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量子ドット太陽電池の進展:合成および応用

Pooja Semalti1,2, Swati Bishnoi1,2, Parth Vashishtha3, Shailesh Narain Sharma1,2

1Academy of Scientific and Innovative Research (AcSIR), Council of Scientific & Industrial Research (CSIR), 2CSIR-National Physical Laboratory (NPL), 3School of Materials Science and Engineering, Nanyang Technological University (NTU)

Material Matters 2020, Vol.15 No.2

はじめに

ナノ材料(NM:nanomaterial)は、その物理的、化学的および生物学的特性のため、複数の研究分野で著しい注目を集めています。ナノ材料は、比表面積(体積あたりの表面積)が極めて大きく、量子閉じ込め効果も示すため、バルクの時の性質と比較して、より優れた電子的、光学的および化学的特性を示すことがあります。ナノ材料の中でも、量子ドット(QD:quantum-dot)は、「量子閉じ込め効果」による優れた光電子(オプトエレクトロニクス)特性を示すため、最も魅力的な材料の1つです。量子ドットの用途は、太陽電池、トランジスタ、LED、レーザー、光検出器、量子コンピュータ、および生物学的イメージングなど、多岐にわたります1,2

量子ドットは、量子閉じ込めの理論に基づいており、ナノ粒子の直径が電子の波長と同程度の桁のときに量子閉じ込め効果が生じます。粒子サイズがこの閾値に達する場合は常に、ナノ粒子の電子的および光学的特性がバルクの特性から大幅に変化します。量子閉じ込め効果において、閉じ込めの範囲が粒子の波長に対して大きい場合、粒子は自由粒子として振る舞います。この状態では、エネルギー状態が連続的であるため、バンドギャップは元のエネルギーに維持されます。しかし、閉じ込めの範囲が減少し、粒子サイズが特定の限界値に達すると、連続的なエネルギー状態から離散したエネルギー状態のスペクトルへ変化します。その結果、図1に示すように、ナノ粒子のサイズに対するバンドギャップの依存がさらに顕著になります。 量子ドットの色のスペクトルはこのエネルギーに依存しており、図2に示すように、量子ドットのサイズが大きくなるとレッドシフト(低エネルギーへのシフト)が起こり、サイズが小さくなるとブルーシフト(高エネルギーへのシフト)が起こります。 つまり、量子閉じ込めにより、バンドギャップおよびエネルギー状態間のエネルギー差が増加します。図1において、バルク半導体のバンド構造の場合、エネルギーバンドギャップ(Eg:energy bandgap)を超えるエネルギーを持つ光(フォトン、光子)が吸収されます。 半導体を用いた太陽電池の場合、光によって生成したキャリアは、過剰なエネルギーを熱として失いながらバンド端へ緩和(熱平衡化)し(約10−13 s以内)、出力が低下します。この熱放出を抑制すると電流が減少する一方、熱平衡化を許容すると電圧が低下します。その結果、半導体電池では電圧と電流のトレードオフの関係になる問題が、多接合を導入することにより部分的に軽減されます。

エネルギーバンド図

図1半導体のバルクおよびナノ材料のエネルギーバンドダイアグラム

粒子サイズと波長

図2特定の波長を代表する量子ドット

しかし、量子ドットの場合、吸収(バンドギャップ)を入射光に合わせ、熱平衡化による電圧損失なしにキャリアを抽出することが可能です。そのため、量子ドットを組み込んだ太陽電池では、光捕集およびエネルギー変換効率が向上するかもしれません。

また、量子ドットには、従来のShockley-Queisserの限界(シリコン太陽電池の場合は32%)を超えて、光電変換デバイス(PV:photovoltaic)のエネルギー変換効率(PCE:power conversion efficiency)を向上できる可能性があることから、量子ドットを用いた太陽電池に近年大きな注目が集まっています3,4。半導体量子ドットには、太陽電池デバイスの光捕集材料として複数の利点があります。 まず、量子ドットのサイズに基づく量子閉じ込め効果を利用して、量子ドットの光学応答を調整することが可能です。さらに、これらの量子ドットにより、ホットエレクトロンを利用したり、1個の光子から複数の電荷キャリアを生成したりするための方法が得られます5。ただし、量子ドットを用いた太陽電池の限界は潜在的な欠陥によるもので、望ましくない再結合につながり、得られるデバイスのエネルギー変換効率の向上を妨げます。

