磁気ビーズベースのマルチプレックスパネルによる心血管疾患バイオマーカーの効率的な測定
心血管疾患(CVD)、特にアテローム動脈硬化性心血管疾患は、世界的な死亡の主要原因となっています。心血管疾患の発症、継続および進行には炎症経路が重要な役割を果たしており、冠動脈疾患では、炎症バイオマーカー(急性期タンパク質など)と予後の間に高い相関が認められています。マルチプレックスパネルが、これらの炎症およびCVDバイオマーカーの測定を通じて、どのようにCVD研究を促進させるかをご覧ください。
心血管疾患バイオマーカーとは?
心血管疾患(CVD)は、罹患および死亡の主要原因の一つです。CVDには心臓、動脈、静脈に影響を及ぼすあらゆる疾患が含まれますが、より一般的にはアテローム性動脈硬化症を指します。また、CVDは、メタボリックシンドロームと同時に発症することもあります。
心血管疾患のバイオマーカーには、フィブリノゲン、CRP、ミエロペルオキシダーゼなどがあります。早期診断・早期治療の実現のために、CVDバイオマーカー測定に対する関心が過去10年間で著しく高まっています。CVDバイオマーカー探索研究のほとんどは、動脈プラークに焦点を当てています。動脈プラークの形成は慢性かつ進行性であり、可溶性マーカーで測定でき、CVD症例の大部分を占めることから、合理的なアプローチと考えられます。アテローム性動脈硬化CVDは、動脈壁の慢性的な炎症がプラーク形成に至り、虚血カスケードに沿って進行します。
表1は、CVDのさまざまなステージに関連するCVDバイオマーカーを説明したものです。多くのアナライトが複数のステージに関連しています。
CVDマルチプレックスアッセイ
MILLIPLEX® CVDマルチプレックスアッセイにより、血清/血漿または細胞/組織培養サンプルの少量のサンプルで、複数のバイオマーカーを同時に解析することができます。MILLIPLEX® CVDマルチプレックスアッセイは、ヒトのサンプルだけでなく、マウスやラットのCVDモデルのサンプルにも使用できます。
MILLIPLEX®イムノアッセイは、磁気ビーズベースのLuminex® xMAP®テクノロジーを採用しており、Luminex® システムを用いて測定できます。
血清・血漿サンプルのCVDバイオマーカー解析例
これらのMILLIPLEX®マルチプレックスアッセイの感度、ダイナミックレンジ、ばらつきを検証した後、CVD患者とそれ以外の患者の血清および血漿サンプルを検査したところ、多くのCVDバイオマーカーがCVD患者で有意に上昇しており、CVD研究におけるアッセイパネルの有用性を示しました。
材料と方法
サンプル
心血管疾患と診断された救急患者とそれ以外の救急患者から血清および血漿サンプルを採取しました。業者を通じて同じ病院のCVD陰性患者とCVD陽性患者から、20サンプルになるようそれぞれのサンプルを入手しました。各サンプルについて、基本的な人口統計データ(年齢、性別、人種)が提供されました(表2)。慢性心不全、冠動脈疾患、慢性閉塞性肺疾患、高血圧などの特定疾患も、入手可能であれば提供されました。
CVDバイオマーカー解析
すべての80サンプルを4つのMILLIPLEX® Human Cardiovascular Disease Magnetic Bead Panelを用いて解析しました。マルチプレックスアッセイは、アナライト特異的なキャプチャ抗体結合ビーズとビオチン化検出抗体を用いた代表的なサンドイッチアッセイフォーマットを用いています。アッセイは、既知濃度の精製タンパク質スタンダードを用いて検証されました。
各パネルは、以下に示すように複数のCVDバイオマーカーを同時に測定します。
- Panel 1(原液の血清および血漿サンプル用):BNP, NT proBNP, CK-MB, CXCL6, CXCL16, ESM-1, FABP3, FABP4, PlGF, LIGHT, Oncostatin M, and Troponin I
- Panel 2(100倍希釈の血清および血漿サンプル用):ADAMTS13, D-dimer, GDF15, Myoglobin, sICAM-1, MPO, sP-Selectin, Lipocalin-2/NGAL, sVCAM-1, and SAA
- Panel 3(40,000倍希釈の血清および血漿サンプル用):A2M, CRP, Fetuin A, AGP, Fibrinogen, sL-Selectin, SAP, Haptoglobin, PF4/CXCL4, and Adipsin
- Panel 4(原液の血清および血漿サンプル用): sE-Selectin, Follistatin, sPECAM-1, Pentraxin-3, Tissue Factor, Thrombomodulin, and Troponin T
アッセイはそれぞれのプロトコルに従って実施しました。96ウェルアッセイプレートは、1ウェルあたり200μLのAssay Bufferで洗浄しました。各ウェルに25μLのスタンダード/コントロールまたはバッファーを添加し、さらに25μLのSerum Matrix(必要な場合)またはサンプルを添加しました。そして、各ウェルに25μLのビーズを添加しました。プレートを4℃で一晩振とうしながらインキュベートしました。アッセイプレートは、Wash Bufferで3回洗浄しました。50μLの検出抗体を各ウェルに添加し、室温(RT)で1時間インキュベートしました。50μLのstreptavidin-phycoerythrin(SAPE)を各ウェルに添加した後、プレートを室温で30分間インキュベートしました。その後、アッセイプレートをWash Bufferで3回洗浄し、シース液でビーズを再懸濁しました。すべてのプレートは、Luminex® 200™システムを用いて解析しました。
