酸化鉄ナノ粒子の表面修飾法
Xin Ji, Y. Andrew Wang
Ocean NanoTech, LLC, 7964 Arjons Drive, Suite G, San Diego, CA 92126, USA
Nanomaterial Bioconjugation Techniques(ナノ粒子表面修飾ガイドブック), 2017, p.8
はじめに
金属酸化物ナノ粒子はそのサイズに依存する特有の物理的および光学的な性質のため、過去20年間にわたって非常に大きな関心を集めています1–3。これらナノ構造材料の中で、酸化鉄ナノ粒子(IONP:iron oxide nanoparticles)は最も広く研究されているナノ結晶です。酸化鉄ナノ粒子は磁気的性質がサイズおよび組成に依存することがよく知られており、生物医学用途における可能性が注目されています1,4。サイズが制御可能で高い結晶性を示す高品質の磁性ナノ粒子を作製するには、有機金属前駆体の高温反応を利用した手法が優れています(図1)。そのため、バイオインスパイアード(bio-inspired)研究では、磁性ナノ粒子のコロイド安定性および生体適合性を向上させるため、追加の化学的操作や成長後の表面修飾(配位子交換、カプセル化など)を行う必要があります。これらの処理により、磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging)用造影剤、磁気誘導および分離、細胞内画像法向けの生物学的プラットフォーム、薬物送達用磁性担体に磁性ナノ粒子を使用することが可能になります1–5。
図1A)5 nm、B)10 nm、C)15 nm、D)20 nm、E)25 nm、F)30 nmの酸化鉄ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscopy)画像。これらのナノ粒子が均一なコアを持ち単分散であることを示しています。
制御可能な生体分子(タンパク質、酵素、抗体、薬物、ヌクレオチドなど)の磁性ナノ粒子への効果的な統合には、粒子あたりの生体分子の割合、結合の親和性、生体分子の配向、生体適合性およびコロイド安定性、そして効果的なコンジュゲーション法を制御しなければなりません。コンジュゲーション法の選択に最初に影響するのは、磁性ナノ粒子のサイズおよび形状、表面をキャッピングする配位子の性質および利用可能な官能基、生物学的分子の種類および大きさ、結合サイト、最終的な用途で求められる実用性などの要因の組合せです。これらを総合的に検討することで、ナノ粒子を効果的かつ再現性よく生体システムと融合し、生物学的な標的化、センシング、トラッキング、画像化に適用することが可能になります6–10。
磁性ナノ粒子に関係して使用される多くのコンジュゲーション法および固定化法では、共有結合性カップリング(ナノ粒子表面または表面配位子への共有結合性カップリングなど)と非共有結合性相互作用(金属配位またはホスト―ゲスト相互作用など)のいずれかが利用されています(図2)。過去10年間に開発された方法では、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS、56485)を使用したカルボキシからアミンへの架橋、ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート(BS3)架橋剤を介したアミンからアミンへの架橋、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)を使用したアミンからスルフヒドリルへの架橋などによるナノ粒子と生物活性を示すターゲットとのコンジュゲーションが記述されています11。さらに、アダプタータンパク質や金属-ポリヒスチジンコンジュゲーション(ニトリロ三酢酸-ニッケル(NTA-Ni)-IONPからヒスチジン(His)タグ抗体標識へのコンジュゲーションなど)を介したバイオコンジュゲートの組織化のため、高親和性の二次結合法も探索されています。ここでは、よく行われている複数のバイオコンジュゲーション法の概要を示し、標準的なプロトコルの詳細を説明します。これらは、カルボジイミド、アビジン―ビオチン化学、架橋剤カップリング、ポリヒスチジン媒介金属親和性配位など、アミン基、カルボキシ基、ストレプトアビジンで修飾されている多くの市販の酸化鉄ナノ粒子(747254、747300、900091など)に適用可能な方法です。
