Liberase® TL研究用グレードのプロトコル・トラブルシューティング
製品番号05401020001
適切なLiberase® 研究用グレードの酵素ブレンドの選択
現在の組織分散プロトコル・従来のコラゲナーゼ処理でどの程度成功しているかによって、適切なLiberase® 酵素ブレンドを選択していきます。組織分散アプリケーションに最も類似した、また各メーカーのコラゲナーゼのタイプに基づき、Liberase® 酵素ブレンドを選びます。「Liberase® Research Grade Enzyme Blends Technical Tip - April 2010」を参照いただくか、Roche Special Interest Site Tissue Dissociationをご覧ください。継続的にアップデートしている表に、さまざまな組織分散アプリケーション、および推奨するLiberase® 酵素ブレンドとその開始濃度を掲載しています。また、この表にはプロトコル全文または各アプリケーションの引用とのリンクが記載されています。
Liberase® 研究用グレード:さまざまな細胞型を分離するためのプロトコル
Liberase® 研究用グレード酵素ブレンドを用いたプロトコルについては、Roche Special Interest Site Tissue Dissociationをご覧ください。次に示す作業手順は、以下の細胞の分離にRoche研究開発部門で日常的かつ有効に使用しています。
- ラット肝臓由来肝細胞
- ラット・マウス由来膵島
- ラット精巣上体脂肪体由来脂肪細胞
- ヒト臍帯静脈由来内皮細胞
- ブタ・ウシ大動脈由来内皮細胞
- ラット心臓由来心筋細胞
以下の手順に示した酵素の使用濃度は、一般的なガイドラインであり、個々の要求に最適化させる必要があることにご留意ください。各プロトコルの下部にある参考文献の項に関連文献へのアクセスを示してあります。
ラット肝細胞の単離
ラット肝細胞の単離についてはコラゲナーゼHを推奨します。インタクトな細胞を高収率(最高95%)で得るためには、コラゲナーゼと肝臓との灌流が最善の選択です(参考文献1~3を参照)。灌流は、肝門脈を介して2段階で実施し、最初(第1ステップ)はカルシウム除去溶液(Ca2+フリーおよび/またはEGTA含有)を使用し、次にコラゲナーゼ含有溶媒を使用します(第2ステップ)。コラゲナーゼはCa2+を必要とするため、第2ステップでは必要です。
装置・灌流器具
装置・灌流器具の詳細については参考文献に示しています2。
溶液
灌流液(20 x;ストック溶液):NaCl:138.0 g/L、KCl:8.9 g/L、Na2HPO4:11.4 g/L、NaH2PO4:5.4 g/L、ブドウ糖:180.0 g/L、MgSO4×7 H2O:6.0 g/L、無菌。灌流液(1 x希釈標準溶液;1 L/肝臓):50 mL灌流液(20 x);22.5 mL無菌NaHCO3、7.5%;2 mL無菌フェノールレッド、0.5%;無菌再蒸留水を用いて1,000 mLに希釈し、pH7.4に調整(1 N HCIまたは1 N NaOH使用)。この溶媒は、肝臓の灌流・細胞の洗浄に推奨します。第1灌流ステップでは、EGTA 0.08 g/L(0.2 mmol/L、無菌)を灌流液(1 x)に添加します(参考文献2、4参照)。第2灌流ステップでは、コラゲナーゼH溶液を調製し、灌流液(1 x)に添加します。これを実施するために、コラゲナーゼH 100 mgを4 mL灌流液(1 x)に溶解し(最終濃度25 mg/mL)ろ過します(0.2 μmフィルター)。コラゲナーゼを活性化するため、2.5 mL無菌CaCI2 溶液、200 mmol/Lを100 mLコラゲナーゼ(1 x)灌流液に添加します。
培養培地
DMEM(1.1 g/Lブドウ糖)(MEMビタミン1 x;MEMアミノ酸1 x;非必須アミノ酸1 x;グルタミン2 mmol/L;乳酸(pH 7.4)1%;ペニシリン/ストレプトマイシン1%含有)。細胞播種直前に、ウシ胎児血清(FCS)5%を添加します。継代培養のため、デキサメタゾン10-4 mmol/L・インスリン2 x 10-5 mmol/Lを培養培地に添加します。無血清継代培養のため、FCSをBSA 1 mg/mLと置き換えます。これらの培地組成は、初回の培地交換後に使用することができます(播種90分後)。
コラーゲンコート溶液
20 mgコラーゲン[例えばコラーゲン(タイプI)または(ラット尾)/10 mL無菌酢酸、0.1 N(最終濃度2 mg/mL)]を溶解する、または無菌コラーゲン溶液[例えばコラーゲンS.]、フェノバルビタールナトリウム[例えばNembutal™]、ヘパリンナトリウム[ 例えば、Liquemin™ 25000]を使用します。
手技
