はじめに
光重合開始剤は、吸収された光エネルギーである紫外または可視光を、開始種、典型的にはフリーラジカルの形で化学エネルギーに変換するために添加される化合物です。従来、これら化合物は非極性環境用に設計されており、その疎水性部分が水に不溶性にしています。親水性重合条件、特にヒドロゲル系における重合の高まりにより、新しいクラスの水溶性光開始剤が必要となっています。
シグマアルドリッチでは、水溶媒中での光重合を可能にする新たな化合物として、Lithium phenyl-2,4,6-trimethylbenzoylphosphinate(LAP)および水分散性光開始剤ナノ粒子であるdiphenyl(2,4,6-trimethylbenzoyl)phosphine oxide(TPO)を販売しております。これら化合物により、3Dバイオプリンティング、組織工学用途、およびデバイス製造のための新規組成物の開発が可能になります。
水溶性光重合開始剤:LAP

図1LAPの構造
背景

図2LAPのモル吸光係数
LAPは、1991年にMajimaらによって最初に報告されました1。2015年のBenediktらによる研究2 では、より最適な使用法が検討され、代替構造と性能を比較しています。この光重合開始剤は、高い反応性および紫外線および紫色光の両方の光源下で開始することができるために注目されています。LAPは、組織工学用ヒドロゲルまたは他の足場材料の重合において使用される、水溶性および細胞適合性を有するⅠ型光重合開始剤です。その優れた水溶性と改良された重合反応により、生物学的用途において他の光重合開始剤よりも適しています3。重合速度の改善は、より低い開始剤濃度での架橋反応を可能にし、潜在的な毒性を低下させ、細胞生存性を増加させます。365 nmでの重合速度の増加に加えて、LAPは400 nmの波長も吸収します。そのため可視光での重合を可能にし、高い細胞生存率を有する、細胞を含んだ(cell-laden)構造体を得ることができます。
性質
・Water solubility:4.7 wt%
・λmax:380 nm (UV and 350-410 nm violet light curing)
・High reactivity formulations
・Biocompatible
・Recommended addition level:0.1~0.8 wt%
・Avoid contact with alkaline additives
水分散性TPOナノ粒子光重合開始剤
Ⅰ型光重合開始剤であるdiphenyl(2,4,6-trimethylbenzoyl)phosphine oxide(TPO)は高効率ですが水に不溶性です。水分散性TPOナノ粒子は、エルサレム・ヘブライ大学のShlomo Magdassi教授のグループによって開発されました。この水溶性バージョンのTPOは、組織工学用途における水溶液中でのヒドロゲルの迅速な3D印刷を可能にします3。TPOナノ粒子は、385~420 nmの範囲の光を吸収するため、低コストで、LEDを用いた市販の3DプリンターおよびUV硬化デバイスにおいて、あらゆるUV硬化性水系溶液に使用するのに適しています。
性質
・Water solubility:3.0 wt% TPO nanoparticles
λmax :366-381 nm (UV and 385-420 nm violet light-curing)
High reactivity formulations
Biocompatible
推奨添加量: 濃度が2 wt.%を超える場合、最適化が必要になります。(3Dプリンター用バイオインクの例:20 gのアクリルアミドと2 gのPEG化ジアクリラート600 (SR610) を一緒に秤量し、光重合開始剤ナノ粒子の水分散液80 g(水78 g + TPO-NP 2 g)を加えます。分散液を撹拌し、透明なインクを得ます。)
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参考文献
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