メンブレンラーニングセンター
メンブレンラーニングセンターへようこそ。ここではメンブレンフィルターの特性やサンプルろ過に及ぼす影響についてご紹介しています。数十年の研究から得られたこれらの知識を活用して、用途に最も適したフィルターをお選びください。
サンプル処理に最適なフィルターの選び方
フィルターを選択する際には次の5項目をチェックしてください。
- どのようなサンプルをろ過しますか?次の点を確認してください。
• 除去したい粒子や分子のサイズと特性
• 化学組成
• 量 - 分離に必要な孔径または公称分画分子量(NMWL)は?
- 滅菌ろ過ですか?
- 必要なろ過速度は?容量と許容される処理時間は?
- 加圧式または吸引式ろ過を行いますか?
これらをチェックすることによって、サンプル、クロマトグラフィー移動相、その他の液体の精密かつ正確な分離を行える確率を高めることができます。
ラーニングセンターの残りの部分で、メンブレン特性の詳細な情報や、各メンブレンが厳密な品質規格に合致することを確認するためメルクが実施している検査をご確認いただけます。
メンブレンのぬれ性
液体ろ過の場合、メンブレンはろ過対象の流体で濡らすことができなければなりません。メンブレンのぬれ性は、メンブレン表面の化学的性質と関係しています。微細孔性メンブレンの製造に使用されるほとんどのポリマーは、本質的に疎水性であるため、水で濡れることはありません。
ただし、本質的に親水性であり、水で濡れるナイロンとセルロースは例外です。疎水性と親水性の違いは、ポリマーの表面エネルギーに関係しています。表面エネルギーが70 dynes/cmを上回っている場合、ポリマーは親水性です。70 dynes/cm未満の場合、ポリマーは疎水性です。
下の図に示すように、親水性のメンブレンは水/水溶液で濡れますが、疎水性のメンブレンは有機溶媒で濡れます。
水溶液のろ過に疎水性メンブレンが必要な場合は、水溶液をろ過する前に、最初にアルコールで濡らしてから、水中で平衡化します。ほとんどの場合、これは実行不可能であるため、水溶液のろ過には親水性メンブレンが必要です。
Figure 1The angle that is formed by the edge of a water droplet on a horizontal membrane defines wettability. On a hydrophilic membrane (left), the wetting angle is less than 90 degrees, while on a hydrophobic membrane (right), the wetting angle exceeds 90 degrees.90 degrees.
Figure 2While a drop of water can wet out only a hydrophilic membrane, rendering it translucent, a drop of isopropyl alcohol can wet out both hydrophilic and hydrophobic membranes, but not a superhydrophobic membrane.
疎水性の克服
ポリマーの疎水性を克服するには、ベースポリマーをコーティングする二次化学物質でメンブレンを処理します。二次化学物質は、ぬれ性の判定に際して一次的になります。二次化学物質がポリマーの共有結合修飾ではない限り、ベースポリマーは疎水性のままであることを認識しておくことが重要です。
メンブレンコーティングによるぬれ性の変化
親水性メンブレンは純水で濡れ(表面張力が周囲条件下で約72 dynes/cm2のとき)、構造の細孔に水が侵入できるようにするために、ある程度の圧力上昇を必要とします。界面活性剤などの溶質またはアルコールなどの低表面張力の混和性溶媒を水に添加することによる湿潤流体の表面張力の低下は、乾燥したメンブレンの湿潤速度に影響を及ぼします。
また、表面張力が比較的低い溶媒または溶媒混合物は、疎水性メンブレンを濡らします。
Figure 3Three ways that a membrane can be treated with a secondary chemistry to change its wettability.