雄性Spraque-Dawleyラット(体重約200 g)を50 μg Nembutal™/g生体重(i.p.)で麻酔し、開腹します。肝臓および腸に約0.5 mL Liquemin™を噴霧し、凝固を回避します。肝臓を露出させ、門脈にカニューレを挿入します。50 mL H2Oの圧力で、Ca2+-フリーの灌流液を用いて灌流(第1ステップ)を開始します。赤血球・血漿タンパク質を除去するため、最初の50 mLを廃棄します。肝臓を取り出して灌流器具に移し、常に酸素添加しながら灌流液の温度を+37℃に維持します。カルボゲン(95% O2、5% CO2)により酸素添加した100 mL灌流液(1x)を用いて流速40 mL/minで5分間、肝臓を灌流します(大静脈を介したバックフローにより再循環)。無菌コラゲナーゼ溶液(25 mg/mL溶液を4 mL)を灌流液に添加し(最終濃度約1 mg/mL)、灌流を10~30分継続します(第2ステップ)。肝臓が柔らかくなったら灌流を終了します(指で押して確認)。
灌流後、20 mL灌流液(1 x)を入れた無菌50 mmシャーレに肝臓を静置します。2本の無菌ピンセットを用いて肝被膜を破り、軽く臓器を揺らすことにより肝細胞を分散します。非分散性の組織断片を除去し、74 μmフィルターまたは4枚の無菌ガーゼを通して細胞懸濁液をろ過します。無菌ビーカーにろ液を集め、灌流液(1 x、カルボゲンにより酸素添加)を用いて200 mLにします。細胞懸濁液の50 mLのポーションを60秒、遠心分離し(50 x g、室温)、50%に容量を減らした灌流液(1 x、カルボゲンにより酸素添加)中で細胞を再懸濁します。この洗浄手順を2回繰り返し、1回ごとに50%に容量を減らします。FCS含有培養培地で細胞を再懸濁し、コラーゲンコート(2 mg/mLコラーゲンコート溶液を2.5 μL/cm2)培養容器内に3 x 105 cells/mLを播種します。37℃、5% CO2下でインキュベートします。播種の90分後、培地・非接着細胞を除去します。さらなる培養(継代培養)には、無血清培養培地を使用することができます。
Liberase® 研究用グレード:皮膚組織
フラウンホーファー研究機構(シュトゥットガルト、ドイツ)のRocheの外部パートナーは、ヒト陰茎包皮組織表皮由来角化細胞・線維芽細胞の単離について、Liberase® 研究用グレード酵素ブレンドを系統的に検査しています。詳細については、Roche Special Interest Site Tissue Dissociationをご覧ください。
ラット心筋細胞に推奨されるLiberase® 研究用グレード。
約200 μg/mLのLiberase® DH研究用グレードを推奨します。Special Interest Site Tissue Dissociationでプロトコルをご覧ください。さらに、他にも多数のプロトコルがLiberase® データベースに提供されています。
Liberase® 研究用グレード:脂肪組織の分散
第2世代Liberase® 研究用グレード製品による脂肪組織からの細胞単離に関するアプリケーションデータはありません。しかし、第1世代製品であるLiberase® Blendzyme 3による脂肪細胞単離に関するプロトコルはRoche Special Interest Site Tissue Dissociationにあります。
「過去のLiberase® 酵素ブレンドからの移行」の項は容易に濃度を変換する当該新製品の選択に役立つ可能性があります。
Liberase® 研究用グレード:パラフィン包埋組織
Liberase® 酵素を用いたパラフィン包埋組織からの細胞単離は未評価です。
細胞外抗原の検出
脾臓由来樹状細胞に関するプロトコルは、Roche Special Interest Site Tissue Dissociationから入手できます。本プロトコル作成のため、5つの新規の Liberase® 研究用グレード酵素ブレンドすべてを検査しました。Liberase® TL・DL研究用グレード酵素ブレンドにより、最善の結果が得られました。MHCII・DC11c・CD8などの抗原を検出することができました。
注記:上記プロトコルは、すべてお客様により作成され、Rocheによる検証はされていません。Rocheは、プロトコルの内容・実施の成否について責任を負うことはできません。Rocheは、指針・開始点として、そして研究コミュニティ内の科学的情報の交換を促進するサービスとして、Rocheのホームページ上にお客様のプロトコルを提供しています。
FACSソーティング直前のげっ歯類新生児脳組織からの細胞分散
Rocheは、Liberase® 研究用グレード酵素ブレンドによる新生児げっ歯類脳組織の単離に関するプロトコルを提供していません。このアプリケーションの開始点として、 Liberase® DH・DL研究用グレードは、これらの Liberase® 酵素ブレンドで提供されている中性プロテアーゼはDispase®であるため、最も反応が穏やかな製品です。製品の詳細情報については、Roche Special Interest Siteをご参照ください。
