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リチウムイオン電池特性に与える材料合成法および後処理の影響

Dr. Qifeng Zhang, Mr. Evan Uchaker, Dr. Guozhong Cao

Department of Materials Science and Engineering University of Washington Seattle, WA 98195-2120

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はじめに

リチウムイオン電池は電力貯蔵に用いられる電気化学デバイスの1つであり、優れた携帯性と充放電特性、および低コストである点で、過去20年の間、多くの注目を集めています。現在、リチウムイオン電池(LIB:lithium-ion battery)の開発は、正極および負極薄膜材料の最適化によってリチウムイオンの挿入と脱離に関するサイクル安定性を向上させ、電池容量を理論的な上限に近づける研究が中心となっています。これまでに、LIBの容量と安定性は、電極を形成する材料と密接に関係することが見出されています。具体的には、電池容量と安定性は、電極材料の化学組成、微細構造、結晶性、および欠陥に大きく依存します。本レビューでは、我々がLIB研究で扱った材料を取り上げます。LIBの性能は、(1)微細構造の調整、(2)電極材料の結晶化度の制御、もしくは(3)材料に適した欠陥導入、による電子と物質の移動の促進によって電池安定性を改良することで、大きく改善が可能です。

MnO2ナノウォール配列

ナノ構造材料の優れた利点の1つに、極めて大きな内部表面積を持つ多孔性膜を形成できる点があります。これは、電極膜と電解液からなる固液界面でファラデー反応が起きるLIBなどの電気化学デバイスで特に重要です。MnO2はLIBによく使用される材料の1つですが、従来のスラリー法で作製した電極膜用のマイクロサイズMnO2粒子の放電容量は比較的小さく、約120 mAh/gに過ぎません1。MnO2ナノウォール配列は新規ナノ構造材料で、表面積が大きく、リチウムイオン拡散のパスが短いため、極めて高い放電容量と良好なサイクル安定性を示すことが報告されています。ナノウォールのアモルファス相に近い構造は、電極膜作製に用いられる電着法に由来します2

MnO2ナノウォール配列は、0.1 Mの酢酸マンガンと硫酸ナトリウムを含む溶液を、一定電圧(-1.2~2.2Vの範囲)で15分間電着させて作製しました。MnO2ナノウォール配列は常に正極側の白金箔基板上で成長し、装置の負極には異なる白金箔を用いました。析出した薄膜は脱イオン水で洗浄した後、そのまま空気中で乾燥させました。
図1
に、作製後未処理のMnO2ナノウォール配列膜の代表的なSEM画像を示します。電極膜の多孔性構造が、厚さ50~100 nmの垂直に成長した壁状のMnO2から構成されていることが分かります。XRDで評価したところ、ε-MnO2に一致したピークがわずかに見られたものの、ほぼアモルファス構造であることを確認しました2。熱重量分析によれば、作製後未処理のナノウォール配列の化学組成はMnO2・nH2O(n ≈ 0.5)でした。

電着法で作製したMnO2ナノウォールの形態

図1電着法で作製したMnO2ナノウォール配列の形態と構造2

ナノウォール構造の生成は、正極側におけるMnO2の沈殿による水の電気分解のためであり、電気分解で生成したH2ガスの泡が多孔性ナノウォール構造の成長に重要な役割を果たします2,3。ナノウォールの高さは印加電圧と電着時間によって決まります。例えば、-1.2Vを15分間印加した場合のナノウォールの高さは約500 nmで、-1.8Vを15分間印加すると2.5 μmに増加します。しかし、ナノウォールの高さが上昇すると共に厚みが増すため、電極膜の内部表面積が増えることはありませんでした。また、ナノウォールの厚さは溶液濃度に比例し、高濃度ほど厚くなり、内部表面積は減少します3

