修飾酸化グラフェンの特性および用途
Reza Hajian1, Kandace Fung1,2, Peichi Peggy Chou1,3, Sike Wang1,2, Sarah Balderston1, Kiana Aran1
1Claremont University, Keck Graduate Institute, School of Applied Life Sciences Claremont, CA 91711, USA, 2Keck Science Department, Claremont McKenna College, Claremont, CA, 91711, USA, 3Keck Science Department, Pitzer College, Claremont, CA, 91711, USA
Material Matters, 2019, 14.1
目次
- はじめに
- ヒドロキシ基(OH)修飾を用いた酸化グラフェンの用途
- エポキシ基修飾を用いた酸化グラフェンの用途
- カルボキシ基修飾を用いた酸化グラフェンの用途
- π-πスタッキング修飾を用いた酸化グラフェンの用途
- 結論
はじめに
医療用の新しい種類の体内埋込みおよびウェアラブル電気化学センサーの開発への関心が高まり、グラフェンやその他の新材料の開発が進められています。2004年に発見されたグラフェンは、原子がハニカム格子状に配列したsp2炭素シートの形状をとる炭素系ナノ材料です1,2。真性移動度が高く、可鍛性および不透過性は並ぶものがなく、理論比表面積が大きく(単層で2630 m2/g)、優れた電子輸送能を示します。2D構造により生じる特性から、リンカー分子で修飾したときにグラフェンは高感度と選択性を示すため、多くのバイオセンシング用途で有望な候補になっています3-5。
グラフェンは、数層グラフェン(FLG:few-layer graphene)6、多層グラフェン(MLG:multi-layer graphene)7、グラフェンナノプレートレット(GNP:graphene nanoplatelets)8、酸化グラフェン(GO:graphene oxide)10–12、および還元型酸化グラフェン(rGO:reduced graphene oxide)9のような多数の形態となり、それぞれが独自の特性を示します。FLGはセンサー、バッテリー、およびナノエレクトロニクスデバイスに使用されており、MLGとGNPは導電性インク、プラスチック添加剤および潤滑剤としての用途が知られています。rGOはGOに類似していますが、酸素/炭素比がより低く、特にさまざまな化学およびバイオセンシング用途に適しています。
通常、酸化グラフェンの製造は容易で安価なHummers法10で行われます。GOは還元後の高導電性、修飾後の高選択性および高感度を示すため、ナノ材料研究において高い関心を集め続けています。本レビューでは、GOとその修飾方法、多くの応用例に焦点を合わせて紹介します。
酸化グラフェンは単層のグラフェンシートで構成され、グラフェンシートの基底面および端面上で含酸素官能基と共有結合しています。基底面にはヒドロキシ基とエポキシ基があり、端面にはカルボキシ基、カルボニル基、フェノール基、ラクトン基およびキノン基があります11–14。これらの含酸素官能基はGOの炭素原子と共有結合し、元のsp2ハニカムネットワークをもつ酸化されていない領域を乱すsp3混成炭素原子から成る酸化領域を形成します。グラフェンシート単独での水溶性は、層間の強いπ-π結合が原因で低いため、GOやrGOはバイオセンシング用途でよく使用されます15。GO上に存在する官能基は極性をもち、親水性および水溶性が高く、これは処理や化学的誘導体化のために重要です。一方で、これらの含酸素官能基は、著しい構造欠陥の生成、導電率の低下および電気的活性な材料・デバイスにそのまま応用することの潜在的限界により、GOの電子的、機械的および電気化学的特性を劣化させる可能性があります。しかし、その代わり、キャリア輸送を円滑にするため16、さまざまな化学処理または熱処理を用いて部分的に還元してrGOにすることで、GOを機能化することが可能です15。この化学修飾により抵抗は数桁減少し17、rGOはグラフェンに類似した半導体材料に変わります。
