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カルボキシ基末端ナノ粒子への抗体コンジュゲーション

Rhea Decker, Steven J. Oldenburg
nanoComposix, Inc, 4878 Ronson Ct, San Diego, CA 92111
Nanomaterial Bioconjugation Techniquesナノ粒子表面修飾ガイドブック), 2017, p.37

「診断・イメージング技術におけるナノ材料の応用」ハンドブック表紙画像

はじめに

抗体コンジュゲーションは、診断用もしくはin vitroまたはin vivoで特定部位へ物質を送達するための、ナノ粒子の標的化手法として、一般的に使用されています。本稿では、アミド結合を介して抗体をナノ粒子表面に共有結合させる方法を説明します。ナノ粒子表面に抗体を結合させる方法には多くの方法があります。例えば、金ナノ粒子の清浄な表面は抗体に存在する多様な官能基に対して高い親和性を示すため、金ナノ粒子では物理吸着が一般的に使用されています。この結合は、数十年間にわたってラテラルフロー診断に利用されています。しかし、物理吸着法には、時間の経過とともに粒子から抗体が放出される、粒子上の抗体吸着量の制御が難しい、異なる抗体それぞれについて物理吸着の厳密な条件を最適化する必要があるといった複数の欠点があります。

抗体に含まれるフリーのアミノ基とナノ粒子表面上のカルボン酸とのアミド結合によって抗体を共有結合させる方法は、コンジュゲートの作製および表面上の抗体量を制御するための簡便かつ再現性の良い方法であることが知られています。さらに、ラテラルフロー診断に使用するコンジュゲートの場合、機能性コンジュゲートの作製に必要な抗体量が大幅に減少します。ここで示す例は、カルボキシ基修飾(別名リポ酸修飾)40 nm金ナノ粒子についての最適化方法です。溶液中のナノ粒子の全表面積について規格化することで、サイズの異なるカルボキシ基修飾ナノ粒子にもこの化学的方法を拡張することができます。さらに、遠心処理のパラメータを変更することで、カルボキシ基で表面修飾された様々な種類の粒子の単離を行うことができます。例えば、金ナノシェル金ロッド、中空金スフェア、球状銀ナノ粒子(リポ酸修飾)、銀キューブ、シリカ、量子ドット、ラテックスビーズなどの材料に対して同様の方法を用いることができます。


抗体の精製

貯蔵バッファー中のアミンはナノ粒子上の結合サイトと競合するため、コンジュゲーション前に余分なアミン類が抗体溶液に含まれないようにすることが非常に重要です。トリスバッファーや保存剤であるアジ化ナトリウムなどに含まれる遊離アミンは除去し、アミンを含まない適切なバッファーに抗体を移す必要があります。同様に、抗体溶液中の余分な安定化タンパク質もすべて除去しなければなりません。プロテインAなどをリガンドとしたアフィニティーカラムを使用して、他のタンパク質から抗体を分離することができます。注意すべき点として、アフィニティーカラムからの抗体の溶出にアミンを含むバッファーがよく使用されます。その場合、さらにアミンフリーのバッファーと交換する必要があります。抗体の精製に関する手順の詳細を以下に説明します。

材料

  • タンパク質精製および濃縮用 Milliporeアミコンウルトラ0.5 mL 10K フィルター
  • 2 mLマイクロ遠心チューブ(フィルター保持用)(製品番号:Z628034
  • マイクロ遠心機
  • 精製する抗体
  • 精製用バッファー(10 mMリン酸カリウムやその他のアミン不含バッファーなど)
  • ビシンコニン酸(BCA)アッセイキット(製品番号:QPBCA)およびタンパク質定量用プレートリーダーまたは紫外可視分光光度計

