有機シラノール
クロスカップリングのための強力な求核剤
近年、これまでより一般的に利用されてきたStillカップリング(Sn)、熊田カップリング(Mg)、鈴木カップリング(B)、根岸カップリング(Zn)に代わって、Pd触媒を用いたケイ素化合物のクロスカップリング(檜山カップリング)が急速に注目を集めています。1特に、有機シラノール、有機シラノラートのクロスカップリング反応には著しい進展があります。これら有機ケイ素化合物を求核剤として用いることには以下の利点があります。
- 毒性が低い
- 安価な出発物質から簡便に合成可能5
- 金属-ハロゲン交換または直接的なメタル化
- 遷移金属触媒によるハロゲン化アリールのシリル化
- ヒドロシリル化
- 化学量論的反応
- 空気や水分に対する安定性が高い
- クロスカップリング反応の基質一般性が高い
- フッ素化試薬もしくは塩基による(シラノラートを経由する)活性化が可能
アルケニル(ジメチル)シラノールのカップリング:ジエンやスチレン誘導体の合成
フッ素活性化剤を用いると、アルケニル(ジメチル)シラノールはハロゲン化アリールあるいはハロゲン化アルケニルと速やかに反応し、高収率でカップリング生成物が得られます(Scheme 1)。5 この反応は、TBAFのかわりに塩基であるTMSOKを用いてin situで活性化し、求核的なシラノラートを発生させても進行します。7-8このように塩基を用いた活性化は、Scheme 2に示すようなフッ素で分解しやすいケイ素保護基を有する基質に有用です。9アルキニルシラノールも同様の反応条件でカップリングすることも見出されています。10
フッ素試薬もしくは塩基による両方の活性化法が、抗菌ポリエンマクロライドRK-397の全合成で利用されました。11Scheme 3に示すように、反応性の異なる1,4-ビスシリルブタジエンの連続的なカップリング反応により目的の天然物ポリエン骨格が構築されています。ジメチルシラノール基は塩基による活性化により速やかにアルケンとカップリングするのに対し、一方のベンジルジメチルシリル基は、次段階でフッ素により促進されるカップリング反応によりアルケニルエステルと反応し、目的のテトラエノンエステルが得られます。
アリール(ジメチル)シラノールのカップリング:ビアリール・ヘテロビアリールの合成
アリールジメチルシラノールと種々のヨウ化アリール・臭化アリールとのビアリールカップリングは信頼性の高い合成法が検討されています。13-14Cs2CO3の存在下、(4-メトキシフェニル)ジメチルシラノールはin situ でシラノラートを生成し、種々のハロゲン化アリールと高収率で反応します(Scheme 4)。臭化アリールはトルエン中、dppbを配位子として用いた場合に、またヨウ化物はジオキサン中、Ph3Asを用いた場合にそれぞれ最も良い結果が得られました。
Entry | R | X | Time (h) | Additive | Solvent | Yield (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 4-CO2Et | Br | 24 | dppb | toluene | 90 |
2 | 4-CH3 | Br | 18 | dppb | toluene | 90 |
3 | 4-H | Br | 12 | dppb | toluene | 85 |
4 | 4-OCH3 | Br | 18 | dppb | toluene | 92 |
6 | 2-CH3 | I | 24 | PhaAs | dioxane | 85 |
7 | 2-CF3 | I | 24 | PhaAs | dioxane | 82 |
8 | 2-NO2 | I | 24 | PhaAs | dioxane | 83 |
9 | 4-Ac | I | 3 | PhaAs | toluene | 91 |
ごく最近まで、穏やかで一般的な反応条件で進行する二環ヘテロアリールを有する有機金属求核試剤のクロスカップリングは報告されていませんでした。特にBoc保護インドール類はC-2位での求核性が低下するためにカップリングには利用しにくい基質であり、ほとんどの場合に、厳しい反応条件が必要となるか(Stillカップリング15)、満足のいく収率が得られていませんでした(鈴木カップリング16-17)。Denmarkらは、これらのカップリング困難な基質に対して有用な一般的な2通りの反応法を見出しました(Scheme 5)。いずれの方法も塩基によりナトリウムシラノラートを生成させることが必要で、NaOt-Buからin situで得られるシラノラートをCuIの存在下でPd触媒によるカップリング反応を行う、もしくは、NaHを用いて添加剤なしでPd触媒によるカップリング反応を行っています6。ナトリウム ジメチルシラノラートは単離可能・保存可能な物質で、in situ生成されたものと反応性は同等です。
Entry | R | Base | Additive | Temp (o C) | Time (h) | Yield (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 4-NO2 | NaOt -Bu | Cul | rt | 6 | 84 |
2 | 4-CF3 | NaOt -Bu | Cul | rt | 22 | 82 |
3 | 2-OCH3 | NaOt-Bu | Cul | 50 | 24 | 75 |
4 | 4-OCH3 | NaOt-Bu | Cul | 50 | 24 | 72 |
5 | 4-CN | NaH | None | rt | 3 | 81 |
6 | 4-CO2Et | NaH | None | rt | 3 | 82 |
7 | 4-OCH3 | NaH | None | 80 | 3 | 68 |
この手法は、Pd2(dba)3•CHCl3の存在下、その他のヘテロアリールジメチルシラノールとヨウ化アリールとの反応にも利用可能です。6,19チオフェン、フラン、ピロールなどの求核剤が電子豊富、電子欠乏のいずれのヨウ化アリールとも容易に反応します(Scheme 6)。
さらに、WeissmanとMooreのグループにより開発された、活性の高いPd(I)触媒を用いれば、より安価な臭化アリールにもこの反応に利用することができます(Scheme 7)。19。ヨウ化アリールの場合よりも短時間で、大きな収率の低下もなく反応は進行します。塩基存在下、(2-methylallyl)palladium(II) chloride dimerとP(t-Bu)3により容易に得られるPd(I)触媒は、クロスカップリングに一般に用いられる触媒の中では最も活性が高いと考えられています。
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