化学的修飾は、酸化グラフェンを修飾する容易な方法で、生物医学、電気化学および診断用途のセンサーを作製するために極めて有効な方法であることが証明されています。反応性があり修飾可能なGOの酸素化官能基は、さまざまな電気活性種で修飾することが可能です18。この特異的分子の共有結合での修飾により、修飾されていないグラフェンセンサーでよく起きる非特異的結合を軽減することが可能です。グラフェンの特性のうち長所を高め、GOの欠点を最小限に抑えるために、多くの方法が開発されています1。例えば、さまざまな化学リンカーがGOに共有結合することで、グラフェン表面を修飾してその特性を精密に調節することが可能です。GOを注意深く修飾することで、導電性、安定性および電気化学センシング用途における選択性が向上し1,2,18、さらに表面積を増加させることで感度も向上します。
修飾酸化グラフェンの用途
ヒドロキシ基(OH)修飾を用いた酸化グラフェンの用途
酸化グラフェンシートの基底面に結合したヒドロキシ基は、さまざまな化合物を結合させる部位として有効です。例えば、シラン処理(有機官能基含有アルコキシシラン分子で表面を被覆する処理)により表面を修飾することが可能です。この修飾方法では、導電膜の製造に最適な化学的および物理的特性をもつカーボンナノ材料が得られることが示されています19–21。
金属が強く吸着し、抗菌力のあるナノ材料の設計は、環境23,24、触媒25–27および生物医学用途28で難題となっています。Carpioらは2014年、GOの多機能性を増強し、それにより金属吸着および抗菌特性を向上させるため、強いキレート剤であるエチレンジアミン三酢酸(EDTA:ethylenediamine triacetic acid)を使用したGO修飾の実験を行いました22。この研究では、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTA-シラン)でGOを修飾しました。脱水縮合反応では、Si-EDTAのトリアルコキシ基の加水分解により-Si-OH基が形成し、これがヒドロキシ基(OH-C)と相互作用してSi-O-C結合を形成します。GOと比較してGO-EDTAでは抗菌特性が向上し、B. subtilis(枯草菌、グラム陽性)の細胞不活性化では10.1%、C. metallidurans(グラム陰性)では7.1%の増加を示しています。また、GO-EDTAはCu2+およびPb2+に対して従来の吸着材を超える最大の吸着量を示しています。さらに、ヒト角膜上皮細胞株に24時間暴露した後、GO-EDTAはヒト細胞に対する毒性が最小限であることが示され、細胞培養の99%が生存可能でした。この結果、GO-EDTAは将来の臨床用途で有望なカーボンナノ材料となります。
別の研究では、ナフィオン-エタノール溶液中に懸濁させたrGO-EDTA複合材料を作製することで、EDTAを使用してrGOを修飾しました29。次に、rGO-EDTA/ナフィオン膜をガラス状炭素(GC)電極上に堆積すると、rGO-EDTAを使用したこのデバイスは、酸化電流によりドーパミン(DA)のみを検出できます。
Huらは、引張強度と溶解度を向上させるため、GOを修飾する方法として、シラン処理、還元、還元と組み合わせたシラン処理、およびin situ共重合を研究しました30。酸化グラフェンおよびrGOシートのヒドロキシ基は、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPS:3-methacryloxypropyltrimethoxysilane)でシラン処理されます34(図1)。GO、rGO、MPS-GO、およびMPS-rGOの水中での懸濁試験では、MPS-GOとMPS-rGOで水溶性が向上しています。次に、Huらは、ポリマーの機械的特性を向上させるため、in situ共重合によりGOおよびrGO誘導体をポリメタクリル酸メチル(PMMA:poly(methyl methacrylate))で修飾しました。ポリマーマトリックス中にナノシートが安定して分散することで界面強度が増加するため、元のPMMAと比較してMPS-rGO/PMMA複合材料の引張強度は30%増加し、将来の工業用途での可能性が示唆されています30。
