miRNA(microRNA)の導入
はじめに
成熟microRNA(miRNA)は天然に見られる非コードRNA低分子で、ヌクレオチド数は約21~25です。microRNAは1つ以上のメッセンジャーRNA(mRNA)分子と部分的相補性があり、その主な機能は翻訳抑制、mRNA切断、脱アデニル化など、さまざまな形式で遺伝子発現を低下させることです。これらはLeeら1が1993年に初めて報告し、2001年にmicroRNAと命名されました2。以来、ランダムクローニングおよびシーケンシングまたはコンピュータ予測により、さまざまな生物から多数のmiRNAが同定されています。Sanger InstituteのmiRBaseデータベースは、miRNAの名称、配列データ、注解、およびターゲット予測情報を提供しています。
miRNA生合成
図1.miRNA経路
miRNAの遺伝子コードは、プロセシングされた成熟miRNA分子よりもずっと長い分子です。多くのmiRNAは宿主pre-mRNA遺伝子のイントロンにあり、宿主遺伝子の制御機能および一次転写物を共有し、同様の発現プロファイルを示すことが知られています。自身のプロモーターから転写されるmiRNA遺伝子の残りの遺伝子については、ほとんどの一次転写物が詳細に同定されていません。microRNAはRNAポリメラーゼIIによって転写され、5'キャップとポリA鎖から成る高分子RNA前駆体になり、これをpri-miRNAと呼びます3。RNase III酵素Drosha4および二重鎖RNA結合タンパク質Pasha/DGCR85から成るマイクロプロセッサ複合体によって、pri-miRNAは核内で修飾を受けます。その結果、生成するpre-miRNAは約70ヌクレオチド長で、折り畳まれた不完全なステムループ構造を有しています。pre-miRNAは次にカリオフェリンエクスポーチン5(Exp5)およびRan-GTP複合体によって核内から細胞質に輸送されます6。Ran(ras関連核タンパク質)は、RNAおよびタンパク質が核膜孔複合体を通過して移動する際に重要なRASスーパーファミリーに属する低分子GTP結合タンパク質です7。Ran GTPaseはExp5に結合し、pre-miRNAとともに核ヘテロ三量体を形成します6,8。細胞質に入ったpre-miRNAはRNAse III酵素Dicer9によってさらに修飾を受け、約22ヌクレオチド長の二重鎖RNAであるmiRNAになります。また、DicerによってRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)の形成が発動します10。RISCは、miRNA発現およびRNA干渉によって生じる遺伝子サイレンシングの役割を担います11。
Dicerの機能
Dicerは分子量200 kDaのタンパク質で、ATPase/RNAヘリカーゼ、DUF283(機能不明)ドメイン、miRNAおよびsiRNAに特徴的な3'端の2塩基オーバーハング部位に結合できるPAZ(Piwi、Argonaut、Zwille)ドメイン、触媒として働く2個のRNase IIIドメイン(RIIIaおよびRIIIb)、およびC末端二重鎖RNA結合ドメイン(dsRBD)を含みます。Dicerはモノマーとして機能し、2つのRNase IIIドメインが分子内で二量体化するときの中心部位があります。2つのRNaseドメインは別個に二本鎖RNAの各鎖を切断し、2塩基3'オーバーハングを有する生成物ができます。pre-miRNAからmiRNAを切り出すほか、Dicer酵素はdsRNAをsiRNAにします。Dicerによる切断後のmiRNAの経路は、動物におけるRNA干渉(RNAi)の主要ステップと同様です。siRNAと異なり、microRNAはRISCに作用し(miRNAとmRNAの相補性低下に基づく)翻訳抑制によって遺伝子発現を抑制したり、siRNAと同様に機能しmRNA切断を仲介したりすることができます。翻訳後の機序は、RNAサイレンシングの発端(siRNAまたはmiRNA)によって決まるのではなく、相補性の程度によって決まります。miRNAが完全またはほぼ完全に標的と相補的である場合、標的mRNAを特異的に切断できます。内因的に発現したmiRNAは通常、その標的遺伝子との相補性が不完全であり、翻訳抑制を介して遺伝子発現に対する作用を調節します12。
RISC複合体