通気
通気用途の場合、フィルターは、液体流から気泡を逃がしたり、液体流と外気との間でガスを交換したりできる多孔質隔膜として使用されます。フィルターがいかなる状況でも濡れないようにするには、フィルターを超疎水性または疎油性にする二次化学物質で処理します。これにより、表面エネルギーが20 dynes/cm未満に減少します。メンブレンを水やアルコールで濡らさないでください。
メンブレン孔径またはNMWL
孔径は、特定のサイズの粒子をろ過するフィルターの能力に関連しています。たとえば、0.20ミクロン(µm)のメンブレンでは、ろ過流から直径0.2ミクロンもしくはそれ以上の粒子を除去できます。
孔径は、以下のいずれかの手法によって定量されます。
- 走査型電子顕微鏡を使用した目視検査。メンブレンの一部が適切に処理されて顕微鏡に入れられ、適切なイメージングソフトウェアを使用して評価されます。
- バブルポイントテストでは、孔径の間接的な調査として、液体メンブレンの細孔部から押し出すのに必要な最小圧力が測定されます。液体は、表面張力と毛細管力によってフィルターの細孔部に保持されます。液体を細孔部から押し出すのに必要な最小圧力は、孔径の基準です。
- 破壊的バクテリアチャレンジ試験は、細菌を捕捉する滅菌フィルターの能力を測定するために使用されます。非破壊試験は、完全性を測定するために使用の前後にフィルターで行うことができます。
- ポロシメトリーは、圧力下で液体をメンブレンに押し込み、浸透プロファイルを数学的に分析して孔径を定量する物理的方法です。
- 粒子チャレンジでは、定義されたサイズの粒子を使用して、フィルターが捕捉できる最小サイズを判定します。
限外ろ過(UF)では、細孔部が非常に小さいため、フィルターの孔径は重要となりません。これらのフィルターは、公称分画分子量(NMWL)または分画分子量(MWCO)に従って評価されます。たとえば、この値が30,000のUFメンブレンは、分子量が30,000ダルトンの試験タンパク質を除去します。その試験タンパク質の90%は上流側で捕捉され、10%はフィルターを通過してろ液に溶出してタンパク質を濃縮します。限外ろ過メンブレンは通常、MWCOの業界標準として、デキストランの混合物を使用して評価されます。
メンブレンはすべて特定の孔径について評価されていますが、これらの評価はメーカー/製品ごとに異なるため、孔径の評価だけでは、フィルターの有効性の指標として信頼性の高いものとは言えません。フィルターの機能(たとえば、前ろ過、浄化、滅菌)および、フィルターがその機能をどの程度有効に実行しているかを考慮する必要があります。
バプルポイント完全性試験
バブルポイントは、微細孔性フィルターの孔径を推定し、滅菌メンブレンフィルターとフィルターシステムの完全性を確認するために使用される実用的な非破壊試験であり、最も広く使用されている非破壊完全性試験です。
バブルポイントは、表面張力と毛細管力によって液体がフィルターの細孔部に保持されるという原理に基づいています。液体を細孔部から押し出すのに必要な最小圧力は、孔径の尺度です。液体で満たされた毛細管から液体を押し出すのに必要な圧力は、表面張力を克服するのに十分でなければならず、有効管径の直接的な尺度となります。
バブルポイントテストの式
注釈:
P = バブルポイント圧
d = 細孔部の直系
k = 形状補正係数
cos θ = 液体-固体接触角度
σ = 表面張力
Figure 4. Diagram showing derivation of bubble point test formula.
バブルポイントテストは高感度の視覚的手法であり、品質保証プログラムの一環として定期的に実施されます。バブルポイントテストは、フィルターの軽微な欠陥とサイズ不適合の細孔部を検出し、細菌の通過と相関しています。
フィルターに関するバブルポイントテスト手順
1. フィルターを適切な液体(通常は、親水性メンブレンの場合は水、疎水性メンブレンの場合はアルコール)で濡らします。
2. フィルターをホルダーに入れ、メンブレンを湿潤液で覆います。
3. 製造元の資料に記載されている予想バブルポイント圧の約80%までシステムを加圧します。
4. 一続きの気泡の流れがメンブレンを通過するまで、圧力をゆっくりと上げます。
5. 圧力計からバブルポイント圧を読み取ります。
ろ過装置の完全性に関するバブルポイントテスト手順
1. フィルターを適切な液体(通常は親水性メンブレンの場合は水、疎水性メンブレンの場合はアルコール/水混合液)で濡らします。
