有機太陽電池のIoT、建築、ウェアラブルデバイスへの応用
Graham Morse<sup>1</sup>, Richard Harding<sup>1</sup>, Agnieszka Pron<sup>1</sup>, Nicolas Blouin<sup>2</sup>, Hannah Buerckstrummer<sup>2</sup>, Stephan Wieder<sup>2</sup>, David Mueller<sup>2</sup>, Stephane Berny<sup>3</sup>
Material Matters, 2017, Vol.12 No.3
高性能有機半導体が開発されたことで、有機太陽電池(OPV:organic photovoltaic)がこの数年で重要な代替エネルギー技術として注目されています。新たに開発されたOPV用活性材料は非毒性で、費用効率が高く環境に優しいロール・ツー・ロール方式(roll-to-roll)で作製することが可能で、この製造工程におけるエネルギー消費量は、従来の太陽電池と比較して数桁少なく抑えられます。その結果、OPVシステムは他の太陽光技術と比較して、ペイバックタイムが大幅に短くなります1–3。OPVモジュールは薄くフレキシブルなラミネート構造で、標準的なガラスのラミネート加工をはじめ、様々な種類の基板や建築材料に容易に追加できます。さらに、OPVシステムの性能は、散乱光や高温などの屋外特有の条件下でも低下しません。活性材料を自在に調節して適応させることで、色、形状、透明度などの特別な要求を満たすモジュラーデザインの作製が可能になります。そのため、OPVは、プロダクトデザイナーや建築家からの機能性および意匠性に関する要求により多く応えることができます4。図1に示すように、最近、OPV技術を使用して>250 m2のフレキシブルな発電システムが作製され、半透明構造で平均約5%のエネルギー変換効率(PCE:power conversion efficiency)の性能が得られています4。
図12015年ミラノ国際博覧会のOPVソーラーツリー。A)溶液堆積法で作製された一連のOPVソーラーモジュール(画像の青い六角形)が接続されて250 m2を超えるネットワークを形成し、日中に電池を充電します。B)夜間は、ソーラーツリーの幹から発せられるOPVを電源とする光が、美しい陰影を作り出しています。
「モノのインターネット」(IoT:Internet of Things)と呼ばれる概念が急速に発展しており、これは他のデバイスを検出して通信するために普段使用する「もの」がインターネットに接続されることを指します。IoTは、生活の質にプラスの影響を与え、かつ莫大なビジネスチャンスをもたらす可能性を秘めているため、非常に強い関心を集めています。IoTの恩恵を早くから受けているのは、エンジニアリング、物流、交通、管理・監視の各分野です5。McKinseyによるIoTのビジネスインパクトに関する最近の分析では、その関連テクノロジーの市場が2025年までに11兆米ドルに拡大するだろうと結論づけています6。IoTが成長するための鍵となる技術的な前提条件の1つは、オフィス、健康支援、小売店舗向けの、高い費用効率で低エネルギーかつメンテナンス不要な電源を使用した、革新的なハードウェア・インフラを開発者が構築可能である点にあります。太陽電池(PV:photovoltaic)技術は、小型化、自立・分散型用途での低電力動作や携帯性の可能性があるため、IoT用エネルギーハーベスティングシステムとして特に注目されています。
こうした理由から、建築要素、IoT、ウェアラブルデバイス用のエネルギー源として、OPVに対する関心が高まっています。本レビューでは、有機太陽電池の材料とデバイス設計に関する最近の進歩をいくつか紹介し、低電力、低メンテナンスで環境に優しいハードウェア・ソリューションの大規模な展開を可能にするエネルギー源としてOPV技術を用いた例を示します。
有機太陽電池の設計
溶液プロセスによる有機太陽電池は、HeegerとSariciftciによって最初に報告されました7。その後、励起子が拡散しなければならない平均経路長を最短に抑えながらデバイス内の光吸収を最大化するため、バルクヘテロ接合(BHJ:bulk heterojunction)と呼ばれるコンセプトが登場しました8。芳香族系化合物の設計に必要な最新の合成技術やツールが利用できるようになり、多様な材料をBHJ太陽電池に使用することが可能です。実験室におけるBHJ太陽電池の効率は、過去20年間で約3%8から12%以上9に向上しました。その結果、現在、OPVは商業的に大きな関心を集めており、大型、小型双方の新しい用途に影響を及ぼすことが期待されています。