これらの問題を克服するために、さまざまな戦略が提案されています。本レビューでは、効率的な量子ドット、合成、量子ドットを用いた太陽電池の設計戦略、欠点、および効率を制限する障害を克服するための提案について概要を示し、この分野のさらなる進歩と商業化に向けて理解が不可欠である量子ドット太陽電池(QDSC:QD solar cell)の重要な項目について取り上げます。

ナノ材料の合成

ナノ材料は、以下に説明する物理的および化学的な方法の両方を含むさまざまな手法を用いて合成することが可能です。物理的方法には、ガス凝縮法、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)、原子層堆積法およびパルスレーザー堆積法(PLD:Pulsed Laser Deposition)などがあります。また、加熱法、ホットインジェクション法、再沈殿法、および水熱合成法などの化学的方法についても議論します。これらの方法には、合成に関してそれぞれ利点と欠点があります。

ガス凝縮法

この方法では、1~50 mbarの気圧で加熱して、金属または無機の前駆体材料を蒸発させます。「ガス蒸発」の結果、蒸発した原子と残留ガス分子の衝突により、100 nmの微粒子が形成されます。

真空堆積法

一般的に使用されている他の物理的方法として、蒸発後に真空中で化合物または合金を堆積させる方法があります。この方法では、核生成のための衝突および冷却を行うためには気体による0.1 mbar未満の雰囲気圧力が必要になり、1~100 nmの範囲の粒子またはクラスターが得られます。

化学気相成長法

CVD法には、揮発性前駆体と被覆する材料表面との間の化学反応が関与します。CVD法では、被覆する1つ以上の物体を加熱してチャンバーに設置し、前駆体ガスをチャンバーに供給します。高温表面の付近で化学反応が起こり、表面に薄膜が堆積します。CVDは堆積速度が比較的速いものの、揮発性前駆体と高温を必要とするため、適用可能な材料の範囲が制限されます。

パルスレーザー堆積法

パルスレーザー堆積法では、高出力のレーザー光線を使用して、堆積させる材料のターゲットにレーザー光を絞って照射します。この方法は真空チャンバーで行われ、(プラズマプルーム中の)気化したターゲット材料を基板上に薄膜として堆積させます。

機械的磨砕法またはボールミリング法

粗粒からなる構造を塑性変形させて粉砕し、ナノ構造を作製する物理的方法には、機械的磨砕法またはボールミリング法もあります。

ナノ結晶の化学合成

加熱法

加熱法は、配位子の存在下で前駆体を徐々に加熱する非インジェクション法です。この方法では、必要な前駆体を室温で混合した後、適切な成長温度へ加熱します。ほとんどの加熱合成法では、異なるタイムスケールでランダムに核生成が起こるため、多分散性の粒子が得られます。硫化銅インジウム(CIS:Copper Indium Sulphide)量子ドットは、太陽電池デバイスの用途に向けて一般的にこの方法で合成されます。

ホットインジェクション法

この方法では、適切な界面活性剤分子の存在下で、室温の前駆体溶液を高温の反応媒体に注入します。前駆体溶液はモノマーの形成を開始し、過飽和により核生成が起こります。室温の前駆体を注入すると反応温度が低下し、前駆体溶液が残りの前駆体と迅速に反応するため、さらなる核生成が抑制されます。全体として、ナノ結晶の成長は核生成より低温で起こります。この温度低下により核生成に対するエネルギー障壁が生じ、希望する材料の均一なサイズの粒子が得られます。この方法を用いて、発光強度の高いCdSeナノ結晶は、室温の前駆体分子を高温(300℃)のトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)に注入することで合成されます。

