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酸化亜鉛ナノ複合体を電子輸送層材料に用いた逆構造型有機太陽電池

Bryce P. Nelson<sup>1</sup>, Pengjie Shi<sup>1</sup>, Wei Wei<sup>1</sup>, Sai-Wing Tsang<sup>2</sup>, Franky So<sup>3</sup>

はじめに

有機太陽電池(OPV:organic photovoltaic)は、従来の太陽電池に代わる低コスト、軽量、かつ拡張性の高い電池です。従来のバルクヘテロ接合型太陽電池の開発は著しく進歩していますが、OPVを商業的に成功させるために必要な性能と安定性を得るには新しいアプローチが必要です。このような中、逆構造型バルクヘテロ接合OPVは1つの有望な手法として注目されています。本レビューでは、酸化亜鉛(ZnO)を電子輸送層(ETL:electron transporting layer)材料に用いた高効率逆構造型ポリマー太陽電池の最近の進展と、ZnOを用いた逆構造型OPVの表面および電子特性を改善する新規手法について解説します。

OPV分野での最近の研究は、主に従来型バルクヘテロ接合太陽電池に用いられる新規光活性ポリマーや有機低分子の開発に重点が置かれています。電力変換効率(PCE:power conversion efficiency)は、これらの取り組みによって最大7~8%になりました。従来のOPVセル構成では、陽極層は一般にp型PEDOT:PSS(poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(styrene sulfonate))層でコーティングされたITO(indium tin oxide)薄膜で構成されています。ITOは、導電性と透明性を持つ上に仕事関数が大きいため、一般的に利用されている材料です。PEDOT:PSSはホール輸送層としてITO膜のピンホールを埋め、光活性層とオーム接触を形成します。一方、陰極層には、カルシウム、アルミニウム、マグネシウムなど、一般的に仕事関数の小さい金属がこれまで用いられてきました。仕事関数の小さな金属は空気に触れると容易に酸化されるため、陰極を封止し、曝露を防ぐ必要があります。また、反応性の低い材料を用いた陰極の開発が試みられているものの、コストの上昇や性能への影響、または構造の複雑化といった問題が生じます。

逆構造型OPVでは、従来の積層構造の順序を逆にし、酸化しやすい金属の陰極への使用を避けることで、素子の安定性と全体の性能が改善されます。図1Aに逆構造型OPVの概略図を示します。小さい仕事関数をもつ材料をETLとしてITO電極上に作製し、陰極に使用します。逆構造型OPVに用いられる代表的なETL材料には、炭酸セシウム(Cs2CO3)、n型金属酸化物(酸化チタン(TiOx)、酸化亜鉛(ZnO)など)、アルコールや水に可溶性の共役系高分子電解質などがあります。多くの場合、陽極中間層(ホール輸送層)には、PEDOT:PSSや仕事関数の大きなMoO3、WO3、V2O5などの多様な遷移金属酸化物が用いられます4。銀(Ag)は大気中で安定な陽極を形成し、低コストのコーティングおよび印刷法によって塗布できるため、上部電極として広く用いられます。逆構造型OPVに用いられる材料の多くは湿式法で処理できることから、今後の量産プロセスへの移行の見通しも大きく改善されます。

代表的な逆構造型ポリマー太陽電池の素子構造

図1A)代表的な逆構造型ポリマー太陽電池の素子構造 B)さまざまなアニール温度でZnO膜を導入した逆構造型PCDTBT:PC70BM太陽電池のJ-V特性。参考文献13より転載。Copyright 2011 Wiley-VCH Verlag GmbH &amp; Co. KGaA C)ZnO-PVP ETLをさまざまなUVオゾン処理時間で処理した逆構造型PDTG–TPD:PC70BM太陽電池のJ-V特性(100 mW・cm-2、AM 1.5 G)。参考文献17 より転載。Copyright 2011 Macmillan Publishers Limited