MnO2ナノウォール配列の電気化学的特性評価から、結晶性の低いナノウォール構造ほど充放電特性に優れていることが分かっています。-1.8Vで析出させた約2.5 μmの高さ(つまり膜の厚さ)のナノウォール配列は、0.1 mA/cm2の電流密度(C/2、76 mA/gに相当)で270 mAh/gの初期放電容量を示しました。容量は、50サイクルを超えても220 mAh/gを維持しており、従来のMnO2電極で得られる代表的な容量である120 mAh/gをはるかに上回っています。このように、大容量かつ優れた安定性のため、MnO2ナノウォール配列はリチウムイオンの挿入/脱離に有望な材料と言えます2。この特性は、(1)多孔質ナノウォール構造の高い表面積、(2)リチウムイオンの短い拡散経路、(3)ナノウォールがほぼアモルファス構造のため電極膜の結晶充填密度が低下、といった点に起因し、リチウムイオンの挿入/脱離サイクルの体積変化に対する耐久性が高くなるためです。

TiO2ナノチューブ配列

アニール温度の影響

TiO2ナノチューブ配列は、その規則的な一次元構造が大きな内部表面積を有する点と、イオンと電子の直接的な輸送パスになる可能性がある点から4,5、電気化学や光電気化学デバイスでの利用に大きな関心が集まっています。TiO2ナノチューブ配列が大きな関心を集めているもう1つの理由は、単純な陽極酸化法で容易に作製できる点にあります。ナノチューブの直径、長さ、および壁の厚さは、陽極酸化に用いる電解液、印加電圧、および電解時間の調整によって容易に制御できます。LIB用途の場合、TiO2ナノチューブ配列からなる電極膜の容量とサイクル安定性は、ナノチューブの直径、長さ、分布密度といった構造パラメーターに加えて、後処理パラメーターの影響も受けることが見出されています6,7

図2Aに、0.1 MのKFと1.0MのNaHSO4を含む電解液を用い、20Vの定電位で1時間陽極酸化して作製したTiO2ナノチューブ配列の代表的なSEM画像を示します。ナノチューブの直径は約100 nm、長さは1.1 μmです。得られたTiO2ナノチューブ配列をそのままリチウムイオン電池に用いた場合の初期放電容量は約202 mAh/gですが、50サイクル後には急激に劣化し、40 mAh/gになります7。サイクル安定性に乏しいのは、作製後未処理のTiO2ナノチューブ配列がアモルファス相であることが原因で、アモルファスTiO2に関してすでに報告されているリチウムイオンの不可逆的な挿入/脱離が起きるためです8。TiO2ナノチューブの熱処理によって、電極膜の容量とサイクル安定性を効果的に向上させることができます。図2Bに、N2中で300℃、400℃、および500℃でアニールした試料の結果を示します。アニールしたいずれの試料も、未処理の試料よりはるかに優れたサイクル安定性を示しています。400℃と500℃でアニールした試料の初期容量はアニールしていない材料より劣っていますが、50サイクル後の容量ははるかに高くなっています。最適な熱処理温度は300℃で、高い初期容量(約240 mAh/g)を示し、50サイクル後も高い容量(148 mAh/g)を維持しました。400℃と500℃でアニールした試料が300℃で処理した試料より容量が減少したのは、内部表面積が減ったためです6。このように、陽極酸化で作製したTiO2ナノチューブ配列で高いLIB性能を得るには、高温でのアニールによってサイクル安定性を向上させる必要があります。しかし、ナノチューブ配列が結晶性を得るのに最適な温度がある一方で、効率の高いファラデー反応に必要な高内部表面積を得るための最適な温度があります。   

TiO2ナノチューブ配列のSEM画像と電気化学的特性

図2A)TiO2ナノチューブ配列のSEM画像。B)TiO2ナノチューブ配列のアニール温度に対する放電容量とサイクル安定性の依存性6

アニール雰囲気の影響

TiO2ナノチューブ配列のLIB性能は、アニール温度の他にアニール雰囲気からも影響を受けます。前述のN2中でのアニールと比較して、陽極酸化で作製したTiO2ナノチューブ配列をCO中でアニールすると電池容量が改善されます。