配位子支援再沈殿法

配位子支援再沈殿法(LARP:Ligand-assisted reprecipitation)は、有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトナノ結晶(PNC:perovskite nanocrystal)の効率的な合成法です。Zhangらは当初、MAPbX3ナノ結晶の合成にLARP法を導入しました6。この方法では、オクチルアミンやオレイン酸などの配位子の存在下で、前駆体のハロゲン化鉛と有機ハロゲン化物塩をジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性溶媒に添加することで、最初の溶液を調製します。 その後、この溶液を非極性溶媒(トルエンなど)に滴下します。図3に、この合成法の概略図を示します。 両溶媒の混和性の差により、ハロゲン化鉛ペロブスカイトナノ結晶の再結晶が開始します。ナノ結晶が形成された後、遠心機を用いて高回転数で精製(2回)する必要があります。LARP法は、工業化や大規模化の目的で使用することができます。LARP法は、高品質のナノ結晶を調製する経済的な方法ですが、ホットインジェクション法とは異なり、反応条件の精密な制御は困難です。全体として、ナノ結晶の形状およびサイズの制御がLARP法の問題です。

LARP法

図3配位子支援再沈殿(LARP)法を示した概略図。許可を得て文献6より転載。copyright 2019 American Chemical Society

水熱合成法

この方法は、長時間にわたって高温高圧に耐えられるオートクレーブなどの閉鎖系で、さまざまな化合物のナノ結晶を合成するために使用されています。オートクレーブを用いた場合、すべての物理的および化学的処理が温度100℃以上および圧力1 atm以上で行われます。水熱法では、ゼオライト、さまざまな酸化物および炭素の量子ドットおよびさまざまな発光性ペロブスカイトを合成することができます。

半導体量子ドットを用いた太陽電池の分類

CdSe(セレン化カドミウム)

CdSeはよく知られている半導体材料であり、室温において1.74 eVの直接遷移型のバンドがあり、II-VI族半導体に属し、可視領域の広範囲の光吸収を強く促進します。初期の多くの研究では、CdSeナノ結晶の合成に大きな重点が置かれ、サイズ制御した成長によるバンドギャップの調節が容易なことから量子ドットの合成法が用いられました7,8。CdSe材料は蛍光が非常に強いため、特に光電変換デバイスなど、さまざまな光捕集の用途に最適です。 S. N. Sharmaら9は、CdSe量子ドットとp-フェニレンジアミン(ppd)の間の光誘起電荷移動を実証しました。 表面にppdカチオンラジカルやその他の荷電種が形成されることで、緩和過程が数マイクロ秒まで長くなることが示されました。量子ドット太陽電池におけるキャリア注入および光吸収を促進するためには、CdS/CuInS2、CdSe/CdTeおよびCdS/CdSe10,11のコアシェル型量子ドット構造の場合のように、量子ドットのエネルギー準位が適合している必要があります。 CdS/CdSeのコアシェル型構造は、合成が容易で安定性が高く、約5%の効率(PCE)が得られることから、最も広く研究されている量子ドットの1つです。現在、最も高性能の量子ドット太陽電池のエネルギー変換効率は、電荷再結合の問題と、光アノードの被覆率が小さいため、6~8%にとどまっています。この状況に対処するためには、電子の輸送および大面積での取出しを促進するメソポーラス光アノードが必要となります。最高の性能を発揮する量子ドット太陽電池には、低コストで化学的安定性に優れるTiO2がメソポーラス光アノードとして用いられています。 また、量子ドット太陽電池の組立てでは、メルカプトプロピオン酸(MPA)などの結着剤(リンカー)がTiO2膜のコーティングに使用され、続いて量子ドットにさらされます12

InP(リン化インジウム)

