近接ライゲーションアッセイ(PLA)の原理
Duolink™近接ライゲーションアッセイ
Duolink™近接ライゲーションアッセイ(Proximity Ligation Assay: PLA)は、内在性タンパク質、タンパク質修飾、およびタンパク質間相互作用を高い特異性と感度でin situで検出できる強力なツールです。タンパク質ターゲットは、未修飾の細胞や組織で単一分子の解像度で容易に検出および局在化できます。まず通常、異なる種で産生された2つの一次抗体を使用して、2つの固有のタンパク質ターゲットを検出します(図1A)。次に、オリゴヌクレオチドが標識された二次抗体(PLAプローブ)のペアを一次抗体に結合させます(図1B)。PLAプローブが互いに近接している場合にのみコネクターオリゴがハイブリダイズし、添加したライゲーション酵素がローリングサークル増幅(rolling-circle amplification:RCA)に必要な閉じた円形のDNAテンプレートを形成します(図1C)。PLAプローブは、DNAポリメラーゼのプライマーとして機能し、RCAで円形のDNAを増幅させます(図1D)。これにより、最大1000倍に増幅された信号が、PLAプローブに接続されたままになり、信号の位置特定が可能になります。最後に、蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブが増幅された相補配列にハイブリダイズし(図1E)、顕微鏡画像解析によって別々のスポット(PLAシグナル)として可視化および定量化されます(図1F)。Duolink™PLAは、接着細胞、サイトスピン調製物、およびガラススライド上の組織切片に対して、免疫蛍光染色(すなわち、緑、赤、遠赤、またはオレンジ色の検出)または免疫組織染色(すなわち、ペルオキシダーゼ触媒反応)で使用できます。さらに、Duolink™PLAは、血液または浮遊細胞に対してフローサイトメトリーによって検出でき、ハイスループット分析用のハイコンテントスクリーニングイメージャーを備えたマルチウェルプレート(96ウェルまたは384ウェルなど)でも使用できます。Duolink™PLAの高い特異性、感度、および汎用性により、パスウェイ分析、薬物スクリーニング動態、IC50決定、およびターゲット検証に理想的な方法になります。
図1.Duolink™PLA反応の概略図。(A) 2つの一次抗体は、細胞内の目的の特定のタンパク質を認識する。黄色と緑色の小球は、単一のタンパク質の2つのエピトープ、または相互作用している2つの異なるタンパク質のエピトープを表す。(B) オリゴヌクレオチドと結合した二次抗体(PLAプローブ)は一次抗体に結合する。(C) PLAプローブが近接している場合、コネクターオリゴはPLAプローブに結合し、ライゲーションされる。(D) 結果として生じる閉じた環状DNAテンプレートは、DNAポリメラーゼによって増幅される。(E) 蛍光色素に結合した相補的検出オリゴは、アンプリコンの繰り返し配列にハイブリダイズする。(F) PLAシグナルは、蛍光顕微鏡によって個別のスポットとして検出され、タンパク質またはタンパク質相互作用の細胞内局在を表す。
Duolink™近接ライゲーションアッセイを使用したEGFRおよびHER2の二量体化の検出
上皮成長因子受容体(EGFR、ErbB1、HER1)とヒト上皮細胞受容体2(HER2、ErbB2、Neu)の二量体化は、よく知られているタンパク質間相互作用(PPI)です。EGFRとHER2は、受容体型チロシンキナーゼのErbBファミリーのメンバーであり、細胞分裂と細胞死の調節に重要な役割を果たしています。これらのタンパク質のいずれかの発現または活性に影響を与える変異は、さまざまながんの発症に関連しています。リガンド(EGFなど)がEGFRの細胞外ドメインに結合すると、受容体が活性化され、その細胞質尾部を自己リン酸化します。これにより、ErbBファミリーの他のメンバーとのホモ(EGFR-EGFR)およびヘテロ(EGFR-HER2など)二量体の形成が誘導されます(図2)。二量体化とそれに続くリン酸化は、アダプタータンパク質の動員、細胞内シグナル伝達カスケードの活性化、そして最終的には、がん細胞の増殖、血管新生、浸潤、転移、およびアポトーシスの減少を引き起こす可能性のある遺伝子転写の変化につながります。
図2.EGFR-HER2二量体化の概略図。上皮成長因子(EGF)などのリガンドは、EGFRの細胞外ドメインに結合し、活性化と自己リン酸化を引き起こす。これにより、EGFRホモ二量体化(図示せず)またはHER2などの他のErbBファミリーメンバーとのヘテロ二量体化が起こる。 二量体化とそれに続くリン酸化は、下流のシグナル伝達経路の活性化につながる。画像出典:Lancet Oncol.16(15):e543-e554
Duolink™ PLAコントロールキット-PPIで実験がワークしていることを確認
SK-OV3ヒト卵巣がん細胞は、中程度から高レベルのEGFRおよびHER2を発現します。EGFによるEGFR-HER2二量体化のin situでの検出を確認するために、Duolink™ PLAコントロールキット– PPIを使用しました。各キットには、EGF処理済みの前固定したSKOV3細胞とマウス抗EGFRおよびウサギ抗HER2一次抗体を含む8ウェルチャンバースライドが2枚含まれています。最適な一次抗体の濃度は既に決定されており、推奨事項は製品に添付の文書に記載されています。1x PBSで再水和した後、0.2% Triton® X-100を含む1x PBSで細胞を室温で10分間透過処理し、Duolink™ PLAブロッキングバッファーを用いて37℃で1時間ブロッキングを行いました。その後、2つのウェルの細胞を両方の一次抗体でインキュベートしました。テクニカルネガティブコントロールには、各一次抗体を別々にインキュベートしたものと、一次抗体なしのものをデュプリケートで実施しました(図3)。洗浄後、Duolink™ PLAをDuolink™ PLA蛍光検出プロトコルに従って実施しました。すべてのウェルをDuolink™抗ウサギPLUSおよび抗マウスMINUSPLAプローブでインキュベートし、Duolink™In Situ検出試薬 FarRedを用いてPLAシグナルを生成しました。スライドをDuolink™In Situ封入剤 DAPIを用いてマウントし、GE IN Cell Analyzer 2200で画像を取得しました。
