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はじめに

蛍光寿命(FLT:Fluorescence lifetime)とは、蛍光色素が励起されてから光子を放出して基底状態に戻るまでの時間です。蛍光寿命(FLT)は、蛍光色素の種類によって数ピコ秒から数百ナノ秒とさまざまです。

蛍光色素の寿命とは、励起状態の色素分子の集団(N個)が、蛍光放射または非放射性のプロセスを介してエネルギーを放出し、N/e(36.8%)まで指数関数的に減衰するまでの時間です。

蛍光寿命は、その蛍光色素に固有の特性です。蛍光寿命(FLT)は、蛍光色素の濃度、サンプルによる吸光、サンプルの厚さ、測定方法、蛍光強度、光褪色および/または励起強度の影響を受けませんが、温度や極性、蛍光クエンチャーの存在などの外的要因に影響されます。蛍光寿命は、蛍光色素の構造に依存する内的要因に対して高い感受性を示します。1

蛍光色素の蛍光寿命測定法

蛍光寿命は、周波数領域または時間領域による方法で測定されます。

時間領域法では、サンプル(キュベット、細胞または組織)に短いパルスの光を照射し、発光強度の時間推移を測定します。蛍光寿命(FLT)は、蛍光減衰曲線の傾きから算出されます。複数の蛍光検出法が寿命測定に利用されており、そのひとつに時間相関単一光子計数法(TCSPC)があります。TCSPCは、データ収集が容易で、高度に定量的な光子計数が可能です。

周波数領域法では、高周波数の入射光を正弦波状に変調します。この方法では、発生する蛍光の周波数は入射光と同じですが、位相の遅れが生じ、励起光と比べて振幅が変化(復調)します。

蛍光強度測定法との比較における蛍光寿命測定法の利点2

  1. 蛍光寿命測定法では、多くの被験物質の定量測定においてwavelength-ratiometric(波長比率測定)プローブが不要です。
  2. 蛍光寿命測定法では、蛍光スペクトルがシフトするプローブを用いることにより、感度が高い被験物質の濃度範囲が広がります。
  3. 蛍光寿命測定法は、直接的なプローブが存在しない被験物質にも利用できます。これらの被験物質には、グルコース、抗原あるいは蛍光エネルギー移動伝達メカニズムに基づく任意の親和性分析またはイムノアッセイが含まれます。

応用例

蛍光寿命分析:

蛍光寿命は、複数のバイオアッセイで用いられる強固なパラメータの1つです。従来の吸光、発光、蛍光強度などの測定法は蛍光寿命測定法に取って代わられる可能性があります。3蛍光色素の物理化学的環境のあらゆる変化により蛍光寿命は変化します。蛍光寿命に基づく分析法の開発では、さまざまなメカニズムが利用されています。例えば、シンプルな結合アッセイでは、2つのコンポーネント(そのうちの1つは蛍光標識コンポーネント)の結合によりFLTに変化をもたらします。また別のメカニズムでは、有限の弱い蛍光を有する分子種が消光された状態で過剰に存在するクエンチャー放出型アッセイです。(酵素反応または相補的DNAへの結合により)蛍光物質が放出されると、システムの蛍光寿命が変化します。蛍光寿命(FLT)は、エネルギー伝達効率を測定するFRET(Förster 共鳴エネルギー移動)アッセイと組み合わせることも可能です。

蛍光寿命センシング:

この技術は、プローブの蛍光寿命または減衰時間の変化に基づいています。位相変調により、ナノ秒(ns)単位で減衰時間を測定できます。この技術は、pH、Ca2+、K+、グルコース、その他の代謝物のセンシングにおいて広く用いられています。近年、遠赤外領域に励起および発光スペクトルを有する光プローブを用いることにより、組織やその他の散乱媒質内での蛍光寿命に基づくセンシング技術の応用において進展がありました。4,5

蛍光寿命イメージング(FLI):

この技術は比較的新しく、画像上で1ピクセルごとに蛍光減衰時間の空間分布を同時測定します。蛍光色素の蛍光寿命が、その濃度ではなく、分子環境に依存することに基づいています。また、蛍光顕微鏡法への応用が可能ですが、プローブ濃度を局所的にコントロールすることは不可能です。蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)は、分子環境パラメータ、Förster共鳴エネルギー移動(FRET)によるタンパク質相互作用、自己蛍光による細胞や組織の代謝状態の測定において用いられます。分子環境パラメータは、蛍光クエンチングまたは蛍光色素の構造変化によりもたらされる蛍光寿命の変化から測定可能です。蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)は、組織表面のスキャン、組織型のマッピング、光線力学的療法、DNAチップ解析、皮膚イメージングなどの生物学的アプリケーションで用いることが可能です。6

弱い発光物質では蛍光寿命は短いです。一方、寿命の長い蛍光色素では光子の回転速度は遅くなります。これらのパラメータは、感度が限定的で、長い照射時間および検出時間が必要なため、蛍光寿命イメージングではそれほど有用ではありません。

蛍光寿命イメージングで一般に用いられる蛍光分子およびプローブを分類し以下の表に示します。

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参考文献

1.
Berezin MY, Achilefu S. 2010. Fluorescence Lifetime Measurements and Biological Imaging. Chem. Rev.. 110(5):2641-2684. https://doi.org/10.1021/cr900343z
2.
Szmacinski H, Lakowicz JR. 1995. Fluorescence lifetime-based sensing and imaging. Sensors and Actuators B: Chemical. 29(1-3):16-24. https://doi.org/10.1016/0925-4005(95)01658-9
3.
Doering K, Meder G, Hinnenberger M, Woelcke J, Mayr LM, Hassiepen U. 2009. A Fluorescence Lifetime-Based Assay for Protease Inhibitor Profiling on Human Kallikrein 7. J Biomol Screen. 14(1):1-9. https://doi.org/10.1177/1087057108327328
4.
Lakowicz JR. 1994. Topics in Fluorescence Spectroscopy. https://doi.org/10.1007/b112911
5.
Hutchinson C, Lakowicz J, Sevick-Muraca E. 1995. Fluorescence lifetime-based sensing in tissues: a computational study. Biophysical Journal. 68(4):1574-1582. https://doi.org/10.1016/s0006-3495(95)80330-9
6.
Clegg RM, Holub O, Gohlke C. 2003. [22] Fluorescence lifetime-resolved imaging: Measuring lifetimes in an image.509-542. https://doi.org/10.1016/s0076-6879(03)60126-6
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