N2およびCO中において、それぞれ400℃で3時間アニールしたTiO2ナノチューブ配列試料の充放電特性とサイクル安定性を示します(図3)。CO中でアニールしたTiO2ナノチューブ配列からなる電極膜の初期容量は、N2中でアニールした試料より大きい(CO中:約223 mAh/g、N2中:164 mAh/g)ことが分かります。サイクル安定性は共に同程度であるため、CO中でアニールした試料の50サイクル後の放電容量は、N2中のものよりかなり大きな値を維持しています。XPS分析によれば、COの還元能によって、TiO2にTi3+状態の表面欠陥とTi炭素種が生成していることが明らかであり、この表面欠陥とTi炭素種によってTiO2ナノチューブの電子輸送性が向上し、リチウムイオンの挿入/脱離に関する電気化学反応が促進されると考えられます。インピーダンススペクトルは、CO中でアニールした試料の方がN2中のものより著しく抵抗が小さいことを示しており7、XPS分析の結果と一致しています。

TiO2ナノチューブ配列を用いたLIBの性能比較

図3異なる雰囲気(N2、CO)でアニールしたTiO2ナノチューブ配列を用いたLIBの性能比較7A)最初のサイクルでの充放電特性、B)サイクル安定性。

V2O5キセロゲル膜

V2O5は層構造を持つため、LIBへの応用において非常に注目されている材料です。V2O5キセロゲル膜は、V2O5粉末をH2O2水溶液に溶かしてV2O5溶液にし、基板上にドロップキャストしてウェット膜にすることで容易に作製できます9。さらに、ウェット膜の熱処理によってV2O5キセロゲル膜が得られます。この熱処理雰囲気によって、LIB性能が大きく変化する可能性があることが明らかになっています。図4に、空気中とN2中でアニールしたV2O5膜の違いを示します。なお、いずれのV2O5膜も、同じ前駆体溶液とドロップキャスト法を用いてFTOガラス基板に調製したものを使用しています10。光吸収スペクトル分析によれば、図4Aに示すように空気中でアニールした試料よりN2中でアニールした膜の方がカットオフ波長が長い(後者のバンドギャップがやや狭い)ことが分かりました(N2中での処理膜:2.28 eV、空気中での処理膜:2.37 eV)。また、空気中でアニールした試料は黄色、N2中でアニールした試料は深緑色を呈することから、前者は主にV5+を含み、後者はV4+やV3+などの原子価の低いバナジウムをいくらか含んでいると考えられます。

V2O5膜の光吸収スペクトルとサイクル特性

図4空気中およびN2中でアニールしたV2O5膜のA)光吸収スペクトル。B)リチウムイオン電池のサイクル特性10

図4Bでは、空気中およびN2中でアニールした試料の最初の50サイクルのサイクル特性を比較しました。空気中でアニールした試料の初期放電容量は約152 mAh/gですが、急激に劣化し、50サイクル後にわずか44 mAh/gになります。対照的に、N2中でアニールした試料の初期放電容量は約68 mAh/gという低い値でしたが、最初の24サイクルの間に大幅に増加して158 mAh/gに達しました。その後も容量は高いレベルで推移し、50サイクル後の低下は10 mAh/gに留まりました。これは、N2でアニールした試料が良好なサイクル安定性を持つことを示しています。

N2中でアニールしたV2O5膜の方が空気中でアニールした膜より高い性能が示したのは、原子価の低いVイオンが存在することによってV2O5のバンドギャップ中に不純物レベルが形成され、電子輸送能が向上したと考えられます。これは、前述のCO中でアニールしたTiO2ナノチューブの場合と同様の理由です。さまざまな雰囲気下でアニールした膜の電気化学インピーダンススペクトルの結果から、N2中でアニールした膜の電極抵抗は、空気中でアニールした膜のものより約30%低いことが分かっています10

N2中でのアニール処理の他に、MnドープによってもV2O5膜中に原子価の低いVイオンが生成されるため、LIB性能の向上が見られます11。V2O5へのMnの導入には、溶解性のMn塩(酢酸マンガンなど)を前述のV2O5溶液に加えます。図5に、非ドープのV2O5膜とMnドープV2O5膜の最初の50サイクルでの放電容量を示します。どちらの膜も、空気中において250℃で3時間アニールしたものです。初期容量は、ドープ膜では138 mAh/g、非ドープ膜では145 mAh/gと非常に近い値ですが、Mnドープ膜は非ドープ膜よりはるかに高いサイクル安定性を示します。50サイクル後のMnドープ膜の容量は135 mAh/gに留まったのに対して、非ドープ膜では86 mAh/gまで低下しました。サイクル安定性が改善されたのは、V2O5へのMnドープのためです。XPS分析の結果、MnドープしたV2O5にはV5+とV4+が含まれていることが分かっているものの、MnドーパントによるV原子価の減少について、理由ははっきりしていません。   

