はじめに
リン脂質(PL)は細胞膜の主要な構成要素の1つであり、シグナル伝達やその他多くの生理活性に重要な物質です。リン脂質は生体試料液中に多く存在し、ヒト血漿中には1 mg/mLという高濃度で含まれています。機能研究、病理学的研究のいずれでも、組織と血液に含まれるリン脂質のプロファイリングは極めて重要となります。
これまで、HybridSPE™-PLは、血清や血漿などの生体試料をLC-MS分析に供する前にリン脂質の干渉を除去するために使用されてきました。しかし、私たちはそれを応用して吸着剤に保持されたリン脂質を水酸化アンモニウムなどの強塩基性溶液によって回収できることを発見しました。したがって、HybridSPE™-PLは分析およびプロファイリング向けにリン脂質を濃縮する用途でも利用できます。HybridSPE™-PLとリン脂質の間の相互作用はルイス酸-塩基の相互作用に基づいており、Reporter Vol. 26.3で紹介しています。本稿では、リン脂質を濃縮するためのHybridSPE™-PLの使用法に焦点を当てます。
実験
1.5 mLチューブ中で100 μLのウサギ血漿画分と1%のぎ酸を含む900 μLのアセトニトリルを混合し、30秒間ボルテックスしてから、5,000 x gで3分間遠心分離しました。得られた上澄み液をHybridSPE™-PL 96ウェルプレートに移し、10 in. Hgで4分間吸引しました。通液を回収してLC-MS分析に供しました。その後、1%のぎ酸を含む1 mLのアセトニトリル、続いて1 mLのアセトニトリルで吸着剤を洗浄しました。HybridSPE™-PLの吸着剤に保持されたリン脂質は、5%の水酸化アンモニウムを含む1 mLのアセトニトリルで続けて2回溶出しました。得られた溶出液を窒素下で乾固し、0.1%のぎ酸を含む50%アセトニトリルにて再溶解させました。
溶媒をメタノールとして使用した同様のプロトコルでも試料を調製しました。100 μLの血漿画分と、1%のぎ酸を含む900 μLのメタノールを混合しました。1%のぎ酸アンモニウムを含む1 mLのメタノール、その後1 mLのメタノールで吸着剤を洗浄しました。リン脂質は、5%の水酸化アンモニウムを含む1 mLのメタノールで2回溶出しました(フローチャートは図1を参照)。
図1.ウサギ血漿からリン脂質を回収する実験のフローチャート
LC-MSは、Agilent 1100 HPLCにApplied Biosystems Qtrap® 3200質量分析計を接続して行いました。試料3 μLをAscentis™Express RP-Amideカラム(5 cm x 2.1 mm x 2.7 μm、53911-U)にて測定しました。HPLCは、移動相A(0.1%のギ酸を含む水)と移動相B(メタノール:アセトニトリル、1:1/0.1%ギ酸)を使用し、10分間で移動相Bの割合を50~100%にするリニアグラジエントで分離しました。リン脂質はMRM184および104でモニターしました。質量分析計のパラメーターは、CUR (35)、IS (5000)、TEM (350)、GS1 (30)、GS2 (30)、ihe (ON)、CAD (10)、CXP(4)に設定しました。
結果と考察
HybridSPE™-PLとリン脂質の間のルイス酸-塩基相互作用は、水酸化アンモニウムなどの強塩基性溶液を使うことでなくすことができます。生体試料にはタンパク質が多量に存在するため、1%のぎ酸を含むアセトニトリル、ぎ酸アンモニウムを含むメタノールなどの有機溶媒を使って濃縮前にタンパク質を沈殿させておきます。このステップはカートリッジ中、96ウェルプレート中で直接行えます。溶出したリン脂質は、Littleら1が説明したようにインソース分解によって生成したプロダクトイオン184および104で質量分析計によってモニターします。極性基を組み込んだRP-Amide HPLCカラムで良好なリン脂質の分離が観察されました。Littleの方法では、ホスファチジルコリンとリゾホスファチジルコリンしかモニターしていないことに注意する必要があります。リン脂質はいずれもHybridSPE™-PLの吸着剤と相互作用するリン酸基を有するため、生体試料に含まれるこれ以外のリン脂質にも同じ濃縮方法が適用可能です。
図2と図3に、濃縮前後におけるウサギ血漿中のリン脂質LC-MSプロファイルを示します。これらのクロマトグラムには2つの大きなピーク群が存在します。先の溶出群は、保持時間が8.0~9.0分で主に一本鎖のリン脂質(リゾホスファチジルコリン)からなりますが、これは分子中に脂肪酸エステルが1つしかないことを意味します。保持時間が12分超である後の溶出群は主に二本鎖のリン脂質からなり、これらは分子中に脂肪酸エステルが2つあることを意味します。
図2.ウサギ血漿中のリン脂質プロファイル(濃縮前)
図3.ウサギ血漿中のリン脂質プロファイル(濃縮後)
溶出溶媒としてアセトニトリル、メタノールのいずれを使用しても、リン脂質の回収率は95%を超えます。血漿試料中のタンパク質が沈殿しやすくなるように、1%のぎ酸またはぎ酸アンモニウムを使用します。洗浄ステップにて、試料中の可溶性タンパク質と内因性物質は除去しました。いずれの方法でも、全段階で失われるリン脂質は5%未満です(表1)。
参考文献
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