ペプチドの固相合成
ペプチドは、PEG-ポリスチレン担体樹脂上の固相FMOCまたはBOCを利用した化学的方法により製造します。合成終了時に、側鎖保護基を除去し、同時にペプチドを樹脂から切り出します。切り出して脱保護したペプチドを沈殿させ、洗浄し、H2O/ACN/HOACを含む緩衝液に溶解させた後、凍結乾燥させます。
ペプチドのQCは、ESI質量分析(全長生成物を確認)と逆相HPLC(RP-HPLC;ペプチド純度を測定)によって行われます。求められる純度規格に適合しないペプチドはRP-HPLCによって精製されます。
図1.固相FMOC
ロット間変動
- ペプチド純度 ―目的とするペプチド生成物量の、水分を除くその他すべての不純物量に対する比率を指し、HPLCによって測定されます。ペプチド純度は最も変動が生じやすく、また、これにより、ロット間変動の発生率が高くなる場合があります。純度が高いペプチドは、低いペプチドよりも変動が小さくなる傾向にあります。純度がより低いペプチドは、合成ロットごとにさまざまな量の不純物を含んでいる可能性があります。場合によっては、1~2残基のアミノ酸欠失を有するペプチド不純物が、なお活性を有し、ペプチドの活性評価に影響してしまうこともあります。
- 凝集 ― 疎水性ペプチドは凝集する傾向が高くなります。ペプチドの活性は、活性が残っている凝集物に大きく依存する場合があります。高濃度のペプチドも凝集性が高くなる場合があります。
- 化学的変化 ― ペプチドは、保管中に化学的変化を起こし、不活性となる場合があります。よくある例としては、Asp-Glyを含有するペプチドのiso-Asp形成、Cys含有ペプチドのジスルフィド結合形成を介する架橋、Metの酸化によるスルホキシドとピログルタミン酸の形成などがあります。
- 非ペプチド不純物 ― 不純物の中には、細胞に毒性を示すものもあります。ペプチドを細胞培養研究に使用する場合、ジチオスレイトール(DTT)の許容量は多くの細胞において濃度1uM未満です。通常の沈殿工程を経たペプチドは、最終的にDTTの大半が除去されているはずです。 さらにRP-HPLCによる精製を行ったペプチドには、通常、DTTは含まれていません。
ペプチド安定性
ペプチド安定性は、アミノ酸の種類と配列に依存します。凍結乾燥されたペプチドは通常、溶液中のペプチドより安定性が高くなります。凍結乾燥体のペプチドを-20oCまたは-80 oCで保管することにより、分解は最小限に抑えられます。pH8超へのばく露や大気酸素へのばく露は、できれば最小限に抑える必要があります。起こりうるペプチド分解経路は以下のとおりです:
- 加水分解:通常Asp(D)を含有するペプチドで問題となります。Asp-Pro(D-P)またはAsp-Gly(D-G)の組合わせを含む配列は、脱水を起こし、環状イミド中間体を生成する可能性があるため、避けてください。それより程度は低いですが、Ser(S)を含む配列も、環状イミド中間体を形成し、ペプチド鎖の切断が起こる可能性があります。
- 酸化:Cys(C)およびMet(M)残基は、可逆的酸化を受ける主なアミノ酸です。システインの酸化はpHが高くなると加速し、その場合、チオールがより簡単に脱プロトン化され、鎖内または鎖間ジスルフィド結合が容易に形成されます。ジスルフィド結合は、ジチオスレイトール(DTT)またはトリス(2-カルボキシエチルホスフィン)塩酸塩(TCEP)での処理によって元に戻すことができます。メチオニン残基は、化学経路と光化学経路の両方によって酸化し、メチオニンスルホキシドおよび/またはメチオニンスルホンを形成しますが、これらはいずれも元に戻すのが困難です。
- ジケトピペラジンおよびピログルタミン酸形成:ジケトピペラジン形成は、通常、グリシン(G)がN末端から3番目の位置にあるときに起こり、Pro(P)またはGly(G)が1番目または2番目の位置にある場合により多く発生します。この反応においては、N末端の窒素原子が2番目と3番目のアミノ酸の間にあるアミドカルボニルを求核攻撃し、結果として、最初の2つのアミノ酸がジケトピペラジンの形で切断されます。ピログルタミン酸形成は、Gln(Q)が配列のN末端位に存在する場合は、ほぼ不可避です。N末端の窒素原子がGln(Q)の側鎖のカルボニル炭素を攻撃し、脱アミノ化されたピログルタミルペプチドアナログを形成します。この変化は、N末端位にAsn(N)を含むペプチド配列でも起こる場合がありますが、その程度ははるかに低くなります。
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