図1MPSを使用した酸化グラフェンのシラン処理と、その後の修飾処理されたシラン化GOとPMMAの共重合。文献30より許可を得て転載。copyright 2014 Elsevier
シラン化の代わりに、GOのヒドロキシ基をエステル化で修飾することも可能です。ある研究ではニトリルとの反応を用いてこの修飾が行われ、ろ過および/または遠心分離で生成物が分離されました31。Yuanらは、GOをポリ-L-乳酸(PLLA:poly(L-lactic) acid)で修飾することで、引張強度、引張破壊強度および分散性などの特性が向上することを実証しました32。
2010年には、GOをエステル化で修飾し、ガス吸着用のGO骨格(GOF:Graphene Oxide Framework)が合成されています33。この研究では、GOとベンゼン-1,4-ジボロン酸(B14DBA:benzene-1,4-diboronic acid)を組み合わせてボロン酸エステルを形成しました(図2)。この場合、単層GOシートが互いに架橋され、ベンゼンジボロン酸の支柱で結合された3次元の多孔性ネットワークが構築されました。このフレームワーク構造では、孔の幅、容積、および結合部位を変えることが可能なため、ガス貯蔵において極めて有用になります。
図2GOF作製のために-OH基の共有結合によりB14DBAで修飾されたGOシート。文献33より許可を得て転載。copyright 2010 John Wiley and Sons
エポキシ基修飾を用いた酸化グラフェンの用途
基底面のエポキシ基の修飾を行い酸化グラフェンの共有結合を用いた修飾では、通常、エポキシドのα炭素での求核攻撃が関与し、開環反応の触媒としてアミン基が使用されます。例えば、2008年にWangらはオクタデシルアミン(ODA:octadecylamine)を求核剤として使用することで開環反応を行い、多分散性の化学変換された酸化グラフェンシート(p-CCG:polydispersed, chemically converted graphene oxide sheets)を作製しています34。この方法で、有機溶媒中のコロイド懸濁液状のGOが作製され、スピンコート、さまざまな基板への印刷、または十分に還元された高品質の化学修飾グラフェン(CMG:chemically modified graphene)膜になります。これらの新しい特性をもつp-CCGは、電気化学センサー用の出発物質として非常に有望です。
Yangらが実施した同様の研究では、イオン液体である臭化1-(3-アミノプロピル)-3-メチルイミダゾリウム(R-NH2)を使用して、同じ開環機構でGOを修飾しています(図3)35。生成したp-CCGは極性溶媒中で優れた溶液安定性を示しています35。同様に、これらのp-CCGは、例えば化学修飾電極などの電気化学用途での可能性を実証しています。
図3p-CCGを調製するために修飾されたGO。文献35より許可を得て転載。copyright 2009 Royal Society of Chemistry
Bandyopadhyaらは2015年、ヘキシルアミン(HA:hexylamine)基をGOのエポキシ基に求核付加することで、ヘキシルアミン修飾rGO(rGO-HA)36を合成しています。次に、ヒドラジン水和物を加えて複合材料を還元し、最終的なrGO-HA生成物が得られています。このアルキルアミン修飾では、rGO-HAシートの疎水性が増加し、さまざまな有機溶媒によく分散するようになります。合成されたrGO-HA膜に対する気体水素の透過性は、ポリウレタン(PU)表面に被覆させると減少し、工業的な水素ガスの分離および精製に利用できる可能性が示されています36。
他のグループは、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS:3-aminopropyltriethoxysilane)を使用して、エポキシドとAPTSアミン基の間のSN2反応により酸化グラフェンプレートレットを修飾しています37。この研究では、多くの極性媒体に溶解する多分散性の修飾化学変換グラフェン(f-CCG)を合成できています。修飾GO生成物は強度が増加するため、他の利用の中でもバイオカプセル化およびセンサーの用途があります。
