はじめに
Hazari らのグループは、クロスカップリング反応に広く適用可能なパラジウム触媒前駆体の開発を進めています。 さまざま条件下でも高活性となるには、温和な条件下でPd(II)から活性な一配位Pd(0)化学種を迅速に生成し、 かつ、その間に不活性なPd(I)二量体を生成しないことが求められます。 通常の実験室環境で取り扱い可能な[Pd(1-tBu-Indenyl)Cl] 2(805009)は、この条件にかなうものです。幅広い範囲のホスフィン配位子やN-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)配位子と高効率的に結合するため、容易に最適な配位子をスクリーニングできます。
利点
- 空気や湿気に対して、極めて安定
- さまざまなクロスカップリング反応に適用可能
- 温和な条件下で活性化が進行
- ホスフィン配位子、NHC配位子が利用可能
主な利用例
Pd(1-tBu-Indenyl)(IPr*OMe)(Cl)を用いたオルト位四置換の鈴木-宮浦カップリング
4か所のオルト位がすべて置換されたビアリール化合物の合成は、クロスカップリング反応における難題の一つです。 この変換反応には、かさ高いNHC配位子が用いられます。1-tBu-Indenyl基の結合したパラジウム触媒前駆体に、IPr*OMe配位子を作用させて得られる錯体は、この難しい反応に極めて有用です。この触媒は、少ない添加量でありながら、生成物を高収率で与えます。
Pd(1-tBu-Indenyl)(XPhos)(Cl)を用いたヘテロアリール鈴木-宮浦カップリング
ヘテロアリール基同士を結合させる反応は、現代のクロスカップリングにおける重要な課題ですが、 1-tBu-Indenyl基の結合したパラジウム触媒前駆体に、XPhos配位子を作用させて得られる錯体が、この反応に有効であることが見出されました。この触媒を少量用いることで、温和な条件下で収率よく反応が進行します。
Pd(1-tBu-Indenyl)(RuPhos)(Cl)を用いる二級アミンのBuchwald-Hartwigカップリング
この触媒前駆体とRuPhosとの組み合わせにより、二級アミンと塩化アリール間のカップリングが進行し、三級アミンが得られます。 アミン側としては、脂肪族アミン、芳香族アミンいずれも利用可能です。
Pd(1-tBu-Indenyl)(P{tBu}3)(Cl)を用いた、アルキルトリフルオロボレートの鈴木-宮浦カップリング
sp2炭素とsp3炭素間の結合形成は、今なおクロスカップリング反応における重要な課題です。 しかし、アルキルトリフルオロボレートカリウム塩(RBF3- K+)を求核剤として用い、1-tBu-インデニルパラジウム錯体を触媒前駆体として利用することで、従来より大きく改善された結果が得られます。 この手法では、1 mol%の触媒添加量で十分です。
本記事の作成にご協力いただいたPatrick Melvin氏およびNilay Hazari教授に感謝いたします。
参考文献
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