細胞へのトランスフェクション入門
- トランスフェクションとは?どのように細胞へトランスフェクションするのか?
- トランスフェクションの種類
- リン酸カルシウムトランスフェクション
- リポソームを介したトランスフェクション
- エレクトロポレーション
- ウイルスを用いたトランスフェクション(ウイルス形質導入)
- トランスフェクション試薬とプロトコルの選択
トランスフェクションとは?どのように細胞へトランスフェクションするのか?
トランスフェクションは、真核細胞にDNA、RNAまたはタンパク質を導入することであり、遺伝子発現の調節や研究に広く用いられています。トランスフェクション技術は、遺伝子機能、タンパク質合成、細胞増殖や発生の解析を容易にする分析ツールとして役立ちます。トランスフェクションアッセイは、細胞レベルの研究を発展させるだけでなく、創薬戦略を下支えするものでもあります。ウイルスによるトランスフェクションやウイルス形質導入などの戦略では、レンチウイルス粒子を利用して外因性物質を真核細胞に導入します。一方、細菌の形質転換は、細菌が外来遺伝物質を取り込んだ際に行われる、遺伝子を水平伝播するためのプロセスです。
トランスフェクションの種類
トランスフェクションのための方法は、物理的、化学的、生物学的手法を含め、幅広く存在します。これらの技術は一般に、トランスフェクションにより核酸を細胞に導入し、遺伝子を一過性または安定的に発現させる方法です。
一過性トランスフェクション技術では、細胞にDNAが導入されますが、DNAは細胞の染色体に組み込まれることはありません。この技術では高いトランスフェクション効率が得られ、1〜4日後には遺伝子転写産物を分析することができます。哺乳類細胞培養における大規模な一過性遺伝子発現(transient gene expression、TGE)には、ポリエチレンイミン(PEI)やリン酸カルシウム(CaPi)などのトランスフェクション試薬が使用されます。さらに、無血清培地中のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いた大規模なTGE法も開発されています1。
安定的なトランスフェクション技術では、導入されたDNAは細胞の染色体に組み込まれるか、エピソームが形成されます。安定発現細胞の同定には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(HPH)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)などのマーカーを選択できます。
従来から使用されるトランスフェクション技術として、リン酸カルシウム法、リポソーム法、エレクトロポレーションおよびウイルス導入法があります。さらに、これらの方法はコトランスフェクションとしても使用されます。コトランスフェクションは1つの細胞に2つの異なる核酸を導入し、安定的なトランスフェクションを達成するために行われます。トランスフェクション技術は進化し、高速微粒子を使用して核酸を細胞に送達するパーティクルデリバリー法や、siRNA分子の全身送達を容易にするin vivoトランスフェクションプロトコルなど、数々の新しい技術が生まれています。
リン酸カルシウムトランスフェクション
リン酸カルシウムトランスフェクション技術では、DNAとリン酸カルシウムの共沈殿を利用します。リン酸ナトリウムを含むHEPES緩衝生理食塩水とDNAを含む塩化カルシウム溶液を混合することによって共沈殿物が形成されます2。特定の細胞では、DNA取込みを促進するため、グリセロールショックを用います。
この手法は費用対効果が高く、幅広い種類の細胞における一過性または安定的なトランスフェクションに使用されますが、比較的小さなpH変化(±0.1)が形質転換の効率を左右することがあります。さらに、再現性の高いアッセイ結果のためには、試薬の一貫性を維持することが不可欠です。また、このトランスフェクション技術は、RPMI培地やその他のリン酸塩濃度の高い培地では機能しません。
リポソームを介したトランスフェクション
リポソームを介したトランスフェクション(リポフェクション)技術には、リポソームを形成するカチオン性脂質、または非脂質性ポリマーの使用を必要とします。リポフェクションによるトランスフェクション試薬の例として、DOTMA(N- [1-(2,3,-ジオレイルオキシ)プロピル] -N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド)およびX-tremeGENE®トランスフェクション試薬があり、DNA、低分子RNA、CRISPR/Cas9複合体を含む多様な分子をさまざまな細胞株に導入することに適しています。脂質を用いたトランスフェクションは、費用対効果が求められるシステムやハイスループットシステムに適用できますが、通常、これらのトランスフェクションは細胞の種類に依存します。
エレクトロポレーション
この技術では、細胞膜を高電圧の電気パルスにさらすことにより、細胞の特定部位を一時的に不安定化させることを必要とします。一過的に不安定化する間、細胞膜は高透過性となり、DNAを含むさまざまな外因性分子の導入が可能となります4。
エレクトロポレーションは、さまざまな細胞において高い形質転換効率を発揮することができる、簡単かつ、化学物質を用いない手法です。この手法は標的細胞の形態や機能を変えることはありませんが、トランスフェクションが最適な条件下で行われない場合、細胞死を引き起こす可能性があります。
ウイルストランスフェクション(ウイルス形質導入)
この方法では、ウイルスベクターを使用して核酸を細胞に導入します。レンチウイルス、アデノウイルス、オンコレトロウイルスベクターなどのウイルスデリバリーシステムは、トランスフェクションが困難な細胞でも核酸の導入に使用できます。
ウイルスを用いた導入方法は、非常に効率的ですが、手技が煩雑になる場合があります。さらに、ほとんどのウイルスはバイオセーフティーレベルの適切な封じ込めと注意深い監視を必要とします。ウイルストランスフェクションを実行する前に、ウイルスベクターの溶解性、パッケージング用細胞株、宿主細胞の特異性など、いくつかの制限要因を考慮することも重要です。
トランスフェクション試薬とプロトコルの選択
トランスフェクションプロトコルの改良と、トランスフェクションアッセイの簡便化とともに、最適なトランスフェクション効率を得るためにトランスフェクション試薬の適切な選択が不可欠となりました。
適切なトランスフェクション試薬を検討する際には、アッセイに用いる細胞タイプと培養条件を特定することが重要です。まれな培養細胞、ニューロンおよび初代細胞は通常、トランスフェクションが困難であるため、トランスフェクションが困難な細胞でも使用可能な試薬が必要になります。
さらに、適切なトランスフェクション試薬を決定する前に、試薬の性能レベルと細胞毒性パラメーターも考慮しなければなりません。理想的な試薬は、必要な細胞タイプに対して低い細胞毒性と高いトランスフェクション効率を備えている必要があります。
一般的なプロトコル
リン酸カルシウム法とリポフェクション法の一般的なトランスフェクションプロトコルの比較を以下に示します。製品独自のプロトコルの詳細についてはお問い合わせください。
参考文献
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