非ドープ型有機EL用凝集誘起発光性(AIE)材料
Han Nie<sup>1</sup>, Zujin Zhao<sup>1</sup>, Ben Zhong Tang<sup>1,2,3</sup>
Material Matters 2016, Vol.11 No.1
はじめに
有機EL(OLED:Organic Light-emitting Diode)は、電気エネルギーを光に変換する固体デバイスであり、高解像度フレキシブルディスプレイや固体照明向けの次世代技術として、科学的にも工業的にも大きな注目を集めています1。蛍光有機EL(発光体として従来型蛍光材料を使用した第1世代の有機EL)は、その優れた安定性と比較的長いデバイス動作寿命のため、これまで幅広く研究が行われてきました2。
有機ELの外部量子効率(ηext)は、内部量子効率(ηint)と光取り出し効率(ηout)の積として表されます。
ηext = ηint × ηout
通常、光取り出し層を持たない大半の有機EL素子では、ηout は約20~30%になります。ηintの値はηint = γ × β × ΦPLの式で得られます。ここでγ は正孔と電子の比を表すキャリアバランス、β は輻射失活の可能な励起子(一重項励起子)の割合、ΦPL は発光層固有の蛍光(PL:photoluminescence)量子収率です3。スピン統計則に従って、電子の励起により生成する励起子の25%が、蛍光を発して基底状態に失活する一重項励起子です。そのため、蛍光有機ELのβ は最大でも25%に限定され、γ および蛍光体のΦPL(ΦF)が100%だったとしても、素子の理論的な最大ηext は約5~7.5%に留まります3。そこで、高いΦF 値を示す、高効率で安定な蛍光材料の開発が非常に重要になります。従来の蛍光体の多くは、溶液中の孤立分子状態で強い発光を示しますが、凝集状態では部分的または完全に消光します。この効果は凝集起因消光(ACQ:aggregation caused quenching)として知られています4。ACQ効果は、強い分子間π-πスタッキング相互作用を介した非局在化励起子の形成により制御されると考えられており、発光スペクトルの長波長シフトおよびΦPL 値の減少が起こります4。ΦPL に及ぼす悪影響のため、かねてよりACQ効果は従来型蛍光体の有機EL素子への応用の妨げとなっています。
凝集誘起発光(AIE:Aggregation-induced emission)は、ACQとは本質的に反対の、発色団の凝集に関連する特有の現象です5。AIE特性を示す材料(AIEgen:Luminogen with AIE characteristic)は、希薄溶液中で各分子が分散している状態では弱い蛍光性または無蛍光性ですが、凝集して集合体を形成すると強い蛍光を発します。図1に、代表的なAIEgenである1,1,2,3,4,5-hexaphenylsilole(HPS、797294)6のAIE現象を示しました。発光が凝集により促進される様子がわかります。
過去10年間で、系統的な実験測定および理論計算によりAIE現象の特徴が詳細に調べられています。これら研究から、AIE効果の主な要因は、分子内運動の制限(RIM:restriction of intramolecular motion)であるということが明らかになっており、RIMは分子内回転の制限(RIR:restriction of intramolecular rotation)と分子内振動の制限(RIV:restriction of intramolecular vibration)の両者で構成されます6。溶液状態では、分子運動によりエネルギーが消費され、励起状態から基底状態へのエネルギー放出が無輻射失活となります。これに対して凝集状態では、空間的制約および周囲分子との相互作用によりこれら分子運動が大幅に抑制され、無放射失活経路が阻害されて発光が生じます。
図1異なる割合で混合したTHF/水溶媒を用いたヘキサフェニルシロール(HPS;20 mM)溶液および懸濁液の蛍光写真。文献6より許可を得て転載(Copyright2014 Wiley-VCH)。