解析結果
統計検定にはMiniTab® 16.1.0 ソフトウェアを使用しました。サンプルサイズが小さく、データが非正規分布であるため、連続変数の解析にはMann-Whitney U検定を、カテゴリー変数にはFisherのExact検定を使用しました。p<0.05は、統計的有意として記しました。
結果
各マルチプレックスアッセイパネルの標準曲線は、約3オーダーのダイナミックレンジを示しました。ほとんどのアナライトの感度はpg/mLのレンジで、アッセイ内(intra-assay)およびアッセイ間(inter-assay)の変動係数はそれぞれ<10%および<20%でした。
他の市販アッセイとの比較
MILLIPLEX® CVDパネルを用いて測定した特定のアナライトの濃度を、ELISA やLuminex® ビーズベースアッセイなど、他の市販のアッセイで測定した濃度と比較したものを図1にプロットしました。相関性を評価するために、各データセットに線形回帰線を当てはめました。すべてのケースでR値は0.8を超え、これらのマルチプレックスアッセイパネルと市販のバイオマーカー定量アッセイとの間に良好な相関があることが示されました。
図1.MILLIPLEX® CVDパネルで測定した特定のアナライトの濃度と他の市販アッセイで測定した濃度との比較
CVDアナライトマルチプレックス解析
各パネルからCVD患者において有意な上昇を示したアナライトを選択し、CVD群と非CVD群の個々のサンプルにおけるアナライト濃度をプロットし、濃度範囲を視覚化しました。Panel 1では、バイオマーカーESM-1、FABP3、PlGF、Troponin Iが、非CVD患者と比較してCVD患者で上昇を示しました(図2)。
図2.MILLIPLEX® Human CVD Magnetic Bead Panel 1を用いた血漿中の特定アナライトの個々のサンプル値のプロット;すべてのアナライトについてp<0.05。<0.05 for all analytes.
Panel 2のバイオマーカーのうち、ADAMTS13とGDF-15は、多くのCVD患者で最も顕著な上昇を示しました(図3)。
図3.MILLIPLEX® Human CVD Magnetic Bead Panel 2を用いた血漿中の特定アナライトの個々のサンプル値のプロット;D-DIMERを除くすべてのアナライトについてp<0.05。<0.05 for all analytes except for D-dimer.
Panel 3を用いて解析したCVD血漿サンプルではC-Related ProteinとAdipsinが有意に上昇し(図4)、Panel 4を用いて解析したCVD血漿サンプルではFollistatin、PECAM-1、PTX3がいずれも上昇しました(図5)。
図4.MILLIPLEX® Human CVD Magnetic Bead Panel 3を用いた血漿中の特定アナライトの個々のサンプル値のプロット;AGPを除くすべてのアナライトについてp<0.05。<0.05 for all analytes except AGP.
図5.MILLIPLEX® Human CVD Magnetic Bead Panel 4を用いた血漿中の特定アナライトの個々のサンプル値のプロット;すべてのアナライトについてp<0.05。<0.05 for all analytes.
まとめ
CVDは多数の臓器とシステムが関わる非常に複雑な疾患であるため、CVDの診断と治療のための研究には、マルチプレックスバイオマーカー解析が不可欠です。この磁気ビーズベースのマルチプレックスアッセイパネルは、血清、血漿、組織培養サンプル中の39種類のCVDバイオマーカーを高感度で正確に、再現性良く、同時測定することが可能です。他の市販のアッセイキットと比較して、これらの新しいマルチプレックスパネルは良好な相関を示します。これらのヒトCVDバイオマーカーアッセイパネルを用いることで、CVD患者サンプルでは、非CVD患者サンプルと比較して、ESM-1、FABP3、PlGF、Troponin I、ADAMTS13、GDF-15、Myoglobin、CRP、PECAM-1、PTX3など多くのCVDバイオマーカーのレベルが著しく上昇することが示されました。
従来のバイオマーカー定量法と比較して、磁気ビーズベースのアッセイは、使いやすさ、スループットおよびハンズフリー操作が向上しているため、これらのMILLIPLEX® マルチプレックスパネルはCVD研究のバイオマーカー探索の効率を高める可能性があります。
関連製品
マルチプレックスCVDパネル
この研究で使用されたMILLIPLEX®マルチプレックスCVDパネルとその他のパネルをご紹介します。MILLIPLEX® CVD Panel 3は、急性期タンパク質を測定することができます。急性期タンパク質は、炎症性サイトカインに応答して肝臓中で産生されます。これらのタンパク質の血清濃度は炎症に応答して大きく変化し、低度の炎症と心血管疾患との相関が認められています。
研究目的での使用に限定されます。診断目的では使用しないでください。
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