メソポーラス材料:特徴・評価・応用
はじめに
ナノスケールの細孔が規則正しく配列した構造を有する材料は、光学、触媒、薬物送達システム、コーティング、化粧品、生物学的分離、診断、ガス分離およびナノテクノロジーなどの分野における応用が期待されています。 ナノポーラス材料は、円筒状またはカゴ型の空間を有するアモルファスまたは結晶性骨格から構成されており、ナノポーラス材料の多くは、マイクロポーラス、メソポーラスおよびマクロポーラスの三つの大きなカテゴリーのいずれかに分類されます1。
金属有機構造体(MOF:metal organic framework)、ゼオライト、カーボンおよびアモルファスガラスなどのマイクロポーラス材料は、0.5~2 nmの非常に狭い範囲の細孔径分布を示します2。これらの材料は高い熱安定性および触媒活性を示すため、熱分解プロセスに有用であり、さらにイオン交換や乾燥剤およびガス分離材料としても使用することができます。金属有機構造体(MOF)はマイクロポーラス固体の1つであり3、ゼオライトおよび関連する結晶性モレキュラーシーブの場合、細孔の大きさや細孔へのアクセスの容易さは、本質的には合成に使用されるテンプレートの性質に左右されます。一方、多孔質ポリマービーズなど、50~1000 nmの細孔径を有するマクロポーラス材料では、材料内部の細孔へのアクセスは容易となりますが、選択性が犠牲となります。こうした点から、両者の中間サイズである2~50 nmの範囲の細孔径を有するメソポーラス材料の開発が行われました4。
メソポーラス材料の主な利点は以下の通りです。
- 狭い細孔径分布と高表面積(> 500 m2/g)を有しています。
- 骨格および細孔壁を、シリカ、アルミナ、チタニアなどの様々な金属酸化物(MO2)で置換することができます。
- 有機化合物による官能基化が容易です。
- 生体適合性および低毒性を示します。
メソポーラス材料の構造特性および評価
規則性メソポーラス材料は、構造的特徴および細孔の形状により、2次元または3次元の円筒構造、もしくは3次元のかご型構造に分類することができます。MCM-48、AMS-6(Iad)、MCM-41、SBA-15、およびNFM-1(p6mm)などの円筒構造は、均一な細孔径を有し、触媒、吸着材、薬物送達用媒体としての応用の可能性が示されています。一方、かご型のメソケージ固体である、FDU-1(Imm)、SBA-1(Pmn)およびAMS-8(Fdm)などは、3次元的に結合した球状または楕円状のかご構造から構成され、活性物質の移動制御への利用が考えられます。
図1に示すように、シリカなどのメソポーラス材料の構造的および組織的特性を確認するために通常用いられる評価方法には、粉末X線回折、窒素ガス吸着・脱離、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)などがあります。
図1典型的なメソポーラスシリカ材料のSEM画像
粉末XRD(X線回折)は、ナノスケールおよびメソスケール材料の結晶学的対称性の同定に広く使用されています。しかし、メソポーラス材料の相同定を粉末XRDによって正確に行うことは困難です。これは、近距離における構造的秩序が類似しているために大部分のピークが低角度側にあらわれ、かつピークが重複する可能性があるためです。図2にはメソポーラスシリカ中の細孔の形態および構造規則性の解析結果の典型的な例を示しました。 メソスケールにおける細孔の配列および対称性の詳細な解析は、高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM:high resolution transmission electron microscopy)を使用して行うことが可能です。HRTEMは、このスケールにおける分析には極めて重要な方法です。
ガス吸着は多孔性材料の特性を総合的に得るために使用される手法です。いくつかの相対圧力下における多孔性固体へのガス吸着量から、表面積、細孔容量および細孔径などの特性に関する情報が得られます。図3は、典型的なガス吸着等温線です。
図2典型的な立方晶メソポーラスシリカ材料のX線回折