多くの研究グループがAIE現象の応用可能性に注目し、新たなAIEgenの探索とその可能性を最大限に活用する方法の開発に注力しています。AIE機構を十分に理解することで、多種多様な新規AIEgenが開発されており、蛍光消光に起因する問題に対処するための新たな戦略の実現や新規高効率固体発光体の開発が可能になっています7。固体膜中で高いΦF 値を示す蛍光AIEgen、特にシロール8やテトラフェニルエチレン(TPE:tetraphenylethene)9誘導体は、安定かつ単純な構造を有する非ドープ型蛍光有機ELの作製に広く使用されています。その一部は優れたエレクトロルミネッセンス(EL)特性を示し、理論限界に近いもしくは限界に達した高い効率が得られています。本レビューでは、これらの成果の概要を示します。
シロール系AIEgen
最初に報告されたAIEgen5であるプロペラ型シロールは、有機エレクトロニクス分野で非常に大きな関心を集めています。大半のシロールがAIE特性を有し、固体で高いΦF 値を示します。これらシロールに特有のσ*–π*共役の結果として、2本の環外C–Si一重結合のσ*軌道とブタジエン部分のπ*軌道との相互作用のため、LUMO(最低空軌道、lowest unoccupied molecular orbital)の準位が下がります。その結果、シロールの電子親和力は良好で電子移動度も大きく、有機ELにおける電子輸送に使用することが可能になります8。さらに、シロールは一般的な溶媒中で高い熱安定性と形態安定性、および優れた溶解性を示すため、気相成長法または溶液処理法により容易に製膜することができます8。こうしたシロールの優れた総合性能は、非ドープ型有機EL作製への利用可能性を判断する良い指標となっており、近年では、新たなタイプのシロール化合物を設計することにより、有機EL用高効率固体発光材料が多数開発されています。
フルオレン系置換基は強い発光と良好な熱安定性を示すため、有機EL向けの高効率発光体の作製に広く使用されています。シロール環の2,5位に置換基としてジメチルフルオレンを組み込んだシロールは、優れたPLおよびEL特性を示します10。例えば、図2に示すMFMPS膜[ITO/NPB(60 nm)/エミッタ(20 nm)/TPBi(40 nm)/LiF(1 nm)/Al(100 nm)]は、ピーク波長534 nmの強い蛍光を発し、THF溶液中(2.6%)よりも遥かに高いΦF 値(88%)が得られ、AIE特性を示します。MFMPSを発光層として非ドープ型有機ELの作製に使用すると、たとえばMFMPS[ITO/NPB(60 nm)/MFMPS(20 nm)/TPBi(40 nm)/LiF(1 nm)/Al(100 nm)]の場合、得られた素子は低い電圧(3.2 V)でターンオン可能で、CIE座標(x = 0.37、y = 0.57)で最大輝度(Lmax)31,900 cd m-2の黄色光(544 nm)を発します。この素子のEL効率は良好で、最大電流効率(ηC,max)は16.0 cd A-1、最大電力効率(ηP,max)は13.5 lm W-1、最大外部量子効率(ηext,max)は4.8%です。これは、従来型蛍光材料を使用した有機ELの理論限界に迫る値です。MFMPSのEL特性は、ITO/MoO3(5 nm)/NPB(60 nm)/MFMPS(20 nm)/TPBi(60 nm)/LiF(1 nm)/Al(100 nm)の素子構成でさらに明らかになっています。この構造の場合、ターンオン電圧(Von)は3.3 Vで黄色ELのピーク波長は540 nm(CIE 0.36、0.57)となり、最大輝度、電流効率、および電力効率はそれぞれ37,800 cd m-2、18.3 cd A-1、15.7 lm W-1という非常に優れた値を示します。注目すべきは、この最適化した素子では5.5%のηext,max が得られた点で、蛍光有機ELとしては例外的な値です。
図2シロール系AIEgenの化学構造
上記のように、シロール化合物は優れたAIE特性と特有の電子構造を持つため、高効率非ドープ型有機ELの発光材料および電子輸送材として理想的な材料です。シロールのこれら2つの利点を組み合わせることで、高効率二機能性n型発光体を作製することも可能になり、簡易な構造の有機EL作製方法として多用されています。(MesB)2MPPSと(MesB)2HPSはその良い例であり、両者ともにシロール環と本質的に電子欠損性のグループを含む官能基であるジメシチルボリル基を有しています11。テトラフェニルシロール部分は化合物にAIE特性を与え、高効率の固体発光を可能にします。