2. 製造元の資料に記載されている予想バブルポイント圧の約80%までシステムを加圧します。
3. 急速かつ連続した気泡がアウトレットで観察されるまで、圧力をゆっくりと上げます。
4. バブルポイント値が仕様よりも低い場合は、次のいずれかが考えられます。
- 推奨される試験液とは表面張力が異なる液体
- 一体型フィルターの孔径が正しくない
- 高温
- メンブレンの湿潤が不十分
- メンブレンまたはシールが不良
Figure 5.Bubble point test procedure for devices
メンブレン流量
流量とは、特定の粒子がフィルターを通過するのにかかる時間を指します。フィルターの流量は、ろ過をどれだけ迅速に完了できるかを決定する上で重要です。同一タイプのメンブレンでは、通常、流量は孔径とともに減少しますが、公称孔径は同じだが、異なる材料または異なる方法で製造されたメンブレンでは、流量が大きく異なる可能性があります。流量の違いは、厚さ、多孔性、および細孔部構造の違いによって引き起こされる可能性があります。
微細孔性メンブレンが製造された後、理想的な液体または気体を使用して流量または流下時間が測定されます。親水性フィルターは通常、水でテストされます。疎水性メンブレンは通常、アルコールでテストされます。空気ろ過に使用するメンブレンは、乾燥空気または乾燥窒素でテストできます。理想的な液体と気体を使用することにより、細孔部を詰まらせる可能性のある粒子やその他の汚染物質の影響を受けずに、フィルターの流動特性を評価できます。サンプル流に細孔部を詰まらせるものがない場合、流量は一定に保たれます。限外ろ過の場合は、流量に関して特別な考慮事項があります。
流量と限外ろ過
限外ろ過中は、最適な性能を得るために、流量と捕捉率のバランスをとることが重要です。限外ろ過メンブレンでは、より一般的に使用される用語は流束です。メンブレンの流束は、流量をメンブレン面積で割ったものとして定義されます。流束が限外ろ過メンブレンで使用される理由は、拡張性の必要性です。限外ろ過メンブレンは、高価な生体分子の精製に広く使用されています。分離特性は、本番環境で大容量にスケールアップする前に、実験室で小規模に調査されます。流束に基づいて分離特性を定義することで、実験室規模の調査を本番規模のプロセスに変換することがより簡単になります。
より高いNMWL定格のメンブレンを使用することで、流量は増加しますが、同時に捕捉力は低下します。メンブレンは、必要な捕捉力と必要な流速に合わせて選択する必要があります。これは次のように決定されます。
- 表面積
- マクロ溶質タイプ
- 溶解性
- 濃度と拡散性
- メンブレンタイプ
- 粘度に対する温度の影響
- 圧力
濃度分極によって流量が制限されている場合、流束は溶質濃度、流体速度、流路の寸法、および温度の影響を受けます。
空気とガス
無菌性はベントメンブレンの一般的な要件であるため、公称孔径は重要な考慮事項です。ガス流中の疎水性メンブレンによる細菌捕捉のメカニズムは、親水性メンブレンの場合とは異なることに注意してください。細菌やその他の病原体は、粒子(エアロゾルまたはほこり)に付着して空気中に浮遊します。その結果、空気ろ過の場合、病原体は、病原体のみよりも大きな孔径のメンブレンによって阻止される可能性があります。一部のサプライヤーは、孔径が最大5.0 µmのメンブレンは、99.99%を超える細菌捕捉効率を示すと主張しています。0.2 µmメンブレンでのウイルス捕捉率についても同様の主張があります。そのため、孔径の大きなメンブレンほど、重要度の低い用途で使用され、得られる流量は高くなります。
異なるメンブレンの空気流量を比較するときは、流量の報告に使用されている単位およびテストの実施条件の違いに注意することが重要です。圧力と温度が少し変化しただけでも、報告される空気流量に大きく影響する可能性があります。
液体
液体流量を測定するには、フィルターを適切なホルダーに配置し、定義された量の液体をホルダーに添加してから、一定の吸引力でフィルター内に液体を吸引します。つまり流量は、液体の性質、メンブレンの表面積、吸引力によって決まります。異なるメンブレンを比較するには、同じ液体と吸引力を使用する必要があります。
水とアルコールは大規模試験で流量をテストするために使用できますが、血清や細胞培養培地などのより複雑な溶液を処理する場合は、メンブレンの性能を予測する上で十分な識別を行えない場合があります。用途によっては、他の試験液を使用するのが適切です。細胞培養培地などの複合溶液は、水やアルコールよりもかなり高価であるため、サンプリング計画とテストプロトコールにおいて、必要な追加データの量と追加コストの間でバランスをとる必要があります。
