はじめに
ここ数年、食品や飲料に検出されるビスフェノールA(BPA)の濃度が、メディアで注目されています。この関心は、具体的には、以下の2種類の容器に関連するものです:
- 再利用可能なポリカーボネートプラスチック製の硬質容器。水筒、哺乳びん、プラスチック製マグ、カーボイ容器および保管容器として一般的に使用。
- 内部にエポキシベースのラッカーコーティングが施された金属缶。食物や飲料が金属に直接接触しないようにするために使用。
BPAは、ポリカーボネートプラスチックとエポキシベースのラッカーの製造に使用される化学物質の一つです。研究で、これらのタイプの容器に入れた食品や飲料には、少量のBPAが移行しうることが示されています。また、容器が高温にさらされた場合、例えば哺乳びんが加熱された場合や、食品や飲料がまだ熱いうちに金属缶に充填された場合などには、容器から内容物へのBPAの移行が増加します1-3。
実験
ここに示した研究の焦点は、飲料水からのBPAの抽出と分析を実証することでした。抽出前にサンプルにBPAを200 ng/mLの濃度まで添加しました。この技術で抽出と濃縮を両方行えることを示すために、固相抽出(SPE)を用いたサンプル処理を選択しました。Supelclean™ ENVI™- 18 をPTFEフリット付きのガラスチューブに入れたSPE製品を使用しました。この器具なら、これまでの器具(ポリエチレン製フリット付きポリプロピレンチューブなど)で問題視される、溶媒から溶出される可能性のある化合物(フタル酸塩など)が取り込まれる可能性を避けられます。
図1.ビスフェノールAの構造
ビスフェノールAの構造を図1に示します。GC法は、この分析対象物に対して感度の高い手法と考えられますが、分析前にBPAの誘導体化を行う必要があります。サンプル処理手順が増えるだけでなく、誘導体化ステップ中に中間生成物が生じる可能性があります。したがって、干渉を最小限に抑えるため、本研究はHPLC法を選択しました。HPLCでは、Ascentis™ Express C18カラムを用いました。本研究に用いたシステムには、紫外(UV)と蛍光(FL)の2つの検出器が連続して搭載されています。システムをいくつかの標準品で校正し、各検出器に対してBPAの感度係数を作成しました。これにより、添加サンプルの回収率データを算出できました。
図2に、1 µg/mLの校正標準品のクロマトグラムを示します。添加サンプルのクロマトグラムを図3に示します。この図には、サンプル調製ステップの詳細なステップが示されています。
図2.1 µg/mLのビスフェノールAのUVおよびFLトレース
HPLC条件
カラム:Ascentis™ Express C18、内径10 cm x 2.1 mm、2.7 µm(製品番号53823-U);移動相: 水:アセトニトリル(60:40);流速:0.4 mL/min;圧力:3268 psi (225 bar);カラム温度:35℃;検出器:UV (230 nm);FL (Ex 225 nm、Em 310 nm); 注入:1 µL;サンプル: アセトニトリル中1 µg/mLのビスフェノールA
図3.ビスフェノールAを添加した飲料水のUVおよびFLトレース
HPLC条件
試料/マトリックス:0.2 µg/mLの濃度までビスフェノールAを添加した飲料水;
SPEチューブ:Supelclean™ ENVI-18、500 mg、6 mLガラスチューブ、PTFEフリット(製品番号54331-U);
条件:アセトニトリル(1%ぎ酸)1 mL、DI水1 mL;サンプル添加:添加水5 mL;サンプル溶出:アセトニトリル溶出液(1%ぎ酸)2 mL;処理後:1 mL蒸発、次いでアセトニトリル0.5 mLに溶解
条件(サンプル以外)およびピークIDは図2と同じです。
結果と考察
FL検出器の方が良好なシグナル対ノイズ比が得られました。また、FLクロマトグラムでは保持時間がわずかに長く、ピーク形状が広いことも注目すべき点です。これらは、サンプルがUVセルならびに検出器を接続するチューブを通過する際に生じる余分なシステム容積に起因します。UVコンポーネントを取り除き、カラムをFL検出器に接続するチューブを短くすると、これらの現象はなくなります。
図3に示すように、分析対象物に干渉がみられない迅速な分析が得られました。この手順により、最終添加サンプル抽出物中のBPA濃度は1 µg/mLと算出されました。これは5倍の濃縮濃度(添加サンプルの0.2 µg/mLを抽出物中1 µg/mLまで濃縮)に相当します。FL検出器について得られた校正係数を用いて、回収率は88%と算出されました。
結論
飲料水中のBPAの測定のために、包括的なサンプル調製および分析手順を開発しました。この迅速な手順では、スピードのために選択した材料と技術で、かつ望ましくない中間生成物を生じさせない材料と技術を使用しました。SPEを使用することでBPAを抽出し濃縮できたため、単純なヘッドスペース法や直接注入法と比較して方法の感度が高いと考えられます。
参考文献
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