バルクヘテロ接合のコンセプト
BHJ太陽電池の作製では、複数の層を連続塗布または印刷し、各層が電荷の生成、分離、抽出のそれぞれの役割を果たすような多層構造を形成します。各層は可溶性成分を含むインクを用いて印刷されるため、下の層が溶出しないようにそれぞれの層を設計する必要があり、直交性(orthogonality)として知られています。BHJ太陽電池のデバイス構造は主に2種類あり、一般に従来型および逆構造型と呼ばれています(図2)。これらの構造では、通常は酸化インジウムスズ(ITO)またはITO-金属-ITO(IMI)などの透明導電体でガラスやプラスチック(PETまたはPEN)などの透明基板上にパターンを形成します。次に、正孔もしくは電子が選択的に通過するように設計された層を透明導電体表面に塗布します。中間層、ブロッキング層、または輸送層として知られるこれらの層には、有機化合物やポリマーから金属、金属酸化物にいたる幅広い種類の材料が使用されます。最も多用されているブロッキング層には、アノードを形成する電子ブロッキング層(EBL:electron blocking layer)としてPEDOT:PSSや酸化モリブデン、カソードを形成する正孔ブロッキング層(HBL:hole blocking layer)として酸化亜鉛、PFN、PEIEがあります。続くBHJが無極性芳香族溶媒に最も溶解するため、これら材料はBHJとの直交性を考慮し、極性溶媒に溶解するよう設計されます。
図2従来型および逆構造型BHJ太陽電池の一般的な構造
バルクヘテロ接合は2つの構成要素から形成され、ドナーとアクセプターは共通の溶媒系に相互に溶解します。インクの乾燥後、得られる膜にはドナーとアクセプターをそれぞれ多く含む相が形成され、ドナーとアクセプターのネットワークが互いに入り込んだバルクヘテロ接合となります。ドナー成分が正孔、アクセプター成分が電子を輸送するように設計されます。励起子は界面で自由電荷に分離するため、二つの相の接触面積が大きいことが望まれます。これらの材料は有機低分子またはポリマーのいずれかですが、最も一般的なシステムでは高分子ドナー材料と可溶性低分子アクセプター材料が使用されています。高性能BHJ太陽電池に使用されるポリマーには、化合物設計およびその多様性に関する制限はなく、その中でも優れた材料は、光を吸収して多種多様な色を生みだす特性に影響を与えるバンドギャップについて、広い範囲をカバーします。最後に、BHJの上に相補的なブロッキング層が塗布され、続いて半透明または透明の上部電極が作製されます。多くの場合、上部電極は銀、アルミニウム、またはPEDOT:PSSを単独または組み合わせて作製します。
有機太陽電池の材料開発
材料の設計
この20年間でOPV材料の分野は大幅に進歩しました8,9。この進歩は、OPVデバイスの動作原理の理解が深まり、より適合性の高い有機材料が新たに開発された結果です。BHJはドナー(正孔を輸送)とアクセプター(電子を輸送)の混合物であり(図3)、これらが互いに入れ込んだ構造をとることで、励起子を高効率で自由電荷に分離することが可能になります。通常、BHJはポリマー、オリゴマーまたは低分子、π共役系ドナーやフラーレンアクセプターで構成されます10。
図3ドナーポリマーのバンドギャップ(最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)の差)のコンセプトを用いたOPV動作原理(オリゴマーおよび低分子の場合も同様)
フラーレン誘導体とブレンドした際に、ドナーとして最適なポリマーは次の性質を示します。(1)-5.1 eV未満のHOMOエネルギー準位により、空気中での安定性の確保とポリマー:フラーレン/低分子化合物界面での効率的な電荷分離が可能となり、また高い開放電圧(VOC)が得られます。(2)-3.6~-4.0 eVの範囲のLUMOエネルギー準位により、励起子解離を促進する十分な駆動力が生成します。(3)吸収スペクトルの広い、比較的小さなバンドギャップ(1.2~1.9 eV)により、太陽光を可能な限り吸収して高い短絡電流密度(JSC)を得ることが可能です。さらに、一般的な非塩素系有機溶媒に溶解しやすく、処理が容易である必要があります。
ローバンドギャップ共役系材料の開発には、主に2つの方法が用いられます。1つの方法は、励起状態でキノイド構造の形成を促進するユニットを組み込む手法です。別の方法に、材料骨格に電子供与性と電子受容性の構造を交互に組み込む手法があります(図4)。通常、ポリマーのHOMOエネルギー準位は電子豊富なユニットに由来し、LUMOエネルギー準位は電子不足ユニットに由来します。この方法によって、HOMOとLUMOの両エネルギー準位や溶解性も精密に調節することができます。