Shamsらは、自然水中のフェニトロチオンを検出する電気化学センサーとして使用するため、GOとエチレンジアミン(EDA:ethylenediamine)のナノ複合材料を50℃の還流で合成しています38。さらに、凝集が減少する傾向が見られる極性溶媒中でGOの親水性と分散性を向上させる目的で、GOと金ナノ粒子(AuNP)を架橋するためにEDAが使用されています1。
カルボキシ基修飾を用いた酸化グラフェンの用途
ヒドロキシ基やエポキシ基と同様に、カルボキシ基も、低分子またはポリマー化学リンカーを用い、活性化およびアミド化かエステル化による修飾が可能です40-43。酸化グラフェンをN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)で活性化し、同素形カーボンナノ材料のフラレノールとエステル化反応で結合させました58。その他の同素形カーボンナノ材料と同様に、C60は超伝導性、光伝導性および非線形光学(NLO:nonlinear optical)特性を示します。Zhangらはグラフェン-C60ハイブリッド材料を合成し、このハイブリッド材料の非線形光学特性を調べました39。フラーレンのヒドロキシ基がGO上のカルボキシ基と共有結合性のエステル結合を形成することが明らかになっています(図4)。また、Liuらも別の同素形カーボンナノ材料であるポルフィリン(TPP-NH2)によるGOの修飾について報告しています。この場合、GOのカルボキシ基は、エステル化ではなくアミド化と共に起こる活性化によりTPP-NH2のアミン基と結合しました44。これらのGOハイブリッド材料は、オプトエレクトロニクスデバイスやフォトニクスデバイス用の光制限材料や光スイッチング材料としての用途に大きな可能性を示しています。
図4エステル結合でGOを修飾するフラレノールの概略図。責任著者の許可を得て転載39。
Suらは、酸化グラフェンシート上の-COOH基との共有結合によるジアミン修飾GO膜の作製法について報告しています45。確立された手順を用いて、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)をカップリング剤として使用します45。ジアミン修飾GO膜でアルミナまたはプラスチック基板を被覆することで、新奇なインピーダンス型湿度センサーが作製されています。ジアミン修飾GO膜で構成されたセンサーは、広い湿度範囲で動作し、高感度、高屈曲性、長期安定性、十分な線形性、小さなヒステリシス、短い応答/回復時間および弱い温度依存性を示しました。
GOのカルボキシ基とのエステル結合によりエポキシ鎖を酸化グラフェンシートにグラフト重合する研究では、酸化グラフェンの機械的および熱的性質を向上させることが可能で、界面相互作用も増加します63。また、この種類の修飾GOはポリマー太陽電池(PSC:polymer solar cell)の作製にも使用することが可能です。
GOをポリマー太陽電池の電子抽出層(EEL:electron extraction layer)に変換するため、セシウムで中和したGO(GO-Cs)が使用されています46。炭酸セシウム(Cs2CO3)をGOに対して用いることで、-COOH基を-COOCs基にし、中和します。この生成物は、太陽電池デバイスの優れた電子抽出層になることが実証されています。
酸化グラフェンは生体分子でも修飾されています。例えば、Shenらは2010年、タンパク質を他の材料と結合させるために広く使用されているジイミド活性化アミド化により、ウシ血清アルブミン(BSA:bovine serum albumin)でGOを修飾しました47。この処理では、タンパク質変性の徴候を示すことなく、GO-BSAコンジュゲート(複合体)が得られています。サイクリックボルタモグラム(CV)測定では、この複合体が生物活性を維持し、優れた水溶性も示し、生物学的基材との相互作用に適していることが示されました。