MnドープしたV2O5膜でのサイクル安定性

図5MnドープしたV2O5膜でのサイクル安定性の向上11

ナノ構造V2O5

V2O5ナノファイバー

エレクトロスピニング法は、一次元(1D)ナノ構造を作製するのに幅広く用いられている手法です。LIB用に開発された1Dナノ構造の注目すべき特徴として、作製された電極膜の内部表面積と多孔性のバランスに優れている点が挙げられます。1Dナノ構造を有する電極膜は、(一般にナノ粒子からなる膜よりは小さいものの)大きな内部表面積、適切な多孔質構造、およびナノ粒子膜より高い多孔性を備えています。電解液の効率的な拡散の面から、多孔性は重要となります。ナノファイバー形状のナノ構造化V2O5は、1Dナノ構造電極膜が高密度膜やナノ粒子膜の特性を上回ることを示す1つの例です。

V2O5ナノファイバーは、V2O5溶液からエレクトロスピニング法で作製されます。ファイバー構造を得るために、多くの場合、高分子添加剤を用いてV2O5溶液の粘度を上げます。
ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)は、この添加剤に適した容易に入手可能なポリマーです12。添加剤は、空気中でのナノファイバー粒子の焼結(約500℃)により生成物から除去されます。図6Aに、エレクトロスピニング法で作製したV2O5ナノファイバーのSEM画像を示します。この画像は、ナノファイバーが(1)焼結後の長さは数十マイクロメートル、直径は約350 nm、(2)相互に連結したV2O5ナノ結晶からなり、(3)作製された膜は大きな内部表面積と多孔性を持つのに適した構造であることを示しています。BET分析の結果、作製後未処理のV2O5ナノファイバーの表面積は97 m2/gでした。

V2O5ナノファイバーのSEM画像と電気化学的特性

図6リチウムイオン電池用にエレクトロスピニング法で作製したV2O5ナノファイバー。A)アニール(500℃の空気中で1時間)前後のV2O5ナノファイバーのSEM画像。B)電流密度625 mA/gでのV2O5ナノファイバーのサイクリックボルタンメトリー曲線と充放電特性12

図6Bに、V2O5ナノファイバーのLIB特性を示します。Li+の脱離に対応する、-0.25Vと-0.05V(対Ag/AgCl)にある2つの陽極酸化ピークと、Li+の挿入に対応する、-0.44Vと-0.23Vにある2つの陰極還元ピークがサイクリックボルタモグラム曲線に見られ12、いずれの酸化還元ピークも明瞭に確認できます。酸化還元ピークの電圧は、40サイクルを過ぎてもほとんどシフトせず、電流密度もわずかに変化しているだけです。サイクルテストの結果、放電容量は第9サイクル以降も高い値(約347 mAh/g)を保っていますが、これはV2O5ナノファイバーの電極膜のサイクル安定性と可逆性が優れていることを示します。V2O5ナノファイバー電極の性能が前述のV2Oキセロゲル膜やその他V2O5ナノ構造(ナノチューブ配列、ナノケーブル配列、ナノロッド配列など13,14)よりはるかに優れているのは、ナノファイバーが持つ大きな内部表面積とこの電極膜の理想的な多孔性によるものと考えられ、高い多孔性から、効率的なリチウムイオンの挿入と脱離が可能となります。

ナノ多孔性V2O5

LIB用ナノ構造材料の利点をさらに示すため、前述のドロップキャスト法10,11に用いたV2O5溶液から陰極析出法15で作製したV2O5膜の例を取り上げます。この膜は、-2.4Vの電圧でFTOガラス基板上に析出させました。この電圧では水の電気分解により正極においてH2ガスの気泡が発生し、膜内にナノサイズの細孔が形成されると考えられます。結晶性を向上させるために、膜を500℃でアニールしました。