フィルターの結合特性
分析化合物など、重要な成分を含むサンプルをろ過する場合は、これらの分析化合物がろ過装置に結合しても失われないことに加え、ろ液が期待どおりの分子組成になっていることを確認する必要があります。
被検体の結合特性は、分析化合物の特性とメンブレンおよびプレフィルターの特性によって決まります。分析化合物とメンブレンの分子構造からは、どの相互作用に注意すべきかがわかります。薬物と表面の間の相互作用の性質は、表面に見られる官能基によって決まります。最も一般的な相互作用は、水素結合、疎水性相互作用、および静電相互作用です。静電相互作用は非常に強力ですが、被検体とメンブレン表面の電荷の影響を受けます。水素結合は静電相互作用よりも弱いものの、フィルターメンブレン材料の性質およびそれが水素結合の供与体であるか受容体であるかによって大きく変わる可能性があります。一般的に最も弱いのは疎水性相互作用です。
高分子微細孔性メンブレンでは、内部表面積が前面の表面積の100〜600倍であるため、非特異的結合に利用できる広大な内部表面積があります。親水性PTFEとDurapore® PVDFメンブレンはいずれも、さまざまな分析化合物と相互作用できる官能基が非常に少ないため、分析化合物の結合率は低く、回収率は高くなります。ナイロンメンブレンには、アミノ酸とカルボン酸の官能基に加え、静電および水素結合の相互作用を通じて酸性または塩基性の分析化合物と相互作用するアミド結合が含まれているため、被検体の結合率は高く、回収率は低くなります。
評価したすべてのメンブレンのなかで、親水性PTFEおよび親水性PVDFメンブレンは極めて不活性であり、最低のタンパク質結合特性と最高の生成物回収率の両方を示しました。低分子量分析化合物のろ過には親水性PTFEが一般的に推奨されるのに対し、タンパク質および生体分子溶液のろ過には親水性PVDFメンブレンが推奨されます。ナイロンメンブレンは、小分子分析化合物に対して最も高い被検体結合率を示し、タンパク質分析化合物に対して中程度または高い結合率を示しました。
メンブレンへの小分子分析化合物の吸着
メンブレンに対するタンパク質吸着
タンパク質の回収
フィルターの光学特性
多くの分析およびライフサイエンス用途では、ろ過流の構成要素がフィルターで捕捉され、視覚化のために処理されるため、メンブレンの光学特性が重要になります。これらの用途の例としては、粒子のモニタリングや微生物の計数があります。ほとんどのフィルターは、乾燥すると不透明になります。フィルターの製造に使用されるポリマーは、形態が異なると透明になる場合がありますが、フィルターの多孔性によって、高度な回折と光散乱が生じます。注目すべき例外は、トラックエッチドメンブレンです。このメンブレンでは、出発材料として使用されるフィルムの透明性がメンブレンの製造時に通常保持されます。
一部のメンブレンフィルターは、水溶液で濡れると半透明になります。実際、メンブレンが均一に濡れるかどうかは、メンブレンの外観が不透明から半透明に均一に変化するかどうかを見ることですばやく評価できます。すべてのフィルターがこの特性を示すわけではありません。デプスフィルターは、ポリエーテルスルホン(PES)でできたメンブレンなどの一部のメンブレンフィルターと同様に、通常は濡れても不透明なままです。
多くの場合、フィルターは不透明なハウジングに収められており、ユーザーからは見えません。一般に1リットル未満の少量のろ過に使用されるろ過装置では、ハウジングに透明なプラスチックが使用される場合があります。プラスチックは、主にろ過装置製造時のフィルターとの適合性のために選択されるのであって、フィルターの視認性のために選択されるわけではありません。
メンブレンの光学特性は、視覚化を伴うこれらの用途で重要になります。一部のタイプの顕微鏡検査では、メンブレンを洗浄する必要があります。それ以外の場合、この処理は不要です。光学式リーダーの場合、メンブレン上のシグナルは以下に基づいて分析できます。
- 反射率
- 透過率
- 化学発光強度
- 蛍光強度
反射率