一方、ジメシチルボリル基は、ホウ素中心の空のpπ軌道が低い準位にあるため、LUMOエネルギー準位を効果的に低下させて分子の電子輸送能を改善します。(MesB)2MPPSおよび(MesB)2HPSのLUMOエネルギー準位はそれぞれ3.06 eV、3.10 eVと低く、有機EL用電子輸送材として大きな可能性を持っていることを示しています。(MesB)2MPPSおよび(MesB)2HPSの固体膜はそれぞれピーク波長524 nmおよび526 nmで強く発光し、58%および62%という高いΦF 値を示します。これらの特性に基づいて、(MesB)2MPPSまたは(MesB)2HPSを発光層(EML:emissive layer)および電子輸送層(ETL:electron transporting layer)として同時に使用した二層型有機EL[ITO/NPB(60 nm)/シロール(60 nm)/LiF(1 nm)/Al(100 nm)]が作製されました。これら2つの簡易構造型有機ELは優れた性能を示し、高いηC,max(最高13.9 cd A-1)、ηP,max(最高11.61 lm W-1)、およびηext,max(最高4.35%)の値が得られています。これらはすべて、TPBi(806781)電子輸送層を追加した三層型デバイスで得られた結果よりも遥かに高い値です。これら有機ELが優れた性能を示す理由として、電子輸送効率が高いこと、およびシロールのLUMO準位とカソードの仕事関数の位置が適切であるため、正孔と電子のキャリアバランス(γ)が良好であることが挙げられます。これは、ジメシチルボリル基で官能基化したシロールが高効率n型固体発光体であり、また、高性能かつ単純な構造の有機EL素子を作製するための二機能性材料として有望なことを示しています。ジメシチルボリル置換基をMFMPSに組み込むことにより開発された類似のシロール誘導体(MesBF)2MPPSも12、優れた固体発光(ΦF = 88%)および高い電子輸送能を示し、良好なEL特性が得られています(表1)。
TPE系AIEgen
TPEはその単純な分子構造と優れたAIE効果を示すことから、最も多用されているAIEgen部分構造の1つです。TPEユニットはACQ蛍光体に容易に導入することが可能で、高効率非ドープ型有機ELの作製に適した、凝集状態で高い発光効率を示す新たな蛍光AIEgenを作製することができます。TPE系AIEgen構造のいくつかの例を図3に示します。構造をわずかに変化させるだけで、TPE系蛍光AIEgenの発光色を可視光の全領域にわたって調節することができます。この性質を利用して、高性能かつ高効率の青、シアン、緑、黄、赤、さらには白色の有機ELも複数作製されています7,9。
Abbreviations: λEL = electroluminescence maximum; Von = turn-on voltage at 1 cd m−2; Lmax = maximum luminance; ηC,max = maximum current efficiency; ηP,max = maximum power efficiency; ηext,max = maximum external quantum efficiency; CIE = Commission Internationale de I’Eclairage coordinates; NPB = N,N΄-di(1-naphthyl)-N,N΄-diphenylbenzidine; TPBi = 1,3,5-tris(N-phenylbenzimidazol- 2-yl)benzene; Bphen = 4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline; Alq3 = Tris-(8-hydroxyquinoline)aluminum.NPB functions as a hole-transporting layer (HTL); TPBi and Bphen serve as an electron-transporting layer (ETL) and a hole-blocking layer (HBL), respectively; Alq3 functions as ETL; and MoO3serves as a hole-injection layer (HIL).