InP(III-V族半導体)は、適切なバンドギャップ(1.35 eV)、高い移動度および高い吸光係数を示すため、太陽電池用途において最も有望な材料の1つです。カドミウム系電池と比較して、InPは固有の毒性が最も低い半導体の1つです。さまざまなキャッピング配位子の使用は、サイズ効果やバンドギャップの調整の問題を克服するために有効です。ホットインジェクション法を用いた合成により青色~緑色(λは約490 nm)に発光する発光性の強いInP量子ドットが報告されています。Pの供給源として、従来の毒性があり高価なトリストリメチルシリルホスフィン(P(SiMe3)3)の代わりにトリオクチルホスフィン(TOP)が用いられており、発光を青色領域に合わせるための合成後のエッチングは不要です13。InP量子ドットは、光安定性が高く、強い共有結合を持つため魅力的です。 これらの特性のため、InPは量子ドット太陽電池用として最も好ましい材料の1つです。単分散ナノ粒子の合成において強い共有結合が問題になる場合があり、欠陥が生成して発光効率を低下させる可能性がありますが、安定性の問題を克服するためには、時間、温度の調整、および配位子の選択が非常に重要です。InPの他の欠点として、量子ドットと電解質の界面における電子の損失による光電流の減少があり、可視スペクトルの広い範囲で十分な表面積を利用するように量子ドットを充填する必要があります。さらに、量子ドットのサイズを調節して光捕集の波長範囲を増加させることが可能です。一方、量子ドットを可視スペクトルに合わせるためにはドーピングが有効です13,14

PbS(硫化鉛)

PbS量子ドットは、光電変換用途において有望なナノ構造材料です。PbSは、可視および近赤外領域の光吸収体として知られており、バンドギャップの調整および溶液プロセスが実行可能なことから、低コストの溶液プロセスによる太陽電池に適した材料とみなされています。デバイス構造および表面修飾による量子太陽電池の急速な進歩を受けて、11.3%のエネルギー変換効率と優れた安定性が得られています。ただし、量子ドットデバイスの製造は配位子交換プロセスを用いて行われます。キャッピング配位子(オレイン酸、MPA、チオールなど)の選択は、量子ドットの安定性に大きな影響を与えます。代表的なキャッピング配位子であるオレイン酸は、表面の安定化と不動態化支援の両方の役割を果たし、周囲の量子ドットから絶縁します。また、オレイン酸を用いることで、相関する量子ドット間のカップリング強度を定めるドット間距離の調節も可能になります15。特殊な共役ポリマーPDTPBTで構成される修飾アノードバッファー層を用いた従来構造のPbS量子ドット太陽電池において、効率が8.45%まで向上したことが報告されています。 このアノード修飾により、アノードへのホール抽出が改善され、界面の電荷再結合が減少するため、VOC(開放電圧)が大幅に増加してデバイス性能が向上します16

PbSe(セレン化鉛)

PbSeは、次世代太陽電池向けで信頼性の高いコロイド状量子ドットの1つです。以前は、極限条件下の安定性の高さから、PbS量子ドットが集中して研究されていました。現在は、多重励起子生成による光電流の増加を示すPbSe量子ドットの研究の拡大に大きな関心が集まっています。大気中でPbSeを使用する場合の安定性に関する課題を克服するためには、ある範囲のサイズで合成することが必要です17。最初に、空気中で安定なPbSe量子ドットをカチオン交換法で合成した後、液相配位子交換法を用います。 次に、1段階のスピンコート法を用いて光吸収層を調製すると、10.68%という優れた効率を示し、これは従来よりも16%近く上回るものでした。この電池の安定性は、8時間の連続照射で40日間まで維持されます。電子輸送層(ETL:electron transfer layer)とPbSeの界面にSnO2を用いたバッファー層を導入することで電荷キャリアの取出しが向上し、PbSe量子ドット太陽電池の性能がさらに改善されます。 電池性能の改善は、PbSe量子ドット光吸収層とTiO2バッファー層の間のバンドの整合性によると考えられます13,18図4に、基本的な量子ドット系太陽電池構造の概略図を示します。