反射率の測定では、定義された波長の光がメンブレン表面に照射され、検出器に戻る反射光が測定されます。反射率読み取り値の一貫性は、メンブレン表面の一貫性と一部関係しています。メンブレンの表面に光沢がある必要はありませんが、背景の反射が均一になるように、表面粗さは均一であることが必要です。1回の反射率測定は、メンブレンの製造スケール(数千平方メートル)と比べて、小さな表面積(1 mm<sup>2</sup>未満)で行うことができます。
透過率
構造によっては、メンブレン上の粒子または光シグナルの測定に透過光が使用されます。感度を最大にするため、メンブレンを透明にする必要があります。これを行うには、メンブレンと同じ屈折率を持つ洗浄剤を選択します。これを細孔充填手法と呼びます。メンブレンと同じ屈折率を持つ液体で細孔部を充填することにより、光がフィルターを通過し、フィルターが透明になります。この手法は、単一の屈折率を持つほとんどのメンブレンフィルターに使用できます。屈折率はPVDFメンブレンの場合に1.42、ニトロセルロース膜の場合に1.50です。この手法は、ポリカーボネートメンブレン(屈折率1.62および1.58)や複合メンブレンなど、複数の屈折率を持つフィルターには使用できません。メンブレンを洗浄するために使用される液体は、通常、油または有機溶媒の組み合わせです。
化学発光強度
分子生物学の用途では、タンパク質または核酸がメンブレンの表面に固定化されます。抗体やオリゴヌクレオチドなどの分子プローブを使用して、微量の分子を分析できます。検出スキームの最後のプローブ分子は、西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素に結合しています。次に、酵素に特異的な基質分子がメンブレンに付加されます。基質が酵素の作用を受けることにより、光の光子が反応によって生成され、フィルム上またはカメラによって検出できます。光子の方向性はランダムです。測定されるのは、検出システムと接触する光子のみです。
蛍光強度
蛍光プローブはメンブレンフィルターで使用できます。細胞ベースのアッセイでは、細胞成分やさまざまな刺激に対する細胞応答が直接測定されます。分子アッセイには、固定化されたタンパク質や核酸の間接アッセイが含まれます。さまざまな用途に利用できる多様な蛍光色素があります。蛍光色素を選択するための基準の1つは、メンブレンとの光学的適合性です。励起波長によっては、メンブレンが自家蛍光を発する可能性があり、これによりSN比が低下します。メンブレンの自家蛍光は、メンブレンの製造に使われたポリマー、またはメンブレンの製造時に混入した汚染物質によって引き起こされる可能性があります。メンブレンがろ過装置内部にある場合は、ハウジングも自家蛍光に寄与する可能性があります。メンブレンとろ過装置(存在する場合)の自家蛍光は、サンプルを分析する前に測定しておく必要があります。
フィルターのハウジング
ろ過プロセスの規模に関係なく、フィルターは以下の目的でろ過装置に収納されています。
- 使用時にかかる圧力によりフィルターが破損しないよう、フィルターを構造的にサポートしています。
- 液体の流れがフィルターを通過するよう、フィルターの端を融着するメカニズムを組み込むため。フィルターの端付近に液体が流れることにより、ろ液が汚染されます。
フィルターを融着するために使用される方法も、フィルターを選択する際に重要な考慮事項です。
融着
フィルターを融着する方法はいくつかあります。再利用可能なろ過装置は、ガラスやプラスチック、ステンレススチールでできています。フィルターは、その周囲を覆うガスケットまたはOリングを使用してユニットのベースに配置されます。ユニットの上部は所定の位置にネジ止めまたはクランプされ、施栓部の圧力によってメンブレンの端が融着されます。フィルターの移動や歪みを防ぐため、ユニットの組み立ては慎重に行う必要があります。
組み立て式のろ過装置の場合、フィルターの融着には一般的に次のものが使用されます。
- 接着剤
- 直接接合
- オーバーモールド
接着剤
接着剤はフィルターの周囲に塗布され、ハウジングとフィルターの間に頑強な障壁をつくります。その際に接着剤がフィルターの多孔質構造に流れ込むことは、ある程度避けられません。接着剤の利点は、さまざまな種類のフィルターを1つのろ過装置に接着できることです。欠点は、接着剤を硬化させて融着部を形成するのに十分な時間を与える必要があることです。接着剤のもう1つの欠点は、サンプルがメンブレンでろ過されるときに、抽出物/浸出物が生じる可能性があることです。
直接接合