低温アニールした、電子輸送層としてのゾルゲルZnO膜

ZnOは電子移動度、安定性、および透明性の点において比較的優れているため、逆型OPV太陽電池用の陰極材料として特に有望です。さらに、ZnO薄膜は極めて拡張性の高いゾルゲル法で簡単に作製できます。OPVにゾルゲル法を用いる際の1つの欠点は、残留有機化合物の除去と酸化物の結晶化促進に高いアニール温度を必要とする点にあり、基板にポリマー材料を用いることが難しくなります。そのため、Heegerら13は、有機太陽電池作製に低温アニール処理によるゾルゲル法ZnO膜の利用を試みています。図1Bに、さまざまな温度でアニールしたZnO膜を含むPCDTBT(poly[N-9''-hepta-decanyl-2,7-carbazole-alt-5,5-(4',7'-di-2-thienyl-2',1',3'-benzothiadiazole)]、753998)とPC70BM([6,6]-phenyl C70-butyric acid methyl ester、684465)ベースの逆型太陽電池のJ-V特性を示しました。これら材料の組み合わせで、6.33%のPCEが得られています。Heegerらは、酢酸亜鉛の2-メトキシエタノール溶液をITO基板上にスピンキャストし、続いて熱アニールによって加水分解させることで緻密なZnO膜を作製しました。ゾルゲル法で調製したZnO薄膜は、一般に酸素欠乏であることが知られていますが、これらのZnO膜から得られたX線光電子分光法(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)データは、アニール温度の上昇によりZn-O結合が増加し、欠陥密度が下がることを示しています。さらに、200℃でアニールすると、電子移動度が2.0 × 10-4から4.0× 10-3 cm2 V-1 s-1に上昇しました。逆型セルはPCEが高いだけでなく安定性も改善され、30日を超えて大気中に曝露した後も安定したPCE性能を示しました。比較可能な従来型太陽電池を大気に16時間曝露した場合、PCEは30%以上の減少を示しました。

UVオゾン処理した、電子輸送層としてのZnOナノ複合体

ZnOコロイドナノ粒子は水熱法で容易に合成できるため、逆型OPVの開発に広く用いられてきました。しかし、ZnOナノ粒子を逆型OPVのETLとして用いると、合成後のナノ粒子が持つ高密度の欠陥によって曲線因子(FF:fill factor)が従来のデバイスより低下します。フロリダ大学のSoグループの研究によれば、ZnOナノ粒子をUVオゾン(UVO:UV-ozone)処理することによって逆型OPVの性能を向上させることが可能です。ZnO薄膜の定常状態フォトルミネセンス(PL:photoluminescence)測定では、519 nmにピークを有する、強度が372 nmのバンド間発光と同程度のブロードな発光が見られており、これはZnOナノ粒子の欠陥を示しています。この欠陥は主にZnOナノ粒子表面への酸素吸着によって誘起され、UVO処理によって大きく減少することが知られています。UVO処理後の欠陥減少は、ZnO薄膜のトラップ発光が大きく抑制され、OPV中のキャリア寿命が延びたことから確認されました。その結果、UVO処理したZnOをETLとして用いたOPVの短絡電流(JSC)が著しく改善され、UVO処理によってZnO表面が不動態化されることを意味しています。

Soらは、PDTG-TPD(dithienogermole-thienopyrrolodione)を用いた逆型ポリマー太陽電池のETLとして、ZnO-PVP(poly(vinyl pyrrolidone))ナノ複合体も開発しています。ここでは、ITOの仕事関数の調整および活性層との結合強化のために、ZnOコロイドナノ粒子の代わりにZnO-PVPナノ複合体が用いられています。ゾルゲル法由来のZnO-PVPナノ複合体には、ZnOコロイドナノ粒子にない多くの利点があります。まず、PVPポリマーによるZnO表面の不動態化により安定性が向上します。そのため、空気中での作業が可能になり、ETLの作製が容易になります。次に、Zn2+/PVP比を制御することによってZnOナノクラスターの粒径と濃度の調整が可能となります。さらに、PVPの使用よってZnOナノクラスターの凝集が抑制され、より均一な薄膜を形成することができます。最後に、ZnOナノクラスターの不動態化により酸素が外部に拡散するのを防ぎ、無機-有機複合薄膜において一般的にみられる欠陥形成が抑制されます。

しかし、ZnO-PVPナノ複合体の1つの欠点として、PVPによるZnOと光活性層との結合の阻害が挙げられます。その結果、UVO処理していないZnO-PVPを用いて作製した素子の性能は一般に低いものの、複合膜のUVO処理によってZnOと活性層との結合が著しく改善され、性能が大幅に向上します。UVO処理膜の表面分析の結果、膜表面のPVPポリマーが効果的に除去され、ZnOが表面に露出していることが分かりました。そのため、ZnOと活性層の電子的結合が強化され、太陽電池の電荷収集効率が向上します。図1Cに示すように、FFは50%未満から68%に上昇し、素子の効率改善に直接影響していることがわかります。ZnO複合膜を使用することで、バンドギャップが低いPDTG-TPDポリマーでもPCEが8%を超える逆型OPVの実現が可能となります。

まとめ

高性能逆型OPVは大きな可能性を秘めていますが、その研究開発例はあまり多くありません。近年では、電子輸送層材料として酸化亜鉛ナノ複合体を用いた逆型ポリマー太陽電池の開発に大きな進展が見られています。実験室規模のプロセスをフレキシブル太陽電池の商業生産にどのように移行させるかに関しては課題が残るものの、これら研究によって高効率、軽量、低コストの有機太陽電池デバイスの明るい未来が切り開かれていくことが期待されます。

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