Dicerがpre-miRNAステムループを切断するとき、2本の短い相補性RNA分子ができますが、1本だけがRISC複合体に組み込まれます。RISCは、タンパク質のArgonaute(Ago)ファミリーメンバーを含むリボ核タンパク質複合体です。Argonauteタンパク質は、結合したmiRNA断片と相補的なmRNA鎖に対するエンドヌクレアーゼ活性を有します。Argonautはまた、ガイド鎖の選択とパッセンジャー鎖の破壊に一部関与します。組み込まれた鎖をガイド鎖といい、5'末端の安定性を基準としたargonauteタンパク質による選択を受けます。残る1本はパッセンジャー鎖(*)と呼び、RISC複合体の基質として分解されます。dsRNAからのガイド鎖の選択は、dsRNA両端の末端基の安定性が基準になっていると考えられます13。二重鎖5'末端の2~4塩基の塩基対の安定性が低い鎖はRISCと会合しやすいので、miRNA活性体になります13。活性型RISC複合体に組み込まれた後、miRNAはその標的mRNAの3'非翻訳領域(UTR)内の不完全相補配列に結合することで、制御作用を発揮します。このmiRNAの結合によって形成される二重鎖RNAが、翻訳を抑制します。
研究におけるmiRNA
最初にmiRNAが特定されたのは10年以上前ですが、この制御分子の幅広さと多様性を研究者が理解し始めたのはつい最近のことです。細胞増殖、発生、および分化に関係した、多岐にわたる重要な制御機能をmiRNAが発揮し、さまざまなヒト疾患に関連しているというエビデンスが増えています。いくつかのmiRNAについては、がん14,15および心疾患16との関連が報告されています。発現解析研究の結果、腫瘍では正常組織と比べ、miRNA発現に乱れがあることが明らかになっています15。microRNAは乳がん、肺がん、および直腸がんで下方制御されており、バーキットリンパ腫およびその他のヒトB細胞リンパ腫では上方制御されています。このことから、ヒトmiRNAはバイオマーカーとして極めて有用である可能性が高く、特に今後のがん診断に役立つことが期待されており、疾患介入の標的として関心が集まっています。がんとの関連だけではなく、microRNAは心機能および心不全のさまざまな側面での制御に重要な役割を担っています。これには、心筋増殖、心壁の完全性、収縮力、遺伝子発現、および心調律の維持などが含まれます。miRNAの誤発現はさまざまなタイプの心疾患に必要かつ十分であることが示されています16。
miRNA研究用製品の提供
miRNA研究は期待が高く、今後の最先端医療の基幹となる可能性を秘めています。miRNAへの関心の高まりに足並みを揃えるべく、この急速に発展していく研究分野にメルクは全力で取り組みます。現在、miRNAの単離、増幅、プロファイリング、機能解析など、お客様に幅広い製品を提供できるよう開発に努めています。mirPremier microRNA単離キットは、既に強力で、幅広い選択肢を備えるMISSION®RNAiラインナップ(MISSION® siRNA、MISSION® miRNA mimics、およびshRNAなどの製品、ならびにライブラリー、mRNA検出試薬、抗体、およびタンパク質濃度検出用AQUA™ペプチドなどのサービス)を補完するものです。細胞培養試薬、細胞生物学化合物/アッセイ、トランスフェクション試薬など、メルクの試薬は研究の開始から終了まで、ワークフローのすべてを支援します。
miRNA製品
MISSION®ヒトmiRNA Mimics
ヒトmiRNA MimicsライブラリーはMirBase第21版を元にしています。ライブラリー(96ウェルプレート、0.25 nmol/ウェル)と小分けチューブ(5 nmol)のフォーマットで販売しています。MISSION® miRNA mimicの新規デザインは、天然miRNA標的に対するノックダウン効率について試験済みで、非特異的作用を低下させます。
MISSION®ターゲットIDライブラリーがあれば、トランスクリプトーム全体からヒトmiRNAおよびncRNAの遺伝子標的をベンチトップで特定できます。画期的なデュアルポジティブ選択システムを備えた本ライブラリーがあれば、研究者は最短時間、最少の試薬、最少の設備投資で、トランスクリプトーム全体からmiRNAおよびncRNAの遺伝子標的をスクリーニングできるようになります。
SwitchGear Genomics™支援MISSION® 3′UTR Lenti GoClone
メルクはSwitchGear Genomics™と提携し、MISSION ®3′UTR Lenti GoCloneというゲノムワイドコレクションを提供しています。この新しいシステムは、ウイルスベクターを利用し、SwitchGearの画期的RenSPレポーター遺伝子に融合させたヒト3′UTRを運搬させます。LightSwitch Luciferase Assay Reagent ™はRenSPと一緒に使用する試薬で、感度、ダイナミックレンジ、簡便性に優れています。
参考文献
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