量子ドット系太陽電池

図4量子ドット系太陽電池の概略図

CIS(セレン化銅インジウム)

セレン化銅インジウム(CuInSe2)は、バンドギャップが広く(1.04 eV)、吸光係数が大きく、安定性が高いため、光電変換用途において非常に注目されているp型半導体です。また、毒性元素のカドミウムや鉛を含有しない代替材料とみなされています。1976年に蒸発法を用いてCIS太陽電池が作製され、その効率は約5%でした19。温度が90℃を超えない限り、電池の各パラメータは長時間にわたって安定性を維持します。ただし、組み立てた電池をガラスに封じるなど多数の予防策を講じても、電池の寿命が10年を超えることはありません。 さらに、インジウムは資源が限られていることが強く懸念されています20。通常、電池効率は形成される結晶の性質および構造とインジウムおよび銅の占有率に左右され、CISの場合は銅濃度の低下に伴い正孔濃度が低下します。 光吸収層としてCdSを導入すると、CISの効率は7%まで増加します。気相成長法で堆積させた場合、CISとCdSはともに低い抵抗率を示します。接合のさらなる技術的改善により、光子吸収の最大化が可能になり、効率は10%まで向上しています19図5に、CIS系太陽電池を表した概略図を示します。

CIS系太陽電池

図5CIS系太陽電池を表した概略図

CIGS(セレン化銅インジウムガリウム)

さまざまな新しい研究技術が開発されたことで、CIS電池のインジウムの一部がガリウムに置換されたCIGS太陽電池が登場しました。ガリウム(Ga)の添加に続いて、CdSの薄層をバッファー層とするCIGS電池の光吸収層へのナトリウム(Na)の添加により、電池効率が22.6%まで大幅に向上しています20–22。CIGSの作製は2段階で行われ、最適化したCIG前駆体を基板に堆積させます。この堆積は、スパッタリング法、気相成長法および電着法で行うことが可能です。 CIG(S,Se)堆積の多くにおいて、材料の使用量および廃棄物が少なく、調製が容易なインクによる堆積法の利用が増加しています。図6に、CIGS太陽電池構造の概略図を示します。 Sharmaらは、コロイドを経由する方法で、有機的にキャッピングされたSeリッチなCIGSの非水系での迅速合成(約45分間)について報告しています23。また、ソーダ石灰ガラス(SLG:sodalime- glass)、刺激の強い薬品による処理、または堆積後の加熱によるセレン化を用いずに高効率の太陽電池デバイスを実現するため、CIGSナノ粒子間の電荷輸送を向上させる精製プロセスについて報告しています。

ただし、電池性能に関してはスパッタリング法が最も高効率であることが実証されています。Gaは融点が非常に低いため、Cuターゲットの内部に混合されている必要があります。前駆体層の積層の順序は、最終的な膜の厚さにわたる元素分布に大きな影響を与えます。ほとんどの場合、一部のSeはすでに前駆体層に混合されており、加熱によってセレン化が起こります。CIGS太陽電池における基板の調製は、デバイス全体の開発において不可欠な役割を果たし、最も重要で長時間を要する過程です。フレキシブル基板または硬質基板へのモリブデンの堆積により、セレン化の条件が決まります。フレキシブルなCIGS系デバイスを作製する場合、加熱温度が問題になります。フレキシブル基板は、CIGS電池の光吸収層の結晶化に必要な500℃の高温に耐えることができません。フレキシブル基板を用いて記録されている効率は約20%です。CIGS構造において、n型半導体の役割はバッファー層のZnOおよび窓層のCdSが担い、両者は互いに入れ換えることができます。CIGS太陽電池の大まかな構造は、基板/Mo/CIGS/CdS/ZnO/金属グリッドからなります(図6)。この構造では、基板に堆積させた透明導電性酸化物(TCO:transparent conductive oxide)およびバックコンタクトを介して光が入射します24