直接接合では、フィルターがハウジングに融着されます。超音波溶接または熱融着は、ポリマーフィルターをプラスチックハウジングに1ステップで直接接合するために使用されます。この方法は、ハウジングやフィルターの局所的な溶融を伴うため、メンブレンフィルターと薄い不織布フィルターに最適です。フィルターとハウジングに使用されるポリマーは、強力な一体型接合を形成できるよう、相互に適合するものを選択する必要があります。直接接合の利点は、追加の処理を必要とせずに、融着部がすぐに形成されることです。欠点としては、厚みのあるフィルターと非ポリマーフィルターをこの方法では融着できないことが挙げられます。
オーバーモールド
オーバーモールドは、フィルターをろ過装置に融着するための簡略化されたプロセスです。プラスチックは、フィルターの周りとハウジングの他の部分の周りに成形され、一体型の融着部と完全なろ過装置を1ステップで形成します。液体プラスチックは、ハウジングの各部分の間にある空間を埋めるときに、フィルターの端にも浸透します。プラスチックがメンブレンの有効ろ過面積に侵入しないように条件が制御されています。フィルターをろ過装置に融着するために使用される方法にかかわらず、融着部は何も通過させないように一体型であることが必要です。また、融着プロセスによってフィルターに穴が開かないよう注意する必要があります。
融着プロセスの有効性は、完全性テストで評価できます。この方法では、完成したろ過装置のフィルターの片側を加圧し、下流側の液体または空気の通過速度を測定します。融着部に欠陥があるか、フィルターが破損しているろ過装置は、正常な装置と比べて非常に高い流量を示します。
欠陥と破損
フィルターがろ過装置に融着されることにより、融着部を形成するために使用されるメンブレン表面積の一部がろ過流から除外されます。追加の表面積を失うことは、ろ過装置のろ過能力を低下させるため、望ましくありません。また、融着中にメンブレンを破損させることも望ましくありません。融着後も、フィルターの構造は影響を受けないままである必要があります。潜在的な問題領域は次のとおりです。
- 圧力:融着プロセスの一部として印加される圧力によってフィルターが圧縮されます。この圧力が大きすぎる場合、フィルターが融着部の端で圧縮され、極端な場合にはフィルターにひびが入る可能性があります。
- 接着剤:融着プロセスの一部として使用される接着剤の量は、融着部を生成するために必要かつ十分な量に制限する必要があります。過剰な量の接着剤は、メンブレンの表面上を移動し、細孔部を詰まらせる可能性があります。
- 超音波エネルギーまたは熱:これらの融着方法では、通常、ポリマーとハウジングが同時に融解するため、フィルターの多孔質構造が崩壊します。エネルギーの印加量が多すぎるか、印加方法が正しくない場合、フィルターの多孔質構造が融着部から離れた領域で崩壊する可能性があります。極端な場合は、穴が開くことがあります。
抽出物(浸出物)
多くの用途では、ろ液の化学的汚染が大きな懸念事項となります。ハウジングとフィルターに使用される材料は、ろ液に汚染物質を混入させる可能性が低くなるように選択されています。不織布フィルターは、その構造に特異的な性質によっては、繊維をろ液に混入させる可能性があります。製造時に必要となる追加の取り扱いの際に汚染物質が混入する可能性があるため、完成したろ過装置は、多くの場合、意図された用途で化学物質を放出するかどうかのテストにかけられます。このテストは、ろ液を医療用途で使用する場合に常に実施されます。
メンブレンの視覚的特性
メンブレンはすべて、なんらかの目視検査にかけられます。構造物を通過する光の透過をとらえるカメラを使用して、オンラインで目視検査が行われる場合もあります。しきい値を超える輝点の存在は、メンブレンに穴が開いていること、または織布の場合は、繊維の目が粗すぎるために材料がフィルターとしの効果を発揮できない領域があることを示しています。欠陥のある領域は、材料が製造され、後で完成品から選別されるときにマークを付けることができます。
オフラインで行われる目視検査は他にもあります。たとえば、メンブレンの一部をライトボックス上またはランプの下に置き、フィルターの性能を損なう可能性のあるその他の欠陥がないかどうかを検査します。目視検査は主観的ですが、フィルターには適切に機能しない領域を示すさまざまな視覚的欠陥があります。一般的に、視覚的な欠陥は鋳造プロセスの問題に関連しています。たとえば、溶媒スポットは、ポリマーが適切に沈殿しなかったメンブレン内の領域です。視覚的な欠陥のある領域を検査して除去することにより、構造の均一性が保証されます。
メンブレンの溶出物
