遷移金属触媒
遷移金属は、他の分子との容易な電子の授受を可能にする不完全に充填されたd軌道を有するため、優れた触媒を生み出します。初期の遷移金属触媒反応には、現在も使用されているものもあります。遷移金属には触媒における長い歴史がありますが、新しい遷移金属触媒の発見と触媒プロセスの効率化が活発な研究分野であることに変わりはありません。
さらに、支持配位子の開発に伴い、遷移金属はさまざまな合成および非合成反応に有用なツールとして進化してきました。遷移金属触媒を使用した反応の例には、Stille反応、Buchwald-Hartwig反応、根岸反応、Heck反応、宮浦-鈴木反応、薗頭反応などがあります。
有機または有機金属触媒の要件にかかわらず、私たちはまさにお客様が必要としている遷移金属触媒を提供しています。
バナジウム触媒
バナジウムは鉄鋼の生産を改善する添加剤として用いられてきましたが、現在は触媒としての用途が2番目に大きくなっています。バナジウム触媒は、過酸化物を効率的に活性化し、臭化物、硫化物、アルケンなどの基質を選択的に酸化します。バナジウム触媒は、酸素原子を効率的に基質に添加することから、ラージスケールの反応で価値のある酸化分子を高度に選択的に取得するために使用されます。また、オレフィン重合でも効率的な触媒として機能します。酸化バナジウムは、自動車の排気ガスの浄化や粗製油の脱硫に利用されています。また、水素やアルキルヒドロペルオキシドなど、環境にやさしい酸化物の利用により、産業レベルでのバナジウム触媒の用途が著しく増加しています。
鉄触媒
鉄と鉄化合物は、試薬や触媒として広く利用されています。例えば、塩化鉄や臭化鉄は、長年Lewis酸鉄触媒として従来の芳香族求電子置換反応に用いられています。有機配位子との鉄錯体は、特に注目されており、反応の進行役を務める環境にやさしい鉄触媒となる可能性があります。このことは、鉄触媒がアンモニアボランの脱水素反応の研究にきわめて重要な役割を果たすことを示しています。
コバルト触媒
コバルト触媒は、経済的で環境にやさしいクロスカップリング反応用触媒として注目を集めてきました。コバルト触媒は活性が高く、医薬品、天然物、新規化合物の効率的で選択性の高い合成に幅広く活用されています。これらの触媒は、各種炭素-炭素結合形成反応に高い反応性を示します。触媒としてのコバルト塩は、金属触媒によるクロスカップリング反応にもっともよく使用されている触媒のパラジウムやニッケルに比べ、良好な官能基耐性と高い化学選択性を示し、穏やかな反応条件を要します。
ニッケル触媒
ニッケル触媒は、炭素-炭素クロスカップリング反応から、Raneyニッケルによる電子豊富な炭素結合の還元まで、多くの合成反応において中心的な役割を果たしています。ニッケル触媒の酸化の程度はさまざまで、0価ニッケル、2価ニッケル、3価ニッケル、4価ニッケルといった触媒があります。購入可能なニッケル触媒には、アルミニウムニッケル(AlNi)合金、アンモニウムニッケル水和物、ニッケルCOD、ハロゲン化ニッケル(塩化ニッケル、臭化ニッケル、フッ化ニッケル、ヨウ化ニッケル)、シクロペンタジエニルニッケル、金属ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、Raneyニッケルがあります。これらの製品はW.R. Grace and Company社より提供されています。
銅触媒
銅触媒 は穏やかな反応条件で使用でき、高収率を示しますが、反応速度が遅く高温を必要とします。遷移金属触媒を用いる炭素-炭素結合や炭素-ヘテロ原子結合形成反応のうち、銅触媒は、Ullmann反応、Diels–Alder反応、環拡大反応、Castro–Stevensカップリング反応、Kharasch–Sosnovsky反応に用いられています。また、MeldalとSharplessが独自に開発したHuisgen 1,3-双極子環化付加反応の変法にも銅(I)触媒が用いられています。私たちは、あらゆる銅触媒のニーズに対応するために、効率的な銅触媒やプレ触媒のほか、銅を含む金属有機構造体(MOF)製品を提供しています。
亜鉛触媒
亜鉛触媒は、合成化学や有機合成に幅広く応用されています。塩化亜鉛触媒は、中等度の強度のLewis酸触媒として作用し、アリールヒドラゾンをインドールに変換するFischerインドール合成やアレーンと塩化アシルからモノアルキル化化合物を生成するFriedel–Craftsアシル化反応を触媒します。塩化亜鉛触媒のほか、酸化亜鉛触媒も各種触媒反応に有用です。また、立体特異的および位置選択的反応を触媒するさまざまなハロゲン化亜鉛などの亜鉛触媒を提供しています。亜鉛化合物は、触媒としてだけでなく、化学発光性の量子ドットやナノマテリアルとして材料科学分野での用途もあります。根岸カップリング反応に用いられる有機亜鉛試薬を合成する際の出発物質としても用いられています。
ジルコニウム触媒
ノーベル化学賞を受賞した根岸英一が開発したジルコニウム触媒を用いる不斉カルボアルミ化(ZACA)反応は、おそらく最もよく知られたジルコニウム触媒の使用例の一つです。ZACA反応は、不斉bis-(インデニル)ジルコニウム触媒下で有機アルミニウム試薬を用いてアルケンを不斉官能基化する手法です。この他、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)も有名なジルコニウム触媒です。不均一系反応におけるジルコニア触媒の用途が急速に増加しています。例えば、酸化ニトリルの分解反応やカルボン酸からアルデヒドへの還元反応、2級アルコールから末端アルケンへの脱水反応、一酸化炭素からイソブタンへの水素化反応などの用途があります。