図3TPE系AIEgenの化学構造
高効率の青色有機EL、特に濃青色有機ELは、フルカラーディスプレイおよび固体照明の商業利用実現に不可欠です。しかし、本質的に大きいバンドギャップのため、堅牢な有機青色発光材料および有機EL素子の数は依然として少ないのが現状です。高効率青色リン光材料の設計には大きな課題が存在し、作製されたリン光有機ELの安定性と寿命の改善も困難であることから、これまで、純粋な有機青色蛍光体の開発には多大な労力が費やされてきました。最近、Liのグループは、様々な結合パターンを利用して分子内のねじれ角度を立体障害により増加させ、分子の回転と共役系のバランスを調整することで、複数の青色AIEgenを開発しました13。これらAIEgenの中で、メチル置換トリフェニルアミン(TPA:triphenylamine)コアと3つのTPEユニットが結合したMethylTPA-3pTPEでは、凝集状態で64%という高いΦF 値を示し、良好なEL効率が得られています。ITO/MoO3(10 nm)/NPB(60 nm)/MethylTPA-3pTPE(15 nm)/TPBi(35 nm)/LiF(1 nm)/Al構造の多層型有機ELは480 nmの青色光を発し(CIE 0.17、0.28)、Lmax、ηC,max、ηP,max、ηext,max はそれぞれ13,639 cd m-2、8.03 cd A-1、7.04 lm W-1、および3.99%となり、優れた性能を示します。メチル置換TPA基はMethylTPA-3pTPEに良好な正孔輸送能を与えるため、正孔輸送層(HTL:hole transporting layer)を用いない簡易な構造の素子[MoO3(10 nm)/MethylTPA-3pTPE(75 nm)/TPBi(35 nm)/LiF(1 nm)/Al]は、同程度のEL効率(6.51 cd A-1、6.88 lm W-1、3.39%)を示し、より青い(短波長)469 nmの光を発光します(CIE 0.18、0.25)。
トリフェニルエチレンは、単純な分子構造を有する、もう一つの非常に有用なAIEユニットです。TPEと比較して、トリフェニルエチレンはより短い共役長であり、より青色の固体発光を示すため、高効率固体青色蛍光体を作製するためのビルディングブロックとして期待されています。トリフェニルエチレンとphenanthro[9,10-d]imidazole(PI)基を分子レベルで融合した、高効率濃青色AIEgenであるBTPE-PIが作製されています14。BTPE-PIを発光層に使用した非ドープ多層型EL素子[ITO/NPB(40 nm)/BTPE-PI(20 nm)/TPBi(40 nm)/LiF(1 nm)/Al(100 nm)]により、ピーク波長が450 nm(CIE 0.15、0.12)で4.4%という優れたηext,max を持ち、ロールオフ特性の小さい濃青色EL発光が可能になります。
ピレンは、ACQ効果の影響により薄膜では通常発光が抑制される、従来型蛍光体です。ピレンの周囲に4つのTPEを結合させた新規蛍光体(TTPEPy)が作製され、明確なAIE特性と高効率の固体蛍光(ΦF = 70%)が確認されています15。TTPEPyを発光層として使用した非ドープ型有機ELは、ピーク波長約490 nmのスカイブルーの光を発し、優れた性能を示します(ηC,max:最高12.3 cd A-1、ηext,max:4.95%)。
有機EL素子への有機半導体の使用には、発光材料が高効率の固体発光を示すとともに高いキャリア輸送能を有している必要があります。このような多機能性材料は、発光層と正孔および/または電子輸送層としての役割を同時に担うため、素子構成の簡略化、製造工程の短縮、製造コストの削減に繋がります9。TPAは正孔注入・輸送性能に優れているため、半導体製造において広く使用されていますが、凝縮相ではACQ効果が問題になります。TPA基とTPEユニットを組み合わせることで、多用途性に優れた2TPATPE新規半導体が合成されました16。2TPATPEは、極めて高いΦF 値(約100%)を示すだけでなく、固体アモルファス膜での正孔移動度も優れた値(5.2×10-4 cm2 V-1 S-1)を示します。これは、正孔移動度の測定方法として一般的な飛行時間法で確認された値です。