GOのカルボキシ基をグルコースオキシダーゼ(GOx)で修飾することにより、生体適合性GO-GOxバイオセンサーを作製し、GOの臨床診断用バイオセンサーへの応用が研究されています53。この研究では、光受容体の生存に不可欠な神経外胚葉性誘導体であるヒト網膜色素上皮(RPE:retinal pigment epithelium)由来の細胞株をGO-GOx上に導入しています。この複合デバイスは優れた生体適合性を示しました。このGOを使用したグルコースバイオセンサーは、広い比例領域、良好な安定性、高感度、優れた再現性およびヒトRPE細胞に対する優れた生体適合性を示し、これらのバイオセンサーが糖尿病性網膜症などのin vivoの臨床診断用として非常に大きな可能性を秘めていることが示唆されています。また、GOのカルボキシ基の修飾により、生物医学や臨床診断で使用可能な酵素電極の作製において、GOが有用であることも実証されています。
Yagatiらは、酸化インジウムスズ(ITO)電極上でクロノアンペロメトリー法(定電圧での電流の時間変化測定)により電気化学的に共還元した酸化グラフェン/ナノ粒子(ERGO-NP)複合膜を使用した電気化学センサーについて報告しており、このセンサーは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)による直接電荷移動でH2O2を検知するために使用されています48。酵素のアミノ基と3-メルカプトプロピオン酸で活性化されたrGOおよびナノ粒子のカルボン酸末端との間の共有結合はEDC/NHSカップリングにより形成され、強いアミド結合となります(図5)。
図5H2O2の検出に適用されたHRP/ERGO-NP/ITO修飾電極の表面修飾による作製を示した概略図。文献48より許可を得て転載。copyright 2014 Electrochemical Society
別の研究では、EDC活性化とポリエチレングリコール(PEG)アミド化の共役反応で酸化グラフェンが修飾されています49。生成したPEG-GOナノシートは、血清を含む生体溶液中で優れた水溶性と安定性を示しています。その後、Liuらは修飾GO誘導体を使用して、さまざまな不溶性芳香族カンプトテシン類似物質との複合体を作製し、修飾GOで非水溶性制がん剤を送達できる可能性を示しています。
MohanteとBerryは2008年、アミド化と共役した活性化による共有結合性の酸化グラフェン修飾を行うための2つの方法を研究しました。得られた化学修飾グラフェン(CMG)は、バイオ検出、バイオアクチュエーションおよび診断のためのナノ/バイオ界面を改善する用途で利用できる可能性があることが示されています50。GO誘導体の電気的特性評価から、グラフェン-DNA(G-DNA)ハイブリッド材料ではp型GO上のDNAの負電荷により導電率が128%増加し、一方でG-DNAのcDNA(相補的DNA)とのハイブリダイゼーションで生成する約1量子の導電性の正孔により導電率が71%増加することが示されています51。
別の研究で、Liuらは選択的および高感度のハイブリッド型DNAバイオセンサーとしての修飾GOの可能性について研究しています43。上記のEDC/NHSと同様の化学的方法を使用して、GOのカルボキシ基をアミン反応性NHSエステル形に変換し、GOをEDC/sulfo-NHSで活性しています。修飾されたカルボキシ基がアミノ修飾ssDNA(1本鎖DNA)に結合することで、金ナノ粒子で標識した相補的ssDNAをハイブリダイゼーション反応でGO-DNAに付着させることが可能になっています。
π-πスタッキング修飾を用いた酸化グラフェンの用途
有機芳香族分子の酸化グラフェンナノシートへの優れた吸着性は、GOと他の芳香族分子との間のπ-πスタッキング相互作用と疎水性相互作用の両方によると考えられます。以前の研究では、GOシート表面にスルホン酸を組み込むことでプロトン伝導性を著しく増加できることが示されています52-54。Suらは、大型の平面芳香族電子受容体である3,4,9,10-perylenetetracarboxylic diimide bis-benzene sulfonic acid(PDI)と、大型の平面芳香族電子供与体であるピレン-1-スルホン酸(PyS)を用いて、rGOの非共有結合性の修飾を行っています55。負電荷を持つPyS分子とPDI分子は、π-π相互作用によりグラフェンシートの疎水表面に電子共役を乱さずに強く付着しました。これにより、エレクトロニクスデバイスの製造に利用できる調節可能な電子特性をもつrGO系複合材料が得られています。
