デンドリマー
デンドリマーは構造が正確にコントロールされた1から10 nmサイズの大きさの樹木状のポリマーで、過去10年間に5,000報以上の論文が発表されるほど、世界各国で研究が進められています。「Dendrimer」は30年ほど前にTomaliaらによってギリシャ語の「dendri-(樹木状)」「meros(一部)」を組み合わせて名づけられました1-2。デンドリマーには大きく分けて2つのタイプ「Fréchetタイプ」と「Tomaliaタイプ」に分けられます。
デンドリマーは、「core」、「interior」、および「surface」の3つの要素から構成されています(図1)。それぞれのコンポーネントが特異な機能を発現すると同時に、ジェネレーションごとに成長していくデンドリマー特有のナノ構造の物性を決定します。
図1 デンドリマーの模式図
まず、「core」はデンドリマー全体のサイズ・形・方向性・多様性を決定する部位です。次に「interior」とは、放射状に広がる枝状のセルが規則的に増えていく部分で、このセルが「interior」の空間のタイプと大きさを決定します。枝状セルの多重度はジェネレーションに対して指数関数的に増えていきます(図2)。また、ある特定の構造&ジェネレーションのデンドリマーにおいて、「interior」の構成と空間の体積によってホスト-ゲスト(あるいはendo-receptor)の性質が決まります。「surface」は反応性・非反応性の末端基で構成され、様々な機能を発現します。「surface」は「interior」と外部とのゲスト分子の出入りをコントロールするゲートの役割もあります。
図2 ジェネレーションの概念
これら3つのコンポーネントによってデンドリマーの物理的・化学的性質(全体のサイズや形、自由度)が基本的に決まります。重要なのはデンドリマーの直径はシェルやジェネレーションに対して直線的に増え、末端の官能基はジェネレーションに対して指数関数的に増えていきます。その結果、末端基の立体障害による「surface」と「interior」の密度の違いが生じるため、一般的に低いジェネレーションではオープンで緩い構造をとり、その一方で、高いジェネレーションではコアの形や方向性に依存する、強固で変形しにくい球状・楕円状・円柱状といった形になります。
PAMAM-NH2デンドリマーの直径
デンドリマーの合成法には、コアとなる分子にジェネレーションごとに分子を結合させ枝分かれさせていく「divergent method」とあらかじめ枝の部分を合成して最後にコア分子と反応させる「convergent method」の2つがあります。よって、一般の高分子と比べて構造制御が容易で、これらの構成要素の様々な組み合わせから異なる形およびサイズの化合物を作ることが出来ます。これまでに100以上の構造的に異なるデンドリマー群と1000種類以上の末端基修飾例が報告されており、ライフサイエンス・材料科学の両分野での応用が期待されています13,14。また、ドラッグデリバリー、遺伝子導入、ナノスケール触媒、集光性化合物、分子量・分子サイズ測定用標準物質、光反応性材料、レオロジー調整剤としても注目されています6-12。
特徴
- ナノメートルサイズの球状構造の高分子です。不純物が非常に少なく、単分散の化合物です。
- 高度に規則正しく枝分かれした3次元構造で、ナノサイズの内部空間と、表面に多数の反応性末端基(反応点)を持ちます。
- デンドリマーはナノメートルサイズの密集構造によって、高い溶解度と低い溶液粘度を備えています。多くは水溶性ですが、他のポリマーの様に水溶液の粘性が上がりません。また、この性質から、デンドリマーはレオロジー(粘度)調整剤として利用できます3。
- デンドリマー表面には多数の末端基が密に存在し(多価)、表面の末端基の数はデンドリマーの世代とともに増加します。多価であることを利用して、薬剤を密に担持させたり、デンドリマー表面に化学的に接合したイメージング用標識を実現したりすることが可能です4。
- ジェネレーションごとに反応させていくので、分子サイズを正確にコントロールすることが可能です。
- デンドリマーの特性を決める末端基は、最も外側のジェネレーションに適当な官能基を反応させることによって容易に変化させることが出来ます。
- 内部と表面が化学的に明確に分かれたコア・シェル型分子構造を有し、孤立したナノ内部空間をもちます。この特有の空洞を利用して、様々な金属、有機・無機分子を運搬・貯蔵できます。特に、デンドリマーの外部環境とは化学的に不相溶の分子(触媒、薬剤、発色団など)をその内部に閉じ込めたり、放出したりすることが可能です5。
- 表面の末端グループが可溶性やキレート能力に影響している一方で、コアは内部サイズ、吸着力およびcapture-release特性にユニークな特性を与えます。デンドリマーは細胞膜を通過して細胞内部へ遺伝物質を輸送することができます。
- ほとんどのデンドリマー化合物は非常に低い毒性と低い免疫原性を示します。
- 3次元構造のため、デンドリマーは剪断抵抗力を持っています。
PAMAM Dendrimers
ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーは最も一般的なデンドリマーで、材料科学やバイオテクノロジーの多くの用途に用いられています。PAMAMデンドリマーはアルキルジアミンのコアと三級アミンの分岐構造からなります。現在弊社では、コアは5種類、表面官能基は10種類、世代はG0~10のものを取り揃えています。ほとんどのPAMAMデンドリマーは長期保存安定性を高めるためメタノール溶液として提供されています。不活性ガス下にて溶媒を揮発させたのち、各用途に応じた溶媒で使用することも可能です。
図3 PAMAMデンドリマーのコアの種類
図4 PAMAMデンドリマーの構造
PAMAMデンドリマーの分類
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References
- Tomalia, D. A.; Dewald, J. R.; Hall, M. J.; Martin, S. J.; Smith, P. B. In Preprints of the 1st SPSJ International Polymer onference, Society of Polymer Science Japan: Kyoto, Japan, August 1984, p 65.
