金ナノロッド
機能性金ナノロッド
金ナノワイヤー
マイクロゴールド
白金およびパラジウム被覆金ナノ構造体
はじめに
金のナノ構造は、その電気特性、導電性、および光学的特性への関心から、さまざまな用途に向けて幅広く研究されてきました。しかしながら、これらの材料が従来の用途を超えて、生物医学、診断、および触媒の分野で広く用いられるようになったのは最近のことです。
- 最先端エレクトロニクス:金ナノワイヤーは、最新のタッチスクリーンディスプレイでカーボンナノチューブの代替品になる可能性があります。
- 触媒:白金およびパラジウムのナノ粒子を触媒に利用することで、金属全体の使用量が千分の1以下に削減されます。
- 生物医学:in vivoでの光熱癌治療(photothermal cancer therapy)のほか、遺伝子治療における薬物の細胞質への取り込みに金ナノ粒子が用いられます。
- 生物診断:多検体を定量的に検出するためのバイオセンサーおよびマルチチャネルラテラルフロー式診断の開発が可能です。
金ナノロッド
球状の金ナノ粒子は、ここ20年間で光熱癌治療の研究に使用されるようになりました。ところが、球状金ナノ粒子の吸収ピークは、生物学的構成要素(biological entity)である皮膚、組織、およびヘモグロビンなどの透過窓(650~900 nm)より短い波長(直径100 nmの粒子で最大約580 nm)に限られており、最適なものとはいえませんでした。金ナノロッドは、金ナノ粒子と同じような特性を示しますが、球状を伸張すると吸収ピークと散乱特性を最適化することができます(図1)。図1の右に示すように、異なる製造法によって金ナノロッドの形状をコントロールすることにより吸収ピークを550 nm~1,400 nmの範囲で微調整できるようになり、金ナノロッドが可視領域から近赤外領域にわたる波長で光を散乱することが可能になります。表面プラズモン共鳴(SPR:surface plasmon resonance)の値は、金属/溶媒境界面と平行に伝播する表面電磁波の尺度であり、金属表面上や金属ナノ粒子の表面に吸着した物質によって大きな影響を受けます。ある波長範囲でSPR値を測定することにより、金属ナノ構造体の極めて正確な吸収値を得ることができます(図1)。
図1左:代表的な金ナノロッド(10 nm × 40 nm、716820)のTEM画像。右:波長に対するSPR(表面プラズモン共鳴)プロット。金ナノロッドの吸収ピークと散乱(吸光)を、可視および近赤外スペクトルにわたって調整できます。
金ナノロッドは、光音響(photoacoustic)1や四光波混合(FWM:four wave mixing)などの高効率非線形光学2を使用したin vivoイメージングの改善にも使用されています。また、スウィンバーン工科大学マイクロフォトニクスセンター(オーストラリア、ビクトリア州)の研究者は、この材料を偏光子として使用し(図2)、DVDの記録容量を2,000倍以上増加させることに成功しています3。
図2偏光子材料として使用された金ナノロッドのTEM画像
機能性金ナノロッド
メチル基やアミン基、カルボキシル基など、末端に各種官能基を有する金ナノロッドも調製が可能です。アミン末端基やカルボキシル末端基を持つナノロッドの場合、たんぱく質、抗体、さらにDNAを含む各種生体分子との接合に特に有用です。
機能性金ナノロッドは、可視領域ではマルチチャネルラテラルフロー式診断に使用され4、近赤外領域では静脈注射によって腫瘍に凝集させることができます。異常細胞の周囲に集中させた後、近赤外の連続波レーザーを照射して熱を発生させ、光熱癌治療を行うことが可能です5。さらに、金ナノ構造体の診断特性(薬物送達ベクターとしての特性も)と同時に使用して、パルスレーザーで癌細胞を破壊(治療)することができます。この診断と治療を融合させた方法は、セラノティクス(theranostics)と呼ばれています(図3)6。
図3A)金ナノロッドと外部ダイオードレーザーを使用して癌細胞を加熱破壊するマウスの光熱癌治療(Nanopartz社提供)。B)近赤外パルスレーザーと金ナノロッドを使用した癌細胞の除去(Nanopartz社提供)。
図4左:カーボンナノチューブネットワーク上の金ナノワイヤー(716944および716952)のTEM画像。右:有機エレクトロニクス用途においてカーボンナノチューブの代替品として期待される金ナノワイヤーのSEM画像。
マイクロゴールド(Microgold)
幅が数百 nm、最大長さが1 μmであるマイクロゴールドは、「ナノ粒子」と呼ぶことが可能な最大の粒子です。ナノ粒子はその寸法によって吸収特性が決まるため、この独特の材料は他に類のない光学的特性を示します。マイクロゴールド(716960)は、従来型光学系を使用した白色光源による顕微鏡下で、単一粒子として観察できる初めての金粒子です(図5)。また、独自のポリマーコーティング技術によって細胞質体への取り込みが可能であることが知られている最初の粒子でもあり(図5)、リポソームによる取り込みを避けたいと考える細胞療法において極めて重要な特性です。
図5A)光学顕微鏡による単一粒子測定に使用されたマイクロゴールド(716960)(ライス大学Stephan Link博士提供)。B)薬物送達のために、癌細胞における細胞質体取り込みに使用されたマイクロゴールド(ライス大学Eugene Zubarev博士提供)。
白金およびパラジウム被覆金ナノ構造体
前述のように、金構造体のサイズをナノスケールに縮小することによって、電気的用途から生物医学用途まで応用範囲が広がります。一方、非常に基本的ではありますが、サイズを縮小すると表面積が大幅に増加するため、ナノ材料の触媒への利用も考えられます。高品位の単分散金ナノ粒子を合成することができるため、白金またはパラジウム(716928)コーティングの優れた触媒担体になります。粒子が単分散の場合その全表面積を利用できるため、触媒作用の効率を高めることが可能になります。微小サイズであることと単分散性によって、従来の白金ナノ粒子やパラジウムナノ粒子の最大10倍、バルク材料の数千倍大きい表面積が得られます(図6)。一般的に表面積が大きいほど触媒作用はより効率的かつ効果的になるため、廃棄物の発生が少ない、より環境にやさしい反応が実現可能になります。
図6白金被覆金ナノ構造体(左)およびパラジウム被覆金ナノ構造体(右)のTEM画像。スケールバーは50 nmの長さを表しています。
まとめ
金ナノ粒子の用途と種類は、従来から利用されているラテラルフロー式診断におけるバルク凝集反応(妊娠検査薬など)から大きく広がっており、現在、金ナノ粒子の単一ナノ粒子特性は生物医学、材料、光学、および産業用途に使用されています。この材料は現在も活発に研究が行われており、その強化された光熱特性と表面反応性を利用した用途はまだ実現され始めたばかりです。
参考文献
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