極性溶媒中で非常に安定な分散状態を保ち、優れた導電性をもつ水溶性CMGシートを作製するため、GOを還元すると同時に、π-π相互作用を利用した1-ピレン酪酸(PB-)による非共有結合性の修飾が行われました19。ここで、芳香族ピレンがrGOの基底面とπ-πスタッキングするため、PB-はGOからrGOへの変換の間の安定剤として作用しています。得られたrGO-PBは、水中で均一に分散され、この分散液を濾過、乾燥して作製したキャストフィルムは、修飾されていないGOの分散液からのキャストフィルムと比較して導電性が7倍になりました。
酸化グラフェン系バイオセンサーの選択性および感度を利用するため、Luらは芳香族化合物および核酸塩基による非共有結合性の修飾をGOに行い、DNAとタンパク質の両方を検出可能なGOプラットフォームを作製しています56。π-π相互作用によるGOへの非常に強い親和力で色素標識ssDNAを固定すると49,57、色素の蛍光消光が起こりました80。その後の色素標識ssDNAと標的分子の結合により、色素標識DNAの立体構造が変化し、GOとの相互作用が妨害されてGOから放出され、蛍光が再発現しました。この概念研究の証明により、標的分子に対する感度および選択性を持つ蛍光増強GO系デバイスを開発できる可能性が確認されました。
同様の研究では、酸化グラフェンとヘアピン構造DNAの同様の消光効果を利用して、GO系の分子標識(MB:molecular beacon)が作製されています。この分子標識は、相補的プローブ配列で標的分析物を認識する、単鎖オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーション・プローブです。この方法では、DNAのGOに対する親和力がより強く、特定のDNA配列が高感度で選択的に検出されることが示されています58。Dongらは、(MBを持つ)量子ドット(QD:quantum dot)からGOへの蛍光共鳴エネルギー移動(FRET:fluorescence resonance energy transfer)を利用して、生体分子を検出するGO系プラットフォームを作製しました59。分子ビーコンで修飾されたQD(MB-QD)はGO上でプローブとして働き、特定のDNA配列の認識が可能になりました。MB-QDとGOの間の強いπ-πスタッキング相互作用によりQDの蛍光が消光されました。DNA標的が存在すると、QDとGOの間の距離が増加し、GO MB-標的の相互作用が弱くなるため、FRETが著しく減少してQDの蛍光強度が増加することから、標的認識の簡単な方法になることが示されています。
Wangらは、静電相互作用、水素結合およびπ-πスタッキング相互作用によるポリアニリン(PANI)の酸化グラフェンへの修飾方法を説明しています60,61。温和な酸化剤を使用してGOの存在下で単量体のin situ重合を行うことにより、GO-PANI複合材料をさらに最適化し、複合材料のスーパーキャパシタ電極としての電気化学的性能が向上しました。単独のPANI電極と比較して、複合材料では初期比容量が増加し、容量保持率が改善され、内部抵抗が減少しています。
また、ウシ血清アルブミン(BSA)の検出に凝集誘起発光(AIE:aggregation-induced emission)を利用したバイオセンサーの選択性を改善するため、π-πスタッキングにより酸化グラフェンがTPE-SO3Naで修飾されています62。AIEバイオセンサーでは、非発光性分子が凝集体を形成することで効率的に発光が誘起されます63–65。TPE-SO3Naは、BSAなどの生体高分子を検出可能なAIE分子です66。BSAの結合によりAIE分子の自由回転が妨害されることで、BSAの存在下でTPE-SO3Naの発光性が増加します67。TPE-SO3NaはBSAに対して高感度ですが、他の多くの生体高分子に対して同様に応答するため、BSAに対する選択性は示しません66,67。しかし、GOを加えることで、高感度かつ選択性のあるBSA検出を達成することが可能です71。これはAIE分子とGOの間のπ-π相互作用により蛍光が消光するためですが、AIE分子とタンパク質の束縛効果がπ-π相互作用より強い場合に限られます。BSAの場合、TPE–SO3Naの束縛効果が他のタンパク質より若干大きいため、選択性が得られます。