HTLを用いない簡易構造型2TPATPE有機EL[ITO/2TPATPE(60 nm)/TPBi(10 nm)/Alq3(30 nm)/LiF/Al(200 nm)]が作製され、Lmax 値が33,770 cd m-2の緑色光と優れたEL効率が得られました(4.4%、13.0 cd A-1、11.0 lm W-1)。このEL効率は、HTLを含んだ素子[ITO/NPB(40 nm)/2TPATPE(20 nm)/TPBi(10 nm)/Alq3(30 nm)/LiF/Al(200 nm)]のEL効率(4.0%、12.3 cd A-1、10.1 lm W-1)よりも改善されています。
Adachiらは、正孔輸送材料であるN,N,N',N'-tetraphenylphenylenediamine(PDA)またはTPAコアとTPEユニットを組み合わせることで、2種類の新規星型AIEgen、PDA-TPEとTPA-TPEを報告しています17。これら2つのAIEgenのアモルファス膜は強い蛍光を発し、56~73%という高いΦF 値を示し、典型的な市販されている正孔輸送材料のN,N'-di(1-naphthyl)-N,N'-dipenylbenzidine(NPB)よりも大きな正孔移動度が得られています。この特性は、PDAまたはTPA基の存在と、星型分子の自発的な分子配向によるものです。その結果、作製された簡易構造型有機ELでは、PDA-TPEもしくはTPA-TPEが発光層および正孔輸送層の2つの機能を同時に果たすため、極めて優れた性能を示します(表1)。自発的な分子配向に起因する最適な電荷バランスと向上したηout のため、[ITO/NPB(40 nm)/PDA-TPEまたはTPA-TPE(25 nm)/BPhen(35 nm)/LiF(0.8 nm)/Al(70 nm)]などの三層型素子は最大5.9%という非常に高いηext,max 値を示し、510~530 nmの緑色EL発光が得られます。
電子供与体および受容体(D-A:electron donar and acceptor)の双方を含む両極性発光材料は、有機ELにおけるキャリアの注入と輸送のバランスをとるためにより適した材料であり、素子構造の簡略化にも有効です。我々のグループでは、さらに高効率の固体両極性発光材料を作製するため、AIEユニットを含むD-A構造となる、電子供与体(ジフェニルアミノ基)と電子受容体(ジメシチルボリル基)をTPEで接続することで、新たな化合物を設計しました18。この新規両極性AIEgen(TPE- PNPB)は固体膜中で弱いD-A相互作用と強い蛍光を示し、ΦF の値は94%でした。作製された三層型有機EL[ITO/NPB(60 nm)/TPE-PNPB(20 nm)/TPBi(40 nm)/LiF(1 nm)/Al(100 nm)]は、3.2 Vの低電圧でターンオン可能で、516 nmの強いEL発光を示し(CIE 0.27、0.51)、49,993 cd m-2の高いLmax が得られています。この素子のηC,max、ηP,max、およびηext,max は、それぞれ15.7 cd A-1、12.9 lm W-1、5.12%という優れた値が得られました。二層型有機ELにおいてTPE-PNPBがEMLおよびHTLとして機能した場合、非常に高いηext,max (5.35%)を示し、TPE-PNPBが優れたp型発光材であることが明らかになっています。さらに、1,000 cd m-2において、この三層および二層型有機ELのηext,max はそれぞれ4.75%、4.45%と維持されていることから、TPE-PNPBを使用した有機ELの安定性が良好であることがわかります。