精製プロトコル

  1. フィルターカップをマイクロ遠心チューブ内に設置します。
  2. 450 µLの精製用バッファーを加えて13,800 RCFで5分間遠心処理し、フィルターを予備洗浄します。
  3. チューブの底のろ液を廃棄します。
  4. 抗体溶液をフィルターカップ内に分取してキャップを閉めます。
    注記:フィルターカップの最大量は500 µLです。精製する溶液がこの容量を超えている場合、遠心処理により濃縮し、未精製の抗体をさらに加えてから、洗浄の各手順に進みます。開始時の抗体量が極めて少ない場合、全体の体積が約450 µLになるまでバッファーを加えます。
  5. 13,800 RCFで5分間遠心処理して濃縮します。
  6. 濃縮された抗体を含むフィルターをマイクロ遠心チューブから取り出します。マイクロ遠心チューブの底からろ液を取り出します。
    注記:すべての各洗浄ステップから得られたろ液は、清潔な容器に保管することができます。フィルターの破損のために収率が特に低下した場合は、保管していたろ液から抗体を再利用することができます。
  7. 濃縮された抗体を含むフィルターをチューブ内に再び挿入し、350 µLの精製用バッファーをフィルターに加えます。
  8. 13,800 RCFで5分間遠心処理して洗浄/濃縮します。
  9. 350 µLの精製用バッファーを使用して洗浄手順(上記の手順5~7)をさらに4回繰り返し、合計で5回洗浄します。
  10. 最後の洗浄の後、新しい2 mLマイクロ遠心チューブにフィルター装置の上下を逆向きにセットします。1,000 RCFで5分間遠心処理し、精製および濃縮された抗体を回収します。最適な回収を行うには、直ちに逆遠心を行います。
  11. 保管用に抗体濃度を ≥1 mg/mLにするために最終的な体積を調整します。精製後、一般的には≥1 mg/mLに濃縮した抗体溶液を−20℃で保管する方法が推奨されます。凍結/融解サイクルは避けてください。ただし、抗体の安定性は様々であり、適切な保管および取扱いについては抗体のサプライヤーに確認が必要です。

最終タンパク質濃度の決定

吸光光度法(A280法)またはBCA法を使用して出発物質および最終精製物質の濃度を確認し、収率を決定します。

サンプル回収の最大化

濃縮液中のサンプル回収率が低い場合、吸着による損失、過剰な濃縮、サンプルが膜を通過している可能性があります。サンプル回収を最大化するため、ピペットチップで膜フィルターに穴を開けないようにしてください。吸着による損失は、溶質の濃度、疎水性、温度、フィルター装置表面との接触時間、サンプルの組成、pHに依存します。損失を最小限に抑えるため、濃縮したサンプルは遠心処理後、直ちに取り出してください。開始時のサンプル濃度が高い場合は、サンプルの過剰な濃縮を避けるため、遠心処理のプロセスに注意する必要があります。過剰な濃縮により沈殿が起きてサンプルが失われる可能性があります。サンプルが膜を通過していると思われる場合は、公称分画分子量が低いアミコンウルトラ-0.5 フィルターユニットを選択します。濃縮/精製した抗体を回収したあと、フィルターの膜上に残っている可能性がある抗体をすべて再利用するため、少量の精製用バッファーでフィルターの内側を数回洗浄することができます。

ナノ粒子へのコンジュゲーション

カルボジイミド架橋剤(EDC)を用いることで、ナノ粒子表面の末端カルボン酸基に抗体をコンジュゲーションすることができます。EDCはカルボキシ基と反応して、活性エステル中間体を生成します。スルホ-NHSの添加により中間体の溶解度および安定性が向上し、中間体は抗体のアミノ基と反応して抗体とナノ粒子の間に安定なアミド結合を形成します(図1)。以下の方法は、カルボキシ基で修飾されたナノ粒子の抗体コンジュゲーションの手順について、金ナノ粒子を例として説明したものです。