ルテニウム触媒
ルテニウム触媒
適切なルテニウム触媒を用いることで、環境にやさしく入手しやすい酸化剤と各種官能基の選択的酸化反応を実現できます。ルテニウム触媒は、合成化学においてアルケンの不斉エポキシ化反応、酸素分子種の生成、オレフィンのジヒドロキシル化反応、アルコールの酸化的脱水素反応などの酸化反応における選択的触媒として強力なツールとなります。
オレフィンメタセシス反応の触媒としてもっとも有名なGrubbs触媒として、メタセシス反応にも広く用いられています。Grubbs触媒はさまざまな官能基に対して耐性が高く、空気中や多量の溶媒中で高い安定性を示すことから、汎用されています。
ロジウム触媒
ロジウム触媒は炭素-水素(C-H)結合の活性化に適したプロモーターであり、有望かつ魅力的な触媒として浮上しています。ロジウム触媒は、触媒的脱水素化クロスカップリング反応に用いて簡潔にC-C結合を形成することから関心が高まっています。ほとんどの事例でパラジウム触媒が選ばれましたが、ロジウム触媒も活性化に適したプロモーターです。さらに、ロジウムは重要な有機構造の合成経路として、アリール-アリール、アリール-アルケン、アルケン-アルケンなどの重要なカップリングを可能にします。
パラジウム触媒
反応条件(温度、溶媒、配位子、塩基、その他の添加剤)の最適化が可能であるという点で、パラジウム触媒は有機化学合成におけるきわめて汎用性の高いツールとなっています。さらに、パラジウム触媒は、さまざまな官能基に対して耐性がきわめて高く、優れた立体および位置特異性を示すことから、保護基を必要としません。パラジウムは、特にHeck反応、鈴木-宮浦反応、Stille反応、檜山反応、薗頭反応、根岸反応、Buchwald-Hartwigアミノ化反応などの炭素結合(主にC-C、C-O、C-N、およびC-F結合)形成反応での使用で知られている、汎用性の高い触媒を形成します。
Lindlar触媒(あるいはLindlarのパラジウム)などの不均一系のパラジウム触媒は、選択的水素化反応を効率的に促進します。これには、三重結合からcis-二重結合への変換やポリオレフィンの一水素化、アジドからアミンへの水素化などが含まれます。
私たちは、汎用性の高い均一系および不均一系のパラジウム触媒を豊富に取り揃えています。精製や反応後クリーンアップにおける利便性をさらに高めるため、さまざまな結合形成反応や水素化反応、還元反応に適した各種担持パラジウム触媒およびリサイクル可能な固定化触媒Pd Encat™も提供しています。
銀触媒
有機合成に用いる遷移金属触媒として高品質のさまざまな銀触媒も取り揃えています。銀触媒は、銀錯体の強い酸化力と酸化電位の高さから広く利用されています。また、銀活性化剤としても利用され、金などの他の触媒の電気陰性度を高めます。有機合成や無機合成には、銀化合物の化学量論的な酸化電位が有用です。均一系の銀触媒を用いた有機合成では、立体および位置選択性の高い反応を触媒する銀のユニークな酸化還元特性が強調されています。銀触媒は、分子間および分子内結合形成の両方を効率的に触媒します。銀触媒による不均一系の反応の例として、窒素酸化物の還元反応や一酸化炭素から二酸化炭素への酸化反応が挙げられます。銀(I)塩は、銀触媒による求核付加反応や有機合成にも用いられています。
白金触媒
Adam触媒とも呼ばれる二酸化白金など、さまざまな官能基の水素化反応や有機合成における脱水素反応に用いられる効率性に優れた白金触媒を提供しています。反応中に白金黒、すなわち活性白金触媒が形成されます。白金触媒をアルキンに適用すると、syn付加が生じてcis-アルケンが形成されます。白金触媒によるもっとも重要な反応は、ニトロ化合物からアミンへ、ケトンからアルコールへの水素化反応です。特に、ニトロ基の存在下でAdam触媒を用いると、ニトロ基を還元することなくアルケンを還元できます。白金触媒は、ニトロ化合物のアミンへの還元反応の際に水素化分解を最小限に抑えるため、パラジウム触媒よりも好まれています。この白金触媒は、パラジウム触媒では起こらないリン酸フェニルの水素化分解反応にも利用されています。
金触媒
1980年代以前は、金 には触媒活性がほとんどないと見なされていました。しかし、F. Dean Tosteら(カリフォルニア大学バークレー校)の主導によって、金が遷移金属触媒の最前線に押し出されました。特に近年、ホスフィン配位子を有する金(I)錯体は、穏やかな反応条件下でさまざまなC-C結合形成反応を行える強力な触媒として注目されるようになりました。有用なC-C結合形成反応として、シクロプロパン化反応、エニンの異性化反応、Rautenstrauch転位反応、エン反応、環拡大反応などが挙げられます。通常、in situで触媒活性種を生成するには、ホスフィン塩化金(I)錯体に銀塩を共触媒として加える必要があります。
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