CIGS太陽電池

図6CIGS太陽電池の構造を表した概略図

ペロブスカイト

ペロブスカイトは、立方晶またはダイヤモンド様結晶構造をとる鉱物の一種です。一般的なペロブスカイトはチタン酸カルシウム(CaTiO3、灰チタン石)で、ロシアのウラル山脈で最初に発見されました。金属ハロゲン化物ペロブスカイトは、酸化物ペロブスカイトに類似した構造をとり、太陽電池用途において高い期待が寄せられている材料です。ハロゲン化物ペロブスカイトの結晶構造はABX3であり(図7)、Aが一価カチオン(Cs+、MA+、FA+など)、Bが二価カチオン(Pb2+、Sn2+など)、Xがアニオン(Cl-、Br-、I-など)です25

ペロブスカイトの立方晶構造

図7ペロブスカイトの立方晶構造。文献25より許可を得て転載。copyright 2018 Victoria University of Wellington, New Zealand

太陽電池分野において、ペロブスカイトには複数の利点があります。ペロブスカイトは、組成によるバンドギャップの調節が可能であり(1.5~2.3eV)、太陽光吸収および電気への変換の最大化に最適です26–28。溶液プロセス法により合成できるため、従来の太陽電池技術と比較して費用効率が高い製造プロセスとなります29,30。また、ペロブスカイトを電子・ホール輸送層として使用することで、電荷輸送を向上させることも可能です。 ペロブスカイトを用いた輸送層は、高い電荷移動度、高い励起係数、長いキャリア寿命、速いキャリア拡散速度、そして高い吸光係数を示します31。さらに、ペロブスカイト薄膜の形成に必要な材料は、ごくわずかで、 希土類元素は不要です。ペロブスカイトは、欠陥に対する許容性が高いため、製造の歩留まりが向上します25。使用する製造法に応じて、環境に対する影響が最も低くなります。 フレキシブル基板上への堆積が容易であり、さらなる研究のための新しい分野が開かれています。

ペロブスカイトの欠点は、環境(水分、酸素および光)に起因する安定性の問題です。しかし、電池効率の急速な向上を受け、標準化された実装工程を提供することで、これらの制約の多くが克服されています。機械的耐久性、熱の影響、印加電圧による加熱、および電流-電圧挙動などの他の安定性の問題については、さらなる詳細な研究を必要としています。

最も高効率の金属ハロゲン化物ペロブスカイトは、FAPbI3、MAPbI3、CsPbI3などの鉛(Pb)系材料で構成されています。図8に、ペロブスカイト太陽電池の概略図を示します。 現在、ペロブスカイト太陽電池を用いて非常に高い効率(25%超)が達成されています32。NREL(the National Renewable Energy Laboratory)の国立太陽光発電センター(NCPV:the National Center of Photovoltaics)では、高エネルギーでキャリアを励起した際に、冷却過程においてペロブスカイト材料で冷却速度が遅くなることを示しています。 MAPbI3を使用した場合、他の高価な従来構造と比較して冷却が遅くなるため、高効率の次世代太陽電池用の材料として優れた候補となります。 励起子は室温で不安定なため、キャリア(電子および正孔)間のクーロン相互作用がこれら材料の光吸収に大きな影響を及ぼし、励起子の存在が再結合のダイナミクスに影響します。

ペロブスカイト太陽電池

図8ペロブスカイト太陽電池の試作品を表した概略図

他の不動態化されていない半導体と比較して、不動態化されていないペロブスカイト太陽電池表面でも表面再結合が大幅に遅いことが判明しています33。ペロブスカイトに含まれる鉛の毒性は、環境に対する深刻な脅威であるため、鉛を含まないペロブスカイト構造の研究が推進されています。 現在までに研究されているSn系ペロブスカイトは、膜の形態が悪く、結晶化の制御が難しいため、ペロブスカイトの実用性が制限されています。SnF2、SnCl2などの多くの添加剤によりこれらの影響の一部は克服されますが、安定性および効率に関しては現在の鉛系ペロブスカイトの水準に達していません。この問題に取り組むためには、様々な材料の置換や組合せを用いたさらなる研究が必要です。