カルボジイミド架橋剤の反応

図1EDCとスルホ-NHSの化学1

材料

  • 40 nmカルボキシ基修飾金ナノ粒子
  • アミンフリーの精製済み抗体
  • 反応バッファー(5 mMリン酸カリウム、0.5% 20,000 MW PEG、pH 7.4)
  • EDC(製品番号:E1769
  • スルホ-NHS(製品番号:56485
  • 失活剤(50%(w/v) ヒドロキシルアミン)
  • コンジュゲート希釈剤(0.1 × PBS、0.5% BSA)
  • 遠心機
  • 標準的なマイクロ遠心チューブ(特別な処理または残留可塑剤なし)
  • ボルテックス
  • ローテーター

コンジュゲーションプロトコル

ここで説明するコンジュゲーション法は、カルボキシ基で修飾されたあらゆるナノ粒子に適用できます。例として示したのは、直径40 nmカルボキシ金ナノ粒子(OD 20)1 mLを想定したもので、1 mLの抗体-金コンジュゲート(OD 20)が得られます。体積を増減する場合は、比例して調整してください。

重要:水中でのスルホ-NHSエステルの加水分解を最小限に抑え、コンジュゲーションの有効性を向上するため、EDC/スルホ-NHSを溶解したあと直ちに手順1~6を完了してください。

  1. コンジュゲーションの直前に、EDCおよびスルホ-NHS水溶液(10 mg/mL)を調製します。
    ヒント:バイアルを開封する前に試薬は確実に室温にしてください。約1~10 mgのEDCおよびスルホ-NHSを量り取り、それぞれ別のマイクロ遠心チューブに入れます。コンジュゲーションの直前に、適切な体積の水に溶解して濃度を10 mg/mLにします。
    :EDCの質量 = 2.38 mg、238 µLのH2Oを加えます
    スルホ-NHSの質量 = 6.14 mg、614 µLのH2Oを加えます
  2. 200 µgのEDC(10 mg/mLのEDC水溶液20 µL)および400 µgのスルホ-NHS(10 mg/mLのスルホ-NHS水溶液40 µL)を、1 mLの40 nmカルボキシ金ナノ粒子に加えます。
  3. 溶液をボルテックスし、回転させながら30分間室温でインキュベーションします。
  4. 3,600 RCFで10分間遠心処理します。
  5. 過剰なEDC/スルホ-NHSを除去するため上澄みを慎重に取り除き、1 mLの反応バッファーに再分散します。ボルテックスおよび/または超音波処理して粒子を完全に再分散します。
  6. 抗体を加えて溶液をボルテックスします。
  7. 回転させながら2時間室温でインキュベーションします。インキュベーション時間の増減により、コンジュゲーションの有効性が向上する場合があることに注意してください。
  8. インキュベーション後、10 µLの失活剤を加えて残存する活性NHS-エステルを失活させます。ボルテックスを行い、回転させながら10分間室温でインキュベーションします。
  9. 3,600 RCFで10分間、再度遠心処理します。上澄みを慎重に取り出し、1 mLの反応バッファーに再分散します。ボルテックスおよび/または超音波処理してコンジュゲートを完全に再分散します。
  10. 過剰な抗体を除去するため、遠心処理と再分散を繰り返します。
  11. 3,600 RCFで10分間遠心処理し、上澄みを取り出し、コンジュゲート希釈剤で体積を1 mLにします。ボルテックスおよび/または超音波処理してコンジュゲートを完全に再分散します。
  12. コンジュゲートを4℃で保管します。凍結させないでください。

コンジュゲートの最適化

注意すべき重要な点として、最適なコンジュゲーションの手順は抗体によって異なり、最適化の方法も抗体によって異なります。コンジュゲートは溶液中で安定であり、抗原と効率的かつ特異的に結合することが望まれます。以下を参考にすることで、コンジュゲートの有効性を向上できる場合があります。

  • EDCおよびスルホ-NHSによるカルボキシ基の活性化は、pH 5で最も有効になります。
  • 抗体中の1級アミノ基と活性化されたカルボキシ基との反応は、pH 7~7.5で最も効果的になります。これよりも高いpHで反応を行うと、NHS-エステル中間体の半減期が急激に減少します。
  • 抗体とナノ粒子間のコンジュゲーションの際の抗体濃度とインキュベーション時間は、最適な条件を決定するために調節することができます。
  • バッファーの最適なモル濃度、pH、ブロッキング剤、ポリマー、表面活性剤を決定するため、コンジュゲート希釈剤の成分を調節することができます。