溶出物とは、フィルターまたはろ過装置から得られた最終ろ液に存在する汚染物質のことです。フィルターからの溶出物には3つのタイプがあります。
- 脱落したフィルター材料(メンブレンからのポリマー粒子や不織布からの繊維など)
- 製造プロセスからの残留化学物質
- フィルター由来の二次化学物質
メンブレンの捕捉力
捕捉力とは、対象の粒子または分子を捕捉するメンブレンの能力です。フィルターの製造元が考え得るすべての用途ですべてのフィルターの捕捉力をテストすることは実際的ではありません。ただし、フィルターの市場規模や用途の重要性によっては、捕捉力テストを通常のリリーステストに組み込むことが製造元にとって経済的に実現可能になる場合があります。テストが製造元とユーザーのどちらによって行われるかにかかわらず、最終的な用途に適した方法でフィルターを検証する必要があります。以下に例を示します。
- アスベスト粒子の分析に使用するフィルターは、空気流からすべてのアスベスト粒子を除去できるかどうかをテストする必要があります。
- 滅菌グレードのフィルターは、細菌の定量的捕捉についてテストする必要があります。
- ウイルス除去フィルターは、ウイルスの捕捉力について検証する必要があります。
UFメンブレンについては、デキストランまたはタンパク質を使用した捕捉力テストが、性能特性を評価する唯一の実用的な方法となります。捕捉力テストの結果からは、メンブレンのNMWLを判断できます。
捕捉力テストが必要となる例を以下に示します。
同一の公称孔径を持つ2つのメンブレンを、2時間にわたって並べてテストします。この際、両方のメンブレンが捕捉する必要のある既知の汚染物質を含んだ溶液を使用します。メンブレン1の流量は、テスト開始から数分以内に低下し始め、2時間低下し続けます。メンブレン2の流量は2時間一定のままです。この違いは次の2つの方法で説明できます。
- メンブレン1の流量がメンブレン2ほど高くない可能性がある。
- メンブレン1がメンブレン2よりも効率的に粒子を捕捉している可能性がある。
これら2つの可能性を区別する唯一の方法は、ろ液の粒子含有量を分析し、捕捉効率を判定することです。
融着特性
このセクションでは、メンブレン融着方法の概要と、ろ過装置メーカーが融着プロセスを設計する際に考慮すべきポイントについて説明します。
熱融着
熱は、融着される材料に直接添加されるダイを介して伝導されます。熱が基板のプラスチックを溶かすことにより、圧力によって軟化したプラスチックがメンブレンの細孔構造に押し込まれ、材料間に接合部が形成されます。温度、圧力、滞留時間の融着因子は、プロセスと材料の組み合わせごとに最適化する必要があります。
重要な考慮事項:
- プラスチックの蓄積を最小限に抑えるため、ヒーターヘッドには表面エネルギーの低いコーティングを適用してください
- 透明な融着領域は通常、融着が完全であることを示します
- 丸い融着領域などの単純な形状ほど、より良い結果をもたらします
- 融点が類似している、または融点が低い基板材料にメンブレンを融着してください
- 推奨される最小融着幅は0.05インチ(1.25 mm)です
- 融着の完全性は、逆流方向の低い空気圧または水圧を使用してテストできます
超音波接合
超音波接合とは、高周波の機械的運動または振動から発生した熱を利用して熱可塑性プラスチックを接合することです。振動は垂直方向に発生します。熱は、材料が繰り返し衝突することによって発生します。
重要な考慮事項:
- メンブレンなどの傷つきやすい材料への損傷を減らすため、高周波および低振幅(40 kHz)の接合機を使用してください
- 過度の振動を避けてください
- 適切なホーン、ネスト、パーツの設計は、良好な融着を実現する上で重要です
- エネルギーダイレクターを使用して、必要な溶接エネルギーを削減します
- 切線と融着は、溶接機に1回通しただけで生じる場合があります
高周波溶接
高周波(RF)溶接では、電磁波を使用して分子を励起し、プラスチックで内部熱を発生させます。熱と圧力を組み合わせることで、材料が接合します。RF溶接を機能させるための正しい誘電特性を備えているのは、PVCやアクリルなどの一部の材料のみです。
最良の結果を得るために、2つのプラスチック製ハウジングの間でメンブレンを融着してください。
メンブレンメーカー間のタンパク質結合のばらつき。
カットディスクメンブレンのタンパク質結合の比較
マイクロフィルトレーションとは?
カットディスク非特異的結合分析
フィルターメンブレン
マイクロフィルトレーションとは?