図3.Duolink™ PLA コントロールキット– PPI スライドのレイアウトとサンプルの配置。すべてのウェルにEGF刺激済みの前固定したSK-OV3細胞が含まれている。透過処理とブロッキングの後、ウェル1と5はウサギ抗EGFRとマウス抗HER2一次抗体の両方、ウェル2と6は抗EGFR抗体のみ、ウェル3と7は抗HER2抗体のみ、ウェル4と8は抗体希釈液のみとインキュベートした。
一次抗体を37℃で2時間インキュベートした場合(図4A-4D)と4℃で一晩インキュベートした場合(図4E-4H)で同様のPLA結果が得られたため、ユーザーにとってより柔軟な対応が可能となっています。抗EGFRと抗HER2一次抗体の両方が存在する場合、EGFを活性化したSK-OV3細胞で強固なPLAシグナルが検出され、豊富なEGFR:HER2複合体が示唆されました(図4A、図4E)。SK-OV3細胞をEGFで均一に処理したにもかかわらず、PLAシグナル/EGFR:HER2複合体の数は細胞によって異なることがわかりました。これは、SK-OV3細胞集団内でHER2の発現が異なるためと思われます(データ未掲載)。一方、一次抗体を1つだけ使用した場合や、両方の一次抗体を添加しなかった場合には、PLAシグナルはほとんど検出されませんでした(図4B-D、図4F-H)。注目すべき点として、一次抗体の濃度が高すぎると、個別に使用した場合にPLAシグナルの数が増加し、正確な定量ができない陽性PLAシグナルが合体することがあります(データ未掲載)。従って、一次抗体の推奨濃度で使用することが重要です。これらのデータから、Duolink™ PLA コントロールキット – PPIを用いて、EGF刺激したSK-OV3細胞においてEGFR:HER2複合体を検出し、定量化できることがわかります。
図4.Duolink™ PLAを用いたEGF誘導EGFR:HER2二量体の検出。EGF処理し固定したSK-OV3細胞のスライドを、マウス抗EGFR抗体とウサギ抗HER2抗体(A、 E)、抗EGFR抗体のみ(B、 F)、抗HER2抗体のみ(C、 G)、抗体希釈液のみ(D、 H)とともに37℃で2時間(A~D)または4℃で一晩(E~H)インキュベートした。その後、抗ウサギPLUSおよび抗マウスMINUS PLAプローブを用いてDuolink PLA を実施した。DAPI(青色の核)およびCy5(赤色のPLAシグナル)フィルターを用いて、1ウェルあたり10枚のランダムな20x画像を取得した。画像は少なくとも5つの独立した実験からの代表的なものである。
タンパク質検出フォーマット別Duolink™ PLA製品
Duolink™ PLA製品には、蛍光用と明視野用があります。蛍光Duolink™ PLA試薬は、現在、顕微鏡とフローサイトメトリーの両方のアプリケーションフォーマットでご用意しています。
蛍光検出
蛍光顕微鏡は、Duolink™ PLA実験に最もよく使用されるアプリケーションフォーマットです。蛍光Duolink™ PLA試薬を使用する場合、プロトコルの多くは従来の免疫蛍光法(IF)と同じですが、Duolink™PLA技術はIFよりも高い特異性と汎用性を発揮します。Duolink™ PLAの手順に含まれる増幅ステップを追加することで、より高い感度が得られます。
明視野検出
従来の免疫組織染色(IHC)と同様に、Brightfield Duolink™ PLAは主にホルマリン固定、パラフィン包埋組織切片に使用されますが、他のサンプルタイプにも対応します。Brightfield Duolink™ PLA 検出試薬は、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)で標識されたオリゴヌクレオチドを含み、HRP基質の存在下で、光学顕微鏡で見える酵素:基質沈殿を形成します。
フローサイトメトリー
Duolink™ Flow PLAキットは、高速かつ強力な統計解析ツールです。このキットは、タンパク質間相互作用や細胞内局在を同定するものです。Duolink™ PLAとフローサイトメトリーとの組み合わせにより、ハイスループットで定量データを収集することができます。
Duolink™ PLA テクノロジーの使用方法
Duolink™ PLAスターターキットには、Duolink™ PLA実験を行い、最大30サンプルを分析するために必要な試薬がすべて含まれています。用意するものは、調製した細胞や組織のサンプル、一次抗体、一般的な実験器具のみです。
Duolink™ PLAスターターキットには、以下の試薬が含まれています。
- PLAプローブ2つ:PLUSおよびMINUS(一次抗体のホストにマッチするもの)
- 抗体希釈液とブロッキングバッファー
- 検出試薬:赤またはオレンジから選択
- 増幅バッファーとポリメラーゼ酵素
- ライゲーションストックとリガーゼ酵素
- 洗浄バッファーA・B
- DAPI入りマウント用封入剤
蛍光、明視野、フローサイトメトリー用のDuolink™ PLAプロトコルに加え、Duolink™ PLA実験を成功させるための準備と実施方法についての詳細は、以下のページでご確認ください。
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