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単層、二層、多層カーボンナノチューブ

Jia Choi, PhD, Yong Zhang, Ph.D

はじめに

カーボンナノチューブ(CNT:carbon nanotube)は、Iijimaがアーク放電したグラファイト電極表面を観察していた際に偶然発見されました1。CNTは独特の構造的、機械的、電子的特性を有していることから、その発見以来、ナノテクノロジーの分野で重要な役割を果たしています1-3

カーボンナノチューブは導電率およびアスペクト比が高いために、導電性チューブのネットワークを形成することが可能であり、その際立った機械的特性は、剛性、強度、引張強度の組合せによって得られます4。CNTをポリマー中に導入した場合、カーボンブラックや炭素繊維よりもかなり低い重量比率でポリマーマトリクスに機械的強度を付与することができるため、より効果的な利用が可能となります。さらに、CNTは熱伝導材料として熱界面材料(放熱材料)としても利用されています。カーボンナノチューブのこうした注目すべき電子的および機械的特性は、電界放出ディスプレイ5、ナノコンポジット材料6、ナノセンサ7、論理素子8など、多くの用途で利用されています。さらに、CNTの利用については、最先端のエレクトロニクス製品から、数種類の疾病に関する治療用製剤の分野に至るまで、広範にわたって研究が進められています9

単層カーボンナノチューブ

単層カーボンナノチューブ(SWNT:single-walled carbon nanotube、755710)は、単層のグラフェンから形成される継ぎ目のない円筒状物質です。SWNT特有の電子的特性は、チューブを形成するグラフェンシートの巻き方を示すパラメータである、カイラルベクトル「C = (n, m)」によって、大きく変化します10

(n, m) 値とSWNTの電気伝導性との関係を表1に示します。その巻き方によってSWNTのバンドギャップは0から2 eVまで変化し、電気伝導性は金属性もしくは半導体性の挙動を示します。

表1(n, m ) に対する、単層カーボンナノチューブの理論的電気伝導性10

また、カーボンナノチューブの熱伝導度および電気伝導度は非常に高く、既存の材料に匹敵します(表2)。

表2カーボンナノチューブおよびその他材料の輸送特性

多層カーボンナノチューブ

多層カーボンナノチューブ(MWNT:multi-walled carbon nanotube、755133)は、グラフェンが丸まったチューブが複数重なった構造をとります。MWNTはSWNTと比較して構造が複雑かつ多様なため、明確に定義されていません。しかしながら、MWNTはSWNTよりも量産が容易で単位当たりのコストが低く、熱的および化学的安定性に優れているといった利点を示します。通常、官能基化を行うと、化学処理中にC=C結合が開裂して構造的欠陥が生じる結果、単層カーボンナノチューブの電気的および機械的特性が変化することがあります。しかし、多層カーボンナノチューブの表面改質では外層だけが化学修飾されるため、カーボンナノチューブ固有の特性が維持されます。

CNTの表面改質は、ある特定の用途のための新たな性質の導入に用いられます。多くの用途では、有機溶媒や水への可溶化、機能性強化、高い分散性や相溶性、あるいは毒性の低減が必要です11。MWNT-COOH(755125)などの一般的な官能基化CNTは、各種酸、オゾンまたはプラズマを用いた酸化反応によって得ることができ、他の酸素含有官能基(例えば、-OH、-C=Oなど)を生成します。酸素含有基の存在によってカーボンナノチューブの束(バンドル)の解離が促進され、極性媒体への溶解性やポリエステルなどのエステル含有化合物との化学親和性が増加します。また、カーボンナノチューブ表面のCOOH基は、さらなる改質を行うための化学的サイトとして有用です。アミド結合やエステル結合の形成によって、合成ポリマーや天然ポリマーなどの様々な分子をグラフト化することができます12

二層カーボンナノチューブ

二層カーボンナノチューブ(DWNT:double-walled carbon nanotube)は、単層ナノチューブと多層ナノチューブの中間的な特性を示す物質です。DWNTは、層間が0.35~0.40 nmの2つの同軸ナノチューブから構成されており、電界効果トランジスタとして用いるのに適したバンドギャップを有しています13。DWNT内層および外層の各層は、特有の光学特性およびラマン分光特性を有しています14。DWNTの各層がSWNTとして振る舞うと仮定した場合、理論的には、内層および外層の (n, m) 値に応じた電気的性質(金属性、半導体性)に基づいて、金属性-金属性(内層-外層)、金属性-半導体性、半導体性-金属性、半導体性-半導体性の4つの組合せに分類することができます。しかし、いくつかの実験では、二層カーボンナノチューブの層が共に半導体性の場合でも金属性の挙動を示すことがある、という結果が得られています15。このように、DWNTの全体的な電気的挙動が複雑なために、その用途は薄膜エレクトロニクスなどに限定されています。しかし、二層カーボンナノチューブは寿命および電界放出電流密度が高く、化学的、機械的、熱的処理にも高い安定性を示すなどMWNTに見られる有用な特性と併せて、SWNTに見られる柔軟性も示します16。DWNT外層の選択的な官能基化によって、内側のカーボンナノチューブをコア、官能基化ナノチューブをシェル、とするコアーシェルシステムとして利用できるようになり、生体系内での造影剤や治療薬としての応用が可能となります17。さらに、二層カーボンナノチューブは、H2、NH3、NO2またはO2などのガス検出のためのガスセンサー用物質18や誘電体19の他に、電界放出ディスプレイや太陽電池などの高い技術の要求される用途20にも、利用することができます。

シグマアルドリッチで販売している高品質単層、二層、多層カーボンナノチューブの中には、今日入手可能なものの中で最も電気伝導度の高い添加剤もあり、最先端材料研究に幅広く利用されています。これらカーボンナノチューブは、高い信頼性および量産性で知られている工業プロセス(触媒化学気相成長(CCVD)法)によって製造され、高表面積、高透明性、高電界放出特性などの特殊な化学的特性が要求される研究用に精製処理および官能基化を行うことで、性能を向上させています。  

これらカーボンナノチューブは、以下に挙げる分野をはじめとする幅広い用途で使用されています。

  • 導電性プラスチック
  • 複合構造材料
  • フラットパネルディスプレイ
  • ガス貯蔵
  • 防汚塗料
  • マイクロおよびナノエレクトロニクス
  • レーダー吸収コーティング
  • 高機能性テキスタイル
  • ウルトラキャパシタ(電気二重層コンデンサ)
  • 原子間力顕微鏡(AFM)チップ
  • 長寿命バッテリ
  • 有害ガス用バイオセンサ
  • 超高強度および導電性繊維
  • 標的指向性薬物送などの生物医学用途
  • エネルギー貯蔵および変換デバイス、放射線源、水素貯蔵材料など

表3に各種カーボンナノチューブ製品の特性をまとめました。

表3各種カーボンナノチューブ製品の特性

※ TEM画像はNanocyl SAよりご提供いただきました

1.
Iijima S. 1991. Helical microtubules of graphitic carbon. Nature. 354(6348):56-58. https://doi.org/10.1038/354056a0
2.
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3.
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6.
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