得られるπ-π相互作用が強いため、ピレン(PY)誘導体によるグラフェン表面の修飾も研究されています。Wangらは2018年、水素結合部位のウレイドピリミジノン(UP)を末端に持つピレン誘導体で熱還元GO(trGO:thermally reduced GO)の修飾について、(trGO)-UPPYを形成するために研究しました68。グラフェン表面は、UPPYとπ-π結合を形成しているピレン基で修飾されています(図6)。この1層ずつ(LBL:layer-by-layer)の自己組織化法を繰返し、水素結合とπ-π結合の両方を構成するtrGO-UPPY膜が形成されました。得られた多層膜は、電子輸送を改善するための優れた電子伝導体としての可能性があることが示されています。
図6A)UPPY-UPPYホモ二量体の形成。B)π–π結合によるUPPYのtrGOへのグラフト重合およびLBL積層法による多層trGO-UPPYの形成。責任著者の許可を得て転載68。
別の生物医学研究では、Wahidらが、非共有結合性の修飾を用いる薬物担体としての酸化グラフェンの可能性を研究しています74。グラフェン表面に非共有結合的に結合した芳香族有機分子(薬物)は、共有結合で結合したものより容易に放出されました。また、Wahidらは、抗酸化性を持つ抗生物質のラミゾールでグラフェンシートを修飾することに成功したと報告しています69。ラミゾールは平面状のため、グラフェン表面とπ-π結合を形成することが可能です。この相互作用はグラファイトのグラフェンシートへの剥離を促進すると同時に、水性環境ではシートを安定化することが以前に示されています。
非共有結合性のGO修飾を行うための別の方法として、酸化還元反応を使用する方法がLiuらにより実証されています70。この自発的酸化還元反応は、GO、FeCl3およびK3[Fe(CN)6]を含む混合水溶液中で起こり、GOの表面にプルシアンブルー(PB)ナノキューブが形成されます。このGO-PBナノ複合材料をGC電極表面にキャストすると、高い安定性、良好な再現性、優れた電気化学活性が得られ、H2O2の電気化学触媒的還元反応に対して高い感度を示します。さらに、酸化グラフェンによりGC電極の有効表面積が増加するため、感度が向上します。このGO-PBナノ複合材料は、バイオ燃料電池の電極に加えて新しい電気化学センサーとしても大きな将来性があることが示されています。
結論
酸化グラフェンシートは基底面や端面に、ヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基およびその他の官能基が存在する炭素系ナノ材料です。機械的、電気的および化学的性質を向上させるため、さまざまな修飾方法が用いられています。ヒドロキシ基の修飾の場合、MPSなどの分子でGOおよびrGOをシラン処理することで、引張強度と溶解度の両方を向上することが可能です。さらに、ベンゼン-1,4-ジボロン酸とのエステル化では、複数の単層GOシートをつないで3次元の多孔性ネットワークを構築することが可能です。エポキシ基のGOに対する共有結合性の修飾では、多くの方法でエポキシドのα炭素が攻撃されるため、極性溶媒中で高い分散性を示すナノシートや、ガスバリア性が向上した膜が作製されています。カルボキシ基の修飾の場合、一般的な方法の一部にはエステル化と共役した活性化が含まれており、これによりGOの溶解度が向上します。アミド化と共役した活性化を含む方法では、一般的な生体分子のGOへの付着が促進されます。特性向上が可能であることから、特に生物医学、非水溶性薬物送達、臨床診断、および特定のDNA配列の検出など、広範囲の用途でGOを利用できる可能性が示されています。非共有結合性の修飾の場合、π-πスタッキング相互作用と静電相互作用によりGOの電気特性が向上することで、電子移動過程が改善され、比容量が増加し、内部抵抗が減少します。酸化グラフェンの非共有結合性の修飾は、電気化学センサーや選択的な生体分子検出器を作製するための効果的で調節可能な方法として進歩しています。要約すると、修飾酸化グラフェンシートは、工業、環境および生物医学研究の分野で使用されるデバイスの開発に現在広く適用されており、その全潜在能力の発揮はまだ始まったばかりです。
参考文献
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