図4ローバンドギャップOPV材料の設計原理
OPV材料は、多様な遷移金属を触媒とするクロスカップリング反応で合成されます。図5に示す3つの主な方法が、これら半導体ポリマーの合成に用いられています。
図5OPVポリマーに用いられる重合反応
Stille重合は、共役ポリマーの合成法として最も汎用性の高い方法です。この方法は非常に強力で、チオフェンや関連誘導体など既知の電子豊富な単量体の大部分に対して有効です。ただし、この方法の重大な欠点は、前駆体や廃棄物の安全な取扱いのための追加コストが必要な点にあります11。鈴木カップリング重合を用いる方法もありますが12、特にOPVで使用されるチオフェンや関連誘導体のような電子豊富な単量体では、鈴木反応の条件に適合する単量体や官能基が限られています。さらに最近では、直接的ヘテロアリール化重合が用いられています13。この場合、有機金属種の調製や精製が不要になるため、合成時間が短縮され、費用効率が向上します。ただし、直接的ヘテロアリール化重合に適したモノマーはまだ少数しか見つかっておらず、この合成法の可能性と制約を完全に理解するためにはより詳細な研究が必要です。最新の低分子化合物やオリゴマーの多くは、類似のカップリング法を用いて調製されています。
将来の展望
新たなドナー材料の設計に関する研究が精力的に行われています。図6は最も重要なドナーポリマーのいくつかを示したもので、材料設計における考え方の変化をよく表しています14-19。ポリマーの開発と同時に、低分子ドナー材料の開発も進められています。Bazanらは、低分子ドナー材料を用いたOPVで、7%を超える効率を達成しています20。
図6OPV用ドナー材料の例
最近まで、アクセプター材料には、ほぼすべてフラーレン誘導体が使用されてきました(図7)。この分野の多くの研究では、BHJ有機太陽電池のVOC向上と、材料の溶解性改善のため、HOMO-LUMOエネルギー準位の精密な調整に重点が置かれています21,22。
しかし、2014年以降、非フラーレンアクセプター(NFA:non-fullerene acceptor)を使用したOPVセルの性能が劇的に向上しており、その効率は2014年の5%23から2016年末には12%24にまで上昇しています。さらに、NFA材料の溶解性とエネルギー準位は従来のフラーレン系アクセプタ―よりも柔軟に調節できる可能性をもち、また強い光吸収体でもあるため、デバイス全体のEQE向上にも寄与します。このように、NFA材料には高い多様性があることがわかります25。NFAの研究はまだ非常に初期の段階にありますが、NFAの利用によって最高20%のエネルギー変換効率の実現が期待されています。
図7OPVアクセプター材料の例
有機太陽電池の応用
OPV技術は、独特の色や色調のセルの実現を可能とします(図8A)。また、OPVシステムは軽量で、印刷やレーザー構造化技術を組み込むことが容易な溶液堆積法で製造されるため、本質的に設計の自由度を高くすることができます(図8Bおよび8C)。低電力IoTの実現には、多くの用途で(1)カスタマイズされたデザインや形状、(2)高性能および長寿命、(3)低メンテナンスのエネルギーハーベスティングシステムおよびデバイスや場所の相互運用性、が要求されます。ここでは、都市型建築、屋内IoT、ウェアラブルデバイスの3つのOPVの応用について紹介します。
図8有機太陽電池を使ったデザインの例。A)PV-Fシリーズ(Merckが開発したOPV活性インク)では、OPVモジュール製造用の大規模ロール・ツー・ロール装置との適合性を維持しながら、色や色調を選択できます。B)OPVIUS印刷システムによって製造された半透明OPVモジュール上のカスタマイズされたデザイン。C)Elektree:OPVIUS GmbHによるOPVを電源に使用したランプ。葉の形状をしたOPVモジュールを接続して作製されています。
有機太陽電池アーバン・ファサード
OPV技術をファサード(facade:建物の正面をなす外観、デザイン)要素に統合する目的の1つは、建物のエネルギー消費量と二酸化炭素排出量をともに削減する点にあります。この世界的な傾向は、米国ではLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)プログラムのような制度で実証され、欧州連合(EU)では、2021年までに新しい建物のエネルギー収支をほぼゼロにするという目標が設定されています。そのため、エネルギー管理システムの導入やスマートな建物の外観など、建物のエネルギー性能に関して積極的な取り組みが必要とされています。欧州委員会が近年発表した、気候変動と再生可能エネルギー分野に関する包括議案には、「スマートさの指標(SI:smartness indicator)」に関する法案が含まれています。これは、建物が居住者と対話する能力や、電力網からのエネルギー消費量を建物自体で管理する能力を評価するための指標です26。