図2バイオコンジュゲーション磁性ナノ粒子の作製に使用される最も一般的な5つの化学的方法。i. EDC/Sulfo-NHS、ii. SMCC、iii. BS3 crosslinker、iv. Biotin-streptavidin、v. NTA-Ni-His tag。
【コンジュゲーションプロトコル】
注記:特に記載がない限り、ここに示した方法は、50,000ダルトンの抗体/タンパク質/配位子をコンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子に関する例です。
A. EDC/スルホ-NHS化学を使用したカルボキシ基修飾酸化鉄ナノ粒子のコンジュゲーション
材料
- カルボキシ基修飾酸化鉄ナノ粒子(747254)
- 2 mLマイクロ遠心チューブ(Z628034)
- PBSバッファー、pH 6.0
- EDC(E1769)
- スルホ-NHS(56485)
- PBSバッファー、pH 7.4(P5493)
- PD-10カラム
- エタノールアミン(398136)
手順
- 0.1 mLの0.1 M PBSバッファー(pH 6.0)を入れた2 mLマイクロ遠心チューブに、カルボキシ基修飾酸化鉄ナノ粒子を0.2 mL分取します。
- 予め計量した2 mgのEDCと1 mgのスルホ-NHSの混合物を入れたチューブに1 mLの0.1 M PBSバッファー(pH 6.0)を加え、EDCの濃度を2 mg/mL、スルホ-NHSの濃度を1 mg/mLにします。よく混合して、必ず固体を完全に溶解します。
- 124 µLのEDC/スルホ-NHSを酸化鉄ナノ粒子分散液に加えてよく混合します。
- ローテーターで混合を続けながら、室温で30分間反応させます。酸化鉄ナノ粒子分散液を5 mL反応チューブに移します。0.1 M PBSバッファー(pH 7.4)を加えて最終的な体積を2.5 mLにします。
- 活性化した酸化鉄ナノ粒子2.5 mLを平衡化したPD-10カラムに移し、過剰なEDC/スルホ-NHSを除去します。溶出した酸化鉄ナノ粒子3.5 mLを5 mL反応チューブに採取します。
- 0.5 mLの0.1 M PBSバッファー(pH 7.4)を活性化した酸化鉄ナノ粒子に加え、よく混合し、直ちにプロテインA、リジン、上皮成長因子受容体(EGFR:epidermal growth factor receptor)などの標的化抗体/タンパク質/配位子0.5 mL(0.1 M PBSバッファーに対し1 mg/mL、pH 7.4)を酸化鉄ナノ粒子に加えます。
- ローテーターで混合を続けながら、室温で3時間反応させます。
- 10 µLのエタノールアミンを酸化鉄ナノ粒子分散液に加えて反応を停止します。
- ナノ粒子のサイズに基づいて、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子の精製方法を選択します(表1)。
- 所望の濃度に応じた適量の貯蔵用バッファー(0.02%のNaN3を含む10 mM PBS、pH 7.4)に、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子を再分散します。
B. スルホ-SMCC法を使用するアミン基修飾酸化鉄ナノ粒子のコンジュゲーション
材料
- アミン基修飾酸化鉄ナノ粒子
- 2 mLマイクロ遠心チューブ(Z628034)
- PBSバッファー、pH 7.4(P5493)
- スルホ-SMCC(M6035)
- PD-10カラム
- メルカプトコハク酸(88460)
手順
- 0.2 mLの0.1 M PBSバッファー(pH 7.4)を入れた2 mLマイクロ遠心チューブに、アミン基修飾酸化鉄ナノ粒子(5 mg/mL、ナノ粒子と配位子の総重量)を0.2 mL分取します。
- 0.1 mLのスルホ-SMCC(1 mLの0.1 M PBSバッファーに対して10 mg、pH 7.4)を酸化鉄ナノ粒子分散液に加えます。
- ローテーターで混合を続けながら、室温で1時間反応させます。酸化鉄ナノ粒子分散液を5 mL反応チューブに移します。0.1 M PBSバッファー(pH 7.4)を加えて最終的な体積を2.5 mLにします。
- 活性化したナノ粒子2.5 mLを平衡化したPD-10カラムに移し、過剰なスルホ-SMCCを除去します。溶出した酸化鉄ナノ粒子3.5 mLを5 mL反応チューブに採取します。
- システインやメチオニンなどの遊離チオール基を示す標的化抗体/タンパク質0.5 mL(0.1 M PBSバッファーに対し1 mg/mL、pH 7.4)を酸化鉄ナノ粒子に加えます。混合を続けながら、室温で4時間反応させます。