今後の課題および将来の展望

過去数年間に、量子ドットを用いた太陽電池デバイス、特にペロブスカイト量子ドット太陽電池の効率が大幅に改善されていますが、安定性に関する懸念が残されています。この解決策として、ペロブスカイトの次元を最小化することによるペロブスカイト太陽電池デバイスの安定性の改善が考えられます。層状の2次元膜やナノ結晶量子ドットを用いた太陽電池の安定性は、ペロブスカイトの3次元膜を用いたデバイスより向上します。また、量子ドットペロブスカイトは薄膜ペロブスカイトと比較して、相が安定し、組成を調節しやすくなります。これらすべてを考慮しても、量子ドットを用いたデバイスで報告されている最高効率は13.4%にとどまり、薄膜ペロブスカイトデバイスで報告されている25.2%を大幅に下回ります35,36。Haoらは、この低効率の問題に対処するため、オレイン酸(OA)配位子を用いたカチオン交換法により多カチオンペロブスカイトを合成し、効率を16%超まで改善しています38。また、表面のトラップ欠陥も量子ドットを用いた太陽電池の効率を制限します。 この課題を克服するため、バンドギャップが広い材料のシェル(CdS)でコア(CdSeTe)の周囲を被覆したコアシェル型構造の量子ドットが設計されています。この構造により表面欠陥が最小限に抑えられ、得られるデバイスのエネルギー変換効率が改善されています32。同様に、量子ドット太陽電池の光アノードと電解質の間の界面における電荷再結合を抑制するために、不動態層の概念が導入されています。 不動態層の堆積により、電荷再結合が最小限に抑えられ、量子ドット太陽電池の効率を制限する理由の1つである電解質中の電子の移動が制限されます21,37。量子ドット太陽電池の安定性および効率を改善するために上記の対策が講じられているものの、商業化の道のりには大きな障害が2つあります。 量子ドット材料の処理コストが高いことと、量子ドット太陽電池の製造に効率的な堆積法が必要とされることです。したがって、量子ドット太陽電池の商業化を確実に進めるために、量子ドットの合成およびデバイスの製造コストを最小化する取組みが求められています。また、量子ドット太陽電池の現在の製造方法では、ペロブスカイト膜を層状に堆積させるためにスピンコート法が多用されていますが、この方法は大量生産に向けてスケールアップすることができません。したがって、高効率で安定な量子ドット太陽電池デバイスの商業化に向けて、量子ドット太陽電池技術に関するさまざまな欠点を解消するためには、この領域で相当な研究が必要です。また、鉛系ペロブスカイトに代わる環境に優しい材料として鉛を含まないペロブスカイトが登場していますが、鉛系ペロブスカイトの水準に匹敵するまで効率および安定性を改善するためには、さらに多くの研究が必要です。

結論

本稿では、量子ドットの合成法、利点と欠点、また最近開発された量子ドット太陽電池デバイスの文献レビュー、その構造、効率と短所に関して、量子ドット太陽電池分野の最新研究を紹介しました。CdSe、CIS、PbS、PbSe、InP、ペロブスカイトを含む複数の量子ドット太陽電池の動作機構と、現在までに報告されている最高効率について詳しく議論しました。その他にも、さまざまな研究グループが提案した、量子ドット太陽電池の効率および安定性を制限する要因と、その解決策についても述べました。さらに、量子ドット太陽電池デバイスが急速に進歩している現状や、効率および安定性に関してシリコン太陽電池を上回る今後の可能性についても紹介しました。

Acknowledgments

The authors (PS) and (SB) sincerely acknowledge the Council of Scientific & Industrial Research (CSIR), Government of India, for providing Junior Research fellowship (#31/001(521)/2018-EMR-I) and Research Associate fellowship (#31/1(0494)/2018-EMR-I. P.V. acknowledges Presidential Postdoctoral Fellowship, NTU Singapore via grant 04INS000581C150OOE01, and Dr. Dani Metin.

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