マイクロフィルトレーション は、バイオ医薬品、高分子治療薬、細胞培養における幅広い用途で利用できるタンパク質溶液の精製、分離、清澄化のための便利で効果的なプロセスです。サンプルから目的の粒子を分離する際、分析物の結合と捕捉力が考慮すべき重要な要素となります。メンブレンの表面や内部への分子結合によるタンパク質損失を回避することが、タンパク質サンプルのろ過では不可欠です。非特異的タンパク質結合は、メンブレンと分析物の物理化学的相互作用から生じるものであり、サンプルタンパク質の回収速度を低下させます。また、非特異的タンパク質結合は溶液濃度にも左右されます。溶液濃度が高いと、濃度が低い場合より、利用可能なメンブレン結合部位の飽和が速いからです。したがって、低結合特性のカットディスクメンブレンを選ぶことは、サンプル損失の予防だけでなく、サンプルタンパク質の高い回収率を確保する役にも立ちます。
カットディスクの非特異的結合分析
下のグラフと表は、5種類のMillipore® カットディスクメンブレンフィルターの非特異的結合性を競合ベンダーの4種類のカットディスクメンブレンフィルターと比較したものです。サンプルメンブレンは、125I-(ヤギIgG)を0.1 µCi/mL濃度で含有するPBS溶液中で1 mg/mLに調製したヤギガンマグロブリン溶液に浸漬しました。疎水性メンブレンは、事前にイソプロパノールで濡らした後、Milli-Q® 水でリンスして、トレーサー溶液を添加しました。その後、ディスクはPBSで3回洗浄し、ガンマカウンターを用いて結合放射活性を測定しました。
タンパク質結合レベルは、メンブレン表面の化学的性質、厚さ、細孔内の有効表面積、および材料の吸着性により幅広いばらつきがあります(表4、図6)。Millipore Express™ PES およびDurapore® 親水性PVDF の両メンブレンフィルターは、他の調べたメンブレンよりも優れた低タンパク質結合性があり、Millipore Express™ PESではベンダーAのPESより8倍低いタンパク質結合が確認されました。親水性のDurapore® PVDFでも、特にその疎水性バージョンと比べると、非常に低いタンパク質結合が認められました。
表4:Millipore® カットディスクメンブレンとベンダーA、B、C、D各社製のカットディスクメンブレンのIgG定量に基づくタンパク質結合比較(平均値 ± 25 mmディスクのn=3反復の実験から算出された標準偏差、試験したメンブレンあたり1ロット)。Immobilon® 疎水性PVDF および Durapore® 親水性PVDF はそれぞれ高結合コントロールおよび低結合コントロールとして使用しました。
Figure 6.Graphical protein binding comparisons of cut disc membranes from Millipore® and other vendors A, B, C and D, with high- and low-binding controls displayed in light purple.
放射性トレーサーの一過性と、125I-IgGトレーサーの生物学的状態に起こる変化を考慮すると、この方法で試験された非特異的タンパク質結合の結果では、絶対的数値にはばらつきがあるものの、結合データにおいて一貫した傾向が見られることが多いでしょう。Millipore® 疎水性/親水性ポリプロピレン製カットディスクメンブレンフィルター へのタンパク質結合は、Millipore® PVDFカットディスクメンブレンフィルターと比較した別の試験において上のセクションに記載されている方法で定量し、その結果を以下に示しています。
予想どおり、親水性ポリプロピレン製メンブレンでは、疎水性ポリプロピレン製メンブレンよりも比較的低いタンパク質結合が明らかです(表5、図7)。ここでは、孔径が0.2 µmと0.45 µmのメンブレン間でタンパク質結合の差も調べました。細孔内の有効表面積は結合に影響を及ぼしますが、0.2 µmと0.45 µmのポリプロピレン製メンブレンフィルターの結合挙動は、それほど大きく異なりませんでした。さらに、各メンブレンの3つのロットを調べました。約20 µg/cm2 というある程度のばらつきが、0.45 µmの親水性ポリプロピレン製メンブレンのロット間で認められました(図7)。疎水性メンブレン、特にImmobilon® 疎水性PVDF(310.0 µg/cm2)、の結合能と比較するとわずかなものですが、このばらつきは、タンパク質とポリプロピレンの繊維状マット様構造との相互作用の違いが原因である可能性があります。
表5:Millipore® 親水性(philic)/疎水性(phobic)ポリプロピレン製カットディスクメンブレンのIgG定量に基づくタンパク質結合の比較(平均値± 47 mmディスクのn=3反復の標準偏差、試験したメンブレンあたり3ロット)およびMillipore® PVDFメンブレンとの比較Immobilon® PVDF および Durapore® 親水性PVDF はそれぞれ高結合コントロールおよび低結合コントロールとして使用しました。
Figure 7.Figure 7: Graphical protein binding comparisons of Millipore® polypropylene cut disc membranes and Millipore® PVDF (mean ± calculated standard dev of n=3 lots from 47 mm discs; 3 replicates per lot tested), with high- and low-binding controls displayed in light purple.
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