- 50 µLのメルカプトコハク酸(0.1 M PBSバッファーに対して10 mg/mL、pH 7.4)を酸化鉄ナノ粒子分散液に加えて反応を停止します。
- 表1を使用して、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子の精製方法をナノ粒子のサイズに基づいて選択します。
- 所望の濃度に応じた適量の貯蔵用バッファー(0.02%のNaN3を含む10 mM PBS、pH 7.4)に、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子を再分散します。
C. BS3化学を使用するアミン基修飾酸化鉄ナノ粒子のコンジュゲーション
材料
手順
- 0.2 mLの10 mM PBSバッファー(pH 7.4)を入れた2 mLマイクロ遠心チューブに、アミン基修飾酸化鉄ナノ粒子(5 mg/mL、ナノ粒子と配位子の総重量)を0.2 mL分取します。
- 0.1 mLの10 mg BS3を1 mLの10 mM PBSバッファー(pH 7.4)に加え、酸化鉄ナノ粒子分散液に加えます。
- ローテーターで混合を続けながら、室温で30分間反応させます。酸化鉄ナノ粒子分散液を5 mL反応チューブに移します。10 mM PBSバッファー(pH 7.4)を加えて最終的な体積を2.5 mLにします。
- 活性化したナノ粒子2.5 mLを平衡化したPD-10カラムに移し、過剰なBS3を除去します。溶出した酸化鉄ナノ粒子3.5 mLを5 mL反応チューブに採取します。
- プロテインA、リジン、EGFRなどのアミノ基を含む標的化抗体/タンパク質/配位子0.5 mL(10 mM PBSバッファーに対し1 mg/mL、pH 7.4)をナノ粒子に加えます。混合を続けながら、室温で3時間反応させます。
- 10 µLのグリシン(20 mM)を酸化鉄ナノ粒子分散液に加えて反応を停止します。
- 表1を使用して、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子の精製方法をナノ粒子のサイズに基づいて選択します。
- 所望の濃度に応じた適量の貯蔵用バッファー(0.02%のNaN3を含む10 mM PBS、pH 7.4)に、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子を再分散します。
D. ストレプトアビジン修飾酸化鉄ナノ粒子のコンジュゲーション
材料
手順
- 0.5 mLの10 mM PBSバッファー(pH 7.4)を入れた2 mLマイクロ遠心チューブに、ストレプトアビジン修飾酸化鉄ナノ粒子(1 mg/mL)を0.2 mL分取します。
- カルボキシラーゼなどの標的化したビオチン化酵素0.2 mL(10 mM PBSバッファー中の1 mg/mL、pH 7.4)を酸化鉄ナノ粒子分散液に加えます。ローテーターで混合を続けながら、室温で3時間反応させます。
- 表1を使用して、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子の精製方法をナノ粒子のサイズに基づいて選択します。
- 所望の濃度に応じた適量の貯蔵用バッファー(0.02%のNaN3を含む10 mM PBS、pH 7.4)に、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子を再分散します。
E. NTA-Ni 修飾酸化鉄ナノ粒子のコンジュゲーション
材料
- NTA-Ni 修飾酸化鉄ナノ粒子
- 2 mLマイクロ遠心チューブ(Z628034)
- 標識化したHisタグ抗体
手順
- 0.5 mLの10 mM PBSバッファー(pH 7.4)を入れた2 mLマイクロ遠心チューブに、NTA-Ni 修飾酸化鉄ナノ粒子(1 mg/mL)を0.2 mL分取します。
- 0.2 mLの標的化したHisタグ抗体(10 mM PBSバッファーに対して1 mg/mL、pH 7.4)を酸化鉄ナノ粒子分散液に加えます。ローテーターで混合を続けながら、室温で3時間反応させます。
- 表1を使用して、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子の精製方法をナノ粒子のサイズに基づいて選択します。
- 望ましい濃度に応じた適量の貯蔵バッファー(0.02%のNaN3を含む10 mM PBS、pH 7.4)に、コンジュゲーションした酸化鉄ナノ粒子を再分散します。
精製