図7Aに、作製後未処理のナノ多孔性V2O5膜の代表的なSEM画像を示します。この画像から、膜が直径20~30 nmのナノサイズの結晶からなり、10 nm程度の細孔を含んでいることがわかります。この膜にはその他の特別な構造的特徴は見られませんが、興味深いことに初期容量が約402 mAh/gと極めて高く、200サイクル後でも240 mAh/gの値を維持しています(図7B15。この容量はV2O5キセロゲル膜の2倍を超えており10、エレクトロスピニング法で作製したV2O5ナノファイバー12よりもいくぶん高い値です。この陰極析出法は非常に簡便かつ低コストで、信頼性の高い手法であり、量産に適しています。また、膜は高い電流密度でも良好な容量を示し、例えば、10.5 A/g(70C)での容量は約120 mAh/gです(図7C)。V2O5ナノ多孔性膜の大きな内部表面積が、LIB性能の優れている主な理由であると考えられます。しかし、表面積が大きいことに加えて、析出後(アニール前)の膜におけるバナジウムイオン(V4+)の存在も、電気化学析出プロセスでのV2O5膜成長の触媒となり、V2O5ナノ粒子からなる薄片が積層することで階層構造を持つ電極膜が形成され、V2O5ナノ多孔性膜の性能向上に寄与している可能性があります15

ナノ多孔性V2O5薄膜のSEM画像と電気化学的特性

図7リチウムイオン電池用ナノ多孔性V2O5薄膜15A)SEM画像、B)200 mA/g(1.3C)の電流密度でのサイクル容量、C)さまざまな電流密度(最大10.5 A/g(70C))でのサイクル容量。

LiFePO4/Cナノ複合材料

LiFePO4/Cナノ複合材料は、高性能LIBを得るために後処理条件の最適化が極めて重要であることを示すもう1つの例です。LiFePO4/Cナノ複合体は、(1)水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)、硝酸第二鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、およびリン酸H3PO4を含む溶液にL-アスコルビン酸(C6H8O6)を加え、(2)この溶液を60℃で1時間還流させて炭素含有LiFePO4溶液を調製し、(3)ドロップキャスト法により作製した膜をN2中でアニールすることで得ました16。L-アスコルビン酸は、Fe3+に還元する役割を果たすとともに炭素源としても働きます。

図8に、さまざまな温度(500℃、600℃、および700℃)でアニールしたLiFePO4/Cナノ複合膜のSEM画像と各アニール温度でのXRDパターンを示します。合成後のLiFePO4はアモルファス構造であり、温度が600℃に達したときに結晶子サイズが約20 nmのオリビン相を持つことが分かりました。800℃では結晶子サイズが約30 nmに成長しています。また、XRDには炭素に相当するピークが見られなかったことから、炭素がアモルファスであり、LiFePO4結晶構造の検出に影響を与えないことを示しています。EDX分析によって、薄膜中の炭素はLiFePO4結晶子の表面に均一に分布した、粒子の形状であることが明らかになっています16

LiFePO4/Cナノ複合材料のSEM画像と電気化学的特性

図8リチウムイオン電池用LiFePO4/Cナノ複合材料。A)SEM画像とXRDパターン、およびB)さまざまな温度でアニールしたLiFePO4/Cナノ複合膜のサイクル放電容量16

図8Bに、さまざまな温度でアニールしたLiFePO4/Cナノ複合膜のサイクル放電容量を比較しました。500℃でアニールした試料は初期容量が高いにもかかわらず、サイクル安定性には優れていません。13サイクルを越えると急激に低下し、139 mAh/gになりました。これは、500℃でアニールした膜の結晶性が不十分であったためです。600℃でアニールした試料が最も高い値を示し、最初のサイクルで約312 mAh/gの最大容量を示し、20サイクル以降もおよそ218 mAh/gの値を維持しました。これより高い700℃、800℃でアニールした場合の容量は大幅に(最初のサイクル:それぞれ228 mAh/gと120 mAh/g、20サイクル後:148 mAh/gと99 mAh/g)低下しました。これらの結果から、より多くのリチウムイオンの脱離/挿入と拡散を容易にする、結晶性と緻密性の点では若干劣る構造の得られる600℃が、LiFePO4/Cナノ複合膜のアニール温度には最適であると考えられます。より高温(700℃や800℃など)でアニールした膜は結晶性に優れているものの、緻密な構造と内部表面積の減少により、容量が小さくなったと考えられます。この結果は、前述した陽極酸化法で作製したTiO2ナノチューブ配列での傾向とも一致しています。