フルカラーディスプレイ用途に向けて、青色、緑色、および赤色の高効率蛍光材料および有機EL素子の開発が不可欠になります。青色有機ELと同様に、既存の赤色蛍光有機ELが示す現状の性能も十分ではありません。一般に、従来の赤色蛍光体の多くは、拡張π共役系を持つ平面状の多環芳香族炭化水素(PAH:polycyclic aromatic hydrocarbon)ユニットで構成されています。これらの材料も強いACQ効果を示し、固体中では発光が抑制されます19。この欠点に対処するための方法として、AIEユニットを使用した高効率赤色蛍光体の開発に期待が高まっています。例として、ベンゾ-2,1,3-チアジアゾールとチオフェンの結合体に2つのTPEユニットが結合した、新たな橙色~赤色の蛍光体BTPETTDが開発されています20。BTPETTDはAIE特性を示し、固体膜中で効率良く発光します(ΦF :55%)。BTPETTDを発光材料として使用した有機ELは592 nmの橙色~赤色ELを示し、高いEL効率(6.1 cd A-1、3.1%)が得られています。また、異なる赤色AIEgenである、TPE-TPA-BTDとTPE-NPA-BTDも最近開発されています19。これら新材料は、それぞれ48.8%および63.0%という高いΦF 値を示します。作製された非ドープ型有機ELは、共に604 nmで発光し、ηext,max の値は最高で3.9%に達しています。さらに、これら新規赤色AIEgenは、アリールアミノ部分の存在により正孔輸送特性が良好で、EMLおよびHTLの双方として使用した二層型EL素子で優れた性能が得られています(表1)。より多くのTPEユニットを共役骨格に導入した場合、得られたTTPEBTTDは非常にねじれた構造を持ち、分子間相互作用が大幅に抑制されます。TTPEBTTD固体膜は、ピーク波長646 nmの赤色PLを発します。TTPEBTTDを発光層として使用することで高性能非ドープ型赤色有機ELが作製され、650 nmのEL発光を示し(CIE 0.67、0.32)、3,750 cd m-2のLmax および3.7%の高いηext,max が得られています21。
結論および今後の展望
最初にAIE現象が報告されて以来、安定かつ高効率の非ドープ型有機ELを作製するために、固体中で高いΦF 値を示す多数の蛍光AIEgenが開発されてきました。これら素子の発光色は可視光の全領域にわたっています。これら有機ELには、ηext,max の理論限界値(5~7.5%)に近いものやすでに到達したものがあり、そのいくつかの例を本レビューで紹介しました。また、これらAIEgenによって、複数の高性能白色有機ELの作製にも成功しています22。有機EL向けの一般的な蛍光体(第1世代発光材料)の改善にAIE効果の使用が有効である点は、AIE研究が学術的にも実用的にも重要であるということを示しています。ただし、AIEでは生成した励起子の75%(三重項励起子)が依然として使用されていないため、蛍光有機ELの効率には大きな改善の余地が残されています。最近、熱活性化遅延蛍光(TADF:thermally activated delayed fluorescence)を利用した、純粋な有機材料で高効率有機ELを作製するための第3世代発光材料の開発に、大きな注目が集まっています。これら材料は、理論的には100%まで達成できる大きなβ を持つ素子を可能にしますが、通常、これら素子はロールオフ特性を示します。より堅牢で高性能な有機EL発光材料の構築には、単一分子内におけるAIE効果とTADF効果の融合が有望な戦略の1つになります。
Acknowledgments
We greatly acknowledge financial support from the National Natural Science Foundation of China (51273053), the National Basic Research Program of China (973 Program, 2015CB655004 and 2013CB834702), the Guangdong Natural Science Funds for Distinguished Young Scholars (2014A030306035), the ITC-CNERC14S01, the Guangdong Innovative Research Team Program (201101C0105067115), and the Fundamental Research Funds for the Central Universities (2015PT020 and 2015ZY013).
参考文献
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