結合した生体分子の性質は精製に影響を与え、また往々にして精製に関する問題はコンジュゲーションに関する問題よりも解決が困難です。いずれの場合も、精製法ごとに対策が要求されます。表2は、酸化鉄ナノ粒子コンジュゲートの精製に使用される6つの一般的な方法と、それらの利点と欠点を比較したものです。
A. 磁気分離器
磁気分離器は、少量の磁性ナノ粒子を迅速に分離できるように設計されています。分離時間は、磁気強度、粒子サイズ、溶液中の磁性ナノ粒子の濃度によって、数時間から2~3日間かかる可能性があります。
B. 脱塩カラム
脱塩カラムを使用したサイズ排除クロマトグラフィーでは、結合していない生体分子を除去し、またコンジュゲートから過剰の架橋剤や標識化試薬を分離することができます。
C. 遠心ろ過装置
遠心ろ過装置では、迅速な試料の濃縮、高い回収率、バッファー交換、塩および遊離配位子の除去が可能です。コンジュゲーションしていない生体分子/架橋剤は、膜ろ過装置を通して2~3回濃縮および希釈を行うことで除去できます。この方法を使用する場合は、分子量カットオフ(MWCO:molecule weight cutoff)、膜材料、ナノ粒子バイオコンジュゲートの安定性、回転時間および速度を検討しなければなりません。
D. 透析
水溶液中の酸化鉄ナノ粒子の後処理として透析を行い、高い純度を得ることができます。膜孔を通過できないナノ粒子は透析チューブ内に残り、低分子は膜を通過してバッファー液へ自由拡散します。
E. 超遠心法
超遠心法は、ナノ粒子に最適化された汎用で高速な方法です。ナノ粒子溶液中の自由分子を除去する最も簡単な方法です。使用する磁性ナノ粒子のサイズに基づいて遠心力を調節する必要があります。
F. 撹拌式セル
撹拌式セルは、大量のサンプル中にタンパク質、酵素、抗体、薬物などを含むナノ粒子コンジュゲート分散液の濃縮、透析ろ過、精製、バッファー交換を行う際に最適です。ガス圧がセルに直接掛けられ、MWCOより大きな溶質がセルに残り、水およびカットオフより小さな溶質はろ液に移動してセルから排出されます。
特性評価
コンジュゲーションを検証する単純な方法として、タンパク質と結合させる前後のナノ粒子の流体力学的サイズの変化を測定する方法があります。ただし、多くの実験室では、粒子サイズを測定する装置が広く利用できるわけではありません。ゲル電気泳動を使用すると、バイオコンジュゲーション前後のナノ粒子のサイズおよび表面電荷の変化を測定することができます。この方法は、負電荷を持つ酸化鉄ナノ粒子に対して特に有効です。カルボキシ基で修飾されたコンジュゲーションされていないナノ粒子は、コンジュゲーション済みナノ結晶よりも非常に速く移動します。ただし、アミン基修飾ナノ粒子の多くは表面が電気的に中性で、タンパク質とのコンジュゲーション前後でゲル電気泳動での移動の変化は大きくありません。膜上のプロテインAまたはGを使用したラテラルフローイムノアッセイまたはドットブロットなどのイムノアッセイ試験では、粒子表面上のタンパク質が機能性を維持しているかを判断するための定量的な情報を迅速に得ることができます。ブラッドフォードタンパク質アッセイは、粒子上のタンパク質の量を定量化できます。この方法を使用した場合、全体および未反応のタンパク質を測定できますが、可視光領域における酸化鉄ナノ粒子の強い吸収により、粒子表面上のタンパク質は測定できません。粒子表面上の抗体を定量化する別の方法として、免疫蛍光標識を使用する方法があります。この方法では、色素で標識化した二次抗体をナノ粒子上の一次抗体と相互作用させます。表3に、それぞれの特性評価方法の利点と欠点をまとめました。
掲載誌
「ナノ粒子表面修飾ガイドブック Nanomaterial Bioconjugation Techniques」
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酸化鉄ナノ粒子、carboxylic acid functionalized
酸化鉄ナノ粒子、NHS ester functionalized
酸化鉄ナノ粒子、PEG functionalized
酸化鉄ナノ粒子、streptavidin functionalized
その他酸化鉄ナノ粒子
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参考文献
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関連情報
- Webカタログ:酸化鉄ナノ粒子
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