高性能プリンテッドエレクトロニクス用反応性銀インク
S. Brett Walker1, 2, Bok Yeop Ahn3, Jennifer A. Lewis1, 3, 4
1Materials Science and Engineering Department University of Illinois at Urbana-Champaign, Urbana, IL 61801, 2Electroninks Incorporated, Champaign, IL 61820, 3Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering, Harvard University, Cambridge, MA 02138, 4Harvard School of Engineering and Applied Science, Cambridge, MA 02138
はじめに
太陽電池1、ディスプレイ2、センサー3およびバイオメディカルデバイス4などのアプリケーションにおいて、導電性電極のパターニング技術の向上が求められています。中でも、導電性銀電極は高い導電性および耐酸化性を示すため、これらアプリケーションで広く利用されています。しかし、この銀粒子インクは、複雑な合成経路5、および比較的高いポリマー添加剤濃度6を必要とすることが多く、大部分の有機基板には適さないような高温でアニールしなければなりません。こうした制限を克服するため、容易に合成することが可能で、最適なアニール温度で高い導電性を示す銀前駆体インクが開発されています7-12。
銀前駆体インク
これまで3つのタイプの銀前駆体インクが報告されています。一つは、対イオンまたは熱分解性カルバミン酸塩複合体の脱カルボキシル化に基づいており、バルク銀に対して1桁以内の違いの導電率が得られます8。もう一つのタイプは、限界温度を超えた温度での、還元剤の熱活性化に基づいています9。これら両インクとも、十分な導電性を達成するためには、120℃を上回るアニール温度を必要とします。最近、我々は反応性銀インクと呼ばれる新しいタイプのインクを開発しました10。このインクでは、酢酸銀とギ酸およびアンモニアを用いた、改良したトレンス試薬の反応を利用しています。90℃という低いアニール温度で高い導電性を示す半面、化学的性質に弱点があり、アニールの間に著しい気体発生、すなわち泡形成が見られます。また、その低い粘度(2 mPa·s)および高い表面張力(> 60 mN/m)といった点も、インクジェット印刷での利用を極めて困難にしています。
インクジェット印刷用として設計されるインクは、厳しい物理特性要件を満たさなければなりません。確実に噴射させるためには、オーネゾルゲ(Oh)数(粘性力を慣性力および表面張力と関連づける無次元数)が特定の値の範囲に収まっていなければなりません。Oh数は次式で表されます。
ここで、We はウェーバー数、Reはレイノルズ数です11。一般的に、安定な液滴形成に必要な値は0.1~1と考えられています。さらにDerby11は、液滴形成に必要な最小限の速度 (υmin) が次式で得られることを報告しています。
ここで、γ、ρ、dnは、それぞれ表面張力、密度、ノズル直径です。典型的なインクジェット印刷機の励起電圧(< 40 V)で、初期の銀反応性インクを用いてこの最小限の液滴速度を得ることは、その低い粘度および高い表面張力のために困難でした。
改良型反応性銀インク
本稿では、噴出最適化のために第一級アミンを用いた改良型反応性銀インク(販売を終了しております。ご了承ください。)について報告します。合成手順は以下のとおりです。まず酢酸銀を、第一級アミン、プロピレングリコールおよび他の湿潤剤からなる水溶液に溶解します。氷冷した水浴中で、得られた溶液にギ酸(もしくはギ酸アンモニウム)を加え、孔径0.2 μmのフィルタ付きシリンジで濾過します。図1Aに合成後のインク(銀ナノ粒子生成前)を示します。第一級アミンを用いずに得られる無色透明なインクとは異なり、改良型インクにはAg-アミン複合体が存在するため(図1B)、わずかに黄色を呈します。紫外可視スペクトルでは400~425 nm 域での吸収が見られることから、銀と第一級アミンがギ酸と反応していることを示しています(図1C)。この改良型インクは室温で比較的安定であり、50~60℃に加熱されるまで、銀粒子が急速に形成されることはありません。
図1Dは、80℃、100℃および120℃で加熱された改良型インクの、アニール時間に応じた熱重量分析(TGA:thermogravimetric analysis )データを表しています。これらの曲線は、改良型インクが約13 wt.%の銀を含むことを示しています。特に120℃では、揮発性物質は数分以内に完全に除去され、アニールの間に泡形成は見られません。
図1A)13 wt.%の固体からなる改良型反応性銀インクの写真。B)改良型インクの主な成分。C)改良型インクの紫外可視スペクトル。D)アニール時間に応じた各温度で測定した改良型インクの熱重量分析。