結論と所見

以上の結果から、LIBの容量とサイクル安定性は、電極膜を形成する材料の組成、形態、結晶構造、および欠陥に大きく依存していると結論付けることができます。また、これらのパラメーターは、固液界面で起こるファラデー反応と電池内での電子/イオン輸送に本質的に影響し、合成法と後処理法に依存します。

内部表面積

MnO2ナノウォール配列、TiO2ナノチューブ配列、V2O5ナノファイバー、およびV2O5ナノ多孔性膜で得られた結果から、主に合成方法に依存する材料の形態が、内部表面積を決定する上で重要な役割を果たしていることが明らかです。通常、高表面積である点がLIB材料の性能を決定する主な要因ですが、これは電極膜/電解質間の固液界面が大きくなることでファラデー反応が効率化されるためです。合成法のほかに、アニール温度や雰囲気などの後処理方法も材料の形態を調整する方法として有用です。大きな内部表面積と適切な多孔性は、リチウムイオンの拡散と効率的な挿入/脱離を可能にし、LIBの性能向上及び大容量化に寄与します。

電子とイオンの輸送経路

電池に使用される材料の形態は、電子とリチウムイオンの輸送経路にも影響を及ぼします。この点では、1Dナノ構造の電極膜の場合、電子やイオン輸送の妨げになる粒界の数が大幅に減るため、ナノ粒子より明らかに有利です。さらに、リチウムイオンの挿入/脱離に関係する酸化還元反応がより効率化され、電池が大容量化されます。しかし、1Dナノ材料を用いた電極膜では、一般に1D構造による極めて効率的な輸送に寄与する直線経路と、内部表面積の減少とのトレードオフに対するバランスを考慮する必要があります。

結晶性

結晶構造(結晶性)も、合成法と後処理法に密接に関係したもう1つの課題です。LIBへのアモルファス材料の利用には、まだ議論の余地があると思われます。前述したMnO2ナノウォール配列とナノチューブ配列の例は、アモルファス材料の方が結晶性材料よりも大容量を得ることができる可能性を示しています。これは、結晶性材料と比較して緻密性に劣る構造であるアモルファス材料の方が、多くのリチウムイオンを収容するためです。しかし、TiO2ナノチューブ配列のケースで示したように、熱処理をしていないアモルファス材料には非常に低いサイクル安定性を示すものがあります。通常、高結晶性材料ほどサイクル安定性に優れている一方、結晶性の低い材料ほど容量が大きくなる傾向が見られます。例えば、前述のLiFePO4/Cナノ複合膜の場合、600℃でアニールした試料は700℃と800℃でアニールしたものより大きい容量を示しました。一般的には、材料の結晶性は電気伝導度に関係します。結晶性の低い材料には酸素欠損などの欠陥がある場合があり、バンドギャップ内における不純物エネルギー準位の形成により、完全に結晶化した材料より電気伝導率が高くなります。そのため、電池容量が増加します。高温での熱処理は電気伝導率を下げるだけでなく、形態も変化させることに注意する必要があります。これは結晶子サイズの増大を意味しますが、その結果、電極膜の内部表面積が減少して電池容量を低下させるマイナス要因となります。

欠陥

前述の通り、電極膜の電気伝導率は、欠陥による不純物エネルギー準位に起因する電極膜の結晶性と関係します。材料中に形成される欠陥の度合は、アニール温度と雰囲気の双方から影響を受けます。TiO2ナノチューブとV2O5キセロゲル膜のアニールをそれぞれCOとN2雰囲気下で行った場合、欠陥の生成により原子価の低いイオン(Ti3+、V4+、V3+など)が形成され、電極の電気伝導率が上昇し電池容量の改善が見られます。MnドープV2O5膜の例からは、アニール雰囲気の制御に加えて、材料合成中におけるドーパントの利用も、低原子価イオンの形成と電池性能の改善につながる方法であることが明らかになりました。

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