E.C.3.4.22.2
パパイヤラテックス(Carica papaya)からの単離
物理的特性・動態
パパインはペプチダーゼC1ファミリーに属するシステインプロテアーゼです。パパインは3つのジスルフィド架橋および酵素活性に必要なスルフヒドリル基を持つ1本のポリペプチド鎖から成ります。
分子量:23,406 Da (amino acid sequence)16
活性至適pH:6.0~7.0
活性至適温度:65 ℃22
pI:8.75 17; 9.55 18 分光特性:
λmax:278 nm 19
吸光係数、 E1% = 25 19
吸光係数、 EmM = 57.6 (at 280 nm) 20
単位の定義:1 unitはpH 6.2、25℃で1分当たりN-α-ベンゾイル-L-アルギニンエチルエステル(BAEE)1.0 µmolを加水分解する。
図1.パパイン
特異性
パパインは大半のタンパク質基質を膵プロテアーゼよりも良く消化します。パパインの特異性は幅が広く、塩基性アミノ酸、ロイシン、またはグリシンのペプチド結合を切断します。また、エステル類やアミド類を加水分解します。パパインはP2位に長い疎水性側鎖を持つアミノ酸と相性が良いです。P1' 位にバリンがあるアミノ酸は消化しません。1
用途
- パパインは、他のプロテアーゼよりも特定の組織に対する破壊性が少なく、より効率的と実証されている細胞単離手順に汎用されます。例えば、パパインは、出生後のラットから、生存可能で形態的に完全な皮質ニューロンを単離するのに使用されています。2 メルクのパパイン(製品番号:P4762)は、平滑筋細胞の単離に使用されています。3,4パパインは、生存可能な平滑筋細胞の収量を有意に増加させますが、刺激物質に対する細胞の感受性に影響を及ぼさないことがわかっています。5
- 酵素や他のタンパク質の構造研究では、パパインによる限定的な消化が有用であることが実証済みです。6-8
- 赤血球血清試験においてパパインは赤血球細胞表面を修飾し、さまざまな赤血球抗原の反応性を増強・破壊するため、細胞分類、抗体スクリーニング、抗体同定の補助として使用されます。パパインは血小板血清試験にも有用であることがわかっています。9
- パパインは、アミノ酸、ペプチド、およびその他分子の酵素的合成にも使用されています。10-13
- FabおよびF(ab')2抗体フラグメントは、Fc領域の存在が問題を起こす恐れのあるアッセイ系で使用します。この場合、抗体のうち抗原結合(Fab)部位のみを用いるのが望ましいです。パパインはIgGからFab断片を調製する際に常用されています。IgMもパパインで消化でき、均一なFabを高収率で調製できます。15
- パパインは抗体を、可変領域で特異的に抗原を認識するFabフラグメント2つと、Fcフラグメント1つにします。14パパインは、重鎖同士をつなぐジスルフィド結合を含むヒンジ領域より上の位置、かつ、軽鎖と重鎖の間のジスルフィド結合より下の位置で切断します。これにより、一価(抗体結合部位1箇所を含む)の独立したFabフラグメント2つと完全なFcフラグメント1つができます。断片はゲルろ過、イオン交換、またはアフィニティクロマトグラフィーで精製できます。抗体の消化および抗体フラグメントの精製の手順は、『A Laboratory Manual, E. Harlow and D. Lane, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 1988』に記載されています。
- リンパ節や脾臓などの組織または末梢血液製剤にはFc受容体(マクロファージ、単球、Bリンパ球、ナチュラルキラー細胞)があり、この受容体は損傷を受けていない抗体のFc領域に結合することができ、標的抗原を含まない場所でバックグラウンド染色を起こします。Fabフラグメントを使うことで、抗体をFc受容体ではなく、抗原に確実に結合させられます。Fabフラグメントの使用は、血漿存在下で染色細胞を調製する際にも適していることがあります。その理由は、Fabフラグメントが細胞を溶解しうる補体には結合できないためです。Fabフラグメントを使えば、電子顕微鏡検査において染色組織中の標的抗原の位置をより正確に推定できます。
図2.ペプシン・パパイン切断
溶解性・溶液安定性
パパインは10 mg/mL濃度で水に溶けます。パパインは通常、使用直前に5 mM以下のL-システイン含有バッファーで希釈します。活性化/安定化剤としてEDTA、システイン、ジメルカプトプロパノールなどがあります。21
パパイン溶液は温度に対する安定性は良好ですが、溶液の安定性はpHに左右されます。パパイン溶液は酸性条件で不安定で、2.8以下のpHでは活性が大きく低下します。溶液中で活性がある場合でも恐らく自己分解や酸化の結果、1日に約1~2%ずつ失活していきます。
単離中に得られるパパインの不活性型は、タンパク質の活性部位スルフヒドリル基と遊離システインとの間で形成される混合ジスルフィドであることが多いです。23
パパイン溶液は数種の変性物質に対して安定で、70%メタノールや8 M尿素溶液中で再結晶させた後も十分活性が保たれています。しかし、パパインを10%トリクロロ酢酸または6 Mグアニジン塩酸塩にばく露すると活性が大幅に低下します。
参考文献
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