コンジュゲートの特性評価

抗体の粒子表面への結合やコンジュゲートの安定性を確実にするために、コンジュゲートの特性評価は非常に重要です。紫外可視分光法は、プラズモン共鳴吸収を観測することで安定性評価に使用できる方法の1つです。コンジュゲーションの前後でナノ粒子の共鳴ピークが若干シフトした場合、抗体が表面にうまくコンジュゲーションしていることを示しています。コンジュゲートが凝集した場合、ピークがシフトしてブロードになります(図2)。動的光散乱法は、流体力学的サイズおよび多分散指数を測定することで少量の凝集を検出するために使用できるもう1つの方法です。また、ラテラルフロー試験紙もコンジュゲートの性能評価に効果的な方法です(これらコンジュゲートの一般的な用途でもあります)。ナノ粒子にコンジュゲーションした抗体に特異的な試薬をラテラルフロー試験紙に含ませることで、抗体が結合し、その機能をまだ保持しているかを迅速かつ簡単に判定することができます。

UV/Visスペクトルにおける金ナノ粒子コンジュゲーションの確認

図2末端をカルボキシ基で修飾した金ナノ粒子(青)、タンパク質が結合した金ナノ粒子(緑)、凝集した金ナノ粒子(赤)の紫外可視スペクトル(いずれも直径40 nm)。

掲載誌

「ナノ粒子表面修飾ガイドブック Nanomaterial Bioconjugation Techniques」
まとめてご覧になりたい方のためにPDFをご用意しています。


nanoComposix社製金ナノ粒子製品リスト

Gold Nanospheres, Ultra Uniform

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その他Gold Nanospheres, Bioready
NCXAUXR40NCXAUIR40NCXAUCR40NCXAUXR80

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Gold Nanospheres, Silica-Shelled, NanoXact

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Gold Nanoshells (Silica Core), NanoXact-Carboxyl (Lipoic Acid)

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Gold Nanoshells (Silica Core), NanoXact-mPEG 5 kDa (Polymer)

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Gold Nanoshells (Silica Core), NanoXact-PVP 40 kDa (Polymer)

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Gold Nanoshells (Silica Core), for Conjugation kit, Bioready

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その他Gold Nanoshells (Silica Core), Bioready
NCXGSXR150NCXGSIR150

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※ 金ナノ粒子表面について

表面電荷特徴
Bare (Citrate)-他の分子と置換するのが最も容易で、金ナノ粒子で一般的な表面
Aminated (BPEI)+分岐PEIが表面と強固に結合し、強く正に帯電した表面
Carbonate-バイオコジュゲーション用。クエン酸塩よりも金ナノ粒子表面への親和性が低く、分子サイズが小さいため置換が容易。
Carboxyl / Lipoic Acid-粒子表面に強く結合し、他の分子と結合可能なカルボン酸表面
NHS 迅速かつ容易なバイオコンジュゲーション用(EDC/NHS活性化の必要がない)
PEG 水系緩衝液および極性有機溶媒において最も高い安定性
PVP-サイズの大きなポリマーで覆われ、幅広い溶媒に安定
Silica Shell-最も高い溶媒適合性。堆積時にプラズモニック特性を保持します。凝集することなく乾燥および再分散が可能。
Silica Shell (Aminated)+カルボキシル基含有分子などと結合可能な表面。最も高い溶媒適合性。堆積時にプラズモニック特性を保持します。
Streptavidin 任意のビオチン化抗体、タンパク質、またはオリゴヌクレオチドの簡便なバイオコンジュゲーション用



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1.
Hermanson, G. T. Bioconjugate Techniques (Third edition); Academic Press: Boston, 2013.. Available from: https://www.elsevier.com/books/bioconjugate-techniques/hermanson/978-0-12-382239-0
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