最新のスマート建築では、現在の建物に一般に見られる暖房や換気、空調システムを越えて拡がる協調システムを装備することが期待されています。照明、セキュリティー、安全性、エネルギー需要、パーソナライズ機能を管理するシステムが今後さらに一般的になるでしょう。都市環境でさまざまなIoTの応用を大規模展開するためにはエネルギーハーベスティング(ガラスまたは膜材)の使用が鍵になると考えられています。現在は多くのIoTが配電網または電池を電源としており、寿命に限界があり頻繁な保守が必要です。そのワイヤレスソリューションの例として、換気27や日よけ6用のセンサーおよび小型電動システムがあります。
従来型太陽光発電技術と比較すると、OPVはデザイナーや建築家の機能性と意匠性に関する要望により応えることができ、同時に建物と太陽電池との融合も可能とします。OPVモジュールは、すでに多くのガラス製ファサードや膜構造建築物に利用されています。一例として、アディスアベバ(エチオピア)にあるアフリカ連合の平和・安全保障ビルでは、建物全体でOPVを電源とする照明が使用され、熱負荷が大幅に抑制されています(図9A)。また、OPVを建築要素に取り入れた最近の例として、2016年にTimo Carl Architecture(カッセル、ドイツ)の指揮の下、OPVIUS GmbHとBGT Bischoff Glas Technik AGの共同開発があります(図9D)。この例では、ドイツのマールブルクにある既存の建物の外側に設置されたエレベーターシャフトのガラス製ファサードに、OPVモジュールをラミネート加工しています。発電された電力はシャフトの換気に用いられ、熱の蓄積を防ぐために役立てられています。これらガラス製ファサードはドイツの安全基準および建築法規に準拠することが実証されたことは、大きな成果だといえます。より最近の設置例に、ブラジルのSUNEW社が作製したOPVファサードがあります(図9C)。
図9A)アディスアベバのアフリカ連合平和・安全保障ビルに設置されている、Merck PV-FシリーズとOPVIUS技術により作製したアフリカ大陸の形をしたOPVセール(帆)。B)Lisicon PV-Fシリーズを使用してOPVIUS GmbHが作製したグレーのOPVモジュール(効率は50 W/m2)。写真はアメリカのシカゴで開催されたArchitecturesand Smart Materials Conferenceにて撮影。C)ブラジルのサンパウロにある建物にSUNEWが設置したOPVモジュール。D)ドイツのマールブルクにある屋外エレベーターの換気に使用されているOPVガラス製ファサード。
都市部では、スマートパーキングメーター、集中交通管理システム、アクティブディスプレイ、さらには自律走行車の管理などの普及とともに、新しい用途が生まれることが予想されます。OPVモジュールが軽量であるという利点を活用した興味深い方法の1つは、バス待合所などの設備にOPVモジュールを設置して「connected city(コネクティッド・シティ)」の発展を支援することです(図10A)。このような用途では、夜間照明用に電力を供給して利用者の安全性を向上させるだけでなく、大気環境や気温を計測するセンサー、リアルタイム交通監視用ハードウエア、電子機器用充電スタンドなどの装置が利用可能になります。
図10A)JCDecaux社がArmor社と協力して考案した、モバイル技術、電子ペーパー画面、ASCA©太陽電池フィルムを備えたオフグリッド型キオスクの概念設計。B)OPVを使用する複数のIoTアプリケーションを装備したコンセプトカーの内装イメージ図。C)太陽光の遮蔽、エネルギー効率の向上、IoTデバイスへの電力供給に使用可能なOPVを装備した自動車の屋根。コンセプトAにはARMOR ASCA OPVフィルム、コンセプトBとCにはOPVIUS GmbH Technologyが用いられています。
屋内IoT用有機太陽電池