トラブルシューティング
酵素の組成
すべてのLiberase® 研究用グレード酵素ブレンドは、コラゲナーゼI・IIおよび中性プロテアーゼの混合物で構成されています。Liberase® TL・TM・TH研究用グレードには、コラゲナーゼI・IIおよび中性プロテアーゼであるテルモリシンが含まれています。Liberase® DL・DH研究用グレードは、コラゲナーゼI・IIおよび中性プロテアーゼであるDispase®で構成されています。
これらの酵素ブレンドの活性の違いを知り、お客様のアプリケーションに適切なLiberase® 研究用グレードを特定していただくため、Roche Special Interest Site Tissue Dissociationをご覧ください。お客様のアプリケーションが私たちの現在のデータベースに入っていない場合、次の項「Liberase®研究用グレード」をご覧ください。また、Liberase® 酵素選択ガイドにより第1世代(the 1st generation)のLiberase® Blendzymeおよび従来のコラゲナーゼとの経験に基づいて、Liberase® 研究用グレード酵素ブレンドを選択することも可能です。
コラゲナーゼおよびLiberase® Blendzyme:
従来のコラゲナーゼ製品と異なり、細菌(Clostridium histolyticum)由来ではありません。従来の製品は不均質であり、30種もの多数の酵素、細胞破壊片、色素、エンドトキシンが含まれています。エンドトキシンの濃度・変動性は、従来のコラゲナーゼの最も重大な問題です。Liberase® 酵素には、従来のコラゲナーゼと大きく区別される多数の長所があります。
各々のLiberase® 精製酵素ブレンドは、応答曲面法を用いてアプリケーションごとに特別に製品化されているため、以下の点で最適な結果が予測されます。
- 細胞収量増加
- 細胞生存率改善
- 細胞機能の亢進
各々のLiberase®ロットは、同一の酵素活性仕様を有しています。各ロットに対しエンドトキシンの検査をしており、一貫して低レベルであることが保証されています。ロット選別や全バッチの留保を行う必要はありません。各ロットについて、あらゆる既定の組織分散プロトコルで同じ性能を発揮することを保証します。
詳細については、Special Interest Site Tissue Dissociationをご参照ください。
RNase汚染の有無、RNaseフリーは、Liberase®製造手順の品質管理基準ではありません。組織分散の間、細胞は破壊され、RNaseは遊離しています。このため、RNaseフリー品質はさらなる利点をもたらすものではありません。Liberase® 研究用グレードのコンポーネントは高度に精製された製品です。HPLCクロマトグラムは、コラゲナーゼI・IIおよび中性プロテアーゼ以外のタンパク質は存在しないことを示しています。
Liberase® 研究用グレード分析証明書
Liberase® 研究用グレード製品(第2世代)の分析証明書(CoAs)には、Col Ia・Col I・Col IIの量、エンドトキシンレベル、および凍結乾燥物の外観が示されています。
第1世代のリベラーゼブレンドは、さまざまな活性アッセイを用いて発表されました。活性値はCoAで提示されています。これに対し、第2世代Liberase® 研究用グレード製品は、タンパク質量に基づいて発表されており(HPLC・タンパク質質量)、ロット間の高い一貫性を示しています。
また、中性プロテアーゼの活性試験も、第2世代Liberase® 製品では変化しています。現在、FITCのカゼイン単位は測定しません。FITC試験は、非蛍光活性試験に置き換えられています。中性プロテアーゼ量は変更されていません。新しい試験を用いて測定された中性プロテアーゼ活性は、過去に測定されたFITC単位に該当します。
コラゲナーゼ/Liberase® 研究用グレード酵素ブレンド:さまざまなタイプへの分類