図3メソポーラスシリカナノ粒子(表面積850 m2/g、細孔サイズ3.8 nm)の窒素ガスによる吸脱着等温線
機能性メソポーラスシリカ
最も汎用性の高いメソポーラス材料の一つにポーラスシリカがあり、明確な細孔径と様々な応用で既知となっている生体適合性を組合せることができます。ポーラスシリカ材料の重要な特性は、有機官能基(R)でシリカ壁を修飾することが可能な点にあります。ポーラスシリカには焼成後、高密度の表面シラノール基(≡Si-OH)が存在します。これらシラノール基がシラン化合物と反応することにより、シリカ骨格上に異なる官能基(≡Si-R)が導入され、様々な対象分子と結合することが可能となります5。
機能性材料の特性と期待される応用
- 薬剤、タンパク質およびその他生体分子のカプセル化
- ガス、イオンおよび分子の吸着
- 触媒活性サイトの担持
- 酸化鉄、金などのナノ粒子の担持
アルドリッチでは、プロピルアミノ、プロピルカルボン酸およびプロピルチオール基の3種類の異なる官能基で修飾されたナノポーラスシリコンを提供しています。
研究および商業用途におけるナノポーラス材料の応用例
ドラッグデリバリーシステム
ドラッグデリバリーシステム(DDS:drug delivery system)開発における最大の課題は、主に体内からの排泄により、薬物が標的に到達するまでに薬物の有効性が低下してしまう点にあります。さらに、薬物キャリアは治療期間中、非毒性かつ非活性であることが必要です。 生体分子および薬剤の大部分は数ナノメートルの大きさであるため、2~30 nmの細孔径を有するナノポーラスシリカは、ライフサイエンス分野での応用に非常に有用となります6。
触媒作用
触媒作用に関しては、産業用途におけるエネルギー使用量および廃棄物・汚染物質の低減のための高選択的触媒の開発に、ナノスケールの特徴を有する高表面積材料が使用されています7。ゼオライト(マイクロポーラス固体)などの多孔質材料が触媒および触媒担体として広く商業利用されていますが、触媒反応に大きな分子が関与する場合には、物質移動が制限されることでゼオライト構造の有用性が低下してしまいます。細孔径をメソスケールに拡大することにより、反応物質の触媒サイトへの拡散が改善されています8。このような超選択的触媒は、多くの産業において大きなコスト削減を可能としています。
診断
メソポーラス材料は、画像コントラストや化学的安定性の向上の点から、診断用途に理想的な材料です。さらに、機能性部位の細孔内への結合が可能であるため、多重測定および同定といった新たな可能性も期待されます。シリカ系ポーラス材料は低毒性であり、様々な蛍光マーカー、色素および薬物を結合させることが可能であるため、治療薬の位置および活性の追跡に使用することが可能です。
吸着剤
ナノポーラス材料は高表面積であることから、様々なガス、液体および毒性重金属の吸着に使用されます。メソポーラスシリカ材料の表面特性(疎水性、親水性または機能性)の調整により、これらの物質の吸着量を大きく増加させることが可能です。メソポーラス材料を吸着剤として利用することで、水からの汚染物質の除去、ガス貯蔵(二酸化炭素、水素、酸素、メタン、二酸化硫黄など)、キシレン吸着分離および生体物質や医薬品の分離などに応用されています。
クロマトグラフィー
メソポーラスシリカは、その大きな細孔容量、表面積および狭い細孔径分布のため、サイズ排除クロマトグラフィーへの応用が期待されています。これらの材料に関しては、サイズ排除クロマトグラフィー、キャピラリーガスクロマトグラフィー、プロテオミクス分離、順相高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)およびエナンチオ選択性HPLCの支持相または固定相としての使用が提案されています。
シグマアルドリッチのメソポーラス材料
ナノポーラスシリカ、ナノポーラスアルミナ、多孔質炭素など、さまざまな機能性多孔質材料を取り揃えております。また、蛍光ラベルナノポーラスシリカ粒子等の診断・ライフサイエンス分野で使用される材料も販売しています。
参考文献
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