屋外用途向けには基準太陽光スペクトル(AM1.5)が規定されていますが、屋内光の試験には、蛍光灯、LED、白熱電灯、窓越しの太陽光など、光源の種類が多いため基準がありません(図12A)28。家庭またはオフィス環境で最も多用されている光源は蛍光灯または白色LEDであるため、技術的試験でもこれら照明が一般的に用いられています。その照度は、通常200ルクス(居室環境)から1000ルクス(オフィス環境)の範囲で、1Sun条件の約100分の1から500分の1の光強度に相当します。屋内条件下で、ワイヤレスセンサーネットワークのノード(端末)のような低電力屋内デバイスのエネルギー消費量は数mWの範囲です29。シリコン系太陽電池のような確立された太陽電池技術は、このような弱い光でも十分な電力を供給できることがすでに明らかです。このような環境下での太陽電池技術の利用は、市販電池よりも環境に優しいだけでなく、低メンテナンスのデバイス製造の点でも有望です。その結果、この数年間に太陽電池技術を使用した屋内用製品がいくつか発売されており、その中にはOPVが用いられている製品もあります(図11)29,30。
図11A)フィリップス社製リモコン、B)ソーラーコンピューターマウス、C)曲面OPVモジュールを使用した.STOOL屋内照明。D)LITOGAMI社がArmor社と共同開発した最新の「Citigami」は、超軽量かつフレキシブルなASCA©太陽電池フィルムを唯一のエネルギー源として組み込んだ、詩的、娯楽、教育、装飾用カードです。
屋内IoT用途の場合、デザインの柔軟性や意匠性を向上し、重量の削減、そして最も重要な点である低照度下での効率改善によって、OPVは太陽電池システム固有の弱点に対処でき、システムの設置面積を抑えられます。最近の研究でCuttingらは、OPVデバイスへのLED光の照射により、屋外条件と比較して効率を最大350%向上できることを報告しています(図12B)。この結果は、同じ照射量の場合、シリコン系またはペロブスカイト型太陽電池の性能を大幅に上回っていることを示しています。この研究で使用されたOPVデバイスでは、無機系太陽電池よりも高い、20%PCE以上の高効率が得られています31。
図12A)異なる光源の規格化されたパワースペクトル:1 Sun AM1.5G(実線)、白熱電球2800 K(赤い四角形)、キセノンランプを使用したソーラシミュレータ(茶色のひし形)、CFL 6500 K(紫色の三角形)、LED(緑色のひし形)、およびPBTZ-stat-BDTT-8(ドナー材料)とPV-A600(アクセプター材料)のBHJを使用した有機太陽電池の規格化された吸収スペクトル(青い丸)。B)異なる太陽電池システムについて、白色LED照射下のエネルギー変換効率が屋外での効率に対してどれだけ増加したかを示したグラフ。グラフBのデータは文献31より許可を得て編集。
Leeらによる別の研究では、PCDTBTドナーポリマーとPCBM[70]アクセプター材料の組み合わせを使用したOPVシステムで、300ルクス未満の蛍光灯照射下でPCEが16%を超えることが示されています32。興味深いことに、このBHJ有機太陽電池は屋外条件下では最高性能を発揮しません。その理由としては、最高性能を示したシステムのバンドギャップが、使用した光源のスペクトルに最も適合していたためと説明されています32。このシステムでは300ルクス未満で13.9 μW/cm2の電力出力が得られ、同じ条件下でガリウムヒ素系および多結晶シリコン太陽電池についてTeranらが報告している12.5 μW/cm2および2.5 μW/cm2を上回ります33。また、De Rossiらの研究では、300ルクス未満の蛍光灯照射下でDSSCおよびa-Siからそれぞれ12.5 μW/cm2および9.1 μW/cm2の電力を得ています34。最終的に、Leeらは100 cm2のOPVモジュールで1 mW近くの電力出力が得られることを示し、また最近では、Lecheneら28がOPVとプリンテッドスーパーキャパシタを組み合わせて、低照度での光再充電可能なシステムを実証しています。
これらの研究から、OPVシステムでは低照度環境でも高い効率が既に達成されていることがわかります。他のPV技術とは対照的に、OPVシステムは、ドナー/アクセプター成分の分子設計、BHJ内のドナー/アクセプター比の変更、ある特定の形態が有利になるようなプロセスウィンドウの特定など、さまざまな方法で光吸収プロファイルを正確に制御することができます。OPV技術のこうした特性は、設計の自由度を高め、他の技術との融合を容易にすることから、将来の屋内IoT用途に最適です。