- Tomalia, D. A.; Baker, H.; Dewald, J.; Hall, M.; Kallos, G.; Martin, S.; Roeck, J.; Ryder, J.; Smith, P. Polym. J. (Tokyo) 1985, 17, 117.
- Dvornic, P.R.; Uppuluri, S. In Dendrimers and Other Dendritic Polymers; Frechet, J.M.J.; Tomalia, D.A. Eds.; John Wiley & Sons, Ltd; pp 331-358.
- Lee, C.C.; MacKay, J.A.; Frechet, J.M.J.; Szoka, F.C. Nature Biotechnology 2005, 23, 1517-1526.
- Chauhan, A.S.; Svenson, S.; Reyna, L.; Tomalia, D. Material Matters 2007, 2, 24-26.
- “Designed Dendrimer Syntheses by Self-Assembly of Single-Site, ssDNA Functionalized Dendrons”, C. R. DeMattei, B. Huang, D.A.Tomalia, Nano Lett., 2004, 4(5), 771-777.
- “A New Complexity”, D.A. Tomalia, Materials Today, 2003, 6(12), 72.
- “Structure Control within Poly(amidoamine) Dendrimers: Size, Shape and Regio-chemical Mimicry of Globular Proteins", D.A. Tomalia, B. Huang, D.R. Swanson, H.M. Brothers and J.W. Klimash, Tetrahedron, 2003, 59/22, 3799-3813.
- Dendrimers and other Dendritic Polymers, J. Frechet and D.Tomalia, John Wiley & Sons, 2002, 688 pp., Hard cover
- “Interactions Between Starburst Dendrimers and Mixed DMPC/DMPA-Na Vesicles Studied by the Spin Label and the Spin Probe Techniques, Supported by Transmission Electron Microscopy,” M.F. Ottaviani, P. Favuzza, B. Sacchi, N.J. Turro, S. Jockusch, D.A. Tomalia, Langmuir, 2002, 18, 2347-2357.
- “Discovery of Dendrimers and Dendritic Polymers: A Brief Historical Perspective”, D.A. Tomalia, J.M.J. Frechet, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 2002, 40, 2719-2728.
- “Partial Shell Filled Core-Shell Tecto(dendrimers): A Strategy to Surface Differentiated Nano-Clefts and Cusps,” D.A. Tomalia, H.M. Brothers II, L.T. Piehler, H. Dupont Durst, D.R. Swanson, Proc. Nat. Acad. of Sciences, 2002, 99(8), 5081-5087.
- “Functional Polymers and Dendrimers: From Synthesis to Application." Proceedings of the American Chemical Society Division of Polymeric Materials: Science & Engineering, San Diego, CA, April 1-5, 2001; ACS, 2001.
- "Birth of a New Macromolecular Architecture: Dendrimers as Quantized Building Blocks for Nanoscale Synthetic Organic Chemistry" AldrichimicaActa 2004, 37(2), 39.
レビュー
- 生物医学研究に用いられる生体適合性樹枝状 ビルディングブロック
- 樹枝状ポリエステルを用いた薬物送達用足場(bis-MPAデンドリマー)
- 薬物送達用Y字型PEG誘導体の応用
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