細菌のコラゲナーゼ、すなわち正確にはクロストリジオペプチダーゼAは、Pro-X-Gly-Pro配列中のX-Gly結合に特異性を有するプロテアーゼであり、このXは中性アミノ酸であることが最も多いです。これらの配列は、コラーゲンに高頻度でみられ、他のタンパク質ではまれにしかみられません。精製クロストリジオペプチダーゼAは、コラーゲンポリペプチドの不完全な加水分解が不完全であり、細胞外マトリックスで認められた高濃度の非コラーゲンタンパク質およびその他の高分子に対する活性が限定的であることにより、組織分散に無効です。組織分散に最も一般的に使用されるコラゲナーゼは、多数の他のプロテアーゼおよびリパーゼに加え、クロストリジオペプチダーゼAを含有する細菌Clostridium histolyticum由来の未精製製品です。未精製コラゲナーゼは、さまざまな酵素活性の混合物で、市販されているコラゲナーゼの基盤となっています。これらのコラゲナーゼタイプは、コラゲナーゼおよびトリプシン様活性・中性プロテアーゼ活性を有するクロストリパインなど、その他のプロテアーゼの相対量が異なります。例えば、RocheのコラゲナーゼA・B・Dは、さまざまなタンパク質分解活性を異なる比率で有しており、一方、コラゲナーゼH・Pは、ラット由来肝細胞(H)・膵島(P)の単離について機能検査を受けています。これにより、特定組織の分散に最も適した製品の選択が容易になります。
Rocheのコラゲナーゼは、Wünsch units(25℃、1分でWünschの基質から1 pmolの産物を生成)で測定します。多くの場合、コラゲナーゼ活性はMandl単位(37℃、5時間でコラーゲンから1 μmolのロイシンが遊離)で示されます。現在、未定義変数であるコラゲナーゼ製品に混入したプロテアーゼ濃度にこの単位は部分的に依存しているため、これら2つの活性単位の変換係数は認められていません。ユニットの定義および酵素活性の構成の違いにより、異なる供給業者から取得したコラゲナーゼを正確に比較・変換することは困難になっています。
詳細については「Liberase® Research Grade Enzyme Blends Technical Tip - April 2010」をご参照ください。
組織分散手順の最適化
最適化のための重要なポイント:
- Liberase® 研究用グレード精製酵素ブレンドには、コラゲナーゼおよび中性プロテアーゼのみ含まれています。
- コラゲナーゼ酵素は、細胞内マトリックスを消化します。
- 中性プロテアーゼは、コラゲナーゼと相乗的に作用します。
- 十分な時間や濃度があれば、中性プロテアーゼは細胞表面タンパク質を損傷します。
- 分散時間、酵素比率および酵素濃度は、すべて組織分散の結果に影響します。
- 血清、BSAおよびプロテアーゼ阻害剤などの修飾因子を併用せず、Liberase® 研究用グレード精製酵素ブレンドを使用します。
Liberase® 酵素により単離した細胞の収量、生存率および機能性が最適値を下回っていないか、注意します。相当な原因を見つけ出し、推奨事項に従って行動します。Liberase® 研究用グレードのパネル内の中性プロテアーゼ特異活性上昇に関する情報について、「生物学的活性」に記載された酵素ミックスチャーの活性をご参照ください。
観察結果1 | 観察結果2 | 考えられる原因 | 推奨 |
---|---|---|---|
細胞生存率の低下 | 分散が速すぎる | 抗原濃度が高すぎる | 酵素濃度を50%低下させる。 |
酵素ミックスチャーの活性が高すぎる | 中性プロテアーゼ含量の少ないLiberase®研究用グレード精製酵素ブレンドを選択する。 | ||
分散が極めて緩徐 | 抗体濃度が低すぎる | 酵素濃度を50%増加させる。 | |
酵素ミックスチャーの活性が低すぎる | 中性プロテアーゼ含量の多いLiberase® 研究用グレード精製酵素ブレンドを選択する。 | ||
細胞機能の損傷 | 細胞生存率が80%超であり、細胞収量は適正である | 酵素濃度を25%低下させる。 | |
酵素ミックスチャーの活性が高すぎる | 中性プロテアーゼ含量の少ないLiberase® 研究用グレード精製酵素ブレンドを選択する。 | ||
細胞収量低下 | 細胞生存率80%超 | 抗体濃度が低すぎる | 酵素濃度を25~50%増加させる。 |
酵素ミックスチャーの活性が低すぎる | 中性プロテアーゼ含量の多いLiberase® 研究用グレード精製酵素ブレンドを選択する。 | ||
細胞生存率80%未満 | 酵素濃度が高すぎる | 酵素濃度を50%低下させる。 | |
酵素ミックスチャーの活性が高すぎる | 中性プロテアーゼ含量の少ないLiberase® 研究用グレード精製酵素ブレンドを選択する。 | ||
機械(剪断)力が過剰 | 分散のあらゆる面で剪断力を低下させる。組織を優しく処理する。 | ||
ゼラチン糸状構造内の遊離細胞塊 | 細胞収量・生存率は良好 | 細胞溶解後のDNA放出が塊化の原因である | 一部の組織でよくみられる。細胞生存率が良好である場合、DNaseを分散混合物に添加する。 |
細胞収量・生存率低下 | 機械(剪断)力が過剰 | 分散のあらゆる面で剪断力を低下させる。組織を優しく処理する。 |
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参考文献
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