OPVのようなフレキシブルかつ高効率エネルギーハーベスティングシステムを利用することで、ネットワークに接続された温度計やワイヤレスセンサーなどをはじめとする複数の観点から、未来のスマートホームの実現に寄与することが期待されます。小売業界ではIoTの利用が在庫管理プロセスや販売分析に大変革をもたらす可能性があることを考慮に入れると、想定される用途はさらに広がります。この分野でIoTは、たとえば店舗のレイアウトや在庫のリアルタイム追跡などを含めた、バリューチェーン全体におけるゲームチェンジャーになると見られています。
ウェアラブルデバイス用有機太陽電池
有機材料の半導体特性がデバイス内で最初に実証されて以降、ウェアラブルシステムへの有機半導体技術の利用に関して大きな注目が集まっています。OPVの場合、KrebsらがOPVと衣服や布地の一体化に必要な一連の基本的な方法について最初に報告しました35。その後、多くの研究者によってOPVをウェアラブルデバイス表面と一体化させるための多様なアプローチが試みられており、新たな材料や堆積法、革新的スタック構造の開発に研究の重点が置かれています。
この目的で、O’ Connorらは皮膚の上に装着可能なポリイミド基板上にシステムを開発しました。彼らは、デバイスの可塑性を向上させるために、電荷輸送特性は低下するものの最適化されていないドナーポリマーをBHJに用い、また他の層に添加剤を追加しています36。これにより、OPVデバイスを繰り返し曲げて変形させても、ドナー材料としてP3HTを使用した標準的デバイス(図13A)と比較して機械的安定性(伸縮性)が大幅に向上することを示しました。Leeらが報告した別の方法では、導電性繊維で機能化された布地電極上の有機太陽電池が使用され、OPVを布に縫合することが可能で37、約2%のPCEが得られています。Gaudianaらは、紡織用繊維として使用可能な多層構造を有する画期的なOPVワイヤを開発しています38。この積層構造ワイヤのオプトエレクトロニクス特性は、カスタマイズされた同軸設計によって実現されており、標準的な平面構造の性能を上回ることが可能です。これら研究の大部分は、OPVと布地との一体化を試みていますが、実験室レベルの試作品に留まっています。この技術の実用化と大規模化を促進する取組みとして、メイン大学のAdvanced Structures and Composite Centerでは効率が7%のOPVワイヤを40,000フィート作製し、OPVワイヤから40平方フィートの織布を作りました(図13B)39。
図13 A)OPVセルの動作原理。B)OPVワイヤで構成される織布を示した写真。画像および写真はメイン大学のAdvanced Structures and Composite Centerより提供
こうした研究と並行して、ここ数年間でいくつかの電子ウェアラブル機器や携帯製品が商業用に開発されており、IoT技術の発展のための下地が整っています。これら技術の影響をうけると予想される市場は、医療(診断、健康モニタリング)、衣類、拡張現実(AR:augmented reality)、フィットネス、セキュリティーなどの分野です。図14B、C、D、Eに、テントやバックパック、防水ジャケットなどのアウトドア用品にOPVが使用されている商品例を示しました。図14Aは、OPVを電源としてBluetooth経由でスマートフォンに接続するスマートバッグで、メッセージや通話の受信状況を知らせ、電話を置き忘れた場合は警告音を発します。
図14A)有機太陽電池モジュールの発電システム(赤の四角形内)とNFC技術が融合した、Kolon Industries社のオーダーメードスマートバッグ。B)OPVを電源としたLED照明を備えたKolon Industriesのスターテント。C)OPVモジュール、LED、Bluetoothが一体化したKolon Industriesのスマートジャケット。D)OPVを冷却ファン用電源として用いたKolon Industriesのバックパック。E)ASCA©太陽電池フィルムを電源に使用した、Armor社の設計、製造によるソーラーバッグ。
まとめ
OPV技術は、エネルギーハーベスティングシステムを必要とする製品の実現を可能にする、多くの特性を持つことが明らかになっています。既存の代替電源と比較して、OPVは性能、環境適合性、デザインの柔軟性、形状の点で付加価値をもたらします。
これまでに、OPV技術の応用として、スマート建築、アーバン・ファサードおよび膜構造建築への設置や、屋内/低照度用製品、ウェアラブルデバイスや携帯機器への利用が始まっています。OPVシステムの改善が続くことで、小売業やオフィス、住宅、輸送などのより幅広い市場への導入が期待されています。
References
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