nm金ナノスフェアをレポーター粒子として使用したラテラルフローアッセイのトロポニンIに対する感度

高安定性レポーターのための共有結合化学

高感度のラテラルフローアッセイを開発する際に重要なもう1つの要素は、抗体またはその他のタンパク質をナノ粒子表面に結合させる方法です。アッセイの感度と選択性の両方を最大化するためには、強固で効果的な結合が不可欠です。レポーター粒子の表面に抗体を結合させるプロセスがコンジュゲーションで、その結果として抗体で被覆された粒子をコンジュゲートと呼びます。4,5受動的吸着法(物理吸着法)は、ラテラルフロー用ナノ粒子プローブにタンパク質を結合させるために古くから用いられている方法で、現在も広く使用されています。特定のpHでの分子と表面の間の力を利用することで(ファンデルワールス力、イオン力など)、むき出しの金ナノ粒子表面に抗体が自発的に結合してコンジュゲートを形成します。典型的には、ナノ粒子の表面全体が確実に被覆されるように過剰量の抗体を加えます。コンジュゲーションの完了後、溶液中に遊離したまま残っている抗体は、遠心分離またはろ過によって除去されます。

また、コンジュゲートは、抗体をナノ粒子表面に共有結合させることでも形成できます。通常、共有結合は物理吸着より再現性が高く、抗体によっては安定なコンジュゲートを調製するために共有結合が必要な場合もあります。また、共有結合を利用することで、ナノ粒子表面の抗体の量および抗体の向きをより制御できます。

共有結合のその他の利点を以下に示します。

  • 最大の感度を得るために必要な抗体の量が少なく、全体的なコストが削減されます。
  • 共有結合性コンジュゲートは安定性が高いため、難しい試料マトリックスおよび高濃度の塩/界面活性剤に緩衝される環境でも使用することができます。
  • 塩またはpHの最適化にあたって幅広い検討を行わなくてもコンジュゲートを容易に調製できるため、抗体スクリーニング実験を実施する際に時間を節約できます。
  • 抗体対粒子の比率を精密に制御することができます。これは、競合型アッセイにおけるダイナミックレンジの調整や、結合速度論の異なる複数の抗体で感度を最適化するために重要です。

共有結合性コンジュゲートを作製するための一般的な方法の1つが、カルボキシ基(カルボン酸)で修飾した金表面を利用する方法です。ナノ粒子上のカルボン酸は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)試薬を使用して、抗体またはタンパク質のリジン残基の第一級アミンと結合させてアミド結合を形成することができます。典型的なIgG抗体には80~100個のリジン残基があり、そのうちの30~40個がEDC/NHS結合のために利用できます。

ラテラルフロー試験の結果の解釈

ラテラルフロー試験の結果は、定性的(検出範囲内の分析対象物質が存在するか否か)、半定量的(分析対象物質が低、中、もしくは高濃度で存在)、または定量的(存在する分析対象物質の精密な量の決定)に得られます。広く普及している妊娠検査は、定性的な「イエス」/「ノー」のアッセイの代表例です。試験ラインの信号が陽性であれば、尿中のhCGホルモン濃度が上昇しており、使用者が妊娠していることを示します。定量的な診断の場合、試験ラインの強度を校正標準と比較して、分析対象物質の濃度の値に変換します。定量的アッセイは、単に存在するかしないかを示すためではなく、特定の分析対象物質またはバイオマーカーの濃度を測定するために用いられます。例えば、強いストレスを経験している人が、ストレス軽減のための処置が効いているかを確認するため、自分のコルチゾール濃度の経時変化を正確に測定しようとするかもしれません。試験ラインの強度を正確に測定するためには、ストリップリーダーで結果を分析しなければなりません。近年、筐体が小さく、安価でモバイルに適するリーダーが商業化されたことにより、ラテラルフローアッセイ業界が変化しつつあります。独立したベンチトップリーダーを必要とせずに簡単にラテラルフローアッセイの出力を定量化できることから、家庭用およびポイントオブケア診断への展開が大きく開かれています。図9は、現在利用できる多様な使い捨ておよびベンチトップのリーダーを示しています。ベンチトップ装置の場合、ラテラルフローカートリッジを装置に挿入し、試験ラインと対照ラインの強度をカメラで撮像し、結果をコンピューターまたは携帯電話へ送信して表示および解釈を行います。任意のアッセイの校正曲線をソフトウェアにエンコードすることができ、試験ラインの信号強度を自動的に分析対象物質の濃度に変換してユーザーに提示することができます。使い捨てリーダーは、分析に必要なすべてのハードウェアをすべて本体に搭載しており、ユーザーの利便性をさらに高めています。

Lumos Diagnostic社の多様なラテラルフロー診断用リーダー

図9.Lumos Diagnostic社の多様なラテラルフロー診断用リーダー

結論

金ナノシェルの独特な光学的性質に基づく超高輝度レポーター粒子は、ラテラルフローイムノアッセイの感度を大幅に向上させます。最近のポータブルリーダーの技術の発展と相まって、実験室で行われる試験の感度、特異性、および再現性を遥かに安価で簡便な試験方法で行える、新しい種類のポイントオブケア診断が市場に登場してきています。ラテラルフローアッセイに加えて、金ナノシェルは、表面増強ラマン分光法、フローサイトメトリー、および分子イメージングなどの多様な診断および検出アプリケーションに用いることができます。シンプルな共有結合によるカップリングと容易に再現可能なプロトコルにより、金ナノ粒子コンジュゲートは多くのバイオテクノロジーのアプリケーションにおける重要なツールになっています。

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参考文献

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