色素増感太陽電池用ルテニウム色素
Dr. Hans Desilvestro, Dr. Yanek Hebting
Dyesol Ltd., 3 Dominion Place, Queanbeyan NSW 2620 AUSTRALIA
色素増感太陽電池
色素増感太陽電池(DSC:dye sensitized solar cell)は、効率の高さと製造コストの低さを兼ね備えることが期待される第3世代の太陽電池です。今日の色素太陽電池の光‐電気変換効率は最大11%ですが、材料の最適化と新規セル・モジュール構造による大幅な改善が今後見込まれます1-3。 さらに、色素増感太陽電池は半透明であるため、ほとんどどの角度・方向からも光を集めることが可能で、建物や小型装置の発電用窓としての利用が期待されます。
図1色素増感太陽電池の基本動作
図1に色素増感太陽電池の基本動作の模式図を示します。
- ナノ結晶TiO2薄膜に化学吸着した色素の単分子層により吸収された光によって電子が励起され、Ru2+基底状態から励起状態(Ru2*)に遷移します。
- 励起された電子は非常に短い時間(ピコ秒~フェムト秒)の間に酸化チタンの導電帯(CB:conduction band)に移動します。これにより、チタニア相の負電荷と表面に吸着した色素中のRu3+の正電荷という効果的な電荷分離が可能となります。
- Ru3+種は電解液内のヨウ化物イオン(I-)により速やかに(ナノ秒以内)還元され、I-はI3-に酸化されます。 前段階でTiO2に注入された電子は、ガラス、プラスチックや金属基板上の透明導電性酸化物薄膜などの導電性表面に到達するまで、粒子のナノネットワークを介して拡散します。
- 電流としてアノードから抽出された電荷は電力として利用されます。
- 負電荷は回路を経て、対極(CE:counter electrode)表面に移動し、I3-をI-に還元します。このように事実上、色素太陽電池内では化学反応が起きていません。
色素増感太陽電池はシリコンベースの太陽電池のような標準的な固体型光起電力装置(solid-state photovoltaic devices)よりも光合成プロセスに非常に近いものです。光合成と同様に、色素増感太陽電池での光変換効率は反応の相対速度、つまり反応速度論的な反応速度に依存します。チタニアの導電帯への電子注入は基底状態への電子緩和プロセス、もしくは色素の励起状態に関する化学副反応より早く、さらに、I-による酸化された色素(Ru3+)の還元が、注入された電子とRu3+の間の直接再結合反応よりも非常に早いことが重要となります4。
ルテニウム色素
色素増感太陽電池において高い電力変換効率を得るための重要な要素の1つはもちろん色素です。ここ数年で、システム性能を向上させる新たな色素が開発されています。特に注目されているのは先駆的なルテニウム系N-3色素(製品番号:703206)の両親媒性類似化合物、たとえばZ-907(製品番号:703168)です。これら両親媒性色素は、N-3色素よりいくつかの優れた特徴を持っています。
- 結合部分の基底状態におけるpKaが高いため、低pH値でTiO2表面への静電結合が増加します。
- 色素上の電荷が減少するため、吸着した色素ユニット間の静電反発力が低下して、色素充填量が増加します。
- 水が原因で起こる色素脱離に関して、太陽電池の安定性が増大します。
- これらの錯体の酸化電位はN-3増感剤と比べてカソード側にシフトしているため、ルテニウムIII/II対の可逆性が向上して安定性が改善されます5。
N-3RuL2(NCS)2 (L=2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid), C26H16N6O8RuS2 Mol Wt: 705.64
N-719[RuL2(NCS)2]:2TBA (L=2,2'-bipyridyl-4-4,4'-dicarboxylic acid; TBA=tetra-n-butylammonium), C58H86N8O8RuS2 Mol Wt: 1188.55
Z-907RuLL'(NCS)2 (L=2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid; L'=4,4'-dinonyl-2,2'-bipyridine), C42H52N6O4RuS2 Mol Wt: 870.10
図2 代表的なルテニウム色素(N-3、N-719、Z-907)の構造式
N-719とZ-907色素の紫外可視スペクトルで観測されるように、ルテニウム色素ではLCCT(ligand-centered charge transfer)遷移(π - π*)のほかに金属-配位子間電荷移動(MLCT:metal-to-ligand charge transfer)遷移(4d - π*)も見られます(図3)。 低いエネルギーでの吸収帯がMLCT遷移(λ1とλ2)であり、LCCT遷移はエネルギー的により高い遷移(λ3とλ4)に相当します6。
図3N-719(703214)とZ-907(703168)色素の紫外可視吸収スペクトル
色素増感太陽電池セルの作製
図4にN-719色素で作製した有効面積0.88 cm2(8 mm x 11 mm)の半透明色素増感太陽電池テストセルを示します7,8。 オレンジ部分は色素吸収させた酸化チタンで、黄色い部分は電解質です。
図4N-719色素で作製したテストセル(単位はmm)
J-V曲線
図5に3つの異なる入力エネルギー(sun level、1 sun = 100 mW・cm-2)で測定した、標準的なテストセルの典型的なJ-Vプロットを示します。電圧をV、電流密度をJ(mA・cm-2)、それぞれの最大値をVmaxとJmaxとした場合、 変換効率ηは以下の式で計算されます。
η (%) = (Vmax x Jmax) / (sun level)
図5N-719(703214)とZ-907(703168)色素を用いて作製した色素増感太陽電池のJ-V曲線
揮発性の低い電解液でN-719とZ-907色素の色素増感太陽電池を作製した場合、典型的な短絡電流密度と入力エネルギーが1 sunでの変換効率は、それぞれ15.5 mA・cm-2、5.7%と13.7 mA・cm-2、4.8%です。 特徴的なのは、低い入力エネルギーのときに変換効率が高くなることです。入力エネルギーが3分の1のときと10分の1のときで、N-719色素の場合は7.8%(5.2 mA・cm-2)と7.6%(1.5 mA・cm-2)、Z-907色素の場合は6.9%(4.8 mA・cm-2)と6.9%(1.4 mA・cm-2)になります。
References
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