改良型反応性銀インクの粘度は10 mPa·sであり、初期のインクと比較して5倍に増加しています10 。さらに、より大きな側鎖を有するアルキルアミンを用いることで、改良型インクの粘度および表面張力をそれぞれ5~50 mPa·s、20~50 mN/mの幅広い範囲で系統的に調整することができます。そのため、インクジェットやスピンコート、エアロゾル、electrohydrodynamic jet、ロール to ロール印刷をはじめとするさまざまなパターニング技術に対応した改良型反応性銀インクの調製が可能です。
10 pLカートリッジを使用してダイマティックス・マテリアル・プリンター(Fuji Dimatix)でインクジェット印刷した際の、ノズルからの液滴形成の時系列変化を図2Aに示しました。パターン忠実度を減少させるサテライト滴(satellite droplet)の形成を最小限に抑えるように、波形および励起電圧を選択します。図2Bおよび図C は、酢酸セルロース基板に80 μmから1.5 cmまでの様々な線幅でパターニングされた銀電極の、光学顕微鏡画像および走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示しています。適切なアルキルアミン配位子を選択することにより、改良型反応性銀インクは表面張力の減少、粘着性の増加を示し、ポリマー添加剤を使用しなくても泡はごくわずかしか発生しません。
図2A)10 pLカートリッジから形成された液滴の画像。液滴の撮影間隔は10 μ秒。B)各ラインを100℃、2分間アニールすることで得られた、酢酸セルロース上に形成された導電性パターンの画像。C)B)で生成した最も細いラインの顕微鏡写真(上:70 μm、中:110 μm、下:180 μm)。
印刷の層数(回数)に応じた微細構造の変化を図3Aに示しました。一回の印刷で作製される層の特徴は、多孔性、導電性(バルク銀の約10%)および半透明性です。導電率は、一層あたり約20%増加するため、5層印刷でバルクとほぼ同じ導電率を示します(図3B)。一方、層の高さは積層数が増えても(最大5層)、比較的一定の値を示します。SEM画像では、追加のインクが堆積するにつれて、過剰な銀が一定領域の下層にある孔を埋めるため、パターニングされた電極は高密度になります。5層が堆積した後、膜厚は約350 nmまで増加します。そのため、パターニングされた電極中の空隙が満たされた後は、層の高さは増加していくのみです。これとは対照的に、銀ナノ粒子インクから生成されるプリンテッド電極の場合、積層しても多孔性のままです。
図3A)異なる積層数の銀微細構造のSEM 画像。B)堆積層の数と、電気抵抗(三角)および堆積層の高さ(四角)の関係
単層の銀電極はかなりの導電性を有するため、ライン間隔が0.5 mmの単層格子パターン(25 mm × 25 mm、線幅80 μm)をポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に印刷しました(図4Aおよび4B)。図4Aは、導電性単層格子の高い透明度を示しており、印刷された格子を通して下の文字を鮮明に見ることができます。図4C は、ライン間隔がそれぞれ0.5、1.0および2.0 mmの堆積した格子パターンの透過率を表しており、2 mmの格子間隔で90%を超える透過率が得られています12。ライン幅はインク一滴に相当し、水平および垂直方向にパターニングされました。このことは、湿式の場合と同様に改良型反応性銀インクが確実に噴出され、低コストのプラスチック基板上への正確なパターン忠実性が維持されたことを示しています。
図4A)PET基板上にライン間隔0.5 mm、線幅80 μmでインクジェット印刷された透明導電性正方格子(25 mm × 25 mm)の光学顕微鏡画像、およびB)SEM画像。C)導電性格子の格子間隔ごとの紫外可視透過率。
まとめ
適切なアルキルアミン配位子を用いて反応性銀インクを改良することで、適度なアニール温度(< 120℃)で電気的特性を損なうことなく、インクジェット印刷によるパターニングをかなり改善できることが示されました。粘度および表面張力を幅広い範囲で調整することで、多くのパターニング技術を利用することができるため、この改良型反応性銀インクはプリンテッドエレクトロニクスに新たな道を開くものと期待されます。
謝辞
本研究は、米国海軍研究所のMulti-University Research Initiative(MURIAward N00014-11-1-0690)の支援を受けて行われました。材料の微量分析は、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のFrederick Seitz MRLセンターにて行いました。
参考文献
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